じつ)” の例文
旧字:
またうしてられる……じつ一刻いつこくはやく、娑婆しやば連出つれだすために、おまへかほたらばとき! だんりるなぞは間弛まだるツこい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だツて紳士程しんしほど金満家きんまんかにもせよ、じつ弁天べんてん男子だんし見立みたてたいのさ。とつてると背後うしろふすまけて。浅「ぼく弁天べんてんです、ぼく弁天べんてんさ。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
この新来の客は、どんな場合にも決してまごつくようなことがなく、いかにも世故に長けた人間であるというじつを身をもって示した。
「ええ、どんなじつのある人か、それを見たらね。あたしにではなくってよ。だけど、そうしたらあたし、あなたの奥さんになるわ。」
自分じぶん大学だいがくにいた時分じぶんは、医学いがくもやはり、錬金術れんきんじゅつや、形而上学けいじじょうがくなどとおな運命うんめいいたるものとおもうていたが、じつおどろ進歩しんぽである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
荘子そうじ』に「名はじつひんなり」とあるごとく、じつしゅにしてかくである。言葉も同じく考えのひん、思想のかくなりといいうると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
俳諧師はいかいし松風庵蘿月しようふうあんらげつ今戸いまど常磐津ときはづ師匠しゝやうをしてゐるじついもうとをば今年は盂蘭盆うらぼんにもたづねずにしまつたので毎日その事のみ気にしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これ勝伯の当時においてもっとも憂慮ゆうりょしたる点にして、吾人はこれを当時の記録きろくちょうしてじつにその憂慮のしかるべき道理どうりを見るなり云々うんぬん
さびしい田舎道いなかみちほうまで、自転車じてんしゃはしらせて、二人ふたりは、散歩さんぽしました。徳蔵とくぞうさんは、たつ一にとって、じつにいさんのようながしました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの失踪した患者というのは、じつくいうそれがしなのである。本名を名乗ってもいい。丸田丸四郎——これが私の本名である。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第十七条 人にまじわるには信を以てす可し。おのれ人を信じて人も亦己れを信ず。人々にんにん相信じて始めて自他の独立自尊をじつにするを得べし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
じつは私はその日までもし溺れる生徒ができたら、こっちはとても助けることもできないし、ただんでいって一緒いっしょに溺れてやろう
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし姉妹ふたりを一緒に詮議してはかえってじつを吐くまいと思ったので、吉左衛門夫婦はまず妹のおつぎを問いただすことにした。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その本流と付知つけち川との合流点を右折して、その支流一名みどり川を遡航そこうするふなべりに、早くも照り映ったのはじつにその深潭しんたん藍碧らんぺきであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
其れでこそ始めで姉妹きやうだいの契約のじつがあると言ふんですわねエ——梅子さん後生ごしやうですから貴嬢あなた現時いまの心中を語つて下ださいませんか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
代助はこゝろのうちに、あるひは三千代が又一人ひとりで返事をきにる事もあるだらうと、じつ心待こゝろまちに待つてゐたのだが、其甲斐はなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
じつ今日きょうここでそなた雨降あめふりの実況じっきょうせるつもりなのじゃ。ともうしてべつわし直接じかにやるのではない。あめにはあめ受持かかりがある……。
一犬いっけんきょえて万犬ばんけんじつを伝うといってナ、小梅こうめあたりの半鐘が本所ほんじょから川を越えてこの駒形へと、順にうつって来たものとみえやす」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ねがわくば、このき日にあたって、下々しもじもへも、ご仁政のじつをおしめしたまわらば、宋朝の栄えは、万代だろうとおもわれますが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
永楽の時、史に曲筆多し、今いずくにかそのじつを知るを得ん。永楽簒奪さんだつして功を成す、しか聡明そうめい剛毅ごうきまつりごとす甚だ精、補佐ほさまた賢良多し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
このとうさんは、金之助きんのすけさんを人形扱にんぎょうあつかいにする袖子そでこのことをわらえなかった。なぜかなら、そういう袖子そでこが、じつとうさんの人形娘にんぎょうむすめであったからで。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
じつ、私も困りきっているに違いないけエど、いくら零落おちぶれても妾になぞ成る気はありませんよ私には。そんな浅間しいことが何で出来ましょうか。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あざむくに詞なければ、じつをもてぐるなり。必ずしもあやしみ給ひそ。吾は九三陽世うつせみの人にあらず、九四きたなきたまのかりにかたちを見えつるなり。
どくだが、またあらためて、ってやっておもらいもうすより、仕方しかたがないじゃなかろうかと、じつ心配しんぱいしているわけだが。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
じつのない君臣の名に縛られて、この曠野こうやに、あてのない彷徨ほうこうをつづけている、解放してやらねばなりませんよ、阿賀妻さん?
