すき)” の例文
「ぢや、ねいさんは何方どちらすきだとおつしやるの」と、妹は姉の手を引ツ張りながら、かほしかめてうながすを、姉は空の彼方あなた此方こなたながめやりつゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
月々丑松から送る金の中からすきな地酒を買ふといふことが、何よりのこの牧夫のたのしみ。労苦も寂寥さびしさも其の為に忘れると言つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白百合しらゆり紅百合べにゆり鳶尾草いちはつの花、信頼心しんらいしんの足りない若いものたちよりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ、ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しかし抽斎は心を潜めて古代の医書を読むことがすきで、わざろうという念がないから、知行よりほかの収入はほとんどなかっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかも私は書物を買うことがすきで、「お前は役にも立たぬ書物を無闇むやみに買うので困る」と、毎々両親から叱られている矢先である。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お彼岸にお萩餅はぎこしらえたって、自分の女房かみさんかたきのように云う人だもの。ねえ、そうだろう。めの字、何か甘いものがすきなんだろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蟠「どうも可愛い男だ、今阿部忠五郎あべちゅうごろうと舎弟と碁をり初めたが、わしは一杯遣ってるが誠に陰気でいかぬ、どうもすきだからの通りだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まさかそうでもないでしょうけれどもね。——しかしなかなか筋の通った好い頭をもった方じゃありませんか。あたしあのかたすきよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
調とゝのへ來り左右とかくもの事はいはひ直さばきよきちへんずべしと申すゝめ兩人して酒宴しゆえんもよほせしが靱負ゆきへは元よりすきさけゆゑ主が氣轉きてんあつがんに氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お島はそうした男たちと一緒に働いたり、ふざけたりしてはしゃぐことがすきであったが、誰もまだ彼女のほおや手に触れたという者はなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隣家の娘というはお勢よりは二ツ三ツ年層としかさで、優しく温藉しとやかで、父親が儒者のなれの果だけ有ッて、小供ながらも学問がすきこそ物の上手で出来る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私を育ててくれた乳母うば名古屋なごやに居まして、私が子供の内に銀杏ぎんなんすきで仕様がないものだから、東京へ来ても、わざわざ心にかけて贈ってくれる。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
話せればあなただってどんなにすきにおなんなさるか! 非常に僕を可愛がって下すったことを思い出してさえ、なんだか涙が眼に一杯になります。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
かれしばらすき煙草たばこ屈託くつたくしてたがやうやあたゝかけたので、まれ生存せいぞんして往年わうねん朋輩ほうばい近所きんじよへの義理ぎりかた/″\かほつもりそとた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
肩衣かたぎぬを賣る店を市中でよく見出したが、その際予は未だ嘗つて知らなかつたところの「市中漫歩者の情調」に襲はれた。唯それ丈でも大阪はすきである。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
それにあまりおすきでもないと見えて、追っかけて玄関へ持って来ても、よく手を附けずにお出かけです。その頃ですからコーヒーはないのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
何よりも美味うまい物がすきで、色沢いろつやがよいものだ。此忠志君も、美味い物を食ふと見えて平たい顔の血色がよい。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかしながら食物が生存の大本であると思えば一日も等閑なおざりには出来ません。先刻さっきのお話にライスカレーの事が出ましたが我輩わがはいは至ってライスカレーがすきです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「宅にあるのを、みんな読ましておあげなさい。おすきなものを見せないなんて、わからない親御おやごさんだ。」
珠運しゅうん命の有らん限りは及ばぬ力の及ぶケを尽してせめては我がすきの心に満足さすべく、かつ石膏せっこう細工の鼻高き唐人とうじんめに下目しためで見られし鬱憤うっぷんの幾分をらすべしと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
瓦廻かはらまわしをる、鞦韆飛ぶらんことびる、石ぶつけでも、相撲すまふでも撃剣げきけん真似まねでも、悪作劇わるいたずらなんでもすきでした、(もつと唯今たゞいまでもあまきらひのはうではない)しかるに山田やまだごく温厚おんこう
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
年々としどしの若葉ともいふ可きあらたの月日、またない月日、待受けぬ月日、意外の月日、すきになる月日、おそろしい月日は歸つて來ても、過ぎた昔のしたしみのある、願はしい
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
何時いつでも客をする時には、客の来るまでは働く、けれども夕方になると、自分も酒がすきだから颯々さっさつと酒を呑でめしくっ押入おしいれ這入はいって仕舞い、客が帰た跡で押入から出て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
然し風景は美しく、四辺あたりも静かなので、平野氏はその道を馬車で乗廻すのがすきであった。——祐吉は続けさまに鞭を鳴らしながら、馬をあおり、狂気のように疾駆して行った。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なつはじめたびぼくなによりもこれすきで、今日こんにちまで數々しば/\この季節きせつ旅行りよかうした、しかしあゝ何等なんら幸福かうふくぞ、むねたのしい、れしい空想くうさういだきながら、今夜こんやむすめはれるとおもひながら
