げん)” の例文
すなわち一転すれば冒険心となり、再転すれば山気やまぎとなるのである。げんに彼の父は山気のために失敗し、彼の兄は冒険のために死んだ。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あらそ將棋せうきやぶれていて死ぬなどは一しゆ悲壯ひそう美をかんじさせるが、迂濶うくわつに死ぬ事も出來ないであらうげん代のせん棋士きしは平ぼん
このおんなの日頃ねんじたてまつる観音出でて僧とげんじ、亡婦ぼうふの腹より赤子をいだし、あたりのしずにあづけ、飴をもつて養育させたまひけり。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
人肉じんにくを食とするか如きも我々の習慣しふくわんより言へはいとふ可き事、寧恐る可き事には有れど、野蠻未開國やばんみかいこくの中にはげんに此風の行はるる所有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
それかあらぬか、同地どうち神明社内しんめいしゃないにはげん小桜神社こざくらじんじゃ通称つうしょう若宮様わかみやさま)という小社しょうしゃのこってり、今尚いまな里人りじん尊崇そんすう標的まとになってります。
或は奔湍いわおを噛む激流と化して嵯峨たる奇岩怪石のひまを迸り、或は幾丈の瀑布ばくふげんじて煙霧を吐きながら絶壁を落ちて行きます。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……げんに、廣島師範ひろしましはん閣下穗科信良かくかほしなしんりやうは——こゝに校長かうちやうたる威嚴ゐげんきずつけずれいしつしない程度ていどで、祝意しゆくいすこ揶揄やゆふくめた一句いつくがある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
げんに、刻々と兵庫、摂津方面からせまって来る四国の細川定禅じょうぜん(足利一族)、山陽、山陰の武族など、みなそれの呼応こおうで起ったものだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後者も亦げんに歌よみと云はれるのを避けて、實業的方面に手を出しかけるのだから、先輩も後輩もあつたものではないと、義雄は思つてゐる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
げんに代助が一戸を構へて以来、約一年余と云ふものは、此春このはる年賀状の交換のとき、序を以て、今の住所を知らした丈である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
眞實まこととなし斷りたりしは麁忽そこつ千萬此方はげんに見たるといふ證據あらねば其醫師いしやの云しがそにて大藤のむすめに病の氣も有らぬを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御行水ごぎょうずいも遊ばされず、且つ女人にょにんの肌に触れられての御誦経ごずきょうでござれば、諸々もろもろの仏神も不浄をんで、このあたりへはげんぜられぬげに見え申した。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
理屈りくつまうすぢやありません、わたくし越權えつけんわたくし責任せきにんひます。貴下あなたしんじませんか、いまげん難破船なんぱせん救助きゆうじよもとめるのを。
また銀座裏で怪青年が僕になげつけた言葉は、戦慄せんりつなしに聴くことはできない。何か怖ろしいことが、げんに発生している
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
げんに、自分の身に直接に、のあたりに、今の言葉なら、体験したという程のことを、「知る」と云ったのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
げんに、数年前すうねんぜんのこと、ちょうど春先はるさきであったが、轟然ごうぜんとして、なだれがしたときに、みき半分はんぶんはさかれて、ゆきといっしょに谷底たにそこちてしまったのでした。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うさ。お前だツておれ大嫌だいきらひなことをよろこんでツてゐることがあるぢやないか。げんおれ思索しさくふけツてゐる時にバイヲリンをいたりなんかして………」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「紅筆で假名文字を書いたから、女の仕業しわざと考へるのは少し早合點だな。げんに叔父上はそれでしくじつたのだ」
つとめて又持たせ遣らんとこそ思ひ侍りしなれ。手帳はげんにこゝに在り。斯く云ひて、新婦にひよめ抽箱ひきだしよりさきの手帳を取出せり。戸外の人は何やらん言へり。
たしかにあの煙草屋の門口に安島家のくるまが着いとるけにのう。自殺を知らずに迎えに来たちうげんの証拠が……
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにもしなくっても、どうしてその証拠しょうこを見せることができよう。ぼくたちはげんにあの人がこの品物を売ってた金で、三度のものを食べているのではないか
僕はさきのアストンのげんおよび黒住くろずみ氏の所説を読んで、これをげんに我が周囲に行わるるいわゆる神道しんとうに比すると、ちょうど『新約聖書しんやくせいしょ』の福音書ふくいんしょを見た目で
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
矢筈草は俗にげん証拠しょうこといふ薬草なること、江戸の人山崎美成やまざきよししげが『海録かいろく』といふ随筆第五巻目に見えたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
気が付かねば、まじないは効くのだとひそかにげんのあらわれるのを待っていたところさらに効目はなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
げんに、このうた同樣どうように、おほくめのみこと神武天皇じんむてんのうとのかけあひにうたはれたといふうたが、それであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
