引取ひきと)” の例文
「浄閑寺の投込みは、くるわの女郎衆で、引取ひきとにんのない者だけを埋葬する所。地廻じまわりの無縁仏むえんぼとけまで、ひきうけてくれるでしょうか」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お見舞みまい方々かたがたも、つぎにお引取ひきとりなすってはどうじゃの、御病人ごびょうにんは、出来できるだけ安静あんせいに、やすませてあげるとよいとおもうでの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これはとばかりに、若者は真蒼まっさおになって主家しゅか駈込かけこんで来たが、この時すでに娘は、哀れにも息を引取ひきとっていたとの事である。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
稽古けいこ引取ひきとつてからでも充分じうぶんさせられるから其心配そのしんぱいらぬこと兎角とかくくれさへすれば大事だいじにしてかうからとそれそれのつくやう催促さいそくして
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
町奉行の手へ引取ひきとられ翌々日よく/\じつ享保四年極月ごくげつ十六日初めて文右衞門の一件白洲しらすに於て取調とりしらべとなり越前守殿出座有て文右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくし決心けっしんあくまでかたいのをて、両親りょうしん無下むげ帰家きかをすすめることもできず、そのままむなしく引取ひきとってしまわれました。
れいかつたのを今回こんくわい見出みだしたのだ。俵形ひやうけい土器どきから植物しよくぶつさがしたのは、じつである。あやう人夫にんぷてやうとしたのを、引取ひきとつて調しらべたからである。
とうとうしまひには、引取ひきとり手のない死人を、この門へ持つて來て、棄てゝ行くと云ふ習慣しふくわんさへ出來た。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
再び軽い拍子木ひやうしぎおと合図あひづに、黒衣くろごの男が右手のすみに立てた書割かきわりの一部を引取ひきとるとかみしもを着た浄瑠璃語じやうるりかたり三人、三味線弾しやみせんひき二人ふたりが、窮屈きうくつさうにせまい台の上にならんで
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
仮令たとい親に勘当されても引取ひきとって女房にするから決して心配するなと萩原様がいうと、女がわたくしは親に殺されてもおまえさんの側は放れませんと、互いに話しをしていると
もしあるとすればそれは極楽という空想であろう。また目の前に現れて来る光というものであろう。私の父が呼吸いき引取ひきとる前にランプの光を見つめたことを覚えておる。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
下女のお竹は奉公人といっても遠縁の娘で、両親とも死に絶えて佐久間家に引取ひきとられ、奉公人同様にコキ使われていたのですから、その気兼苦労はと通りではありません。
そののち、折を見て、父が在世ざいせの頃も、その話が出たし、織次ものちに東京から音信たよりをして、引取ひきとろう、引取ろうと懸合かけあうけれども、ちるの、びるのでまとまらず、追っかけて追詰せりつめれば
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いへ引取ひきとつた小六ころくさへはらそこではあに敬意けいいはらつてゐなかつた。二人ふたり東京とうきやうたてには、單純たんじゆん小供こどもあたまから、正直しやうぢき御米およねにくんでゐた。御米およねにも宗助そうすけにもそれがわかつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
黙っていられず、自分も早速さっそくくやみに行った、そして段々だんだん聴いてみると、急病といっても二三日ぜんからわるかったそうだが、とうとう今朝けさ暁方あけがたに、息を引取ひきとったとの事、自分がその姿を見たのも
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
妻女は愈々いよいよ哀れに思い死骸を引取ひきとり、厚く埋葬をてやったが、丁度ちょうど三七日の逮夜たいやに何かこしらえて、近所へ配ろうとその用意をしているところへ、東洋鮨とうようずしから鮨の折詰おりづめを沢山持来もちきたりしに不審晴れず
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
