あま)” の例文
ロレ いや、そのことば鋭鋒きっさきふせ甲胄よろひおまさう。逆境ぎゃくきゃうあまちゝぢゃと哲學てつがくこそはひとこゝろなぐさぐさぢゃ、よしや追放つゐはうとならうと。
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これらの川魚かわざかなは、そこあさいたらいのなかに、半分はんぶんしろはらせて、呼吸こきゅうをしていました。そのとなりでは、あまぐりをおおなべでっていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
「イヤ、そうは脱けさせない。自分は隠しじるしをして置いた、それが今何処どこにある。ソンナあまい手を食わせられる自分じゃない」
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
與吉よきちはおつぎにかれるときいつもくおつぎの乳房ちぶさいぢるのであつた。五月蠅うるさがつて邪險じやけんしかつてても與吉よきちあまえてわらつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今も昔のごとく薄給はっきゅうあまんじ下男同様の粗衣そい粗食を受け収入の全額を挙げて春琴の用に供したその他経済を切り詰めるため奉公人の数を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うら悲しいような、あまえたいような気持ちが、自然にそんな言葉となって、かれのくちびるをもれたといったほうが適当だったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
明微洞察めいびどうさつ神のごとく、世態人情のいもあまいも味わいつくして、善悪ともにそのまま見通しのきくうえに、神変不可思議しんぺんふかしぎ探索眼たんさくがんには
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのさまれに遠慮ゑんりよらず、やなときやといふがよし、れを他人たにんをとこおもはず母樣はヽさまどうやうあまたまへとやさしくなぐさめて日毎ひごとかよへば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼はマッカベエイのふみのうちなるヤーソンの第二とならむ、また王これにあまかりし如くフランスを治むるもの彼に甘かるべし 八五—八七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
子どもらしく先生と書かずに、教師と書いたところに早苗の精いっぱいさがあり、あまっちょろいあこがれなどではないものを感じさせた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
もとよりその職業につく目的をもって進みきたり、かつ現在の職業にあまんずる人は百人に一人あるや否や我らは大いに疑わざるをない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その上結婚当時のあまい言葉や優しい態度など思合おもひあわせると、彼の愛も卑劣な欺瞞と賤しい情慾との塊にすぎないのだと思はれた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『いえ、あのおさるさんがかににぶつけたのも、きつとわたしのやうなしぶかきで、自分じぶんつてべたといふのはおまへさんのやうなあまかきですよ。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ならばッぱくなるし——カミツレさうならばにがくするし——トつて——トつて砂糖さたうやなどでは子供こどもあまやかしてしまうし。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
采女の事などを主にするからあまくなるかというに決してそうでなく、皇子一流の精厳ともいうべき歌調に統一せられている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
来るたんびにきっと何か玩具おもちゃを買って来てやった。ある時は余り多量にあまいものをあてがって叔母からおこられた事さえある。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その長い長い別れのキスが、誰を心あてにしたものか、神ならぬ身の知るよしもなかったけれど、わたしはむさぼるように、そのあまさを味わった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
庭には沈丁花ちんちょうげあまが日も夜もあふれる。梅は赤いがくになって、晩咲おそざき紅梅こうばいの蕾がふくれた。犬が母子おやこ芝生しばふにトチくるう。猫が小犬の様にまわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
はらひしも最早もはや夫さへ殘りなくまこと當惑たうわく折柄をりからなるに御深切ごしんせつの御言葉にあまえ何とも鐵面皮あつかましき御願ひなれども今少しをつとの病氣のなほる迄御慈悲に滯留たいりう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ばくするものは言ふ。芸者したものはいもあまいも知つてゐるはずなり。栄耀栄華えいようえいがの味を知つたもの故芝居も着物もさして珍らしくは思はぬはずなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もっと、ここに書くのも気恥きはずかしいほど、あまったるい文句も書いてありました。で、ぼくは大切に、一々トランクの奥底おくそこにしまい込んでいたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
およそこの世のいもあまいもしゃぶりつくした福松は、金銭の有難味を知っていて、締まるところは締まる仕末も、世間が教えてくれた訓練の一つ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また、そんなにはげしい色をしていない代りに、あまい重苦しくなるほど劇しいにおいを持った花もどっさりある——茉莉パクリだとか、鷹爪花ヰエヌニアンホアだとか、素馨スウヒイエンだとか。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