げん明治四十一年頃めいじしじゆういちねんごろからはじまつた活動かつどうおいては鎔岩ようがん西方せいほう數十町すうじつちよう距離きよりにまでばし、小諸こもろからの登山口とざんぐち七合目しちごうめにある火山觀測所かざんかんそくじよにまでたつしたこともある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ふん、らねえッてもなァおッかねえや。おいらァげんにたったいま、この二つので、にらんでたばかりなんだ。山吹色やまぶきいろで二十五まい滅多めったられるかさじゃァねえて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
げんに、いつぞやの夜も、お藤はここで御用十手の円陣から消え失せて、のちには左膳をも助け出して、同じくこの穴ぐらへつれこんだのだったが、左膳が去ったあと——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その「本」とい字の下の十の横のぼうしゅが入れてあるのです。今げんにその朱が入っています。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
中村は今げんに自分にも変な気がしたのであったから、主人に同情せずにはいられなくなった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
げんに俺の母親おふくろなどはむじつとがで殺された。之が綱吉公の御代なら直ぐかたきを取つて貰へたのだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
なんつてもをんなですものくちはやいにつておつときのことなどははなしておかせくださるわけにはきますまい、げんいまでもかくしていらつしやることおびたゞしくあります、それは承知しようち
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貴方は貴方で、独立の女として、私は貴方の人格を尊重しませう。げんに今日迄も尊重して来て居るつもりです。只私も貴方も戦闘に疲れた。そして二人とも軽からぬ病気を抱いてる。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
しかも当時大阪事件が如何いかに世の耳目じもくきたりしかは、の子女をしてこの芝居を見ざれば、人にあらずとまでに思わしめ、場内毎日立錐りっすいの余地なき盛況をげんぜしにても知らるべし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
仏身より摩睺羅伽まごらかまで、三十三身にげんじたまい、天人、人間、禽獣まで、解脱げだつせしめたもう観世音菩薩の、観世音菩薩普門品ふもんぼんを、血書きして今日で二十一日、写経は完成と思ったに
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
げんに後日、彼の砲撃にあずかりたるる米国士官の実話じつわに、彼の時は他国の軍艦がかんとするゆえいて同行したるまでにて、あたか銃猟じゅうりょうにてもさそわれたるつもりなりしと語りたることあり。
ときとしては柳条にりて深処にぼつするをふせぎしことあれども、すすむに従うて浅砂せんさきしとなり、つひに沼岸一帯の白砂はくさげんじ来る、砂土人馬の足跡そくせき斑々はん/\として破鞋と馬糞ばふんは所々に散見さんけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
これは私が見た上での一家言いっかげんでなくって、不風流ぶふうりゅうなチベット人も十五日の供養は兜率天上弥勒とそつてんじょうみろくの内縁に供養したその有様をこのラサ府にげんじたのであると、彼らはことわざのようにいうて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
げんにである、最初さいしよ加瀬かせから望生ばうせい破片はへんつてときも、彌生式やよひしきとはおもはなかつたくらゐであるから、小破片せうはへん一寸ちよつとひろつた、其時そのときおいて、普通ふつうのとおもはれたのではあるまいかといふうたがひを
げんずることを得せしめよ、わが目親しく之を視て
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
げんにそこにある。しかしそれを手に入れるのが
げん写真しやしんにも まつすぐにうつりますからね
げんじいづ。—あはれ鞭
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忿怒ふんぬげんずる明王みやうわう
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
げん、天皇後醍醐のおのひとの父であり、天皇の御信任はもちろんのこと、いわゆる“重臣の三ぼう”(北畠親房きたばたけちかふさ万里小路宣房までのこうじのぶふさ、吉田定房)
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げんゆうとにわかれてりましても、人情にんじょうにかわりはなく、先方せんぽう熱心ねっしんならこちらでもツイその真心まごころにほだされるのでございます。
ちり一つとしてわが眼に入るは、すべてもののしたるにて、恐しきあやしき神のわれを悩まさむとてげんじたるものならむ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
床はあるが、言訳いいわけばかりで、げんふくも何もかかっておらん。その代り累々るいるいと書物やら、原稿紙やら、手帳やらが積んである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近頃ちかごろ石匕いしさじの名行はるる樣に成りしが、是とても决してとなへには非ざるなり。イースタアアイランド土人及びエスキモーはげん此石器このせききを有す。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
一首の意は、自分の恋は、いまげんにこんなにも深く強い。多胡の入野のように(序詞)奥の奥まで相かわらずいつまでも深くて強い、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)