振舞ふるま)” の例文
第三、平素勝手元不如意ふにょいを申し立てながら、多く人をあつめ、酒振舞ふるまいなどいたし、武家屋敷にあるまじき囃子はやしなど時折りれ聞え候事
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手巾ハンケチが落ちました、)と知らせたそうでありますが、くだん土器殿かわらけどのも、えさ振舞ふるまう気で、いきな後姿を見送っていたものと見えますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかくジナイーダは、わたしの思い切った勇敢ゆうかん振舞ふるまいを正当に認めずにはいられないのだ——と、そう思うと愉快ゆかいだった。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
社長令嬢の美奈子は、と夏中を片瀬の別荘に暮し、毎日海水浴場にやって来ては、伝説の海の妖精シレーヌのように振舞ふるまっていたのです。
数馬かずま意趣いしゅを含んだのはもっともの次第でございまする。わたくしは行司ぎょうじを勤めた時に、依怙えこ振舞ふるまいを致しました。」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
格之助も寺でよひあかつきとにあたゝかかゆ振舞ふるまはれてからは、霊薬れいやくを服したやうに元気を恢復して、もう遅れるやうな事はない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
編輯長へんしゅうちょうへは内々で割戻わりもどしの礼金も渡してしまい、部下の記者は待合に連れて来て酒肴しゅこう振舞ふるまい芸者をあてがう腹である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
用のない奥さんには、手製のアイスクリームを客に振舞ふるまうだけの余裕があると見えた。私はそれを二杯えてもらった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな眞似まねをして、もう我儘わたまゝいつぱいに振舞ふるまつてりますうちに、だん/″\わたしひとりぼつちにつてしまひました。たれわたしとは交際つきあはなくなりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
言えば何かと話がもつれて面倒だとさすがに利口な柳吉は、位牌さえ蝶子の前では拝まなかった。蝶子は毎朝花をかえたりして、一分の隙もなく振舞ふるまった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「こうしてみると、なかなか住心地すみごこちがいい」と父親は長火鉢の前で茶を飲みながら言った。車力は庭の縁側に並んで、振舞ふるまわれた蕎麦をズルズルすすった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お豊も返事をして、いつもの通り、豆を買って鳩にいてやります。鳩が豆皿を持ったお豊の手首や肩先に飛び上って、友達気取りに振舞ふるまうのも可愛らしい。
警察部長や検事に対しても、ノズドゥリョフはやはり『君、君』で、極めてざっくばらんに振舞ふるまっていた。
その甲板かんぱんにはその強國きやうこく商船旗しようせんきひるがへして、傍若無人ぼうじやくむじん振舞ふるまつてよしじつしからぬはなしである。
もし春琴が今少し如才じょさいなく人にへりくだることを知っていたなら大いにその名があらわれたであろうに富貴ふうきに育って生計の苦難を解せず気随気儘きずいきまま振舞ふるまったために世間から敬遠され
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
リゼットは鋸楽師のこがくしの左の腕にすがっておぼこらしく振舞ふるまうのであった。孤独こどくが骨までみ込んでいる老楽師はめずらしく若い娘にぴたと寄り添われたので半身熱苦しくあおられた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
九四 この菊蔵、柏崎なる姉の家に用ありて行き、振舞ふるまわれたる残りのもちふところに入れて、愛宕山のふもとの林を過ぎしに、象坪ぞうつぼの藤七という大酒呑おおざけのみにて彼と仲善なかよしの友に行き逢えり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『ささがにの振舞ふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせと言ふがあやなき。何の口実なんだか』
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それから大事なことは、けっして女探偵だとさとられないように振舞ふるまってください。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのため、プルチネッラはいつもの二倍もおかしく振舞ふるまわなければならなかったのです。プルチネッラは心に絶望を感じながらも、おどったりねたりしました。そして拍手喝采はくしゅかっさいを受けました。
今迄はちやんと振舞ふるまつて來たのだから。私は今まで心の中で、しようと誓つた通りに振舞つて來た。しかしこれ以上は、私の堪へ切れないことになるかも知れない。お立ちなさい。エアさん。
無礼な挙動を振舞ふるまって得意がるが、これは表は善で、裏は悪なりという前提にとらわれたるより起こる誤解であって、幽明ゆうめいの区別を論ずる者が、ゆうとかあんとか称すれば、それだけで悪感をいだき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
神谷はもう、彼女のフィアンセのごとく振舞ふるまって、楽屋も訪問すれば、自宅への送り迎えもする間柄になっていた。こっそりと、郊外の料亭などで、夜をふかしたことも、一度や二度ではなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あのあいらしきなかなんてか、ひとじらしの振舞ふるま理由わけるべし、ゆめさらこひなどもやらしきこヽろみぢんもけれど、此理由このわけこそりたけれ、わかをんなさだまらぬこヽろ何物なにものるヽことありて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「わッハッハ、振舞ふるまい酒となると、こやつ、眼の色を変えやがる」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「酒を振舞ふるまはなきや、此方こつちから拳固げんこを振舞つてやら。」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
わが妻の振舞ふるまふ日なり。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
