たい)” の例文
食通しょくつう間では、ごりの茶漬けを茶漬けの王者と称して珍重ちんちょうしている。しかし、食べてみようと思えば、たいしてぜいたくなものではない。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
なにをとこころすなぞは、あなたがたおもつてゐるやうに、たいしたことではありません。どうせをんなうばふとなれば、かならずをとこころされるのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとこのおかあさんは、すこしいじのわるい人だったものですから、おひめさまのために自分じぶんがしかられたのをたいそうくやしがりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
けれども相当の地位をつてゐる人の不実ふじつと、零落れいらくの極に達した人の親切とは、結果に於てたいした差違はないと今更ながら思はれた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「一年や二年、シベリアに長くいようがいまいが、長い一生から見りゃ、同じこっちゃないか。——たいしたこっちゃないじゃないか!」
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
と見て、妻が更に五六つぶ拾った。「椎がった! 椎が実った!」驩喜かんきの声が家にちた。田舎住居は斯様な事がたいした喜の原になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たいしてどこが悪いと言うのでもありませんがね。全体にひどく疲労していますからな。何でも身体からだを楽に、無理をしちゃいけませんよ。
あなたが竜宮りゅうぐうへおでなさることは、かねてからお通信たよりがありましたので、こちらでもそれをたのしみにたいへんおちしていました。
段々少しずつ溜るに従っていよ/\面白くなりますから、たいした金ではありませんが、諸方へ高い利息で貸し付けてございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そのとおり。——おかみさん。太夫たゆう人気にんきたいしたもんでげすぜ。これからァ、んにもこわいこたァねえ、いきおいでげさァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
雲ゆきが悪い! 気がつかれてはたいへんだぞと、そういうことには敏感びんかん蛾次郎がじろう、ポイと立って断崖だんがいのふちから谷をのぞきこみ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。それはたいしてむづかしいことでもありません。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
一休いっきゅうさんは どもの ときから 一をきいて 十をしる、と いうほど りこうな でしたが、また たいへんな いたずらっでした。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
裏玄関といっても、なかなか堂々たるもので、家賃百円を出してもこれくらいの玄関はついていまいと思われるたいしたかまえだ。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たいした事は無いがこの家は全然そつくりお前に譲るのだ、お前は矢張やはり私の家督よ、なう。で、洋行も為せやうと思ふのだ。必ず悪く取つては困るよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「うちのような貧乏人びんぼうにんにゃ、三十えんといやたいしたかねがまうが、利助りすけさんとこのような成金なりきんにとっちゃ、三十えんばかりはなんでもあるまい。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「おまえは、なん馬鹿ばかだらう。うつかり秘密話ないしよばなしもできやしない」と、たいへんしかられました。鸚鵡あふむしかられてどぎまぎしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
大岡様おおおかさまだ! 大岡さま! 大岡さま!……まぎれもねえ大岡様だッ! ヒャアッ婆さん! お前まあたいしたお方と口をきいたもんだなあ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おぢさんは、みんながたいへん可愛かあいい。このほんきみたちにんでもらひ、うたつてもらうためにいたのだ。金持かねもち子供こどもなんかまなくたつていい。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「ええ、なんですか、たいへんきたがって、わたしに、六週間しゅうかんだけ、とまりにやってくれッていますの。先方むこうけばきっと大切だいじにされますよ。」
なにしろこりゃおとこだもの、きりょうなんかたいしたことじゃないさ。いまつよくなって、しっかり自分じぶんをまもるようになる。」
春着はるぎで、元日ぐわんじつあたり、たいしてひもしないのだけれど、つきとあしもとだけは、ふら/\と四五人しごにんそろつて、神樂坂かぐらざかとほりをはしやいで歩行あるく。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またかはら一體いつたいたいへんおほきく、今日こんにちかはら二倍にばいくらゐもあります。またそのならかた今日こんにちとはすこちがつてをりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「この八五郎が、三百両の支度金を持って乗込んだところは、たいした武者振りでしたよ、親分。見せたかったな」
おそらくくちから出任でまかせに、たいして苦勞くろうなしにつくつたとおもはれますが、それがみな下品げひんでなく、あっさりとほがらかにあかるい氣持きもちでげられてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
子の眼に映つた田舎町がその当時父の眼に映つた田舎町とさうたいして違ひはないといふことは、古い家並、古いとほり、古い空気があきらかにそれを証拠立てゝる。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もしたいした地震ぢしんでないといふ見込みこみがついたならば、こゝろ自然しぜんやすらかなはずであるから過失かしつおこりようもない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