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
而してこの懐胎は八犬子を生む為にあらずして、そのじつ、宿因の満潮を示したるものなり。これよりして強く張りたる弦はゆるみはじめたるなり。
夢に見てくれるほどじつがあらば奥様にしてくれろ位いひそうな物だに根つからお声がかりも無いはどういふ物だ、古風に出るがそでふり合ふもさ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いや、絶対に後悔しているんだが、僕だって聖人君子じゃない。側から何とか条件をつけてくれないと、励みがないから、改悛かいしゅんじつが挙げにくい」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あら、本当ほんと? 本当ほんとに買って来て下すったの? まあ、嬉しいこと! だから、貴方あなたじつが有るッていうンだよ……」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ある朝、食を済ましてゐると媼は小ごゑにうたを教へて呉れた。『けふはヨハナ。あすはスサナ。恋が年ぢゆう新しい。これが正銘しやうみやうじつある学生さん』
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「そうでした。すみません。わけをハッキリとはなさなくちやいけなかつたんです。じつは、この事件じけん発見者はっけんしゃは、島本守しまもとまもるというわかいお医者いしゃさんでしたね」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
甚だしきに到っては奏任以上までが腰弁を僭称しているが、そのじつ弁当は洋食や丼にするという有様で、正に「腰弁精神」をけがすと云って差支えない。
雪国の人は春にして春をしらざるをもつて生涯しやうがいをはる。これをおもへば繁栄豊腴はんえいほういゆ大都会たいとくわいすみ年々ねん/\歳々せい/\梅柳ばいりう媆色ぜんしよくの春をたのしむ事じつ天幸てんかうの人といふべし。
こればかりは親の力にもおよばないとはいうものの、むすめが苦悶くもんのためにおもざしまでわったのを見ては、じつの親として心配せぬわけにはゆかない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それもただ沢山たくさんの本を読んだというだけでなく、昔のえらい学者や作家さっかの書いた本をじつに楽しんでんだのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
が、信徳のこのくちには、外見の昔臭い割合にはじつこもつてゐた。末子の位置だけに鶴子はそれを感じてゐて、心のなかでこの兄に深い愛情を向けてゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
青年これによりてすでに老成人ろうせいじんの思想あり、少女これによりてすでに老媼ろうおうの注意あり、そは基督教は物のじつを求めしめてその影をかろんぜしむるものなればなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
右のとおり、その半切れ図であらわしてあるように、果実の中は幾室いくしつにも分かれていて、この果実はじつは数個の一室果実から合成せられていることを示している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そのじつ通路を見出そうとしてあせっているのであろうが、われ等の眼には少しもあせっている容子は見えず、翩翻へんぽんとして広い中庭に乱舞しているように見える。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「されば人世に事を行はんもの、かぎりなきくうをつゝんで限りあるじつをつとめざるべからず。」「一人の敵とさしちがへたらんは一軍にいかばかりのこうかはあらん。 ...
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おっかさんも顔色かおいろをかえました。おとっつあんは手みじかに、じつはこれこれだと、林太郎がいなくなったわけを話しました。するとおっかさんはもう涙声なみだごえになり
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
だが、迂闊うかつに手出しをするのは考え物だ。親方というのを拘引こういんして、じつを吐かせるのもいいが、それでは却って、元兇を逸する様な結果になるまいものでもない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じゃあ、はなしますがね、じつはこのあいだから竜王りゅうおうのおきさきさまが御病気ごびょうきで、にかけておいでになるのです。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
のこる所の二十七名は之よりすすむのみにしてかへるを得ざるもの、じつすすりて决死けつしちかひをなししと云ふてなり、すでにして日やうやたかく露亦やうやへ、かつ益渇をくわ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
お蔦 決して不人情じゃないよ、茶屋旅籠の女だもの、じつがあるかないか、疑うのも無理じゃない。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
しかるに、児童らは家庭において化け物話ばかり聞かされているから、怪物の跡のごとくに誤認して言い触らし、「一犬虚を吠えて万犬じつを伝うる」の騒ぎとなりたる由。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
若しすべての文学者ぶんがくしやかつ兵役へいえき従事じゆうじせしめば常備軍じやうびぐんにはか三倍さんばいして強兵きやうへいじつたちまがるべく、すべての文学者ぶんがくしや支払しはら原稿料げんかうれうつもれば一万とん甲鉄艦かふてつかん何艘なんざうかをつくるにあたるべく
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「アッハハハハ、さようでございますかな、いえ私どもの商売と来ては、口から出任せにしゃべり廻し、千に三つのじつがあれば、結構の方でございます。それそこで千三屋」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しからんな。名の為にじつを顧みないに至つては閥族ばつぞくの横暴もきはまれりだ。」と憤慨ふんがいした。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ、このかん二十分か三十分のことが、自分にはじつに実に長いことに思われてならない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)