くら)” の例文
すなわち花はまこと美麗びれいで、つ趣味にんだ生殖器であって、動物のみにくい生殖器とは雲泥うんでいの差があり、とてもくらべものにはならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「加納屋の番頭の忠吉ですよ、——ケチで高慢で女道樂がひどい主人にくらべると、忠實まめで正直で働き者で話のわかる、良い男ですよ」
孫七もひげの伸びたほおには、ほとんど血のかよっていない。おぎんも——おぎんは二人にくらべると、まだしもふだんと変らなかった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かうしてはやしなか空氣くうきは、つねはやしそとくらべて、晝間ちゆうかんすゞしく、夜間やかんあたゝかで、したがつてひるよるとで氣温きおんきゆうかはることをやはらげます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
現界げんかい景色けしきくらべてべつ格段かくだん相違そういもありませぬが、ただこちらの景色けしきほうがどことなくきよらかで、そして奥深おくふかかんじがいたしました。
代助のちゝの場合は、一般にくらべると、やゝ特殊的傾向を帯びる丈に複雑であつた。彼は維新前の武士に固有な道義本位の教育を受けた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私はたびたびこの並木通りを散歩しているうちに、ある日、ほかの建築物にくらべて実に異様な感じのする一軒の家をふと見つけた。
かぞどしの二つにしかならないおとこであるが、あのきかない光子みつこさんにくらべたら、これはまたなんというおとなしいものだろう。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次にぜひとも話をしてみたいのは、日本における地名研究が他の民族のそれにくらべて、何ほどの特色をもっているかということである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文運かの如く開け、且つ古の律法おきてをたてしアテーネもラチェデーモナも、汝にくらぶればたゞさゝやかなる治國の道を示せるのみ 一三九—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
抽斎がもし生きながらえていて、幕府のへいを受けることをがえんじたら、これらの蘭法医と肩をくらべて仕えなくてはならなかったであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この後ロチスター氏がお前のことをよく思つてゐると思ふやうな時があつたら、いつでもこの二つの畫を取り出してくらべて見よ。
おご平家へいけを盛りの櫻にくらべてか、散りての後の哀れは思はず、入道相國にふだうしやうこくが花見の宴とて、六十餘州の春を一夕いつせきうてなに集めてみやこ西八條の邸宅。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
千葉家ちばけふて大黒柱だいこくばしら異状いじやうつては立直たてなほしが出來できぬ、さうではいかと奧樣おくさまくらべてへば、はッ、はッ、とこたへてことばかりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くちびるのことばは目のことばにくらべては小さなものである。目つきに比べて、ことばのいかにつめたく、空虚くうきょであることよ。
し出たるのち淨水てうづこまをりから斯々かく/\の娘を見染ぬ世に二個となき美人なればそゞろに戀しく思ひつゝ此美婦人このびふじんくらぶれば櫻もいかで物かはと花見を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其振動そのしんどうぶりは、最初さいしよ縱波たてなみくらべてやゝ緩漫かんまん大搖おほゆれであるがため、われ/\はこれをゆさ/\といふ言葉ことば形容けいようしてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
槻の並木の色はくらぶるものもないうるわしさである。堤の尽くるところに橋がある、鰍沢の入口で、ここにまた柳を写生した。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
低落ていらくして十二ぐわつすゑには百六十二・九九となり六ぐわつくらべて十三・三二すなはち七りん下落げらくとなつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それ深刻しんこく印度いんど化物ばけものとはくらべものにならぬ。たとへば、ケンタウルといふ惡神あくしん下半身しもはんしんうまで、上半身かみはんしん人間にんげんである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
魚沼郡うをぬまこほりの雪はちゞみおやといふべし。けだ薄雪はくせつの地にぬの名産めいさんあるよしは糸のつくりによる事也。越後縮にくらべてるべし。
ローラなどはロミオが愛姫ひめくらべては山出やまだしの下婢はしためぢゃ、もっとも、うただけはローラがはるかに上等じゃうとうのをつくってもらうた。
また新石器時代しんせつきじだいのつゞいた年代ねんだい舊石器時代きゆうせつきじだいくらべてたいへんみじかく、舊石器時代きゆうせつきじだい十分じゆうぶんいちにもりないくらゐです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
あとほうは、これにくらべるといくらか露骨ろこつに、西行さいぎよう氣持きもちをしすぎてゐるが、こゝまでつっこんでうたつたひとがないものですから、一例いちれいとしてあげました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこで天子てんしさまは阿倍あべ晴明親子せいめいおやこをおしになり、御前ごぜんじゅつくらべさせてごらんになることになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
昔のしをらしい娘たちは、かうした悲しい物語を、我が身の上にひきくらべ、行燈の暗い灯影で讀み耽つた。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
