つも)” の例文
詳しい話をしようとするつもりだったが、唇が震えて云えなかった。一郎は蓙の上にうつぶせに身を倒したきり、暫時しばらくは動かなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
雪吹ふゞきなどにつもりたる雪の風に散乱さんらんするをいふ。其状そのすがた優美やさしきものゆゑ花のちるを是にして花雪吹はなふゞきといひて古哥こかにもあまた見えたり。
南天なんてんつもっている雪がばらばらと落ちた。忠一はって縁側の障子を明けると、外の物音は止んだ。忠一は続いて雨戸を明けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしと、日出雄少年ひでをせうねんと、ほか一群いちぐん水兵すいへいとは、りくとゞまつて、その試運轉しうんてん光景くわうけいながめつゝ、花火はなびげ、はたり、大喝采だいかつさいをやるつもりだ。
もとの蔦屋つたや旅館りよくわん)のおよねさんをたづねようとふ……る/\つもゆきなかに、淡雪あはゆきえるやうな、あだなのぞみがあつたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何万年のながい間には処々ところどころ水面すいめんから顔を出したりまた引っんだり、火山灰や粘土が上につもったりまたそれがけずられたりしていたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
外出して帰って来れば乾児等がソレお茶だとか何だとか騒いで歓待の限りを尽す。本人もいい気になって親分になったつもりでいる。
江戸の若君の成人まで、此高塚蔵人として、決して百姓町人を泣かせるような事はしないつもりだ、——解ったか、解ったら早く行け
う/\う次第で僕は長崎にられぬ、余りしゃくさわるからこのまゝ江戸に飛出とびだつもりだが、実は江戸に知る人はなし、方角が分らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きらひ鎌倉の尼寺あまでらへ夜通のつもりにて行れるなり出入の駕籠舁かごかき善六といふがたつての頼み今夜はこゝに泊られしなりと聞かぬ事まで喋々べら/\と話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いたずらに、もてあそんでいた三味線みせんの、いとがぽつんとれたように、おせんは身内みうちつもさびしさをおぼえて、おもわずまぶたあつくなった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
自分が志賀氏に対する尊敬や、好愛は殆ど絶対的なもので従って自分はこの文章においても志賀氏の作品を批評するつもりはないのである。
志賀直哉氏の作品 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其樣そんなものに鼻毛はなげよまれてはてあとあしのすな御用心ごようじんさりとてはお笑止しようしやなどヽくまれぐちいひちらせどしんところねたねたしのつも
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
往来はほこりが二寸もつもつてゐて、其上に下駄の歯や、くつの底や、草鞋わらじうらが奇麗に出来上つてる。車の輪と自転車のあとは幾筋だか分らない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お前さん彼方あっちへ行って下せえよ、己が引受けたからは世間へ顔出しが出来ませんから退く事は出来ない、何卒どうか事なく遣るつもりで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
学部というものについてこれとった深い考えはなく、どんなつもりで医科を選んだものか覚えがないが、べつにこの選択を後悔しなかった。
「いや、あっしは駄目だ。お酒のほうはおつもりとしやしょう。それより下戸には、いっそ、この柳升の甘味のほうがうれしい」
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
こう言いながら、火鉢を少し持ち上げて、畳を火鉢の尻で二、三度とんとんといた。大沼の重りの象徴にするつもりと見える。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そんな事を云って自分の御機嫌を取るつもりに相違ない、そうで無ければこんな海の真中まんなかで云い出す訳がない、そう思っていた。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
早速亭主に談判して品子の方へ引き渡させるつもりでゐたのに、あんないたづらをされてみると、素直に註文を聴いてやるのがま/\しい。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それがこの聖水おみずかけの老人の心をくるしめだしたので、彼は自分の衰えた記憶を助けてもらうつもりで、女房も自分と一しょに教会へ来させた。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
つもる思いのありたけを語りつくそうとあせれば、一時ひとしきり鳴くとどめた虫さえも今は二人が睦言むつごとを外へはもらさじとかばうがように庭一面に鳴きしきる。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「俺は、少くとも彼等の巣窟をつき止めることは出来たつもりだ。もう暫く待ち給え。併し俺はやられてしまうかも知れない」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれ自由じいううしなうたその手先てさきあたゝかはるつもつて漸次だん/\やはらげられるであらうといふかすかな希望のぞみをさへおこさぬほどこゝろひがんでさうしてくるしんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
僕もいつかつから、君に云はう/\と思つてゐたんだが、君はあんな生活をしてゐて、ほんとにどうするつもりなんだい。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
というのは雪のつもってある向う側には昔の噴火口の跡らしき池があるのみならず、この辺の岩は普通の山の岩と違って皆噴火山の岩であるからです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
