ぺん)” の例文
太空そらは一ぺんの雲も宿とどめないが黒味渡ッて、二十四日の月はまだ上らず、霊あるがごとき星のきらめきは、仰げば身もしまるほどである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その二三ぺんがどう云う拍子か、坊ばの前まですべって来て、ちょうどいい加減な距離でとまる。坊ばはもとより薩摩芋が大好きである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはわがアメリカ大陸にしか産しないという奇獣きじゅうノクトミカ・レラティビアの燻製でありまして、まあ試みにこの一ぺんを一つ……
ぺん宣言書せんげんしよ==其は頭から尻尾しつぽまで、爆發ばくはつした感情の表彰へうしやうで、激越げきえつきはめ、所謂阿父のよこつらたゝき付けた意味のものであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ただ花の器官に大小広狭こうきょう、ならびに色彩しきさいの違いがあるばかりだ。すなわち最外さいがいの大きな三ぺん萼片がくへんで、次にあるせまき三片が花弁かべんである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
忍剣は、かねてしたためておいた一ぺん文字もんじを、油紙あぶらがみにくるんでこよりとなし、クロの片足へ、いくえにもギリギリむすびつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひるまえいていたかぜがやんで、そらは、一ぺんくももなく、青々あおあおとして、のように、かがやく太陽たいようのやけつくあつさだけでした。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
現世げんせかたかられば一ぺん夢物語ゆめものがたりのようにきこえるでございましょうが、そこが現世げんせ幽界ゆうかいとの相違そういなのだからなんとも致方いたしかたがございませぬ。
そうして、あたくんばの小僧の貧相な顔つきと、哀れな服装と、すぼらしい境遇とに、一ぺんの同情を寄せてくれ給え。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貝塚土器かひづかどき破片はへんが、わづかに二三ぺん見出みいだされたが、かひ分量ぶんりやうから比較ひかくしてると、何億萬分なんおくまんぶんいちといふくらゐしかにあたらぬ)
中に一ぺんの丸木船に杓子しやくしの様な短い櫂を取つて乗つて居る丸裸の黒奴くろんぼ趺坐あぐらをかきながら縦横に舟を乗廻してしきりに手真似でぜにを海中に投げよと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
其處そこ廷丁てい/\は石をくらに入んものとあげて二三歩あるくや手はすべつて石はち、くだけてすうぺんになつてしまつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
鳥やねずみねこ死骸しがいが、道ばたやえんしたにころがっていると、またたく間にうじ繁殖はんしょくして腐肉ふにくの最後の一ぺんまできれいにしゃぶりつくして白骨はっこつ羽毛うもうのみを残す。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は繋獄けいごくの身となるもゆることがない、ついては若干じゃっかんの金を得て老母の養老金にしたいと頼まれ、わが輩一ぺん義侠ぎきょう、これをいなむにしのびず、彼のために出金しゅっきんした
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
工兵隊は引つづき毎日爆薬で、やけあとのたてもののだんぺんなぞを、どんどんこわしていました。九階から上が地震でくずれ落ちた浅草の十二階もばくされてしまいました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
先刻せんこく見送みおくられた吾等われらいま彼等かれらこのふねよりおくいださんと、わたくし右手めて少年せうねんみちびき、流石さすが悄然せうぜんたる春枝夫人はるえふじんたすけて甲板かんぱんると、今宵こよひ陰暦いんれき十三深碧しんぺきそらには一ぺんくももなく
けれど、今の場合では、一滴の飮物のみものでも一ぺんのパンでも咽喉のどをつまらせるやうな氣持がしたので、私は兩方とも押しやつてしまつた。ヘレンは、多分びつくりして、私を見たのだらう。
かゝりけれどもほ一ぺん誠忠せいちうこゝろくもともならずかすみともえず、流石さすがかへりみるその折々をり/\は、慚愧ざんぎあせそびらながれて後悔かうくわいねんむねさしつゝ、魔神ましんにや見入みいれられけん、るまじきこゝろなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それをまもつくのは至極しごく結構けつかうでありますが、如何いかにせん無味乾燥むみかんさうなる一ぺん規則きそくでは銘々めい/\好都合かうつがふわからず、他人たにんから命令めいれいされたことのやうにおもはれて、往々わう/\規則きそく忽諸こつしよにするのふうがある。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