誰一人だれひとりわたしの自由を束縛そくばくするものはなかった。わたしはしたい放題に振舞ふるまっていたが、とりわけ最後の家庭教師と別れてからはなおさらだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
いや、やみわすれまい。ぬまなかあてきやうませて、斎非時ときひじにとておよばぬが、渋茶しぶちやひと振舞ふるまはず、すんでのことわし生涯しやうがい坊主ばうず水車みづぐるまらうとした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
福岡ふくをかうつつてからもなく、御米およねまたいものをたしひととなつた。一度いちど流産りうざんするとくせになるといたので、御米およねよろづ注意ちゆういして、つゝましやかに振舞ふるまつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いやにツンツンするじゃ無えか、ぜいは言わない、あの小僧に振舞ふるまった半分も笑顔を拝ましてくんねエ」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
また恐怖にひしがれないためには、出来るだけ陽気に振舞ふるまうほか、仕様のない事も事実だった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヤアさんというのは赤阪あかさか溜池ためいけの自動車輸入商会の支配人だという触込ふれこみで、一時ひとしきりは毎日のように女給のひまな昼過ぎを目掛けて遊びに来たばかりか、折々店員四、五人をつれて晩餐ばんさん振舞ふるまう。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二名にめい水兵すいへい仲間なかま一群ひとむれ追廻おひまはされて、憘々きゝさけびながら逃廻にげまわつた。それは「命拾いのちひろひのおいわひ」に、拳骨げんこつひとづゝ振舞ふるまはれるので『これたまらぬ』と次第しだいだ。勿論もちろん戯謔じやうだんだが隨分ずいぶん迷惑めいわくことだ。
家康は本多を顧みて、「もうよい、振舞ふるまいの事をたのむぞ」と言った。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
受けているなら文句の出どころはなかったけれども表面はどこまでも手曳きであり奉公人であり按摩から三介さんすけの役まで勤めて春琴の身の周りの事は一切取りしきり忠実一方の人間らしく振舞ふるまっているのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨日きのふ何方いづかた宿やどりつるこゝろとてかはかなくうごめては中々なか/\にえもまらずあやしやまよふぬばたまやみいろなきこゑさへにしみておもづるにもふるはれぬ其人そのひとこひしくなるとともはづかしくつゝましくおそろしくかくはゞわらはれんかく振舞ふるまはゞいとはれんと仮初かりそめ返答いらへさへはか/″\しくは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
要するにまあ、あまやかされ放題の純血種ピュール・サンらしく振舞ふるまったわけである。父はなかなかもどって来なかった。川からは、いやに湿しめっぽい風がいてきた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
不便ふびんや、定めし驚いたらう。……労力ほねおりやすめに、京見物をさせて、大仏前のもちなりと振舞ふるまはうと思うて、足ついでに飛んで来た。が、いや、先刻の、それよ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少くとも国家を代表するかの如き顔をして万事ばんじ振舞ふるまうに足る位の権力家である。今政府の新設せんとする文芸院は、この点においてまさしく国家的機関である。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ドビュッシーの音楽には伝統的形式や、支配的な均衡シンメトリーは一つもない。彼はあらゆる音楽上の遺産いさん取除とりのけて、全く自由に振舞ふるまわなければ承知しなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼をいた五六人の友達は、久しぶりだからという口実のもとに、彼を酔わせる事を御馳走ごちそうのように振舞ふるまった。三沢も宿命に従う柔順な人として、いくらでもさかずきを重ねた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
地体じたいなみのものならば、嬢様の手がさわってあの水を振舞ふるまわれて、今まで人間でいようはずがない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地体ぢたいなみのものならば、嬢様ぢやうさまさはつてみづ振舞ふるまはれて、いままで人間にんげんやうはずはない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう場合ばあひには、こゝろのうちに、當時たうじ自分じぶん一圖いちづ振舞ふるまつたにが記憶きおくを、出來できだけしば/\おこさせるために、とくにてん小六ころく自分じぶんまへけるのではなからうかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
分別ふんべつをするから、つぶてつたり、煙管きせる雁首がんくび引拂ひつぱらふなど、いまやうな陣笠ぢんがさ勢子せこわざ振舞ふるまはぬ、大將たいしやうもつぱ寛仁大度くわんにんたいどことと、すなは黒猫くろねこを、ト御新造ごしんぞこゑ内證ないしよう眞似まね
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
即ち今日けふ高木と佐川の娘を呼んで午餐を振舞ふるまふ筈だから、代助にも列席しろと云ふちゝの命令であつた。あにかたる所によると、昨夕ゆふべ誠太郎の返事を聞いて、ちゝは大いに機嫌を悪くした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すじゆるんで、歩行あるくのにきが来て、喜ばねばならぬ人家が近づいたのも、たかがよくされて口のくさばあさんに渋茶を振舞ふるまわれるのが関の山と、里へ入るのもいやになったから
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほどそう遠慮なしに振舞ふるまったら、好い心持に相違ない。君は豪傑だよ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
障子もふすまはなつ。宿の人は多くもあらぬ上に、家は割合に広い。余が住む部屋は、多くもあらぬ人の、人らしく振舞ふるまきょうを、幾曲いくまがりの廊下に隔てたれば、物の音さえ思索のわずらいにはならぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)