いいえ、あいつの歌なら、あのあまったるい歌なら、さっきから光の中に溶けていましたがひばりはまさか溶けますまい。溶けたとしたらその小さなほね
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
氷と雲とにおおわれたはだかの岩山が谷をとりまいていました。ヤナギとコケモモがきそろい、よいかおりのするセンオウはあまにおいをひろげていました。
お母さんは、ひとり子の隆夫たかお少年に昔からあまくもあったが、また隆夫少年ひとりをたよりに、さびしく暮して行かねばならない気の毒な婦人でもあった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子供がすでに啄木の感傷のあまさに満足しない位だから、滅多には歌も詠めなくなったと、人に話したことだった。
かき・みかん・かに (新字新仮名) / 中島哀浪(著)
これは目ぼしい季節の蔬菜を、風物ごと刻み込んで醗酵させた、おかず味噌で、霜焼けの手を掻くような、掻かないではいられないあまかゆいものであった。
立春開門 (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
代って舌鼓したつづみうちたいほどのあま哀愁あいしゅうが復一の胸をみたした。復一はそれ以上の意志もないのに大人おとな真似まねをして
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
熊手をあげてわしが口へやはらかにおしあてる事たび/\也しゆゑ、ありの事をおもひだしなめてみればあまくてすこしにがし。
蛾次郎がじろうは、卜斎ぼくさい顔色かおいろが、だんだんやわらいでくるのを見ると、あまッたれたような調子ちょうしでしゃべりだしてくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与一に対して、何となく肉親のような愛情がいた。かつての二人の男に感じなかったあまさが、妙に私を泪もろくして、私は固く二重あごを結んで下を向いた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
たまらなく「あまいもの」が食べたくなり、時にはそれが発作的な病気のように来ることがあるのと同様に
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
無垢むく若者わかものまへ洪水おほみづのやうにひらけるなかは、どんなにあまおほくの誘惑いうわくや、うつくしい蠱惑こわくちてせることだらう! れるな、にごるな、まよふなと
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
今一人の薄汚なき小男を後にて聞けば、失敬な世に安伴あんばんと呼ばれて中々なか/\あまくない精悍せいかん機敏きびんの局長なりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
それが出来なかつたら、師となり弟子ていしとなつたのがめいだ、あまんじて死なうと決心した。そこで君だがね。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
天国へ往くと、ワニイユの這入つた、あまい、牛乳と卵とのあぶくを食べながら、ワイオリンの好いを聞くのださうだが、まあ、それと同じ心持がするのだからね。
「おお、かあさんや、」とおとうさんがった。「あすこに、綺麗きれいとりが、こえいているよ。がぽかぽかとして、なにもかも、肉桂にくけいのようなあま香気かおりがする。」
中国名の芭蕉ばしょうは一に甘蕉かんしょうともいい、実はバナナ、すなわちその果実の味のあまいバナナ類を総称した名である。ゆえにバナナを芭蕉ばしょうといい、甘蕉かんしょうといってもよいわけだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
女といへば大抵の無理は通るものと思つてゐるらしいが、実際多くの著作家のなかには女名前の手紙には、喜んで返事を書くやうなあまたるてあひが居ないとも限らない。
あのたいそうあまい、しろこな……砂糖さとうとやらもうすものは、もちろん私達わたくしたち時代じだいにはなかったもので、そのころのお菓子かしというのは、おもこめこなかためた打菓子うちがしでございました。
そんなふうに、彼はすっかりあまやかされてだめになるところだった。しかしさいわいなことに、彼はまれつきかしこ性質せいしつだったので、ある一人の男のよい影響えいきょうをうけてすくわれた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
青年たちはこういうふうに娘たちを、美と善とのもやのなかにつつんで心に描くことは少しもあまいことではなく、むしろ健やかなことである。のみならず賢いことでさえある。
学生と生活:――恋愛―― (新字新仮名) / 倉田百三(著)
例えば「清貧せいひんあまんずる」ということが道徳上の善であっても、必ずしもそれがすぐ政治上の道義だとはいえない。国民生活をできるだけ豊かにすることが善い政治であろう。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
いかにもあまい考へだといふのほかはない。ところへいきなり廣岡がわきから飛び込んで來た。さうして肝腎なものをさらつて行かうとしてゐる。畑浦があわてたのも無理はない。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
あまつたるい感情を、今更こね返してみる気にはなれないよ、僕は……。それより、死ぬか活きるかつていふ仕事にぶつかつてみたいんだ。かういふ手応てごたへのない生活は、もう御免だ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
まずしい創作集ではあったが、私には、いまでも多少の愛着があるのである。なぜなら、その創作集の中の作品は、一様にあまく、何の野心も持たず、ひどく楽しげに書かれているからである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
元来のうは我が国民権の拡張せず、従って婦女が古来の陋習ろうしゅうに慣れ、卑々屈々ひひくつくつ男子の奴隷どれいたるをあまんじ、天賦てんぷ自由の権利あるを知らずおのれがために如何いかなる弊制悪法あるもてんとして意に介せず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)