とな)” の例文
「竜手様を、右手に、高く捧げて、大声に願をとなえるのじゃ——が、言うておきますぞ。どんなことがあっても、拙者は、知らん。」
だれかが「ひらけ、ゴマ」の呪文をとなえたのでしょう。呪文を知っているからには、二十面相のおもだった部下にちがいありません。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、敵味方によってびわけられるという変則な地上では、もとより四海兄弟などととなえて祝福し合う初春景色などはどこにもない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの宗教改革をとなえたルターが始めてその新説を発表し旧教家の反対を受けたときは、その生命いのちの安全さえもはなはだ覚束おぼつかなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
百姓ひゃくしょうは「桑原くわばら桑原くわばら。」ととなえながら、あたまをかかえて一ぽんの大きな木の下にんで、夕立ゆうだちとおりすぎるのをっていました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
うちへいったら、にわとりを三やるぞ。」と、与助よすけは、ちょうど念仏ねんぶつとなえるように、おなじことをかえしていいながらあるきました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼らは強いてみずからを愚弄ぐろうするにあらずやと怪しまれる。世に反語はんごというがある。白というて黒を意味し、しょうとなえて大を思わしむ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「手前こそ、今度こそは本当に念仏ねんぶつとなえるがいい。この室から一歩でも出てみろ。そのときは、手前の首は胴についていないぞ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……うでないと、あのふくろふとなへる呪文じゆもんけ、寢鎭ねしづまつたうしたまちは、ふは/\ときてうごく、鮮麗あざやか銀河ぎんが吸取すひとられようもはかられぬ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
巫女くちよせとなへたことだけでは惡戯いたづらわかしゆ意志こゝろらない二人ふたりには自分等じぶんらがいはれてることゝはこゝろづくはずがなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女の実家は仏教の篤信者とくしんじゃで、彼女の伯母おばなぞは南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえつゝ安らかな大往生だいおうじょうげた。彼女にも其血が流れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
此世界このせかい地球ちきうとなまろきものにて自分じぶんひながら日輪にちりん周圍まはりまはること、これをたとへば獨樂こまひながら丸行燈まるあんどう周圍まはりまはるがごとし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
英米人えいべいじんまへには「ジヤパン」とせうし、佛人ふつじんへば「ジヤポン」ととなへ、獨人どくじんたいしては「ヤパン」といふはなんたる陋態ろうたいぞや。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
そうして無検束にその酒をひさがんとする女性が、わざと別種の歌をとなえて、古風な酒盛りから男たちを離反せしめたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この礎のみぞかれらのとなへしところなる、されば信仰をもやさん爲に戰ふにあたり、かれらは福音をたてとも槍ともなしたりき 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
出版当時十ポンドであつたものが、今日こんにちでは三十ポンド内外の市価をとなへられてゐるのは、「一千一夜物語」愛好者の為にいささか気の毒である。
如何いかにして愛国心を養成すべきや」とは余輩がしばしば耳にする問題なり、いわく国民的の文学を教ゆべしと、いわく国歌をとなえしむべしと
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
箱番所はこばんしよの者共よりせいさせける是則ち天一坊さまの御座所ととなへて斯の如く嚴重げんぢうかまへしなり又天忠は兩人の下男に云付る樣は天一坊御事は是迄は世を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そりゃまあ殺すのは実に残酷ですけれどお経でもとなえてやったならば幾分かありがたい利目ききめがあるであろうと思われる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
教員たちは、「もうなんのかのと言っても旅順はじきに相違ないから、その時には休暇中でも、ぜひ学校に集まって、万歳をとなえることにしよう」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「云はんことか、お伊勢様のばちだ」と、宇賀の老爺おじいは小声でつぶやいておりましたが、やがて大祓おおばらいことばとなえだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かように人類じんるい文化ぶんか三階段さんかいだんがあるといふことをはじめてとなへたひとは、今日こんにちから百年ひやくねんばかり以前いぜんきてゐた、デンマルクの學者がくしやトムゼンであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
で、鈴ヶ森へく罪人ならば南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょう、また小塚原へ往く罪人ならば牢内の者が異口同音いくどうおん南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえて見送ったそうでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そも/\ちゞみとなふるは近来きんらいの事にて、むかしは此国にてもぬのとのみいへり。布はにてる物の総名そうみやうなればなるべし。