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
すきな讀書にもいてしまツた。とツて泥濘ぬかるみの中をぶらついても始まらない。でうしてんといふことは無く庭を眺めたり、またんといふことはなく考込むでボンヤリしてゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたしゃあふっくりした、色沢いろつやの好い頬っぺたが一番すきだ。320
ちがひます 僕は星はみなすきです 中でも火星は大好きです
あなたは生活がおすきなのでしょう。
亞米利加あめりか薄荷はくか鐵線蓮かざぐるま留紅草るこうさう、もつと優しい鳩のやうな肉よりも、おまへたちの方がわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
町に別嬪べっぴんが多くて、山遊びがすきな土地柄だろう。果して寝転んでいて、振袖を生捉いけどった。……場所をかえて、もう二三人つかまえよう。
あるいは学問がすきだと云って、親の心も知らないで、書斎へ入って青くなっている子息むすこがある。はたから見れば何の事か分らない。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市郎は散歩がすきであった。加之しかも未来の妻たるべき冬子の家を訪問するのであるから、悪い心地こころもちなかった。早速に帽子を被って家を出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見る時は不便心が彌増いやまほどこすことのすきなる故まうけの無も道理ことわりなり依て六右衞門も心配なしいつそ我弟が渡世とせい先買さきがひとなりはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「へえ、蘭から習わせるネ」と三吉も開けてみて、「西洋画とは大分方法やりかたが違うナ——お俊ちゃんはすきだから、きっと描けるように成りましょう」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何もわたくしすきこのんで斯様かようなことを申すんではありません。段々とまア御辛抱遊ばして聴いて御覧ごろうじろ、成程と御合点なさるは屹度きっとお請合申しまする。
とう樣にねだつて、すきな物を買へる丈買ふといふ癖が附いてゐたのだ。丸で預算を立てて物をするといふ考がなかつたのだ。此頃大分だいぶわかつて來たやうだ。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
アノおぢいさま、アノおぢいさまはみんなお金をどうしておしまひなさるんでせうか、私なんかそんなにたんと持つて居たらいろんなすきなもの買升かへますけどネ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
お大は姉と違つて、ちひさい時分から苦勞性の女であつたが、糸道いとみちにかけては餘程鈍い方で、姉も毎日手古摺てこずつて居た。其癖負けぬ氣の氣象きしやうで、加之おまけに喧嘩がすきと來て居る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
先刻さっき内々戸のすきから見たとは違って、是程までに美しいそなたを、今まで木綿布子ぬのこ着せておいた親のはずかしさ、小間物屋もよばせたれば追付おっつけくるであろう、くしかんざし何なりとすきなのを取れ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
煙草入たばこいれ虚空からであつた。かれ自分じぶん體力たいりよく滅切めつきりへつ仕事しごとをするのにかなくなつて、小遣錢こづかひせん不足ふそくかんじたとき自棄やけつたこゝろから斷然だんぜんそのほどすき煙草たばこさうとした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「小金井さんもそんな物がおすきかい。家にもあったようだよ、持って来て上げよう」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
斯うして私の小さいけれど際限の無い慾が、いつも祖母をとおして遂げられる。それは子供心にも薄々了解のみこめるから、自然家内中で私の一番すきなのは祖母で、お祖母ばあさんお祖母さんと跡を慕う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
空気洋燈らんぷ煌々くわう/\かゞやいて書棚の角々かど/\や、金文字入りのほんや、置時計や、水彩画の金縁きんぶちや、とうのソハにしいてある白狐びやくこ銀毛ぎんまうなどに反射して部屋は綺麗きれいで陽気である、銀之助はこれがすきである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
云わばヤリはなしである。藩のふうで幼少の時から論語を続むとか大学を読むくらいの事はらぬことはないけれども、奨励する者とては一人もない。ことに誰だって本を読むことのすきな子供はない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところ或日あるひ石橋いしばしが来て、たゞかうしてるのもつまらんから、練習のために雑誌をこしらへては奈何どうかとふのです、いづれも下地したぢすきなりで同意どういをした、ついては会員組織くわいゝんそしきにして同志どうしの文章をつのらうと議決ぎけつして
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あら、よツちやん、私はすききらひも無いと言つてるぢやありませんか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
パトロクロス様が誰よりも内々すきであったっけ。8855
嫉妬しっとの勢いすさまじきに大原も途方にくれ「ナニ少し御馳走ごちそうになっていたものですから遅くなったのです。途中まででもお出迎いに参らなければすみません」お代嬢「すむすまないもあるもんか自分がすきであの子と狂い廻っていた癖に。あの子が大事か、親が大事か、満さんに解んねいか」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
約束の会は明日あしただし、すきなものは晩に食べさせる、と従姉いとこが言った。差当さしあたり何の用もない。何年にも幾日いくかにも、こんな暢気のんきな事は覚えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)