落葉がつもってふっくりと柔い土を踏んで、上るともなく上って行くと、小鳥の声さえも聞こえぬ淋しい黒木立の中で、むせぶようなかすかな音が耳に入った。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
きでないかあのものしづかなかけひおとを。とほりにゆき眞白ましろやまつもつてゐる。そして日蔭ひかげはあらゆるものの休止きうし姿すがたしづかにさむだまりかへつてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
此蠻勇このばんゆうちから、それがつもつもつてると、運動うんどうためとか、好奇かうきよくとか、そればかりで承知しやうち出來できなくなつて、はじめて研究けんきうといふことおもきをおくやうになり
この句もやはり前のと同じく、実景の写生でなくして、心象のイメージに托した咏嘆詩であり、遅き日のつもりて遠き昔を思う、蕪村郷愁曲の一つである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その時も口からもらしたが、お島がつもってける酒に満足していられないような、強い渇望がその本来の飲慾をあおって来ると、父親はふらふらと外へ出て
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
顕微鏡写真の装置は固定したままヴェランダに出し放しになっているので、しばらく休んでいる間に、水鳥の胸毛よりももっと軽い雪がもう何ずんつもっている。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
銀之助はしづと結婚するつもりであつたけれど教育が無いとか身分がいやしいとかいふ非難が親族や朋友ほういうの間におこ
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
どんな詰まらぬよろこびでも、どんな詰らぬなげきでも、己はしんから喜んで真から歎いて見るつもりだ。人生の柱になっている誠というものもこれからは覚えて見たい。
つもつたゆきこゞつたつちうへあつめて、それを下駄げたでこするうちには、しろいタヽキのやうなみち出來上できあがります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
このとり食物しよくもつなか不消化ふしようかなものがあれば嗉嚢そのうなかでまるめて、くちからすから、したには、かならず、さうした團子だんごのようなかたまりがつもつてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
多少のほこりつもっているので汚いけれども、よく掃除をして見たら相当の光沢を生前の如く現すだろうと思う。
そして、たとへば、たとへばと諸賢しよけんのの麻雀振マアジヤンぶり紹介せうかいするつもりだつたが、ちやうどゆるされた枚數まいすうにもたつしたし、あとのたたりもおそろしいので。(せう五・三・三)
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
爾がためには父のみか、母もやみ歿みまかりたれば、取不直とりもなおさず両親ふたおやあだ、年頃つもる意恨の牙先、今こそ思ひ知らすべし
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
僕をおどつもりだつたんだらう、離縁状に判を押せと云つて来たんです。よしと云つてすぐ署名捺印した。そして僕から戸籍役場へ直接郵送してしまつたんです。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「徳川の政府に雇われたからというた所がれはいわば筆執る翻訳の職人で……ただ職人のつもりでおるのだから政治の考というものは少しもない」(『自伝』)。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
さあ、これで一通りこの方は済んだつもりだ。ひとつ、これから殺人の現場げんじょうを調べて見ようじゃあないか。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
梅原が近頃エジプ王を訳したが其れにいうの型をかき加へて日本へ紹介するつもりだと言ふと、ムネ・シユリイは喜んで「型のわからない所があつたら自分に聴いてれ」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
味酒うまざけ三輪の山、青丹あをによし奈良の山の、山のまにい隠るまで、道のくまつもるまでに、つばらにも見つつ行かむを、しばしばも見放みさけむ山を、心なく雲の、かくさふべしや」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いま筆法ひつはふもつ日本國内にほんこくない政治せいぢ改造かいざうせよとせまるものがあつたら、きみは一たいどうするつもりだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
物尺ものさしを出してつもつて見る。一丈のたけだからたつぷり取つても一尺は余るであらう。幅は二た幅にして、両方へ二寸ばかりは縫ひ込まなければ広すぎるかも知れない。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
旅裝束たびしようぞくをとほして、さむさがこたへるとおもつてゐたが、なるほどやついたはずだ。あのむかうにえる、るこまのくらといふまへの乘鞍のりくら高山たかやまに、ゆきつもつてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
横笛四邊あたりを打ち見やれば、八重葎やへむぐらしげりて門を閉ぢ、拂はぬ庭に落葉つもりて、秋風吹きし跡もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
不折の如きも近来評判がよいので彼等のねたみを買い既に今度仏国博覧会へ出品するつもりの作も審査官の黒田等が仕様もあろうに零点をつけて不合格にしてしまったそうだ。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
京都きょうとの某壮士或る事件を頼まれ、神戸こうべへ赴き三日ばかりで、帰るつもりのところが十日もかかり、その上に示談金が取れず、たくわえの旅費はつかいきり、帰りの汽車賃にも差支さしつか
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)