すて)” の例文
田の草をとる時にも、峠を越す時にも、この帽子はおれのつれだったが、今は別れる時だ。留吉は、帽子をすててしまおうと決心しました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
火の中に尾はふたまたなる稀有けうの大ねこきばをならしはなをふきくわんを目がけてとらんとす。人々これを見て棺をすて、こけつまろびつにげまどふ。
僕は、プライドの高い男だ。どんな偉い先輩にでも、呼びすてにされると、いやな気がする。僕は、ちやんと、それだけの仕事をしてゐる。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
くちにせねば入譯いりわけ御存ごぞんじなきこそよけれ御恩ごおんがへしにはおのぞかなへさせましてよろこたまふをるがたのしみぞとれをすてての周旋とりもちなるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いかに、あのていでは、蝶よりも蠅がたかろう……さしすてのおいらん草など塵塚ちりづかへ運ぶ途中に似た、いろいろな湯具蹴出けだし。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さういふところよんどころなくすて置いていつか分る時もあらうと茫然ばうぜん迂遠うゑんな区域にとどおいて、別段くるしみもいたしませんかつた。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
粗製濫造から来る偶然の省略法や単化と、ガラスの味とが入交いりまじってまたすてがたい味を作っているものがあるのです。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
衣食のことよりも更に自分を動かしたのは折角これまでに計営けいえいして校舎の改築も美々しく落成するものをすてしまうは如何いかにも残念に感じたことである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
見ておどろきたるていなりしが其盜賊はまつたわたくしなりの者は御助おんたすけ下さるべしと申けるをきゝ伊兵衞は八にむかひ汝は我が先達さきだつて寸志すんしむくはんとて命をすてて我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これを御本家はじめ御親類の御女中に言わせると折角花車きゃしゃな当世の流行をすてて、娘にまで手織縞で得心させている中へ、奥様という他所者が舞込で来たのは
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お辰素性すじょうのあらましふるう筆のにじむ墨に覚束おぼつかなくしたためて守り袋に父が書きすて短冊たんざくトひらと共におさめやりて、明日をもしれぬがなき後頼りなき此子このこ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或は「困難の問屋といやである」といいて冷笑する者もあり、或は「国人にすてられし時」などと唱えて自分を国家的人物に擬するは片腹痛かたはらいたしと嘲ける者もあった。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
谷間田はすぐ帽子を取り羽織を着てさも/\拙者は時間を無駄にはすてぬと云う見栄で、長官より先に出去いでさりたり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
瑞安寺では顔役で、両国のびっこすて、日本橋の伊勢とならんでかなえの足と立てられているこのわしだが、姿見井戸へ行ってはまるで嬰児あかごだて。えらい奴がおるでな。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たゞ彼等かれらすべてはわらつてなはふべきよるつとめをすて公然こうぜんしよ集合しふがふする機會きくわい見出みいだすことをもとめてる。集合しふがふすることがたゞち彼等かれら娯樂ごらくあたへるからである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それはこの晩、かの鼻緒屋のおすておどしたという怪しい娘によく似た女が、あたかもそれと同じ時刻に酒屋の裏口を覗いていたのを見た者があるというのであった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とっさんは宵寝だし、兄さんは銭湯へ行ったきりだし、すてさんは風邪の気味で夕方から床へ入ったし」
もしお母様っかさん、誠にわたくしは不孝者でございます、おっかさんには早くお別れ申して何一つ御恩も送らず小さい時から御養育をうけました大恩のある一人のおとっさんをすて
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうしても、「アラビヤ人の天幕てんと」は詩人の夢である。演出者は安価な感激や和製の技巧をすてて、せめてその刹那だけでも心からの詩人になろうとしなければならぬ。
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
事あれかしの世間は、我儘娘の末路、自由結婚、恋愛三昧ざんまい破綻はたん呵責かしゃくなく責めて、美妙にすてられた稲舟は、美妙をのろって小説「悪魔」を書いていると毒舌をろうした。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昔かの漢学者流は、西洋を観てと云い、ばんと云い、国字訳本ありといえどもすてかえりみず、すでにしかして漢訳諸本の航来するに至りてはじめて、その蛮夷にあらざるを知る。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
いち(総領の一太郎いちたろう氏なり)とすて(次男の捨次郎すてじろう氏なり)、家内と子供を連れて其処そこへ行こうと云う覚悟をして居た所が、ソレ程心配にも及ばず、追々官軍が入込いりこんで来た所が存外優しい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
知らない人は赤い処ばかりくれろなんぞと腿の赤身の一番悪い処を買って良い処をすててしまう。赤い処でも上等のロースなら外に使いみちがあるけれども、白い処は煮るほど美味くなるのだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
路には御馬印すて候を伊藤武蔵と云ふ広島浪人跡より来り捨たる御馬印を取揚て、唐迄聞えたる御馬印を捨置、落行おちゆく段大阪数万の軍勢に勇士一人も無し、伊藤武蔵、御馬印を揚帰るとて御馬印を
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが今はもう石油が出なくなったので、人々は此方こちらの小屋を見捨てて、彼処かしこに移ってしまったのだろう。この桶も、もうたがが腐って、石油をれる役には立たないのですててあるものと見える。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