かれもとのすべてが不自由ふじいうだらけな生活せいくわつかへつてたとはいふものゝおとろへた身體からだ自分じぶんから毎夜まいよいぢめるやうてゝ奉公ほうこうつとめをして當時たうじくらべて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この蓼太というのは天明時代の名高い俳人の一人で、の嵐雪の何代目かの後継者になっているのであるが、蕪村などにくらべると名高い割に句は上手ではなかったのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
輪廓りんくわくといひ、陰影いんえいひ、運筆うんぴつといひ、自分じぶんたしかにこれまで自分じぶんいたものは勿論もちろん志村しむらいたものゝうちでこれにくらぶべき出來できはないと自信じしんして、これならばかなら志村しむら
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そして周囲にある同年輩の女達とくらべて見たりする。つまり、前に言つた『書を以て書を読む』といふ深い読方を『人を以て人を見る』といふ風に人間の実生活に移して見るのである。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
A 持藥ぢやくかつたね。なにしろマアそれでヒステリーびやうだの悋氣病りんきびやうだのがなほれば結構けつこうだ。年始状ねんしじやう無暗むやみ澤山たくさんしたりするのにくらべると、君等きみらのはけだ葉書利用法はがきりようはふ上乘じやうじようなるものだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
この死骸しがいくさ加減かげんぐらゐはいまなかくさりかたにくらべるとんでもござらん。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「わたしは親友だから弔問に來たのだ。何だつてわたしをきたない死人にくらべるのか」と言つて、おきになつている長い劒を拔いてその葬式の家を切り伏せ、足で蹴ばしてしまいました。
みかどいたかたがございませんから、そのはおかへりになりましたが、それからといふもの、いままで、ずいぶんうつくしいとおもつたひとなどもひめとはくらべものにならないとおぼすようになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
寿命も短くて、本当に露の間である。然も金粉きんふんを浮べた花蕊かずい映発えいはつして惜気もなく咲き出でた花のとおる様なあざやかな純碧色は、何ものもくらぶべきものがないかと思うまでに美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
陰慘いんさんたる修羅しゆら孤屋こをくくらべると、こゝはかへつて、唐土たうど桃園たうゑんかぜく。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「のうお爺さん、昨日のように、術くらべをしようじゃあるまいか。伊賀流とかいう忍術と、わしが勝手に発明した吹矢流という忍術とどっちが勝つかくじひくか、くらべて見ようじゃあるまいか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しまとかふねとかくらべてものがなかつたからで、これはよくことだ。
が、死んだ方にくらぶれば、むしろ命拾いを
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
身扮みなりはそんなに惡くはなく、顏立も惡いほどではないのですが、お喜代の死顏のあやしい美しさにくらべると、これは唯の女にしか過ぎず。
この煩悶はんもんくらべると、忘るべからざる二十四日の出来事以後に生きた余は、いかに安住の地を得て静穏に生を営んだか分らない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同じ一つの土地からの報告をくらべてみても、四十歳の人は三十年ほど以前、三十歳の人は二十年ばかり前の、記憶にっているのが多く
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
故内府の鴻恩にくらべては高野の山も高からず、熊野の海も深からず、いづれ世に用なき此身なれば、よしや一命を召され候とも苦しからず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
天狗てんぐ生活せいかつくらべたら、女人禁制にょにんきんせい禅寺ぜんでら男子禁制だんしきんせい尼寺あまでら生活せいかつでも、まだどんなにも人情味にんじょうみたっぷりなものがありましょう。
今それをアニリン染料せんりょうの紫にくらぶれば、地色じいろ派手はででないから、玄人くろうとが見ればっているが、素人しろうとの前では損をするわけだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼方かなた此方こなたとをはかくらべてしかして知らむ、わが天上の案内者しるべの命に從ふことのいかばかり我に樂しかりしやを 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ほかの二ひきにくらべてははげしくしかもしたたかにカピが、いきなり主人のうでにとびかかった。ゼルビノとドルスがその足にとびかかった。
それらの士は、俗悪なる新画に巨万の黄金わうごんなげうつて顧みない天下の富豪ふがうくらべると、少くとも趣味の独立してゐる点で尊敬にあたひする人々である。
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たなばたさまのおまつりかざたけは、あれは外國ぐわいこく田舍家ゐなかやかざるといふクリスマスのにもくらべてたいやうなものです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これのみは御自分の身にくらべお察し下されたく候、さて床のべあり候に清さんと這入はいり候時の私の心は
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)