あせ)” の例文
此方こちら焚火たきびどころでい。あせらしてすゝむのに、いや、土龍むぐろのやうだの、井戸掘ゐどほり手間てまだの、種々いろ/\批評ひひやうあたまからかぶせられる。
女等をんならみな少時しばし休憩時間きうけいじかんにもあせぬぐふにはかさをとつて地上ちじやうく。ひとつにはひもよごれるのをいとうて屹度きつとさかさにしてうらせるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
打見たよりも山は高く、思うたよりも路は急に、靴の足は滑りがちで、約十五分を費やして上り果てた時は、ひたいせなあせばんで居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あには、なにごとがあって、めたのだろうとおもって、ひたいぎわにながれるあせをふいて、おじいさんのほういてまりました。
村の兄弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一郎が顔をまっかにして、あせをぽとぽとおとしながら、その坂をのぼりますと、にわかにぱっと明るくなって、眼がちくっとしました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
といつて、なみだだかあせだか、帽子ばうしつてかほをふいた。あたまさらがはげてゐる。……おもはずわたしかほると、同伴つれ苦笑にがわらひをしたのである。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何にしても、はようこの刀の綱を解いてしまわねば——玄蕃は、何時の間にか、額部ひたいに大きなあせつぶにじませて、必死になっていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とおばあさんはって、あせをふきました。するとそのときまで、おとなしくぶらがっていたたぬきが、上からこえをかけました。
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その日にやけた年とったかおには、いつにない若々わかわかしい元気がうかんでいました。かれひたいあせをにじましながら、つよい調子ちょうしでいいました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
馬方うまかたひますと、うま片足かたあしづゝたらひなかれます。うま行水ぎやうずゐわらでもつて、びつしよりあせになつた身體からだながしてやるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「なんてけち なかぜだらう。くならくらしくふけばいいんだ。あついのに。みてくんな、あせを。どうだいまるでながれるやうだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
左様さよう左様さようさそれはそうだ。』と、イワン、デミトリチはひたいあせく、『それはそうだ、しかしわたしはどうしたらよかろう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こうして、あやしげなものたちが、いろいろなことをしゃべりだしたので、とうとう、皇帝のひたいからあせが流れだしました。
一日ぼくしたがへて往來わうらいあるいて居るとたちまむかふから二人の男、ひたひからあせみづの如くながし、空中くうちゆうあがあがりしてはしりながら
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
みなさんはじり/\ときつけるような海岸かいがん砂濱すなはまたり、あせながしながら登山とざんをされるときのことをかんがへてごらんなさい。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
はた白眼にらみし其形容ありさまに居並び居たる面々めん/\何れも身の毛も彌立よだつばかりに思ひかゝる惡人なれば如何成事をや言出すらんと皆々みな/\手にあせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
冷水れいすいをたたえた手桶ておけ小柄杓こびしゃく、それに、あせどめの白布はくふをそえてはこんできた若い武士ぶしがある。一同にその使用をすすめたのち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に貴子たかこさんが客間を検分けんぶんする。お母さんは髪をなぜつけたり着物を着かえたり大騒おおさわぎだ。いくらふいてもあせが流れた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
旗と、人と、体臭たいしゅうと、あせに、もまれ揉れているうち、ふと、ぼくは狂的な笑いの発作ほっさを、我慢がまんしている自分に気づきました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ごちそうはさつまじるだった。あたたかい日ざしの中でそれをすすっていると、あせをかきそうだった。食後の蜜柑みかんが、舌にひやりとしてあまかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あたまてつの様におもかつた。代助は強いても仕舞しまひ迄読み通さなければならないと考へた。総身さうしんが名状しがたい圧迫を受けて、わきしたからあせが流れた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おくでは殿様とのさま手襷掛たすきがけで、あせをダク/\ながしながら餡拵あんごしらへかなにかしてらつしやり、奥様おくさまは鼻の先を、真白まつしろにしながら白玉しらたまを丸めてるなどといふ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
十月だというのに、男先生は、たらたらあせを流していた。外へきこえるのをはばかって、教室の窓はいつもしめてあったから、汗はよけい流れた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
おじさんはあせをかいて、へとへとになり、それでもあきらめずに、なんとかして鉄棒の化けものをたたき落として正体しょうたい見破みやぶろうと、追いつづけ