さあ、それだから私の迷はないやうに、貴方の口からお念仏をとなへて、これで一思ひに、さあ貫一さん、殺して下さい
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かれはその蝋燭ろうそくを小さい白木しらきの箱に入れて、なにか呪文じゆもんのやうなことをとなへた上で、うや/\しく弥助にわたした。
はがらず迷信家めいしんか信仰心しんこうしん喚起よびおこし、あるひまた山師輩やましはいじやうずるところとなつて、たちまちのうち評判ひやうばん大評判おほひやうばん『お穴樣あなさま』とび『岩窟神社がんくつじんじや』ととなへ、參詣人さんけいにんきもらず。
亡き殿様が念佛をとなえずに死なれたことを気に病んでいた彼女としては、これは聞き捨てにはならないのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが明治めいじになつて、ふる歴史れきしのある日本につぽん短歌たんか改正かいせいして、新派和歌しんぱわかといふものをとなした一人ひとり正岡子規まさをかしきといふひと第一だいゝちにこのうたわらひました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私が我慢できなくて出ようとすると、祖父はきまって「百勘定してから。」と云う。私は早口で百までとなえると、躯中から湯気を立てて湯船から飛び出す。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
しかしてここに更に一層唖然たらざるを得ざるは新しき芸術新しき文学をとなうる若き近世人の立居振舞たちいふるまいであろう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まほうの言葉をとなえさえすれば、あのふしぎな戸がすうーっと開いて、穴の中には、持ち出しても、持ち出してもつきることのないほどの、宝がありました。
またある学者は、それは枝の変形したものにほかならないととなえた。これらの学者のいう説にはなんらかくたる根拠こんきょはなく、ただ外からた想像説でしかない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
死は前からの覚悟ぞ!たとえ逆徒のやいばたおれようとも、百年の大計のためには、安藤対馬の命ごとき一もうじゃ。攘夷をとなうる者共の言もまた対馬には片腹痛い。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
みんな篠田長二の方寸から出でまするので——非戦論などとなへて見ても誰も相手に致しませぬ所から、今度は石炭と云ふ唯一の糧道を絶つ外ないと目星を着けて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たったいま上げた線香が長く煙を引いているのに、また新しい線香に火をつけて、口の中で念仏をとな
夢のぎわに少し身をふるわしていたが、暫くしてから気が附いたらしく、口中で低声に何かとなごとをしているように見えた。それは「南無」というように聞える。
久しく禅僧に因りてたれたる釈氏虚無の道は藤原惺窩せいくわ、林羅山らざんの唱道せる宋儒理気の学に因りて圧倒せられ、王陽明の唯心論は近江聖人中江藤樹とうじゆに因りてとなへられ
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
たといこれを拒絶きょぜつするも真実しんじつ国と国との開戦かいせんいたらざるは請合うけあいなりとてしきりに拒絶論きょぜつろんとなえたれども、幕府の当局者は彼の権幕けんまく恐怖きょうふしてただち償金しょうきんはらわたしたり。
そうして自分は芸者狂いをするのじゃない、四方に奔走して、自由民権の大義をとなえて、探偵に跟随つけられて、ややもすれば腰縄で暗い冷たい監獄へ送られても、屈しない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
新浪漫主義をとなえる人と主観の苦悶くもんを説く自然主義者との心境にどれだけの扞格かんかくがあるだろうか。
いよいよごんごろがね出発しゅっぱつした。老人達ろうじんたちは、またほとけ御名みなとなえながら、かねにむかって合掌がっしょうした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
燕師いよ/\東昌に至るに及んで、盛庸、鉄鉉うしを宰して将士をねぎらい、義をとなえ衆を励まし、東昌の府城を背にして陣し、ひそかに火器毒弩どくどつらねて、しゅくとして敵を待ったり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おもふに名とたからともとむるに心ふたつある事なし。六一文字てふものにつながれて、金の徳をかろんじては、みづから清潔ととなへ、六二すきふるうて棄てたる人をかしこしといふ。
其方そのほう儀、外夷の情態等相察すべしと、去る寅年異国船へ乗込むとがに依り、父杉百合之助へ引渡し在所において蟄居ちっきょ申付けうくる身分にして、海防筋の儀なおしきりに申しとな
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私達わたくしたちとて矢張やは御神前ごしんぜん静座せいざして、こころ天照大御神様あまてらすおおみかみさま御名みなとなえ、また八百万やおよろず神々かみがみにおねがいして、できるだけきたないかんがえをはらいのけること精神こころむのでございます。
老人らうじんなら南無阿彌陀佛なむあみだぶつ/\とくちうちとなへるところだ。老人らうじんでなくともこの心持こゝろもちおなじである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
手に入るは卑しき「コルポルタアジュ」ととなうる貸本屋の小説のみなりしを、余と相識あいしる頃より、余がしつるふみを読みならいて、ようやく趣味をも知り、言葉のなまりをも正し
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いよいよだめかな」と「先生」はしずかに言った。「おいのりをとなえよう、こぞうさん」
口にとなうる秘法の呪文じゅもん! しばらく瞑目めいもくすると見えたが、声と共に両の腕に引っ構えたる巨大の柱、一尺余り引き抜けば、根もとの地面八方に割れ、土煙りと共にユサユサ揺れ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)