すそ)” の例文
また繰返しながら、蓑の下の提灯は、ほらの口へ吸わるる如く、奥在所の口を見るうちに深く入って、肩からすそへすぼまって、消えた。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
スペインブールホスの大寺にあるメンシア・デ・メンドザ女の葬所なる臥像はそのすそちんを巻き付かせある。
雲雀ひばりより上にやすらふ峠かなと芭蕉が詠みしは此の鳥居峠なり雨は合羽かつぱすそよりまくり上げに降る此曲降きよくぶり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
其事そのこと彼事かのこと寂然じゃくねんと柱にもたれながら思ううち、まぶた自然とふさぐ時あり/\とお辰の姿、やれまてと手をのばしてすそとらえんとするを、果敢はかなや、幻の空に消えてのこるはうらみばか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おなをはいちど出てゆき、派手な柄の帷子かたびらを持って来て、すそのほうへ掛けた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新郎はなむこ羽織袴はおりはかま新婦はなよめすその長い着物で、並んでれていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひらひらとくれなゐすそえる、女だ、若いぞ。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
梅水は、以前築地一流の本懐石、江戸前の料理人が庖丁をびさせない腕をみがいて、吸ものの運びにも女中のすそさばきをにらんだ割烹かっぽう
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
フ相談つかぬは知れた事、百両出すなら呉れてもやろうがとお辰をとら立上たちあがすそを抑え、吉兵衛の云う事をまあ下に居てよく聞け、人の身を売買うりかいするというは今日こんにちの理に外れた事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すそひぢかゝつて、はしつてゆかく、仰向あふむけのしろ咽喉のどを、小刀ナイフでざつくりと、さあ、りましたか、いたんですか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すっとまたぐ、色が、紫に奪われて、杜若にすそが消えたが、花から抜けるさばいたもすそが、橋の向うでおさまると、直ぐに此方こなたへ向替えて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所々の水溜みずたまりでは、夫人おくさんの足がちらちら映る。真中まんなか泥濘ぬかるみひどいので、すその濡れるのは我慢しても、路傍みちばたの草をかねばならない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つく/″\とれば無残むざんや、かたちのないこゑ言交いひかはしたごとく、かしらたゝみうへはなれ、すそうつばりにもまらずにうへからさかさまつるしてる……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もっとも、うとうととするうちに、もそりもそりすそで動いたものがある。鼠、いや、猫より大きい。しかも赤ッちゃけたものが、何か動く。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けむりつて、づん/\とあがるさか一筋ひとすぢ、やがて、けむりすそ下伏したぶせに、ぱつとひろがつたやうな野末のずゑところかゝつてました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とお千さんは、伊達巻一つのえん蹴出けだしで、お召の重衣かさねすそをぞろりと引いて、黒天鵝絨くろびろうど座蒲団ざぶとんを持って、火鉢の前をげながらそう言った。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の出づる月の光に、真紫に輝きまするを夢のように抱きました時、あれの父親は白砂に領伏ひれふし、波のすそを吸いました。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
榎をくぐった彼方かなたの崖は、すぐに、大傾斜の窪地になって、山のすそまで、寺の裏庭を取りまわして一谷ひとたに一面の卵塔である。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むッくり下から掻い上げ、押出すようにするりと半身、夜具の紅裏もみうら牡丹花ぼたんかの、咲乱れたる花片はなびらに、すそを包んだ美女たおやめあり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すそが落ちて、畳にさっさばけると、薄色の壁に美しく濡蔦ぬれづたからんで絵模様、水の垂りそうな濡毛ぬれげを、くっきりとひじくぎって、透通るようにくしを入れる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こみちかぶさった樹々の葉に、さらさらと渡って、すそから、袂から冷々ひやひやはだに染み入る夜の風は、以心伝心二人の囁を伝えて、お雪は思わず戦悚ぞっとした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前へ立ったのは、みのを着て、竹の子笠をかぶっていました。……端折った片褄かたづま友染ゆうぜんが、わらすそに優しくこぼれる、稲束いなたばの根に嫁菜が咲いたといった形。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白ッぽい糸織の羽織のすそを払って、金の平打ひらうち指環ゆびわめた手を長火鉢の縁から放し、座蒲団を外してふわりと立つと、むッくりと起きた飼犬が一頭。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向って、外套の黒いすそと、青いつまで腰を掛けた、むら尾花おばなつらなって輝く穂は、キラキラと白銀はくぎんの波である。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを聞いて、かがんで、板へ敷く半纏はんてんすそ掻取かいとり、膝に挟んだ下交したがいつま内端うちわに、障子腰から肩を乗出すようにして、つい目のさきの、下水の溜りに目を着けた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと、片側の一軒立いっけんだち、平屋の白い格子の裡に、薄彩色のすそをぼかした、艶なのが、絵のように覗いて立つ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
