みず)” の例文
まだ昨日きのうったあめみずが、ところどころのくぼみにたまっていました。そのみずおもてにも、ひかりうつくしくらしてかがやいていました。
幾年もたった後 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひっきりなし、川のみずはくるくるまわるようなはやさで、うずをまいて、ふくれがり、ものすごいおとててわきかえっていました。
鬼六 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
多分たぶん被害者ひがいしゃは、くるしみもがき、金魚鉢きんぎょばちのところまでいよつてきて、くちをゆすぐか、または、はちなかみずもうとしたのだろう。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「こちらへ包んでおきました。ではお嬢様、どうぞご機嫌よろしゅう」「道中お気をつけなさいませ」「みずあたりやゴマのはえにも……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかなにもさしげるものとてございませぬ。どうぞこのたきのおみずなりとあがれ……。これならどんなに多量たんとでもございます……。』
柳宗元りゅうそうげん韓退之かんたいしの文を読むごとに薔薇しょうびみずで手を清めたと云うくらいだから、吾輩の文に対してもせめて自腹じばらで雑誌を買って来て
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしってみずなかったら、どこにでもおまえさんのきなところにらしてあげよう。あのへんは、みな、わしの土地とちだから。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
周延ちかのぶが描いた千代田の大奥と云う三枚続きの絵にあるようなみず築山つきやま、雪見燈籠、瀬戸物の鶴、洗いせきなどがお誂い向きに配置されて
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下男げなんおとこ使用人しようにん)が病気びょうきになれば、みずくみもしました。女中じょちゅうおんなのおてつだいさん)にさしつかえがあれば、台所だいどころのてつだいもしました。
そしてするどをむきしながら子家鴨こあひるのそばにはなんでみた揚句あげく、それでもかれにはさわらずにどぶんとみずなかんでしまいました。
しな何時いつでものあるうちになべになはわらみずけていたり、落葉おちばさらつてたりそこらこゝらとうごかすことをめなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「東みず……水の尾村の東水の尾というところよ……でも、ここは、わたしの家があるだけよ。村のあるところは、もっとずっと向うですわ」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は、「上善じょうぜんみずごとし」などと口ずさんでノンビリしていたが、それには、時の要素ようそを考えねばならぬという考慮こうりょや、色々のものがこもっていた。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
彼は倭文子の同意を得て、おちゃみずの「開化かいかアパート」を訪ねた。そこに有名な素人探偵、明智小五郎あけちこごろうが住んでいたのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
松平紀義まつだいらのりよしのおちゃみず事件で有名な御世梅ごせめこのという女も、かつてこの二階にいたと云うことを、十幾年の後に知った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みんながきゅうったせいか、みずぱなたぜ。風邪かぜでもいちゃァたまらねから、そろそろかえるとしべえかの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕は一寸立止ったが、「ドナウもこれぐらい細くなればもう沢山だ」と思った。そして其処の汀の草のうえに尻をついていると、幽かにみずがしている。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
学校も始めはおちゃみずでしたが、上野うえのになり、ひとばしに移って行き、その間に校長も先生もたびたび代ります。平田盛胤もりたねという若い国語の先生が見えました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「矢っ張り監視を受ける丈けのことはしているんだね。君は若い時分からきちがみずが好きだったからなあ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今これを広重の作品に徴するにそが雪景の作中にて最も傑出せる好画図をなさしめたる処は御茶おちゃみず湯島天神ゆしまてんじん石段、洲崎汐入堤すさきしおいりづつみ芝藪小路しばやぶこうじ等にして向島むこうじま、日本橋
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
柚子の身体は、一瞬、水に隠れて見えなくなったが、ほどなく頭から水をたらし、なにかの絵にあったみずせいの出来損いのような、チグハグな表情であらわれてきた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私は非常に驚いてこの子供の知識の出所を聞きただしてみると、それがおちゃみずで開かれたある展覧会で見たアルコールづけの標本から得たものである事がわかった。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「おしょうさまが わたしたちに かくれて、まいにち こっそり みずあめを なめて いるよ。」
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
のたうつような戦慄せんりつ陣痛の苦悶くもんであり、奇妙な風船笛のような鳴き声も、すこやかな産声うぶごえであり、怪しげなにごみずも、胎児の保護を終えた軽やかな羊水であったのか
