仰向あふむ)” の例文
烈々れつ/\える暖炉だんろのほてりで、あかかほの、小刀ナイフつたまゝ頤杖あごづゑをついて、仰向あふむいて、ひよいと此方こちらいたちゝかほ真蒼まつさをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そのくらゐのことア、おれも感づいてゐらア、ね——然し、病氣はどんなだ」と、仰向あふむけにだらけさせてゐたからだを横に寢返りする。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
経師屋閉口して、仰向あふむけに往来わうらいへころげたら、河童一匹背中を離れて、川へどぶんと飛びこみし由、幼時母より聞きし事あり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「パパはあなたがこの頃ちつともいらつしやらないつて仰しやつてよ。」オリヴァ孃は仰向あふむいて、言葉を續けた。
そればかりか、かたせなも、こしまはりも、心安こゝろやすいて、如何いかにもらく調子てうしれてゐることいた。かれはたゞ仰向あふむいて天井てんじやうからさがつてゐる瓦斯ガスくわんながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
達二は、仰向あふむけになって空を見ました。空がまっ白に光って、ぐるぐる廻り、そのこちらを薄いねずみ色の雲が、速く速く走ってゐます。そしてカンカン鳴ってゐます。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「死骸を仰向あふむきにして見ると、首筋にも指の跡がある。——匕首が突つ立つてゐるから、うつかりだまされたが、あれは刺される前に、男の強い力でめ殺されてゐたんだ」
なにひとはね疝気せんきおこつていけないツてえから、わたしがアノそれは薬を飲んだつて無益むだでございます、仰向あふむけにて、脇差わきざし小柄こづかはらの上にのつけてお置きなさいとつたんで。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今太郎君は船板の上に、仰向あふむけにひつくりかへつてゐる亀を、珍しさうに見てゐましたが、これが今夜喰べられてしまふのかと思ふと、何だかかはいさうなやうな気がしました。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
もたれだけがうしろにのびて、腰掛けてゐる人が仰向あふむけに寝るやうになつただけでした。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
その砂丘に足を投げ出してはてしない海の暗い沖の方に眺め入つたり、また仰向あふむきに寢ころんで眼もはるかな蒼穹さうきうに見詰め入つたりしながらも、私はほんとに頭を休めるわけには行かなかつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
鐵拳かなこぶし撲倒はりたふ勇氣ゆうきはあれどまこと父母ちゝはゝいかなるせて何時いつ精進日しやうじんびとも心得こゝろえなきの、心細こゝろぼそことおもふては干場ほしばかさのかげにかくれて大地だいぢまくら仰向あふむしてはこぼるゝなみだ呑込のみこみぬるかなしさ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吾がわらべ鐘にとどかず脚立きやたつよりのびあがりうつかほ仰向あふむけて
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
死の時には私が仰向あふむかんことを!
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
吃驚びつくりして、つて、すつとうへくと、かれた友染いうぜんは、のまゝ、仰向あふむけに、えりしろさをおほあまるやうに、がつくりとせきた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「‥‥」かの女は矢張り無言で、少し仰向あふむき加減にそツぱうを見てゐるらしく、然しからだは全體に顫へてゐるのが見えた。
机の上にはさつきの通り、魔法の書物が開いてある、——その下へ仰向あふむきに倒れてゐるのは、あの印度人の婆さんです。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まつみきめたやうあかいのが、かへして幾本いくほんとなくなら風情ふぜいたのしんだ。あるとき大悲閣だいひかくのぼつて、即非そくひがくした仰向あふむきながら、谷底たにそこながれくだおといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それでは上の船へ合図をして、引上げてもらはうとすれば鱶は、待つてゐましたとばかり、くるりと仰向あふむけに引つくり返り、下の方から足をがつぷりとひ切つてしまふかも知れません。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
山男は仰向あふむけになつて、あをいああをい空をながめました。
山男の四月 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
吾がわらべ鐘にとどかず脚立きやたつよりのびあがりうつかほ仰向あふむけて
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すそひぢかゝつて、はしつてゆかく、仰向あふむけのしろ咽喉のどを、小刀ナイフでざつくりと、さあ、りましたか、いたんですか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
事務室には、氷峰がひとり仰向あふむけに寢ころんで、暑さうにうちはを使ひながら、これも、義雄を見て、變な顏をしてゐる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
茶の間のまん中にはお富が一人、袖に顔をおほつた儘、ぢつと仰向あふむけに横たはつてゐた。新公はその姿を見るが早いか、逃げるやうに台所へ引き返した。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御米およねそむいてゐたから、宗助そうすけにはかほ表情へうじやう判然はつきりわからなかつたけれども、其聲そのこゑ多少たせうなみだでうるんでゐるやうおもはれた。いままで仰向あふむいて天井てんじやうてゐたかれは、すぐさいはうなほつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こくこくと仰向あふむいて、にがさうな口のあたりに持てゆく。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