貧窮ひんきう生活せいくわつあひだから數年來すうねんらいやうやたくはへた衣類いるゐ數點すうてんすでの一ぺんをもとゞめないことをつてさうしてこゝろかなしんだ。あせがびつしりとかみ生際はえぎはひたして疲憊ひはいした身體からだをおつぎは少時しばし惘然ぼんやりにはてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
牡丹散って打重なりぬ二三ぺん
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ぺんくもすらなく、かぜも、さむさのためにいたんで、すすりきするようなほそこえをたてていている、あきのことでありました。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからのこりの斷面貝層だんめんかひそう(一丈餘じやうよ)三ぱうくまなく見廻みまはつたが、何處どこに一ぺん土器破片どきはへん其他そのた見出みいださなかつた。
花弁かべんは平開し、およそ十ぺん内外もあるが、しかし花容かよう、花色種々多様しゅじゅたようで、何十種もの園芸的変わり品がある。花心かしんに黄色の多雄蕊たゆうずいと、三ないし五の子房しぼうがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そして、一ぺんぬのをもって、前に軍兵ぐんぴょうがつくっていった、野陣の野風呂のぶろへドブリと首までつかりこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸者と紳士ゼントルマンがいっしょになってるのは、面白いと、青年はまた焼麺麭やきパンの一ぺんを、横合から半円形に食い欠いた。親指についた牛酪バタをそのままはかまひざへなすりつけた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかにくわしくしたためても、一ぺんの手紙におのれの性質をいい現すことは、とうていできることではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
次の朝、スキャチャード先生は、臺紙だいしの一ぺんに目立つた字體で「不精者ぶしやうもの」といふ言葉を書きつけて、お護符まもりかなんぞのやうにヘレンの廣い、やさしい、怜悧れいりな、おとなしいひたひに結びつけた。
『そんな時代じだいもあったかナ……』とおとお現世げんせ出来事できごとなどは、ただ一ぺん幻影げんえいしてしまいます。現世げんせはなし大概たいがいこれでよろしいでしょう。はやくこちらの世界せかい物語ものがたりうつりたいとおもいますが……。
昨夜さくや新嘉坡シンガポールはつ、一ぺん長文ちやうぶん電報でんぽうは、日本につぽん海軍省かいぐんせう到達たうたつしたはづであるが、二さう金曜日きんえうびをもつて、印度大陸インドたいりく尖端せんたんコモリンのみさきめぐ錫崙島セイロンたうをきぎ、殘月ざんげつあはきベンガル灣頭わんとう行會ゆきあエイフツ
ここにある一ぺんはオ……………
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ときどき、かみなりって、あめがふりそうにえながら、よるは、また、一ぺんくもすらなく、れとがるような、でりがつづきました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ、ただ今も失わないのは、皎々こうこうぺんの赤心のみ。先生、この時代に処する計策は何としますか
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも燕尾服えんびふく着用で聴講料を払って入場した紳士しんし淑女しゅくじょ——一もくしても一ぺんの書生たる僕以上の人と見受けられ、加之しかのみならずこの時は僕の独り演説であったから、これらの聴衆を見ると
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
花の外面に多くの白毛が生じており、六ぺん花片かへん(実は萼片がくへんであって花弁はなく、萼片が花弁状をなしている)の内面は色が暗紫赤色あんしせきしょくていしている。花内かない多雄蕊たゆうずい多雌蕊たしずいとがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
こんな空想くうそうが、ふとあたまなかに、一ぺんくものごとくかぶと、きゅうにいたたまらないようにさびしくなりました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
呂宋兵衛がおうぎをもって打ちおとせば、ちょう死骸しがいはまえからそこにあった一ぺんの白紙に返っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんとうに、よくそられわたっていて、一ぺんくもすらなく、あめりそうなけはいはなかったのです。それをどうかして、あめらせようと、かえるらはおもったのであります。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、きたかえたびも、無事ぶじではありませんでした。一ぺんにもひとしい、たよりないふねは、ある、またかぜのためにながされて、らぬ他国たこくきしけられたのでした。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)