奇麗きれい)” の例文
その前にはスエ子の誕生祝に三越へ行って硝子ガラス製の奇麗きれいな丸いボンボンいれを買ってやりました。やすいもの、だがいい趣味のもの。
奇麗きれいなすきとおった風がやってまいりました。まずこうのポプラをひるがえし、青の燕麦オートなみをたてそれからおかにのぼって来ました。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と云いながらそばへ寄って、源三の衣領えりくつろげて奇麗きれいな指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸をすくめてさえぎりながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時地面と居宅の持主たるべき資格をまた奇麗きれいに失ってしまった。はたのものは若くなった若くなったと云ってしきりにはやし立てた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「働かんと姉さん口煩くちうるさいから」おひろは微声で答えたが、始末屋で奇麗きれい好きのお絹とちがって、面倒くさそうにさっさっとやっていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其處そこその翌日あくるひ愈〻いよ/\怠惰屋なまけや弟子入でしいりと、親父おやぢ息子むすこ衣裝みなりこしらへあたま奇麗きれいかつてやつて、ラクダルの莊園しやうゑんへとかけてつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
片手に洋傘こうもり、片手に扇子と日本手拭を持っている。頭が奇麗きれい禿げていて、カンカン帽子を冠っているのが、まるでせんをはめたように見える。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
二人はフランス語で話し合っていたが、わたしは今でも思い出す、ジナイーダの発音の奇麗きれいさに、びっくりしたものである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
へい、うも有難ありがたぞんじます、これうも大層たいそう奇麗きれいなお薬で。殿「ウム、早くへば水銀剤みづかねざいだな。登「へえー、これのみましたらのどつぶれませう。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
くつろいでひとにおいするときには、んな奇麗きれいところんで、んな奇麗きれい姿すがたせてれど、わたくしたちとていつもうしてのみはいないのです。
やがて雁首がんくび奇麗きれいいて一ぷくすつてポンとはたき、またすいつけておたかわたしながらをつけてお店先みせさきはれると人聞ひとぎきかわるいではないか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ねえ! とてもうつくしいとりだよ。そしてこんな奇麗きれいな、黄金きんくさりを、わたしにくれたよ。どうだい、立派りっぱじゃないか。」
彼は奇麗きれいに光る禿顱とくろを燈下に垂れて、ツル/\とで上げ撫で下ろせり、花吉は絹巾ハンケチ失笑をかしさを包みて、と篠田を見つ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
少々せう/\怪我けがぐらゐはする覚悟かくごで、幻覚げんかく錯視さくしかとみづかあやしむ、そのみづいろどりに、一だんと、えだにのびて乗出のりだすと、あま奇麗きれいさに、くらんだのであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昼寐ひるね夜具やぐきながら墓地ぼちはう見下みおろすと、いつも落葉おちばうづもれたまゝ打棄うちすてゝあるふるびたはか今日けふ奇麗きれい掃除さうぢされて、はな線香せんかうそなへられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
入院の手続は連の人が既にしてくれたので直に二階のある一室へ這入った。二等室というので余り広くはないが白壁は奇麗きれいで天井は二間ほどの高さもある。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
あの赤坊あかんぼう奇麗きれいかは知りませんが、アノ従四位様のお家筋に坊の気高けだかい器量に及ぶ者は一人もありません。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
乳母 ま、あのよな! ひいさまえ、あのよなおかた世界中せかいぢゅう女衆をなごしゅが……ほんに奇麗きれいな、蝋細工らうざいくたやうな。
このごちゃごちゃした屠場の中を獣医は見て廻って、「オイ正月に成ったら御装束をもっと奇麗きれいにしよや」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さような不勉強から、折角習ったフランス語も船中で全く奇麗きれいに忘却してしまって、上陸の際はぐっともすっともいえない上に勿論もちろん何をいわれても一切聞えなかった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
黒髪が人並よりぐっと黒いので、まれにまじっているわずかな白髪が、銀砂子ぎんすなごのように奇麗きれいに光る。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つかはし其場をすませし事迄を落なく語りければ與惣次は大いに感心かんしんなし如何にも今の世には得難き人なり殊に女房叔母ともに奇麗きれいに向ふへつかは温順おとなしき心底なりと傳吉がとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
川床に突出する森の下蔭は、湿りっ気が、最も多いかして、蘇苔が、奇麗きれいかれている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
奇麗きれいさらつてしまつて、井筒にもたれ、井底せいていふかく二つ三つの涌き口から潺々せん/\と清水の湧く音を聴いた時、最早もう水汲みづくみの難行苦行もあとになつたことを、嬉しくもまた残惜のこりをしくも思つた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
少年せうねん端艇たんてい野球等やきゆうとうほかひまがあるといしげる、のぼる、猛犬稻妻まうけんいなづまひきつれて野山のやまけめぐる、其爲そのため體格たいかく非常ひじやう見事みごと發達はつたつして、以前いぜんには人形にんぎようのやうに奇麗きれいであつたかほ