咽喉のどは裂け、舌は凍って、しおを浴びたすそから冷え通って、正体がなくなる処を、貝殻で引掻ひっかかれて、やっと船で正気が付くのは、あかりもない、何の船やら、あの、まあ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄萌葱うすもえぎの窓掛を、くだん長椅子ソオフアと雨戸のあい引掛ひっかけて、幕が明いたように、絞ったすそなびいている。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこも寝入って、しんとして、この二三日めっきり暑さが増したので、中にはを明けたまま、看護婦が廊下へ雪のようなすそを出して、戸口によこたわって眠ったのもあった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
糸七は、そうした橋を渡った処に、うっかり恍惚うっとりたたずんだが、すそに近く流の音が沈んで聞こえる、その沈んだのが下から足を浮かすようで、余り静かなのが心細くなった。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯今ただいまもお尋ねの肝腎のそのあやしい婦人が、姿容すがたかたち、これがそれ御殿女中と申す一件——振袖ふりそで詰袖つめそでか、すそ模様でも着てござったか、年紀としごろは、顔立は、髪は、島田とやらか
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方が小山のすそ、左が小流こながれを間にして、田畑になる、橋向うへ廻ると、山の裙は山の裙、田畑は田畑それなりの道続きが、大畝おおうねりして向うに小さな土橋の見えるあたりから
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寂しい、美しい女が、花の雲から下りたように、すっとかげって、おなじ堀を垂々だらだらりに、町へ続く長い坂を、胸をやわらかに袖を合せ、肩をほっそりとすそを浮かせて、宙にただようばかり。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝る時には、厚衾あつぶすまに、このくまの皮が上へかぶさって、そでを包み、おおい、すそを包んだのも面白い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめ、目に着いたのは——ちと申兼ねるが、——とにかく、緋縮緬ひぢりめんであった。その燃立つようなのに、朱で処々ところどころぼかしの入った長襦袢ながじゅばんで。女はすそ端折はしょっていたのではない。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ片手かたてかくしたけれども、あしのあたりをふるはすと、あゝ、とつて兩方りやうはうくうつかむとすそげて、弓形ゆみなりらして、掻卷かいまきて、ころがるやうにふすまけた。……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女中が、何よりか、と火を入れて炬燵に導いてから、出先へ迎いに出たあとで、冷いとだけ思った袖もすそ衣類きものが濡れたから不気味で脱いだ、そして蒲団の下へ掛けたと云う。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体からだがどうにかなってるようで、すっと立ち切れないでつくばった、すそが足にくるまって、帯が少しゆるんで、胸があいて、うつむいたまま天窓あたまがすわった。ものがぼんやり見える。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄ゴオトでましたはいいが、すそをからげて、長襦袢ながじゅばん紅入べにいりを、何と、ひきさばいたように、赤うでの大蟹が、籠の目を睨んで、爪を突張つっぱる……襟もとからは、湯上りの乳ほどに
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見物席の少年が二三人、足袋を空に、さかさになると、膝までのすそひるがえして仰向あおむけにされた少女がある。マッシュルームの類であろう。大人は、立構えをし、遁身にげみになって、声を詰めた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すそへ流れる水、あの小川も、梅水に居て、座敷の奥で、水調子を聞く音がします。……牡丹はもう、枝ばかり、それも枯れていたんですが、降る雪がすっきりと、白いつぼみに積りました。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜目にも燃ゆる襦袢じゅばんの袖、すそにもちらめく紅梅に、ちらりと白足袋が脱いであり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兇器きょうきが手を離るゝのをて、局はかれ煙草入たばこいれを探すすきに、そと身を起して、飜然ひらりと一段、天井の雲にまぎるゝ如く、廊下にはかますそさばけたと思ふと、武士さむらいしやりつくやうに追縋おいすがつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しんとした夜で、あたかも宙に拡げたような、蚊帳のそのすそが、そよりとそよぐともしないのに、この座の人の動くに連れて、屋の棟とともに、すっと浮いて上ったり、ずうと行燈と一所に
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静寂、深山に似たる時、這う子が火のつくように、山伏のすそを取って泣出した。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地柄じがら縞柄しまがらは分らぬが、いずれも手織らしい単放ひとえすそみじかに、草履穿ばきで、日に背いたのはゆるやかに腰に手を組み、日に向ったのは額に手笠で、対向さしむかって二人——年紀としも同じ程な六十左右むそじそこら婆々ばば
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……その前日ぜんじつ、おなじやま温泉おんせん背戸せどに、物干棹ものほしざをけた浴衣ゆかたの、日盛ひざかりにひつそりとしてれたのが、しみせみこゑばかり、微風かぜもないのに、すそひるがへして、上下うへしたにスツ/\とあふつたのを
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
菅笠すげがさ目深まぶかかぶって、しぶきに濡れまいと思って向風むかいかぜ俯向うつむいてるから顔も見えない、着ている蓑のすそ引摺ひきずって長いから、脚も見えないで歩行あるいてく、脊の高さは五尺ばかりあろうかな、猪
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その位置の真上より振袖落ち、くれないすそ翻り、道成寺の白拍子の姿、一たび宙に流れ、きりきりと舞いつつ真倒まっさかさに落つ。もとより、仕掛けもの造りものの人形なるべし。神職、村人ら、立騒ぐ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床几しやうぎいこ打眺うちながむれば、きやく幾組いくくみ高帽たかばう天窓あたま羽織はおりかたむらさきそでくれなゐすそすゝきえ、はぎかくれ、刈萱かるかやからみ、くずまとひ、芙蓉ふようにそよぎ、なびみだれ、はなづるひとはなひとはなをめぐるひと
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)