如何いかなれば規則きそくはあつても、こゝ學問がくもんいのである。哲學てつがくすてしまつて、醫師等いしやらのやうに規則きそくしたがつてらうとするのには、だい一に清潔法せいけつはふと、空氣くうき流通法りうつうはふとがくべからざるものである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
豹変ひょうへんして私をすてて(というと、二人の間に何かいまわしい関係でも出来ていたようだが、決してそんなことはない)木崎初代に対して求婚運動を始めたのであるから全く「突然」に相違ないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すててしまえと、言っているのに!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
古寺ふるでらやほうろくすてせりの中
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
火の中に尾はふたまたなる稀有けうの大ねこきばをならしはなをふきくわんを目がけてとらんとす。人々これを見て棺をすて、こけつまろびつにげまどふ。
しづめしうへ身の代金の三十兩は兩人にてつかすてたるに相違さうゐ有まじ夫故にこそ三次に頼み後のうれひを除かん爲又お安を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
余が宇宙の漂流者となりし時、その時こそ爾が爾の無限の愛を余に示し得る時にして、余が爾をすてんとする時爾は余のあとい余をして爾を離れ得ざらしむ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
小田原をだはらからさきれい人車鐵道じんしやてつだうぼくは一ときはや湯原ゆがはらきたいのできな小田原をだはら半日はんにちおくるほどのたのしみすてて、電車でんしやからりて晝飯ちうじきをはるや人車じんしやつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
どうでも詰らぬ恋を商買しょうばい道具の一刀にきっすて、横道入らずに奈良へでも西洋へでもゆかれた方が良い、婚礼なぞ勧めたは爺が一生の誤り、外に悪い事おぼえはないが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
殺さんと迄に猛りたれど妾たくみに其疑いを言解いいときたり斯くても妾は何故か金起を思い切る心なく金起も妾をすてるに忍びずとて猶お懲りずまに不義の働きを為し居たり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
とはいえ坊さんにだからとて恋がないとはいえないと弁護をして見ても、お鯉がその青年をすててまで、または捨られたとしても、それにかえるに老年の出家を選もう訳がない。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かれ灰燼くわいじんなかからなべかま鐵瓶てつびん器物きぶつをだん/\と萬能まんのうさきからした。鐵製てつせい器物きぶつかたちたもつてても悉皆みんな幾年いくねん使つかはずにすててあつたものゝやうにかはつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もういワイ、恩も義理も知んなえ様な畜生と知らずに、惣次郎がだまされて命まですてる事になったなアなんぞの約束だんばい、そんな心なら居て貰っても駄目だから、さア此処こけ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
砥石といしを前に控えたはいが、怠惰なまけが通りものの、真鍮しんちゅう煙管きせる脂下やにさがりにくわえて、けろりと往来をながめている、つい目と鼻なる敷居際につかつかと入ったのは、くだんの若い者、すてどんなり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがつひどくにてひたるなれど、こゝろはらば二とははじ、そなたすてられてなにとしてかにはつべき、こゝろおさなければにあまることもらん、腹立はらたゝしきこともさはならんが
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
馬道うまみちの鼻緒屋の娘で、ことし十六になるおすてというのが近所まで買物に出ると、白地の手拭をかぶって、白地の浴衣を着た若い女が、往来で彼女とすれ違いながら、もしもしと声をかけた。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かさねて、士の道に勝負しょうぶなくして首取無とるほうなく槍を合せ運を天に任せん、と申ければ、げに誤りたりと槍押取おっとり、床机の上に居直いなおりもせず、二三槍をあわせ、槍をすて、士の道は是迄也。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
如何いかなれば規則きそくはあっても、ここに学問がくもんいのである。哲学てつがくすててしまって、医師等いしゃらのように規則きそくしたがってろうとするのには、だい一に清潔法せいけつほうと、空気くうき流通法りゅうつうほうとがくべからざるものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すてぜりふを残すと、駕籠を促して里の方へ、一散に駆け降ります。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あそすごしてつかすてしとは合點がてんゆかねど其方が打叩うちたゝかれても一言の言譯いひわけさへもせざりしゆゑ如何成いかなる天魔てんまみいりしかと今が今迄思ひ居たるに全く若旦那の引負を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
余は此事件の真実の転末を知んが為には身をすてるも可なり職業をすつるも惜からずとまでに思いたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
銀のねこすてた所が西行さいぎょうなりと喜んでむるともがら是もかえって雪のふる日の寒いのに気がつか詮義せんぎならん。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然れども二つとはなき此の生命せいめいすてても真理しんりの為めにつくさんと欲するものはかくの如き演劇的えんげきてき同盟どうめいに加はることあたはざるなり、なんぢ一致いつちせんと欲する乎、づ汝の主義しゆぎ決行けつかうせよ
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
すこし銭あるものはさとより山伏やまぶしをたのみていのらすもあり、されば九人にして十人はする也。此ゆゑに秋山の人他所へゆきてはうそうありとしれば、何事の用をもすてにげかへる也。
「でもね、財産のあるお家の、家督をすてて、いくらあなたが物好きでも……」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)