和田先生は持てん八十てんだが、五十前後の年はいの方にはめづらしい奇麗きれいな、こまかなりをされる。しかも、ややいんするといへるほどのねつ心家で、連夜れんやほとんど出せきかされた事がなかつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
びん頬髯ほおひげも白髪になった重吉が表にむしろをひろげた上で、「文明開化」を歌いながら、不器用に見える太い指を器用に動かして作る飯櫃入れはわらつやが増したように奇麗きれいにでき上ってゆく。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
柴車しばぐるまいて来るおばさんも、苅田かりたをかえして居る娘も、木綿着ながらキチンとした身装みなりをして、手甲てっこうかけて、足袋はいて、髪は奇麗きれいでつけて居る。労働が余所目よそめに美しく見られる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふさげない事になつてにもにもまぬかれぬ弊風へいふうといふのが時世ときよなりけりで今では極点きよくてんたつしたのだかみだけはいはつて奇麗きれいにする年紀としごろの娘がせつせと内職ないしよくの目も合はさぬ時は算筆さんぴつなり裁縫さいほうなり第一は起居たちゐなりに習熟しうじよくすべき時は五十仕上しあげた
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「君は真面目になるんだろう。——僕の前で奇麗きれいに藤尾さんとの関係を絶って見せるがいい。その証拠に小夜子さんを連れて行くのさ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「急にここへ引越しました。家は古くて奇麗きれいでありませんが、心持のよい人達です。×夫人のところへは歩いて十分で行けます」
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶いろのひのきでできあがった、しずかな奇麗きれいな日曜日を、一そう美しくしたのです。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしはもう今宵こよひかぎりうしてもかへこといたしませぬとて、つてもてぬ可憐かわゆさに、奇麗きれいへどもことばはふるへぬ。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お前が来ると知つて居りや、湯も沢山たくさんかして置いたのに」と伯母が炉上の茶釜ちやがまをせゝるを、「なに、伯母さん、雪路だから、足も奇麗きれいですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かねて竜宮界りゅうぐうかいにも奇麗きれいな、華美はでなところとうかがってりますので、わたくしもそのつもりになり、白衣びゃくいうえに、わたくし生前せいぜんばんきな色模様いろもよう衣裳いしょうかさねました。
紅葉先生こうえふせんせい在世ざいせいのころ、名古屋なごや金色夜叉夫人こんじきやしやふじんといふ、わか奇麗きれい夫人ふじんがあつた。まをすまでもなく、最大さいだいなる愛讀者あいどくしやで、みやさん、貫一くわんいちでなければけない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「贅沢って、奇麗きれいですものね」と、彼女は答えた。——「わたしなんでも奇麗なのが好き」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
書齋しよさいまへ小庭こには奇麗きれい掃除さうぢがしてつて、其處そこへはとりれないやうにしてあります。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私はねうも死度しにたいよ、私のようなんなお婆さんを、お前が能く看病をしておくれで、私はお前の様な若い奇麗きれいな人に看病されるのは気の毒だ/\と思うと、なお病気がおもって来る、ね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はなかほひそまむしこゝろ! あんな奇麗きれい洞穴ほらあなにも毒龍どくりうすまふものか? かほ天使てんし
海濱かいひん其處此處そここゝには、毛布ケツトや、帆布ほぬのや、其他そのほか樣々さま/″\武器等ぶきとう應用おうようして出來できた、富士山ふじさん摸形もけいだの、二見ふたみうら夕景色ゆふげしきだの、加藤清正かとうきよまさ虎退治とらたいぢ人形にんぎようだのが、奇麗きれいすなうへにズラリとならんだ。
今頃は奇麗きれいな背に奇麗な膿の流れ居るが如く思ふこそはかなき限りなれ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おさへ少し辛抱しんばうして居らるゝと屹度きつと出世しゆつせも出來まする其御邸と申のは至つて風儀ふうぎよいとの事傍輩衆はうばいしうも大勢有て御奇麗きれいずきの方々ゆゑ毎日朝から化粧つくろひが御奉公安心なる物なりと口から出次第でしだい喋舌立しやべりたてるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
隅田川すみだがわの水はいよいよ濁りいよいよ悪臭をさえ放つようになってしまったので、その後わたくしは一度も河船には乗らないようになったが、思い返すとこの河水も明治大正の頃には奇麗きれいであった。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ほたって、髪うて、去年のように奇麗きれいなべべを着てこうがいの」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
すつかり奇麗きれいりあげるのはなか/\大變たいへん仕事しことでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
霧は奇麗きれいに拭われて、雨にはならなかった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
杉本副院長が再度修善寺へ診察に来た時、畳替たたみがえをして待っていますと妻に云い置かれた言葉をすぐに思い出したほど奇麗きれいである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのイーハトーヴォの岩礁の多い奇麗きれいな海岸へ行って今ごろありもしない卵をさがせというのはこれは慰労いろう休暇のつもりなのだ。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はっきりした日差しにこけの上に木の影がおどって私の手でもチラッと見える鼻柱はなばしらでも我ながらじいっと見つめるほどうす赤い、奇麗きれいな色に輝いて居る。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)