すゝき)” の例文
その岸には水車が幾個となく懸つて居て、春は躑躅つゝじ、夏はの花、秋はすゝきとその風情ふぜいに富んで居ることは画にも見ぬところであるさうな。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と、時々とき/″\そのなかから、くろ拔出ぬけだして、跫音あしおとしづめてて、かどとほりすぎるかとすれば、閃々きら/\すゝきのやうなものがひかつてえる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
店へ行く廊下を通る時大きい銀のすゝきのかんざしの鈴が鳴つた。菊菱きくびしの紋を白く抜いた水色の麻の幕から日が通つて、金の屏風にきらきらと光つて居た。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
月見の用意なども昨夜のまゝすゝきはぎが、眞晝の陽の中に、ユラユラと影を落してゐるのも、わびしく哀れな姿です。
はなやかないろなかに、白いすゝきを染め抜いた帯が見える。あたまにも真白な薔薇ばらを一つしてゐる。其薔薇ばらしい木陰こかげしたの、くろかみなか際立きはだつてひかつてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一夜の松風に夢さめて、おもひさびしきふすまの中に、わがありし事、すゝきが末の露程も思ひ出ださんには、など一言ひとことの哀れを返さぬ事やあるべき。思へば/\心なの横笛や。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「違ひない。」と、乙まも煑しめたやうな手拭の頬冠りを取つて、すゝきのやうな白髮頭を掻き掻き笑つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ようやく一方を切抜けてすゝきだゝみへ飛込んで、往来の広い所へ飛出す出合がしら、伴藏は眼もくらみ、れも同じ捕方と思いましたゆえ、ふいに孝助に斬掛けましたが
うしろの土手どて自然生しぜんばへおとゝ亥之いのをつて、びんにさしたるすゝきまね手振てぶりもあはれなるなり。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
与平治よへいじ茶屋附近虫取撫子なでしこの盛りを過ぎて開花するところより、一里茶屋に至るまで、焦砂せうさにほはすに花を以てし、夜来の宿熱をやすに刀の如きすゝきを以てす、すゞめおどろく茱萸ぐみ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
すゝきさきもになつた。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
萱やすゝきが人の肩も見えぬばかりに生ひ茂つて、をり/\見る一軒屋には、桔槹はねつるべが高くかゝつて、甜瓜まくわうりきいろく熟してゐた。
草津から伊香保まで (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ほそきことごと玉蜻かげろふふ。をんなかすかあを瓔珞やうらくかゞやかしてへば、やますゝき差覗さしのぞきつゝ、やがてつきあきらかにづ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
友染いうぜんの着物に白茶錦しらちやにしきの帯をむすびにして、まだ小い頃から蝶々髷てふ/\まげやら桃割もゝわれつて、銀のすゝきかんざしなどを挿して
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
がけあきつてもべついろづく樣子やうすもない。たゞあをくさにほひめて、不揃ぶそろにもぢや/\するばかりである。すゝきだのつただのと洒落しやれたものにいたつてはさら見當みあたらない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
相川は重箱をげて、孝助殿気を付けてけと云いながら参りますると、向うよりすゝきだゝみを押分けて、血刀ちがたなを提げ飛出して、物をも云わず孝助に斬り掛けました。
野川のがはすゝきとヲまつた
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちてもりしづかに、かぜむで肅殺しゆくさつつるところえだ朱槍しゆさうよこたへ、すゝき白劍はくけんせ、こみち漆弓しつきうひそめ、しもやじりぐ。峻峰しゆんぽうみな將軍しやうぐん磊嚴らいがんこと/″\貔貅ひきうたり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
周囲にはかややら、すゝきやらの雑草が次第もなく生ひ茂つて水際には河骨かうほね撫子なでしこなどが、やゝ濁つた水にあたらその美しい影をうつして、居るといふ光景であつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
一刀ひとかたなあびせたから惣次郎は残念と心得て、脇差の鞘ごと投げ付けました、一角がツと身をかわすと肩の処をすれて、すゝき根方ねがたへずぽんと刀が突立つったったから、一角はのりを拭いて鞘に収め
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、はなすゝきうへをすらすらと、すぐに修善寺しゆぜんじへついて、菖蒲湯あやめのゆかれるやうな、やさしいのではない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
堤防の下には、処々ところ/\茅葺かやぶき屋根が見える。汚ない水たまりがあつて、其処そこに白く塵埃ほこりまみれたかやすゝきが生えてる。日影のキラキラする夏の午後の空に、起伏した山のしわあきらかにいんせられた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それに親父おやぢが金属の彫刻師ほりしだものですから、さかづき、香炉、目貫縁頭めぬきふちがしらなどはありませんが、其仕事をさせる積りだつたので、絵を習へと云ふので少しばかりネ、すゝきらん
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
例年れいねんだと、そのすゝきを、高樓たかどの——もちとをかしいが、このいへ二階にかいだからたかいにはちがひない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
龍虎梅竹りうこばいちく玉堂富貴ぎよくだうふつき、ナソレ牡丹ぼたん芍藥しやくやくすゝきらんこひ瀧登たきのぼりがとふと、ふな索麺さうめんつて、やなぎつばめを、さかさまけると、あしがんとひつくりかへる……ヨイ/\とやつでさ。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
箱根はこね煙草たばこをのんだらうと、わらひですんだからいものの、すゝきつきすみながら、むね動悸どうきしづまらない。あいにくとまた停電ていでんで、蝋燭らふそくのあかりをりつゝ、ともしびともがふるふ。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……ひさしやぶれ、のきるにつけても、ひかりは月影つきかげのなつかしさは、せめてすゝきばかりもそなへようと、大通おほどほりの花屋はなやひにすのに、こんな時節じせつがら、用意よういをしてつてゐるだらうか。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床几しやうぎいこ打眺うちながむれば、きやく幾組いくくみ高帽たかばう天窓あたま羽織はおりかたむらさきそでくれなゐすそすゝきえ、はぎかくれ、刈萱かるかやからみ、くずまとひ、芙蓉ふようにそよぎ、なびみだれ、はなづるひとはなひとはなをめぐるひと
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こつさいりんしんかとてしばをかつぎて、あねさんかぶりにしたる村里むらざと女房にようばうむすめの、あさまちづるさまは、きやう花賣はなうり風情ふぜいなるべし。むつなゝきのこすゝききとめて、すさみにてるも風情ふぜいあり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とまおほうて、すゝきなびきつゝ、旅店りよてんしづかに、せみかない。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつ視詰みつめて、茫乎ぼんやりすると、ならべた寐床ねどこの、家内かないまくら両傍りやうわきへ、する/\とくさへて、みじかいのがる/\びると、おほひかゝつて、かやともすゝきともあしともわからず……なか掻巻かいまきがスーとえる
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あをすゝき引結ひきむすんで、ほたるつゝんでげてた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はぎれてすゝきまばゆき夕日ゆふひかな
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)