つひ)” の例文
主人も行くがいいと勸め、我々兩人ふたりもたつてと言つたのだが、わたしはそれよりも自宅うちで寢て居る方がいいとか言つてつひに行かなかつた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
つひにロチスター氏の所へ來ると、彼女は、爪先トーで、彼の前で身輕くくる/\まはり、それから、彼の足下に片膝をついて、云つた——
結納ゆいのうかはされし日も宮は富山唯継をつまと定めたる心はつゆ起らざりき。されど、己はつひにその家にくべき身たるを忘れざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
零落不平素志を達せずしてつひに道徳上世にれられざる人となることもあるべし。憤懣ふんまん短慮終に自己の名誉をおとすこともあるべし。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
けだし透谷の感情は頗る激烈にして、彼れは之れが為につひに不幸なる運命に陥りし程の漢子をとこなりしと雖も、平時はむしろ温和なる方なりき。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
つひには元禄七年甲戊十月十二日「たびやみゆめ枯埜かれのをかけめぐる」の一句をのこして浪花の花屋が旅囱りよさう客死かくしせり。是挙世きよせいの知る処なり。
それが余り幾夜も続くので、私も、はア、つひには気の毒になつて、重右だツて、人間だア。不具に生れたのは、自分われが悪いのぢやねえ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
芋蟲いもむしあいちやんとはたがひしばらだまつてにらめをしてましたが、つひ芋蟲いもむし其口そのくちから煙管きせるはなして、したッたるいやうなねむさうなこゑ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかし館員はつひに其れを許さなかつた。其れで僕は無駄に時を費した上になにがしかの銅貨をその風来者に与へて礼を述べざるを得なかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
良兼は護の縁につながつて居る者の中の長者であつた。良兼の妻も内から牝鶏めんどりのすゝめを試みた。雄鶏はつひときの声をつくつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ひそめあの御方の儀に付ては一朝一夕いつてういつせきのべがたしまづ斯樣々々かやう/\の御身分の御方なりとてつひに天一坊と赤川大膳だいぜんに引合せすなはち御墨付すみつきと御短刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其後そのご一週間いつしゆうかんむなしく※去すぎさつたならば、櫻木大佐さくらぎたいさつひには覺悟かくごさだめて、稀世きせい海底戰鬪艇かいていせんとうていともに、うみ藻屑もくづえてしまうことであらう。
あるひは一一二がつ椎柴しひしばをおほひて雨露をしのぎ、つひとらはれて此の嶋にはぶられしまで、皆義朝よしともかだましき計策たばかりくるしめられしなり。
しかるにはうとのぞみは、つひえずたちまちにしてすべてかんがへ壓去あつしさつて、此度こんどおも存分ぞんぶん熱切ねつせつに、夢中むちゆう有樣ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
最甚もつともはなはだしい一例は、江戸への使者を、初に森正左衞門に命じ、次いで月瀬右馬允うめのじように改め、又元の森に改め、つひに坪田正右衞門に改めたのである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
したゝめ是より我は足の痛み強ければ一人東京へ歸らんと云ひ梅花道人は太華氏露伴氏の跡を追ふて西京に赴むくといふつひこゝにて別杯を酌みかはし
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
然ニ去ル七月廿七日及八月朔日、小倉合戦つひニ落城と承り候。扨御内談承り候事の如く、御妙策被行候事と奉存候。
つひに戦はずして勝つ能はざるか、仆れずしておきる能はざるか、われは文覚の為に悲しむ、われは彼の発機はつきを観じて、彼の為に且つ泣き且つ喜ぶ
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ミルトンのたからかにぎんじたところ饑渇きかつなか々にしがたくカントの哲学てつがくおもひひそめたとて厳冬げんとう単衣たんいつひしのぎがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
人々がちよつとでも不満な憧れを起すとすぐにその心の中にとり入つてつひには孔雀と同じやうな運命になつてしまふ
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
にや輪王りんのうくらゐたかけれども七寶しつぱうつひに身に添はず、雨露うろを凌がぬのきの下にも圓頓ゑんどんの花は匂ふべく、眞如しんによの月は照らすべし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しかれども韓非かんぴぜいかたきをり、説難ぜいなんしよつくることはなはそなはれるも、つひしんし、みづかのがるることあたはざりき。
マラルメ、ヴェルレエヌの名家これに観る処ありて、清新の機運を促成し、つひに象徴を唱へ、自由詩形を説けり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
八十吉はつひに蘇らなかつたことを下男が来て話して呉れた。八十吉のこの事があつた時父は他村に用足しに行つて、日暮時に入つてやうやく帰つて来た。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
つひに日米間に神奈川条約が締結され、下田及び函館の二港が互市場ごしぢやうとして開かれて、安政三年には米国領事ハリスが、米国旗を掲揚して下田に駐在した。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そしてそれが朽敗きうはいまたは燒失せうしつすれば、またたゞちにこれを再造さいざうした。が、れどもきぬ自然しぜんとみは、つひ國民こくみんをし、木材以外もくざいいぐわい材料ざいれうもちふるの機會きくわいざらしめた。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
