あは)” の例文
其角は此時和泉のあはといふ所にありしが、翁大坂にときゝて病ともしらずして十日に来り十二日の臨終りんじゆうあへり、奇遇きぐうといふべし。
戸を明くれば、十六日の月桜のこずゑにあり。空色くうしよくあはくしてみどりかすみ、白雲はくうん団々だん/″\、月にちかきは銀の如く光り、遠きは綿の如くやわらかなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
黄色きいろひかりこゝろよくあざやかに滿ちて晩秋ばんしうみづのやうなあはしもひそかにおりる以前いぜんからこと/″\くくる/\と周圍しうゐまくはじめて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
片戀と言ふのも、失戀と言ふのも、また其れまでに達しない程度の異性に對するあはい愛情も一切不貞不純の事實になります。
日光は直射するが、海より吹く軟風なんぷうのために暑気を感ぜず、好晴のもとに浮ぶあは青靄せいあいの気が眸中ぼうちう山野さんやを春の如く駘蕩たいたうたらしめるのであつた。
かごける、と飜然ひらりた、が、これ純白じゆんぱくゆきごときが、うれしさに、さつ揚羽あげはの、羽裏はうらいろあはに、くち珊瑚さんご薄紅うすくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして自分のはかない身の上を書いて、紫の女に送ったけれども、やはりあはいやさしいそして物たらない事しか、お葉には書いてよこさなかった。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
『はてさて、めうだぞ、あれはぱり滊船きせんだわい、してると今月こんげつ航海表かうかいへう錯誤まちがいがあつたのかしらん。』とひつゝ、あほいで星影ほしかげあは大空おほぞらながめたが
くびすぢには月光のやうな蒼白あをじろい光の反映があり、同じかすかな輝きは、あはい雲の列を染め、宵の明星みやうじやうの夢幻的な姿はそこから現はれて身をかゞめてゐた。
何といふことは無く考へるのが面白い。此の考は、始めふはりと輕く頭に來た。恰で空明透徹くうめいとうてつな大氣の中へあは水蒸氣すいじようきが流れ出したやうな有様ありさまであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かういふふうおな緑色みどりいろなかにちがひがあるのは、なぜかといふと、これは、おも細胞内さいぼうないふくまれてゐる、緑色素りよくしよくそといふもののあはさによるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
おそろしきはくまでおそろしく、ちりほどのことにしみぬべし、男女なんによなかもかヽるものにや、甚之助じんのすけ吾助ごすけしたふはれともことなりてあはものなれど、わがこのひと一言いちごんおも
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
凝つた朱塗りの行灯のかげあはく、勤めはなれて、目を閉ぢ、口吸はせてゐる艶麗の遊女八つ橋。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
岡つ引と水茶屋の娘ですが、どちらも水際立つた美男美女で、二人の胸には、何時の間にやらあはい戀心が芽ぐんできたのでせう。兎に角話の運びの早いことは大變です。
あゝ横笛、吾れ人共に誠の道に入りし上は、影よりもあはき昔の事は問ひもせじ語りもせじ、閼伽あか水汲みづくみ絶えて流れに宿す影留らず、觀經の音みて梢にとまる響なし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
形容けいようすればみづやうあさあはいものであつた。かれ今日こんにちまで路傍ろばう道上だうじやうおいて、なにかのをりれて、らないひと相手あひてに、是程これほど挨拶あいさつをどのくらゐかへしてたかわからなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしあぢはつて見ると、此のお醋は少しくあはい。水つぽい味がすると申しました。それを聞いたお釈迦様は、醋を酸つぱいといふのは道理だ。酸つぱいが少し淡いと云ふのも最もだ。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
この御世に田部たべを定め、またあづまあは水門みなと一〇を定め、またかしはで大伴部おほともべを定め、またやまと屯家みやけ一一を定めたまひ、また坂手さかての池一二を作りて、すなはちその堤に竹を植ゑしめたまひき。
夕陽せきやうほ濃き影を遠き沖中おきなかの雲にとどめ、滊車きしやは既にあは燈火ともしびを背負うて急ぐ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
月すでにのぼりてあはき黄のしめり茅蜩かなかなのこゑぞ森にとほれる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ゆく春をひとりしづけき思かな花の木間このまあはき富士見ゆ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
地上に落ちた物影でさへ、はや余りにあはい!
