ひか)” の例文
かたがたわたくしとしてはわざとさしひかえてかげから見守みまもってだけにとどめました。結局けっきょくそうしたほうがあなたのめになったのです……。
一体いつたい東海道とうかいだう掛川かけがは宿しゆくからおなじ汽車きしやんだとおぼえてる、腰掛こしかけすみかうべれて、死灰しくわいごとひかへたから別段べつだんにもまらなかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れを種々さま/″\おもふてるととゝさんだとてわたしだとてまごなりなりのかほたいは當然あたりまへなれど、あんまりうるさく出入でいりをしてはとひかへられて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くる学校がっこうへいってからも算術さんじゅつ時間じかんになるのがにかかってひかじょうにみんながあそんでいるときでも、長吉ちょうきちひとりふさいでいました。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
声の主は以前まえからそこにいたものらしい、同時に、黒光りの重い板戸が音もなくあいて、敷居ぎわに、半白の用人が端然とひかえている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ええの二字では少し物足らなかったが、その上掘って聞く必要もないからひかえた。障子しょうじを見ると、らんの影が少し位置を変えている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
というまくかげの答え。主命しゅめいによって、いまそこへ、ひかえたばかりの福島市松ふくしまいちまつ、一鎧櫃よろいびつをもって、秀吉と伊那丸いなまるの中央にすえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫婦ふうふあひだうまれたもの幾人いくにん彼等かれらあひだ介在かいざいしてた。有繋さすが幾人いくにん自分じぶん父母ふぼばれるのでにがわらひんでひかへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其處には派手なお内儀のお千世を始め、老番頭忠助、書き役又六、甥の傳七郎を始め、小僧、下女まで十幾人、固唾かたづを呑んでひかへたのです。
凛々りゝしく、氣色けしきなほもおごそかに、あたかも語りつゝいとあつことばをばしばしひかふる人の如く、彼續いていひけるは 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
守衛は何人か交替こうたい門側もんがわめ所にひかえている。そうして武官と文官とを問わず、教官の出入ではいりを見る度に、挙手きょしゅの礼をすることになっている。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いさゝかランプの心をねじると、卓子の上の物皆明るく、心もおのずからあらたまる。家族一同手をひざに、息をのんでひかえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見るに浪人大橋文右衞門繩付なはつきまゝひかへ居る其外繩取役なはとりやく同心等嚴重に詰合つめあひけり又正面には大岡越前守殿出座有て砂利じやりあひだに屑屋一同平伏なし居るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
光一の胸に憐愍れんびんの情が一ぱいになった。かれは自分の解説があやまっていないかをたしかめるためにひかせきへと急いだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「まあ、そんなに召しあがってようござりますか」と、おしおは注ぎかけた銚子をひかえて、思わずたしなめるように言った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
けれども、私の傍には厳然と、いささかも威儀を崩さず小坂氏がひかえているのだ。五分、十分、私は足袋と悪戦苦闘を続けた。やっと両方えた。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
寝室につづくひかえのの長椅子に腰をおろし、暫くの間は、ドアを開いたままにして博士と話し合っていたが、この際会話のはずむ筈もなく、やがて
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その枝の先が届かなくなった左の方の二三尺離れたところに検校の墓が鞠躬加きっきゅうじょとして侍坐じざするごとくひかえている。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
必死に子路のそでひかえている二人の眼に、涙の宿っているのを子路は見た。子路は、ようやく振上げた拳を下す。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ここにひかえておりますのが、その一件でございまして、在には珍らしい近代的感覚をもちました娘でげして……
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あいちやんは益々ます/\なんことだかわけわからなくなりましたが、はと言葉ことばをはるまでなんにもふまいとひかへてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それは、自分こそ秘密を守れますぞと、他人に見せつけたがっている人間に通有の、ひか磊落らいらくの仮面などでは、とてもかくしおおせるものではなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
柳田歯科医院に着いたら、患者かんじゃが数名ひかしつに待っていた。しかし照彦様は特別だから、おくさんの案内で客間から治療室へ通って、すぐに椅子にかけた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
甲組競技場に立つ時は乙組は球を打つ者ら一、二人(四人をえず)のほかはことごとく後方にひかえおるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
店の中には幾人いくにんもの店員がひかえていますし、表には大勢の人が通っています。とうとう昼頃になりました。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
