うえ)” の例文
そして、大空おおぞらからもれるはるひかりけていましたが、いつまでもひとところに、いっしょにいられるうえではなかったのです。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
初元結をもって来てくれた時分のこと、あたくしは彼女のことを、いかにも明石あかしうえに似ているといったことを、書いたこともある。
火鉢の向うにつくばって、その法然天窓ほうねんあたまが、火の気の少い灰の上に冷たそうで、鉄瓶てつびんより低いところにしなびたのは、もう七十のうえになろう。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは顔かたちが女のようにやさしくって、そのうえ髪までも女のように長かったものですから、こういう名前をつけられていたのです。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて夕方ゆうがたになりました。松蝉まつぜみきやみました。むらからはしろゆうもやがひっそりとながれだして、うえにひろがっていきました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いぬかわをかぶって、おせんのはだかおも存分ぞんぶんうえうつってるなんざ、素人しろうとにゃ、鯱鉾立しゃちほこだちをしても、かんがえられるげいじゃねえッてのよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
諭吉ゆきちは、そのおとうさんのすえっとして大阪おおさかまれました。いちばんうえにいさんの三之助さんのすけで、そのしたに三にんのねえさんがありました。
そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! ととり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。
お父様をお見送りしますと私は、お床の間に立てかけてあった琴を出して昨日きのう習いました「あおいうえ」のかえの手を弾きはじめました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
窃盗せっとう姦淫かんいん詐欺さぎうえてられているのだ。であるから、病院びょういん依然いぜんとして、まち住民じゅうみん健康けんこうには有害ゆうがいで、かつ不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
現世げんせ夫婦ふうふならあいよくとの二筋ふたすじむすばれるのもむをぬが、一たん肉体にくたいはなれたうえは、すっかりよくからははなれてしまわねばならぬ。
これは源氏がわざと自分の鼻のあたまへべにを塗って、いくらいても取れないふりをして見せるので、当時十一歳のむらさきうえが気をんで
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なかにはえだこしかけて、うえから水草みずくさのぞくのもありました。猟銃りょうじゅうからあおけむりは、くらいうえくもようちのぼりました。
「あれあれ、蔦之助さま、忍剣さま! うえの手うすに乗じて、和田呂宋兵衛わだるそんべえが逃げのぼりましたぞ、はやくお手配てはいなされませ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかすると心にもない自分のうえばなしがはずんで、男にもたれかかるような姿態ようすを見せたが、聴くだけはそれでも熱心に聴いている浜屋が
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東京の桜井書店で発行になった吉井勇よしいいさむ氏の歌集『旅塵』に、佐渡の外海府での歌の中に「寂しやと海のうえより見て過ぎぬ断崖だんがいに咲く萱草かんぞうはな
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
うえかたのおひいさまじゃあるまいし、何処が何う違うんですか? 奥さん、絵師や腰弁が何うして芸人よりもえらいんですか?
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は自分のアジトを誰にも知らせないことにしていたが、うえの人との諒解りょうかいのもとに一人だけに(太田に)知らせてあった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
これが更に永く続くとすれば、列国講を収めて捲土重来けんどちょうらい、周囲の高度の文明の圧迫はいやうえに力を増して来るであろう。
何がこの世で面白いかと云って、盗人にうえ超すものはねえ。これこそ立派な仕事だからな。他人ひとの物を取るんだからな。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まことに我は牝熊めぐまの仔なりき、わがうえには財寶たからをこゝには己をふくろに入るゝに至れるもたゞひたすら熊の仔等のさかえを希へるによりてなり 七〇—七二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それが縁となって、夜の京橋うえに源之丞が謡曲うたいの声を合図として、お綾は裏口から河原に忍び出るとまで運んでいた。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
せがれはよくよくぎたる大鎌を手にして近より来たり、まず左の肩口を目がけてぐようにすれば、鎌の刃先はさきうえ火棚ひだなっかかりてよくれず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小石川こいしかわ白山はくさん神社の坂を下りて登った処は本郷で、その辺を白山うえといいます。今残っている高崎屋の傍から曲って来て、板橋いたばしへ行く道になります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
所謂る和尚さまなるものの上には、いやうえに痛棒を加えておいてよいが、禅堂の組織と精神の上には何とかして行末絶えざる栄光あれと祈るのである。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
山男、西根山にしねやまにて紫紺のり、夕景ゆうけいいたりて、ひそかに御城下ごじょうか盛岡もりおか)へ立ちそうろううえ材木町ざいもくちょう生薬商人きぐすりしょうにん近江屋源八おうみやげんぱち一俵いっぴょう二十五もんにて売りそうろう
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぱッと土を蹴って、片手ささえに、五尺の築地塀ついじべいうえにおどり上がりながら、ふと、足元の門奥に目をおとしたとき!