母様おつかさん!」といつてはなれまいとおもつて、しつかり、しつかり、しつかりえりとこへかぢりついて仰向あふむいておかほとき、フツトいた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「君の意氣と人格そツくりぢや、なア」と、氷峰は仰向あふむいたからだをなかば起して義雄の方へ向いた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
あの煙に咽んで仰向あふむけた顏の白さ、焔をはらつてふり亂れた髮の長さ、それから又見る間に火と變つて行く、櫻の唐衣の美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
房ながらまろき葡萄は仰向あふむきて月の光にうちかざし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
名道人めいだうじんかしこまり、しろながひげで、あどなきかほ仰向あふむけに、天眼鏡てんがんきやうをかざせしさまはなつぼみつきさして、ゆきるにもたりけり。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あの煙にむせんで仰向あふむけた顔の白さ、焔をはらつてふり乱れた髪の長さ、それから又見る間に火と変つて行く、桜の唐衣からぎぬの美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「‥‥」義雄は曾てここでだだをねた時、仰向あふむけに寢そべつて兩足をかけたことがあるのを思い出される黒塗りの箪笥が、相變らずよくてか/\と光つてることを考へてゐた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
房ながらまろき葡萄は仰向あふむきて月の光にうちかざし
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
などと、猫撫聲ねこなでごゑで、仰向あふむけにした小兒こども括頤くゝりあごへ、いぶりをくれて搖上ゆりあげながら、湯船ゆぶねまへへ、トこしいたていに、べつたりとしやがんだものなり。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その又O君のかたはらには妙にものものしい義足が一つ、白足袋たびの足を仰向あふむかせてゐた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仰向あふむきに眠る顏だち胸高く押し流れ行く雲もありにけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
すさまじくいなゝいて前足まへあし両方りやうはう中空なかぞらひるがへしたから、ちひさ親仁おやぢ仰向あふむけにひツくりかへつた、づどんどう、月夜つきよ砂煙すなけぶり𤏋ぱツつ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は鵠沼くげぬま東屋あづまやの二階にぢつと仰向あふむけに寝ころんでゐた。その又僕の枕もとにはつま伯母をばとが差向ひに庭の向うの海を見てゐた。僕は目をつぶつたまま、「今に雨がふるぞ」と言つた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仰向あふむきに眠る顔だち胸高く押し流れ行く雲もありにけり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
のきかず、またまどかずみせかずみち段々だん/\のぼるやうで、家並やなみは、がつくりとかへつてひくい。のき俯向うつむき、屋根やね仰向あふむく。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
太郎はかう云つて、糸鬢奴いとびんやつこの頭を仰向あふむけながら自分も亦笑ひ出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仰向あふむきて浮く水の上
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ねえさん、』と仰向あふむくとうへから俯向うつむいてたやうにおもふ、……廊下らうかながい、黄昏時たそがれどきひらききはで、むら/\とびんが、其時そのときそよいだやうにおもひました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、杜子春はとうに息が絶えて、仰向あふむけにそこへ倒れてゐました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ときあたかも、きやくくわいしたところ入口いりくち突伏つツぷして下男げなん取次とりつぎを、きやく頭越あたまごしに、はな仰向あふむけて、フンと
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
金花はまるで喪心さうしんしたやうに、翡翠の耳環の下がつた頭をぐつたりと後へ仰向あふむけた儘、しかし蒼白あをじろい頬の底には、あざやかな血の色をほのめかせて、鼻の先に迫つた彼の顔へ、恍惚くわうこつとしたうす眼を注いでゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うなづいた。仰向あふむいてうなづいた。其膝切そのひざきりしかないものが、突立つツたつてるだいをとこかほ見上みあげるのだもの。仰向あふむいてざるをないので、しかも、一寸位ちよつとぐらゐではとゞかない。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おとがひをすくつて、そらして、ふッさりとあるかみおび結目むすびめさはるまで、いたいけなかほ仰向あふむけた。いろしろい、うつくしいだけれど、左右さいうともわづらつてる。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、れい大鞄おほかばんが、のまゝ網棚あみだなにふん反返ぞりがへつて、したしなびた空気枕くうきまくら仰向あふむいたのに、牛乳ぎうにうびんしろくび寄添よりそつて、なんと……、添寝そひねをしようかとするかたちる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)