はゞかりながら御鼻おんばなしたなが/\とえさせたまへば、そんじよ其處そこらにたいした御男子樣ごなんしさまとて、分厘ふんりん價値ねうちしと、つぢちて御慮外ごりよぐわいまをすもありけり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「然うさ、五十百歩ひやくぽさ」と、友は感慨かんがいへないといふふうで、「少許すこしめて、少許知識ちしきおほいといふばかり、大躰だいたいおいて餘りたいした變りはありやしない。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
会社員とか雑誌新聞記者とか、又は医者のやうに、別段それがたいして必要と云ふほどのことはなかつたけれど、しかしそれがあると便利だと思はれる場合が時/″\あつた。
折鞄 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
風邪かぜだらうと思ひます。……たいしたことはないと思ひますが、一寸、これから、お寄りしますが……
十年…… (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
あなた僕の履歴を話せっておっしゃるの? 話しますとも、じっき話せっちまいますよ。だって十四にしかならないんですから。別段たいしたよろこびも苦労もした事がないんですもの。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
キャラコさんは、スキーにたいして自信がないので、それこそほんとうに、命がけの仕事だった。
日頃僕は日本の政治的思想が英国に比して少くとも六十年おくれているというているが、明治十年ぜんに行われた自由論だけは片言ながらたいして時世後れでなかったようである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
多くの人々は、たいてい、ソラ火がまわったというので、のみ着のままにげ出したようです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
智識と云っても、己は尋常小学を卒業したゞけであるから、たいした学問がある訳ではない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
別段そのビラにはたいしたことは書かれていなかった——*3コツェブーの芝居がかかっていて、ロールの役をポプリョーヴィンが、コーラの役をジャブロワ嬢がやるというだけで
ランチュウのがありまして、こいつは、うまくそだてりや、たいしたものになるでしよう。いえ値段ねだんはいいです。さしあげるんですよ。えさは、当分とうぶんのうち、たまご黄身きみにしてください。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
もつとしたしいひととなるといふことも、らずの人としてをはることも、たいした變化かはりがないのだ、とおもふと、まちはなんとなく、すべてがつまらないやうながしてるのであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
あいちやんはまたたゞちにそれを以前もとのやうになほし、『何方どつちにしたつてたいしたちがひはなくつてよ』と獨語ひとりごとひました、『これはうしても矢張やつぱりほかものおな方法はうはふ審問しんもんするにかぎるわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
佛蘭西人フランスじんだアルゼリヤをおかさない數年前すねんぜんに此ブリダアのまちにラクダルといふひとんでたが、これは又たたいした豪物えらぶつで、ブリダアの人々から『怠惰屋なまけや』といふ綽名あだなつてをとこ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
斯う噂をして居たが、和上に帰依きえして居る信者しんじやなかに、きやう室町錦小路むろまちにしきのこうぢ老舗しにせの呉服屋夫婦がたいした法義者はふぎしやで、十七に成る容色きりやうの好い姉娘あねむすめ是非ぜひ道珍和上どうちんわじやう奥方おくがた差上さしあいと言出いひだした。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
めづらしいおきやくさまでもあるときには、とうさんのおいへではにはとりにく御馳走ごちそうしました。山家やまがのことですから、にはとりにくへばたいした御馳走ごちそうでした。そのたびにおいへつてあるにはとりりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あすこへ畳を敷いて勉強の出来るようにしてやるから、その代わりたいして構いては出来ないが、自分の家にいるつもりで、ゆっくり気長に養生でもしたらいいでしょうと、まア好意ずくで薦めた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
先生、たいしたものでございますね。どうでございます
「人が災難さいなんうたのが、そんなおかしいんですか。うちのお父さんは屋根から落ちましたが、それもおかしいでしょう。みんごとたいした怪我けがは、しませなんだけんど、大怪我でもしたら、なお、おかしいでしょう」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ちやうどそれだけたいへんかあいさうな気がした
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
どんどんげて行って、やまの下までると、御飯ごはんべてしまった山姥やまうばが、いくらさがしても女の子がいないので、たいそうおこって
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
実家さと両親りょうしんたいへんにわたくしうえあんじてくれまして、しのびやかにわたくし仮宅かりずまいおとずれ、鎌倉かまくらかえれとすすめてくださるのでした。
只今では本所の割下水へ引けましたが、其の頃はたいした立派な堂でございました。文治郎母子おやこも五百羅漢寺へ参詣して帰って参りました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)