とうさんはそれだけのことをいにくそうにって、また自分じぶん部屋へやほうもどってった。こんななやましい、うにわれぬ一にち袖子そでことこうえおくった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だから、大したこともなく、すぐにこころようなられて、大奥にお帰りになるに相違あるまい——また、うえつ方でも、浪路さまを、お手ばなしになるはずはなしさ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
權藏ごんざう最早もう彼是かれこれ六十です。けれどもづるまへきてぼつするまではたらくことはいまむかしかはりません。そして大島老人おほしまらうじんかれすくふたときいはうえつて
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
截然として謝絶することが出来たらそのうえすことはなかったのであるが、その時それが出来なかった以上
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うえがたに、すてきもない淫乱の後家さんがあって、死んでから後、墓地を掘り返して見たら、黄色い水がだらだらと棺の内外に流れて始末におえなかったと
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寺方へはそれとなくひまを取り候おもむき申立て候得そうらえどもなほ不審のかど少なからざるにつき、一応住職に聞たゞし候うえ、江戸おもてへ送り申すべき手筈てはずなりとの事に御座候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
即ち側用人そばようにん加藤清兵衛、用人兼松伴大夫はんたゆうは帰国のうえ隠居謹慎、兼松三郎は帰国の上なが蟄居ちっきょを命ぜられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
婆「はい、せもうござえますし、それに殿様が入らっしたって、汚くって坐る処もないが、うえ藤右衞門とうえもんとこ屏風びょうぶが有りますから、それを立廻たてまわしてあげましょう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
光源氏ひかるげんじあおいうえの行動はまさしくその時代の男女の生活と心理の方則を代表するものとも考えられる。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで大國主の命が出雲いずも御大みほ御埼みさきにおいでになつた時に、なみうえ蔓芋つるいものさやをつて船にしての皮をそつくりいで著物きものにしてつて來る神樣があります。
それが、もうずいぶん長く続いてるもんだもの、金庫の中に、百万円のうえはいっている証拠だろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ぎゅうぎゅうおされてわたって来たと思うと、急に、さきが火の手にさえぎられて動きがつかなくなり、やがてまうえへもびゅうびゅう火の子をかぶって息も出来ません。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
まじめくさった様子で、芝居しばいで見た通り、三拍子曲ミニュエットふしにあわせて、テーブルのうえにかかっているベートーヴェンの肖像しょうぞうに向かい、ダンスの足どりや敬礼けいれいをやっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
京の都の大臣の所から盗んできた馬を、顔丸の丸彦にうばいとられてしまいましたし、その馬のことをよく知っているさかうえ朝臣あそんが、堅田かただにやって来られるそうでした。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
波止はとうえは、よろずやのばあやんに見つかるとうるさいから、やぶのとこぐらいにしようや」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
やぐらうえに、リリリリンと、可愛いい呼鈴よびりんの音がした。盲目の老人と、幼い子供の協力によって、警報は発せられた。真東から襲いかかるは、太平洋戦くずれの、爆撃隊であろう。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
只さえ秋毛は抜けるうえに、夏中の病気の名残と又今度の名残で倍も倍も抜けて仕舞う。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ゆうしは浪のうえ御帰おんかえ御館おんやかた首尾しゅび如何いかゞ此方こなたにてはわすれねばこそおもいださずそろかしく
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
なるほど旨味うまい。いくらか元気げんきてきたので、ラランについてうえうえへとんでゐた。するともなくさきにゆくラランがまえのやうにのどらしはじめた。ペンペはでない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
籠彦 かよう土足裾取どそくすそとりましてご挨拶失礼さんでござんすがご免なさんせ、向いましてうえさんとこんど初めてのお目通りでござんす、自分は総州葛飾のこおり柴崎は波一里儀十若い者
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
はたる手はやすめて、はたうえにつっぷしたまま、うとうとうたたをしていました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
行けるところまで行って、危く何かにぶつかりそうにしてとまると、奇橋がある。「土田の刎橋はねばし」である。この小峡谷は常に霧が湧きやすくて、こめるとうえしたも深く姿を隠すという。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
まさか忍び返えしのソギ竹を黒板塀の上に列べたり、煉瓦塀れんがべいうえに硝子の破片を剣の山とえたりはせぬつもりだが、何、程度ていどの問題だ、これで金でも出来たら案外其様そんな事もやるであろうよ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)