ちりまどのうはじらみ、ざしのあは
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
野は褐色とあはい紫
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
あはき光に誘はれて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
あは見覚みおぼ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其角は此時和泉のあはといふ所にありしが、翁大坂にときゝて病ともしらずして十日に来り十二日の臨終りんじゆうあへり、奇遇きぐうといふべし。
しゆ木瓜ぼけはちら/\とをともし、つゝむだ石楠花しやくなげは、入日いりひあはいろめつゝ、しかまさなのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのきぬざはりのかすかな響とを、傍に聞くことが出來たから、不安は、羞恥とあはい恐れとになつて、彼女は、上氣じやうきしたやうに、頬を赤くそめてうつむいた。
幸福への道 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
周圍しうゐすべてがさかづきげてくれる當人同士たうにんどうし念頭ねんとううかべるとき彼等かれらあは嫉妬しつとかさねばらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四十男の作松は、長い/\奉公の間に、生ひ立ちからの二人の姉妹を見て、きりやうはみにくくとも、心掛の美しいお百合に、あはいあこがれを持つやうになつてゐたのでせう。
金州附近の土は珍しく全体にあはい朱の色をしてゐる。或は可なり濃いい朱の色の地もある。
行衞も知らず飛び散りたる跡には、秋の朝風音寂おとさびしく、殘んの月影ゆめの如くあはし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おな新緑しんりよくのうちにもみどりや、あはみどりのもの、黄緑きみどりのものなどがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
晝間の明るみがまだいくらか殘つてゐて、それに月もあはい輝きを増して來た。それで私ははつきりと彼を見ることが出來た。彼の身體は、毛皮襟の鋼鐵はがね留金びじやうのついた乘馬外套にくるまつてゐた。
昨夜さくや新嘉坡シンガポールはつ、一ぺん長文ちやうぶん電報でんぽうは、日本につぽん海軍省かいぐんせう到達たうたつしたはづであるが、二さう金曜日きんえうびをもつて、印度大陸インドたいりく尖端せんたんコモリンのみさきめぐ錫崙島セイロンたうをきぎ、殘月ざんげつあはきベンガル灣頭わんとう行會ゆきあエイフツ
月すでにのぼりてあはき黄のしめり茅蜩かなかなのこゑぞ森にとほれる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手を組みてひ知らぬあはうれひに立たしめぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここかしこ、『追懷おもひで』のはなあはじろく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ねぎの根のやうにほのかにあは
もすそ濡縁ぬれえんに、瑠璃るりそらか、二三輪にさんりん朝顏あさがほちひさあはく、いろしろひとわきあけのぞきて、おび新涼しんりやうあゐゑがく。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨けむる合歓の条花すぢばなゆふあはきこの見おろしも今は暮れなむ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
塵居ちりゐの窓のうはじらみ日ざしのあは
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
あはい夕陽を 浴びながら
たけよりたかい一めん雑草ざつさうなかに、三本みもと五本いつもとまた七本なゝもとあはむらさきつゆながるゝばかり、かつところに、くきたか見事みごと桔梗ききやうが、——まことに、桔梗色ききやういろいたのであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
茅蜩ひぐらしのこの日啼きそめ山方やまかたやまだゆふあは合歓ねむのふさ花
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小野をの調しらべはあはかろ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
水よりあはき空気にて
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
よるは、はやあきほたるなるべし、かぜ稻葉いなばのそよぐなかを、かげあはくはら/\とこぼるゝさまあはれなり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あはつけきわが初戀のかなしみにふる雪は薄荷はつかの如く
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)