初めはやわらかくひかえ目に、つづいて全体量をこめて、交互に動いた。女の厚ぼったい足に接して、彼は自分のあしうらがスルメみたいに薄く、平たいことを感じる。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
だが結果はその兩點で私が間違つてゐたことを示した。彼はまつたく平生いつもの態度で、または近來の彼のいつもの態度——ひかへ目な鄭重ていちやうさでもつて私に話しかけた。
じょうの中央には演壇と椅子いすがあり、その両側には市の有名なる人々が十人ばかりずつひかえ、その壮厳なる光景を見ては、なおさら怖気おじけて、手足はブルブルと戦慄せんりつした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼はこんな場所ででもいつもの手応てごたえを得るには得たが、場所柄を思ってそのうえの軽口かるくちをさしひかえようとすると、何だかこの口が承知してくれないようにも思えた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
へい/\、それでは何卒どうぞソノ塩餡しほあんふのを頂戴ちやうだいしたいもので。「左様さやうか、しばらひかへてさつしやい。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それにドクトル、ハバトフ、またも一人ひとり見知みしらぬブロンジンのおとこ、ずらりとならんでひかえている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
明日の遠泳会にも出られそうでない……。だが小初にはそんなことはどうでも、遠泳会の後にひかえている貝原との問題を、どう父に打ち明けたものかしらと気づかわれる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その白いうなじに、坂本は接吻せっぷんしたい誘惑ゆうわくはげしく感じたが、二人の純潔じゅんけつのために、それをも差しひかえて、右の手をばし、豊穣ほうじょうな彼女の肉体を初めて抱きしめたのである
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
樂人共がくじんどもひかへてゐる。給仕人共きふじにんども布巾ふきんたづさへてきたり、取散とりちらしたる盃盤はいばんをかたづくる。
どこへもゆかずに岬の村で山伐やまきりや漁師りょうしをしている吉次は、あいかわらずねこのようなおとなしさで、みんなのうしろにひかえ、水ばなをすすりあげながらだまって頭をさげた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
自分はしばらく牛をひかえて後から来る人たちの様子を窺うた。それでも同情を持って来てくれた人たちであるから、案じたほどでなく、続いて来る様子に自分も安心して先頭をつとめた。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
半分はんぶんえる土間どまでは二十四五のをんな手拭てぬぐひ姉樣ねえさまかぶりにしてあがりがまちに大盥おほだらひほどをけひか何物なにものかをふるひにかけて專念せんねんてい其桶そのをけまへに七ツ八ツの小女こむすめすわりこんで見物けんぶつしてるが
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
船頭は驚いたように言って艪をぐいとひかえて、舳を陸にして一押し押した。と、舟はすぐ楊柳の浅緑の葉の煙って見える水際みぎわすなにじゃりじゃりと音をさした。許宣は水際へ走りおりた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このほかいへつかはれてゐるもの大勢おほぜいぐすねいてつてゐます。いへうちをんなどもがばんをし、おばあさんは、ひめかゝへて土藏どぞうなかにはひり、おきな土藏どぞうめて戸口とぐちひかへてゐます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
彼達の所属する作家団体はほとんど………………しまい、一部の仲間作家達は嵐の中をドシドシ身をていしてつきすすんでいる現在、非常に困難な今後をひかえて、できるだけ身軽にするために
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
聞こうとして、あんまり立ち入りすぎると思って、ひかえ、銚子ちょうしに手をやると
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
いやそういう事とは全く知らなかった。どうか少し別席にひかえて戴きたい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
異存いぞんのあろうはずもなく、本読ほんよみもんで、いよいよ稽古けいこにかかった四五にちは、をつめても、つぎひかえて、ちゃ菓子かしよと、女房にょうぼうつとめに、さらさら手落ておちはなくぎたのであったが
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「無礼な奴、ひかえろ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひかえろ。」
「僕は実業家は学校時代から大嫌だ。金さえ取れれば何でもする、昔で云えば素町人すちょうにんだからな」と実業家を前にひかえて太平楽を並べる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このとき、ふと、おひめさまはおうたいなさるこえめ、おらしなさることひかえて、ずっととおくのほうに、みみをおましなされました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただし、いかにすぐれた人霊じんれい御本体ごほんたいでありましても、そのひかえとしては、かならず有力ゆうりょく竜神様りゅうじんさまがおあそばしてられますようで……。
一体東海道掛川かけがわ宿しゅくから同じ汽車に乗り組んだと覚えている、腰掛こしかけすみこうべを垂れて、死灰しかいのごとくひかえたから別段目にも留まらなかった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今まで遠慮してお勝手にひかへてゐたのですが、本郷一番と言はれた娘の病間へ、親分の平次が行くとわかつてそつと後をつけて來たのでせう。