むれ)” の例文
やがて花嫁の一むれは、迎へに行つた平七夫婦に導かれて門の外に近づいて來た。亥の子藁を持つた子供の一隊は花嫁らを取り圍んで
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
フォレーゼは聖なるむれをさきにゆかしめ、我とともにあとより來りていひけるは。我の再び汝に會ふをうるは何時いつぞや。 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そういうむれに入らぬ老人が、しずかに酒を飲んで、これから寝ようとしている。踊の歌はいつやむべしとも見えぬ、という趣である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その堀と堀の間には、たくましいクレーンのむれが黒々とそびえ立って、その下に押し潰されそうな白塗りの船員宿泊所が立っている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
十八を頭に赤子の守兒を合して九人の子供を引連れた一族も其内の一むれであつた。大人は勿論大きい子供等はそれ/\持物がある。
水害雑録 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
あみつたたか竹竿たけざをには鳥籠とりかごかゝつてました。そのなかにはをとりつてありまして、小鳥ことりむれそらとほたびこゑびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
宝貝すなわち私たちの子安貝こやすがいを、ツシヤまたは是と近い語で呼んでいる島または人のむれは、今のところまだ見つかっていない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おとなしく手をとられて常人のごとく安らかに芝生しばふ等の上をあゆむもの、すべて老若ろうにゃく男女なんにょあわせて十人近い患者のむれが、今しも
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
銀座の表通に燈火を輝すカフエーを城郭となし、赤組と云い白組と称する団体を組織し、客の纒頭てんとうむさぼるものは女給のむれである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
耳を澄ますと、四山の樹々には、さまざまな小禽ことりむれ万華まんげの春に歌っている。空は深碧しんぺきぬぐわれて、虹色の陽がとろけそうにかがやいていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此時このとき不意ふゐに、車外しやぐわい猛獸まうじうむれ何者なにものにかおどろいた樣子やうすで、一時いちじそらむかつてうなした。途端とたん何處いづくともなく、かすかに一發いつぱつ銃聲じうせい
が、たちまち鶏のむれが、一斉いっせいときをつくったと思うと、向うに夜霧をき止めていた、岩屋の戸らしい一枚岩が、おもむろに左右へひらき出した。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下界げかいものとしてはあま靈妙いみじい! あゝ、あのひめ女共をんなども立交たちまじらうてゐるのは、ゆきはづかしい白鳩しらはとからすむれりたやう。
帰途かへりに大陸ホテルの前を過ぎると丁度ちやうど今の季節に流行はやる大夜会の退散ひけらしく、盛装した貴婦人のむれ続続ぞくぞくと自動車や馬車に乗る所であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「こんなに、さわったらころびそうな連中を引っぱり出して鉄砲をかつがせるって法があるかい!」そのむれの一人が云った。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
むれの人がぴったりぎ合って入日の方に向いて行くのが、暗い形に見えるのだ。多くは自分の輪廓りんかくされているように背中を曲げている。
くるり棒の調子を合わして、ドウ、ドウ、バッタ、バタ、時々ときどきむれの一人が「ヨウ」といさみを入れて、大地もひしげと打下ろす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
中央ちうあう青竹あをだけ線香立せんかうたてくひのやうにてられて、石碑せきひまへにはひとつづゝ青竹あをだけのやうなちひさなたなつくられた。卯平うへい墓薙はかなぎむれくははつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこへ毛針を流すと、あの小さい奴が水面にまで飛び上って、毛針にむれるのであった。ことに日の暮になるとよく釣れた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
平次は日頃のくちにはない事ですが、素知らぬ顔をして、広間の中に不安におののく一団の美しいむれを見ておりました。
ミラア先生は、その時この室にゐたたつた一人の先生で、彼女をとりまいて立つてゐる大きい生徒のむれは、眞面目なけはしい顏付で喋舌しやべつてゐた。
凡ての職業を見渡したのちかれは漂泊者のうへて、そこでまつた。彼はあきらかに自分の影を、犬とひとさかいまよ乞食こつじきむれなかに見いだした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二百発の砲弾は、まるでいたずら小僧こぞうむれを襲う熊蜂くまばちの群のように、敵艦にとびついていったが、まことにふしぎな、そして奇怪な光景であった。
「ざまあ見ろ、巫女いちこ宰取さいとりきた兄哥あにいの魂が分るかい。へッ、」と肩をしゃくりながら、ぶらりと見物のむれを離れた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはあたかも雲霞のような大きな青蠅のむれが、その囚人がまもなくどうなるかということを見越して、彼の身辺に群っているかのようであった。