わかいおかあさんはこの大事な重荷のために息を切って、森の中は暑いものだから、あせの玉が顔から流れ下りました。
郁太郎の泣き声にも驚かされたが、自分の身体からだの手の触るるところが、水でけたようなあせであるのにも驚きました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「近頃はトンと泣かねえが、子供の時お袋に叱られて泣いて居ると、口へ涙が流れ込んだことがありますよ。あせみたいな鹽つ辛い味だと思つたが——」
糟谷かすやはがらにないおじょうずをいったり、自分ながらひやあせのでるような、軽薄けいはくなものいいをしたりして、なにぶんたのむを数十ぺんくりかえしてした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こゝにるよお千代ちよ阿母おつかさんだよいゝかへわかつたかへおとつさんもお呼申よびまをしたよサアしつかりしてくすり一口ひとくちおあがりヱむねがくるしいアヽさうだらうこのマアあせ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女史の方からみれば、僕がこんなに困っているのが面白くてならないのだろうがこっちは全身あせだくである。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その行方ゆくえを目で追うた時、覚えず紀昌は石上にした。あしはワナワナとふるえ、あせは流れてかかとにまで至った。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
からだはあせびっしょり、目の光はどんよりとして、したはハアハアあえいでいる口からだらりとたれ、おまけに口からはあわを吹いているというありさまでした。
武夫君のからだじゅうに、つめたいあせが、にじみだしました。顔はもう、まっ青です。でも、目をそらすことができません。じっと豹の顔をにらみつけていました。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
せっせとあせを流して働いても、やっと、まずいパンを少しぽっちしか、買うことができないんだ。
かれはパンクした自転車を日おおいの下に立てておいて、あせをふきながら店にはいってきた。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
またのぼりゆき/\て桟齴かけはしのやうなる道にあたり、岩にとりつき竹の根を力草ちからくさとし、一歩に一声をはつしつゝ気を張りあせをながし、千しんしのぼりつくして馬のといふ所にいたる。
だん菅忠雄すがたゞをなどといふところ、そして、そんなふうならべてみると、素晴すばらしい名人試合めいじんしあひばかりやつてゐるやうだが、ときあせにぎるやうな亂牌振らんパイぶりられゝば、颯爽さつさうたる一人拂ひとりばら
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
少し間のびた顏をしてゐる者があツたら、突倒つきたふす、踏踣ふみのめす、噛付かみつく、かツぱらふ、うなる、わめく、慘たんたる惡戰あくせんだ。だからあせあかとが到處いたるところ充滿いつぱいになツてゐて、東京には塵埃ごみが多い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
よろいを着ると三十銭あがりだった。種吉の留守にはお辰が天婦羅を揚げた。お辰は存分に材料を節約しまつしたから、祭の日通り掛りに見て、種吉は肩身かたみせまい想いをし、鎧の下をあせが走った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
すこぶる上気のぼせ性のくせにまたすこぶる冷え性で盛夏せいかといえどもかつて肌にあせを知らず足は氷のようにつめたく四季を通じて厚い袘綿ふきわた這入はいった羽二重はぶたえもしくは縮緬ちりめん小袖こそでを寝間着に用いすそ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たまのようなあせひたいにためながら、いずれもいい気持きもちでしゃべりつづける面白おもしろさ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おなじおもひの人の車に乗りて命をもしぼらんあせの苦しきを見るにしのびねばと
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
或る日、彼女は、昔は其処そこに水車場があったと私の教えた場所のほとりで、しばしば、背中から花籠はなかごを下ろして、松葉杖まつばづえもたれたままあせいている、ちんばの花売りを見かけることを私に話した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
将士しょうしは、ひたいから流れてかぶとのしのびのにつららになったあせをヒキもぎり、がりがりかんでかわきをとめながら戦った。食うものがすくないので、しかたなく馬をほふってたべねばならなくなった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
「これはひどいあせのためですから、すぐおなおりになりましょう。」
わが艦長松島海軍大佐かんちやうまつしまかいぐんたいさは、ながるゝあせ押拭おしぬぐひつゝ、滿顏まんがん微笑びせうたゝえて一顧いつこすると、たちまおこる「きみ」の軍樂ぐんがくたえいさましきそのひゞきは、印度洋インドやうなみをどらんばかり、わが軍艦ぐんかん」の士官しくわん水兵すいへい
ありのような人だかりの中に、父の声が非常にあせばんで聞えた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やまかがし草に入りゆくに足とどむひたひあせきつつ吾は
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あせをふきながら有馬猫ありまねこはなしなどしてわかれた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
新しいホワイトシヤツの下から青いあせがにじむ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)