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「御覧なさい、中佐殿。おちゃみずほりの中から、何か、キラキラひらめいているものがあります」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いま乞食坊主こじきばうずたのになつたのは、なんとなくえらさうにえる坊主ばうず態度たいどしんおこしたのと、みず一ぱいでするまじなひなら間違まちがつたところ危險きけんこともあるまいとおもつたのとのためである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ばあさんなんぞみずぱなあたらして泣いたぞ、……夫婦は二世といってたって、縁が切れれば他人だ、てめえなんぞはのたれ死にをしたっていい人間だ、それをお兼さんはこんなに
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれ半年はんとし無職むしょく徘徊うろうろしてただパンと、みずとで生命いのちつないでいたのであるが、その裁判所さいばんしょ警吏けいりとなり、やまいもっのちにこのしょくするまでは、ここにつとめっていたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ただ一人ひとり、木曾福島の武居拙蔵たけいせつぞう、その人は漢学者としての古賀侗庵こがどうあんき、塩谷宕陰しおのやとういん松崎慊堂まつざきこうどうにも知られ、安井息軒やすいそっけんとも交わりがあって、しばらく御茶おちゃみず昌平黌しょうへいこうに学んだが
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
植木市と云っても本格的なものではなくてカアバイトの光とみずきりで美しくよそおっている品物が多かった。でも値段が安いので、私は蔓薔薇つるばらや、唐辛子とうがらしの鉢植えなどを買いに行った。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
柳のもとには、二つ三つ用心みずの、石で亀甲きっこうに囲った水溜みずたまりの池がある。が、れて、寂しく、雲も星も宿らないで、一面に散込んだ柳の葉に、山谷の落葉を誘って、塚を築いたように見える。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうだ。わすれていた。ぼくすいとうにみずをつめておくんだった。」
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みずのしたたるようなそのお孃さんが
もうおちやみずまで來てゐるのです。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
これみず流出りうしゆつはかつたのであらう。
水道すいどうみず 春 第五十一 水道の水
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つちみずかぜの四つを皆。
みずいたりてきょる。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
みず滴々てきてき
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
また、小川おがわれていって、ボンをみずなかれてあらってやったりして、ボンをよろこばせるのをもたのしみの一つとしているのです。
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのわり一つおねがいがあります。どうぞくすのきでふねをこしらえて、みずをいっぱいれて、その中にささのかべてください。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
指導役しどうやくのおじいさんはそんな御愛想おあいそういながら、おし少女しょうじょみずをすすめ、また御自分ごじぶんでも、さもうまそうに二三ばいんでくださいました。
預けられた茶山の塾の壁に「山ぼんみず、先生どん」の出奔遺書をのこして京地へ走った一書生の頼久太郎は、今では、山陽外史頼襄らいじょうの名を
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うん、あそこなら、ようて、まえやま清水しみずくくらいだから、あのしたならみずようが、あんなところへ井戸いどってなににするや。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そんなおしゃべりをしていますと、突然とつぜん空中くうちゅうでポンポンとおとがして、二がんきずついて水草みずくさあいだちてに、あたりのみずあかそまりました。
晴れた秋の日のさわやかなひる過ぎに、父が珍しくも前栽せんざいに出て、萩がたわゝに咲いているみずのほとりに、ぼんやりと石に腰かけていたことがあった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きゅうみずったようなしずけさにかえった部屋へやなかには、ただこうのかおりが、ひくっているばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
つてみると、しゃくすんほどの瀬戸せとはちが、にわつちにいけてあつて、そのはちは、からつぽだけれど、みずだけはつてあるし、ぐるりに、しろすなをきれいにまいてあつて
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
青菜あをなみずれたので勘次かんじをけしほつては青菜あをなあしでぎり/\とみつけてまたしほつてはみつける。おしなしほ加減かげんやらなにやら先刻さつきからしきりにくちしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みずあわに浮んでいるこまかい砂の如くに、恋死こいじにもせずに果敢はかなくも生きているのか、というので、物に寄せた歌だから細砂のことなどを持って来たものだろうとおもうが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)