然かも此の残稿つひに亦た之を惜み、乃ち以て子聿に付す。紹煕改元立夏日書。(渭南文集、巻二十七)
緩いのも、急なのもあるが、とにかく疲勞を知らぬ一大運動があつて、兩端のつひに合する事の無い組踊の中に萬物を引込むのである。歳が暮れて行く、まだ一日あるぞ。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
おもひてなるべきこひかあらぬかしてつまはじきされなんはづかしさにはふたゝあはかほもあらじいもとおぼせばこそへだてもなくあいたまふなれつひのよるべとさだめんにいかなるひと
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
斯うした不自然な同棲生活のつひに成り立たざること、心の負擔に堪へざること、幻滅の日、破滅の日は決してさう遠くはないぞ、一旦の妄念を棄て別れなければならぬ。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
二に曰く、あつく三宝を敬へ、三宝はほとけのりほふしなり、則ち四生よつのうまれつひよりところ、万国の極宗きはめのむねなり。いづれの世何の人かみのりを貴ばざる。人はなはしきものすくなし、く教ふるをもて従ひぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しかしながら震原距離しんげんきより三十里さんじゆうり以上いじようにもなると、初動しよどうなり緩漫かんまんになつて一秒間いちびようかん一二回いちにかい往復振動おうふくしんどうになり、さら距離きよりとほくなるとつひには地震動ぢしんどう最初さいしよ部分ぶぶんかんじなくなつて
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
つひに道ふみたがへて、石の巻といふみなとに出づ。こがね花咲くと詠みて奉りたる金花山、海上に見わたし、数百の廻船、入江につどひ、人家地をあらそひて、かまどの煙たちつづけたり。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どんな場合にも袴をとつた事のない氏は、その度に袴の裾をからげるのがうるさいからといつて、つひにはその袴にわざほころびを拵へてその儘にしてゐたといふ事を聞いた事があつた。
幼児をさなごだまつて、あたしをつめてくれた。この森蔭もりかげはづれまであたしは一緒いつしよつてやつた。此児このこふるへもしずにあるいてく。つひにそのあかかみが、とほひかりえるまで見送みおくつた。
過去について云ひべき事は現在に就ても言ひべき道理であり、また未来にいても下しべき理窟であるとすると、一生はつひに夢よりも不確実なものになつてしまはなければならない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
本紙は既に屡々注意を与へたるに拘はらず、ペエテルブルク町の商家ルキアノツフ氏の住宅には、庖厨より居室に通ずる階段の既に久しく腐朽せるものあり。右の階段は今つひに陥落したり。
虚共実共つひにしれずして、方々におゐて自害有し人々、一人も及白状、某は不存、かれは存知たると云人もなく、ぬれぎぬを着て旅に赴きぬる事、宿業しゆくごふの程あさましと観念し終にけり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つひには労働者の数を増加し労働供給の過剰を招き、久しからずして賃銀の市場価格は下落し、結局自然価格はおろか、時には反動的現象としてそれ以下に下落することれにあらざるなり——。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
列座れつざ方々かた/″\、いづれもかね御存ごぞんじのごとく、それがし勝手かつて不如意ふによいにて、すで先年せんねん公義こうぎより多分たぶん拜借はいしやくいたしたれど、なか/\それにて取續とりつゞかず、此際このさい家政かせい改革かいかくして勝手かつてとゝのまをさでは、一家いつかつひあやふさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから又二十三日の記に、「此(八)の八を草して黎明れいめいに至る。つひに脱稿せず。たうときものは寒夜かんやの炭。」とあり。なんとなく嬉しきくだりなり。(八)は金色夜叉こんじきやしやの(八)。(八月二十一日)
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのはてにのこるは何と問ふな説くな友よ歌あれつひの十字架
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「田村君つひに倒るか」と、氷峰も亦そのそばへ横たはる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
つひに斃れし旅芸人たびげいにんのかつぽれが臨終りんじゆう道化姿どうけすがたぞ目に浮ぶ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たちま流星りうせいあり、長く光をいて、つひに飛散すれど
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
段々大胆になつて来て、つひには身の上話を始めた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
身のかざり、ふさはじそれも、つひの日の
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あゝつひの夕は来りぬ
秋の一夕 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
草鞋を埋むる霜柱を踏んで、午前十時四十五分、つひ金精こんせい峠の絶頂に出た。眞向ひにまろやかに高々と聳えてゐるのは男體山であつた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
つひには元禄七年甲戊十月十二日「たびやみゆめ枯埜かれのをかけめぐる」の一句をのこして浪花の花屋が旅囱りよさう客死かくしせり。是挙世きよせいの知る処なり。