野中のなか)” の例文
(みづから天幕テントの中より、ともしたる蝋燭ろうそく取出とりいだし、野中のなかに黒く立ちて、高く手にかざす。一の烏、三の烏は、二の烏のすそしゃがむ。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「しッ! 何だい。野中のなかの一軒家けんやじゃあるまいし、神尾神尾って大きな声で、黒門町さんなんか、はらはらしてるじゃないか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それは、広々ひろびろとした、野中のなかとおっている、むかしながらの道筋みちすじでありました。としとったまつみち両側りょうがわっていました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
益さんもしまいには苦笑いをして、とうとう「あなたよろしい」をやめにしてしまう。すると今度は「じゃ益さん、野中のなか一本杉いっぽんすぎをやって御覧よ」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何を便たよりに尋ぬべき、ともしびの光をあてに、かずもなき在家ざいけ彼方あなた此方こなた彷徨さまよひて問ひけれども、絶えて知るものなきに、愈〻心惑ひて只〻茫然と野中のなかたゝずみける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
野中のなかの一軒家でも、家の造りが粗末ぢやからとて、水飮み土百姓が住んでをると思うては違ふ——ビールのあき瓶が五六本は必らず裏口のそとに棄ててある。——
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
おれがこの大きな図体で、町を歩いていたらどんなに人眼をひくことか……聞いてみろ、チャンフーの店は、野中のなかの一軒家じゃあるまいし、隣もあれば、近所の眼もある。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあかつきなにかいさゝか仕損しそこなゐでもこしらゆればれは首尾しゆびよく離縁りえんになりて、一ぽんだち野中のなかすぎともならば、れよりは自由じゆうにて其時そのとき幸福しやわせといふことばあたたまへとわらふに
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大野おほの——和田わだ——野中のなか——それから新聞記者しんぶんきしや代表だいへうして、水谷みつたにおよといふ順番じゆんばんである。
ななめにうねった道角みちかどに、二抱ふたかかえもある大松おおまつの、そのしたをただ一人ひとり次第しだいえた夕月ゆうづきひかりびながら、野中のなかいた一ぽん白菊しらぎくのように、しずかにあゆみをはこんでるほのかな姿すがた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
阪を上って放牧場の埒外らちそとを南へ下り、ニタトロマップの細流さいりゅうを渡り、斗満殖民地入口と筆太ふでぶとに書いた棒杭ぼうぐいを右に見て、上利別かみとしべつ原野げんやに来た。野中のなかおかに、ぽつり/\小屋が見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「やれやれ、がたい、これでたすかった。」とおもって、一生懸命いっしょうけんめいあかりを目当めあてにたどって行きますと、なるほどうちがあるにはありましたが、これはまたひどい野中のなかの一つで、のきはくずれ
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お安に渡し是から道もひろければ先へ立てと入替り最お屋敷もつひ其處そこだと二足三足すごす折柄聞ゆる曲輪くるわ絲竹いとたけ彼の芳兵衞の長吉殺し野中のなかの井戸にあらねども此處は名に反圃中たんぼなか三次はすそ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
野中のなかのおだうのお地藏ぢぞうさん
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ひろい野中のなかの小鳥の巣。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
とある野中のなかの停車場の
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
野中のなかの一軒家の
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
野中のなかながれている小川おがわには、みずがいっぱいあふれてはしうええていましたから、どこがみちだかわかりませんでした。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
銀行ぎんかうよこにして、片側かたがははら正面しやうめんに、野中のなか一軒家いつけんやごとく、長方形ちやうはうけいつた假普請かりぶしん洋館やうくわん一棟ひとむねのきへぶつつけがきの(かは)のおほきくえた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるいてゐるうちにも、日當ひあたりわるい、まどとぼしい、おほきな部屋へや模樣もやうや、となりにすわつてゐる同僚どうれうかほや、野中のなかさん一寸ちよつと上官じやうくわん樣子やうすばかりがかんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
余等よらもつと興味きやうみゆうして傾聽けいちやうしたのは、權現臺貝塚ごんげんだいかひづか歴史れきしであつて、最初さいしよ野中のなかくわん發見はつけんしたのを、ふかしてたので、其頃そのころ發掘はつくつをせずとも、表面ひやうめんをチヨイ/\掻廻かきまはしてれば、土偶どぐう
野中のなかの一軒家の
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
野中のなかいへにも
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
初の烏 あの、(口籠くちごもる)今夜はういたしました事でございますか、わたくしなり……あの、影法師が、此の、野中のなか宵闇よいやみ判然はっきりと見えますのでございます。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あんな、うつくしいちょうでさえ、平気へいきんでいるじゃないか。」と、一とりは、一ぽん野中のなかっているにとまったときに、ともだちをかえりみて、いいました。
ふるさと (新字新仮名) / 小川未明(著)
障子しやうじそと野中のなかさん、野中のなかさんとこゑ二度にどほどきこえた。宗助そうすけ半睡はんすゐうちにはいとこたへたつもりであつたが、返事へんじ仕切しきらないさきに、はや知覺ちかくうしなつて、また正體しやうたいなく寐入ねいつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
田舎の他土地ほかとちとても、人家の庭、背戸せどなら格別、さあ、手折たおっても抱いてもいいよ、とこう野中のなかの、しかも路のはたに、自由に咲いたのは殆ど見た事がない。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるのこと、一人ひとり旅人たびびとが、野中のなか細道ほそみちあるいてきました。そのは、ことのほかあつでした。旅人たびびとっているまつますと、おもわずまりました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其時そのときむかふのいて、紙片かみぎれつた書生しよせい野中のなかさんと宗助そうすけ手術室しゆじゆつしつれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さて今朝こんちょう、此の辺からは煙も見えず、音も聞えぬ、新停車場ステエションただにんり立つて、朝霧あさぎりこまやかな野中のなかして、雨になつたとき過ぎ、おうな住居すまいけ込んだまで
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また野中のなかのどんなちいさないたくずをもながすものではなかったのです。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
落着おちついてると……「あゝ、この野中のなかに、いうにやさしい七夕たなばたが……。」またあわてた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西山にしやまは、一どう野中のなか河普請場かわぶしんば案内あんないしました。工事こうじはなかなかの大仕掛おおじかけでした。河水かすいをふさいで、工夫こうふたちは、河底かわぞこをさらっていました。ほそいレールが、きしって、ながく、ながくつづいています。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
菖蒲あやめ杜若かきつばた此處こゝばかりではない、前日ぜんじつ——前々日ぜん/\じつ一見いつけんした、平泉ひらいづみにも、松島まつしまにも、村里むらざと小川をがは家々いへ/\の、背戸せど井戸端ゐどばた野中のなかいけみづあるところには、大方おほかたのゆかりの姿すがたのないのはなかつた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
野中のなか古廟こべうはひつて、一休ひとやすみしながら、苦笑にがわらひをして、さびしさうに獨言ひとりごとつたのは、むかし四川酆都縣しせんほうとけん御城代家老ごじやうだいがらう手紙てがみつて、遙々はる/″\燕州えんしう殿樣とのさま使つかひをする、一刀いつぽんさした威勢ゐせいいお飛脚ひきやくで。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いいえさ、景色がよくないから遊山ゆさんぬの、便利が悪いから旅の者が通行せぬのと、そんなつい通りのことぢやなくさ、私たちが聞いたのでは、此の野中のなかへ入ることを、俗に身を投げると言ひ伝へて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)