「エキステルならずや、いつの間にか帰りし。」「なほ死なでありつるよ。」など口々に呼ぶを聞けば、かの諸生はこのむれにて、馴染なじみあるものならむ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ようやくこの裸体国の中で、たった一人、浴衣に経木帽きょうぎぼうという自分の姿が、ひどく見窄みすぼらしく感じられて、肩をすぼめてその一むれのパラソルの村を抜けると
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さてまた牡丹がおっと文角ぶんかくといへるは、性来うまれえて義気深き牛なりければ、花瀬が遺言を堅く守りて、黄金丸の養育に、旦暮あけくれ心を傾けつつ、数多あまたこうしむれに入れて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
むれを造って出て来るとはあきれ返った大胆者! お武家様の敵でよしなくとも、抛棄うっちゃって置くことは出来ません。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある夕方ゆうがたことでした。ちょうどお日様ひさまいま、きらきらするくもあいだかくれたのち水草みずくさなかから、それはそれはきれいなとりのたくさんのむれってました。
ところどころで、巡査は剣を鳴してやつて来て、そのむれに解散を命じた。一時は群集はあちこちに散つて行つても、またゝく間にまたあとからぞろ/\と続いた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「どうも君代議士なんて、ほんまに詰らんよ。第一無学無趣味でね……まあ一口に言ふと愚者のむれやな。」
ないところから、のっしのっしと浜街道を十三里ひと日にのし切って、むれなす旅人の影に交りながら、ふらりふらりとお城下目ざして原ノ町口に姿を現しました。
ことしの五月一じつに、エルリングは町に手紙をよこして、もう別荘の面白い季節が過ぎてしまって、そろそろお前さんや、避暑客のむれが来られるだろうと思うと
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
見ると、やや下手しもての左岸の松林の外では何かしきりに叫んで騒いでいるむれがあった。裸のわらべたちである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かごで、舟で、徒歩かちで、江戸中からむれて来た老若、男女で、だんまりの場が開くころには、広大な中村座の土間桟敷どまさじき、もはや一ぱいにみたされているのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そう注意ちゅういされているうちに、もうわたくしには蝶々ちょうちょうのような羽翼はねをつけた、おおきさはやっと二三ずんから三四寸位すんくらいの、可愛かわいらしい小人こびとむれがちらちらうつってたのでした。
真麻まそむら」は、真麻まあさむれで、それを刈ったものを抱きかかえて運ぶから、「むだき」に続く序詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
長い棘の生えた異様な植物がそこ此処にむれ立っている。エベットにきくと、シャボテンという草だとおしえてくれた。そこを行くと、青々とした麦畑にいきあった。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今は三百余年の昔、文禄ぶんろくえき後、むれの鮮人たちがつれられて来て、窯をこの苗代川にぼくした。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小鳥ことりむれえだからえだまはつておもひのまゝ木實このみついばんでもしかがないといふ次第しだいであつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
明日あすは神崎、きょうは蟹島、江口と云うように、処々方々を浮かれ歩いて、二十五菩薩よりもうるわしい遊女のむれにかしずかれながら、春の野山を狂い飛ぶ蝶々のような
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はるかの果てに地方じがたの山がっすら見える。小島の蔭に鳥貝を取る船がむれ帆をつらねている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
錨を投げ込むと、鳥のむれがぱっと飛び立って森の上をぐるぐる𢌞りながら啼き叫んだ。けれども一分とたたないうちに再び舞い降りて、すべてがもう一度ひっそりとした。
新聞記者連の競争の昂奮こうふんが一般の人たちにまで波動し、そして有爵者たちのむれを震動させた。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は人波ひとなみの後をぬけ、神庫の前を通って暗いいちいの下まで来かかった。そのとき、踊りのむれからした一人の女が、彼の後からけて来た。彼女は大夫の若い妻であった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ところがこの河岸かわぎしむれの中にビンズマティーとう一人のいやしい職業しょくぎょうの女がおりました。
手紙 二 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
れつ先頭せんとう日章旗につしやうき揚々やう/\として肥馬ひままたが将軍しやうぐんたち、色蒼いろざざめつかてた兵士へいしむれ
中村なかむらさんと唐突だしぬけ背中せなかたゝかれてオヤとへれば束髪そくはつの一むれなにてかおむつましいことゝ無遠慮ぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあと同音どうおんわらごゑ夜風よかぜのこしてはしくを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
エミリアンは眠りがたりなくて、ぼんやりしながら、日向ひなたの野原に出て、考へこんでゐました。野原の中には、金持の家の鵞鳥どもがむれをなして、をあさつて遊んでゐました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)