引取ひきともと主人しゆじん五兵衞方へあらためて養子にぞつかはしける然ば昨日迄きのふまでに遠き八丈の島守しまもりとなりし身が今日は此大家たいかの養子となりし事實に忠義の餘慶よけい天よりさいはひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふくろ田舍いなか嫁入よめいつたあねところ引取ひきとつてもらひまするし、女房にようぼをつけて實家さともどしたまゝ音信不通いんしんふつうをんなではありしいともなんともおもひはしませぬけれど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それが何時いつの間にやら、恋心に変ったのですが、父親の三也は、そんな事に一向お構いなく、これも五六年前から小田切家に引取ひきとって居る、遠縁の若侍半沢良平はんざわりょうへいと厄年を嫌って
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
愛想あいそかさず、こいつを病人びやうにんあつかひに、やしき引取ひきとつて、やはらかい布團ふとんかして、さむくはないの、とそでをたゝいて、清心丹せいしんたんすゞしろゆびでパチリ……にいたつては、ぶんぎたお厚情こゝろざし
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
答『しばらくは母親ははおや手元てもとかれるが、やがて修業場しゅぎょうばほう引取ひきとるのじゃ。』
新「引取ひきとりますとも、貴方あなたが勘当されゝば私は仕合しあわせですが、一人娘ですから御勘当なさる気遣きづかいはありません、かえってあと生木なまきかれるような事がなければいと思って私は苦労でなりませんよ」
はゝ安兵衛やすべゑ同胞けうだいなれば此處こゝ引取ひきとられて、これも二ねんのちはやりかぜにはかにおもりてせたれば、のち安兵衞やすべゑ夫婦ふうふおやとして、十八の今日けふまでおんはいふにおよばず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れい梶棒かぢぼうよこせてならんだなかから、むくじやらの親仁おやぢが、しよたれた半纏はんてんないで、威勢ゐせいよくひよいとて、手繰たぐるやうにバスケツトを引取ひきとつてくれたはいが、つゞいて乘掛のりかけると
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
結局は、刀で脅かされて、折から御難続きの源太夫に、手切れともなく五十両の金をやり、一切の縁と関係を断つことにして、安城郷太郎のめかけとして引取ひきとられたのでした。お鳥はその時十九
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
丈「跡方あとかたは清次どのお頼み申す早く此の場をお引取ひきとりなされ」
勿體もつたいないことであつたれどらぬことなればゆるしてくだされ、まあ何時いつから此樣こんことして、よくそのよはさわりもしませぬか、伯母おばさんが田舍いなか引取ひきとられておいでなされて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『お城趾しろあとはうつてはんねえだ。』とつてをとこ引取ひきとめました……わたくし家内かない姿すがたたかやま見失みうしなつたが、うも、むかふがそらあがつたのではなく、自分じぶん谷底たにそこちてたらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
惣領の正太郎は私が方へ引取ひきとるから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
んないたこゝろでは何時いつ引取ひきとつてれるだらう、かんがへるとつく/″\奉公ほうこうやになつておきやくぶに張合はりあいもない、あゝくさ/\するとてつねひとをもだまくちひとらきをうらみの言葉ことば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
以上いじやう……滋養じやう灌腸くわんちやうなぞは、絶対ぜつたいきらひますから、湯水ゆみづとほらないくらゐですのに、意識いしき明瞭めいれうで、今朝こんてう午前ごぜんいき引取ひきとりました一寸前ちよつとぜんにも、種々しゆ/″\細々こま/″\と、わたしひざかほをのせてはなしをしまして。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まして他人たにんれにかかこつべき、つきの十日にはゝさまが御墓おんはかまゐりを谷中やなかてらたのしみて、しきみ線香せんかう夫〻それ/\そなものもまだおはらぬに、はゝさまはゝさまわたし引取ひきとつてくだされと石塔せきたういだきつきて遠慮ゑんりよなき熱涙ねつるい
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
來合きあはせて立停たちどまつた、いろしろ少年せうねん驛夫えきふ引取ひきとる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)