大抵たいてい)” の例文
五十年ぜんの日本人は「神」といふ言葉を聞いた時、大抵たいてい髪をみづらにひ、首のまはりに勾玉まがたまをかけた男女の姿を感じたものである。
文章と言葉と (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その翌年も、大抵たいていなら都合がつくだろうと言われた先生の話で、また桜咲く山の宿でお待ち申して居た。ところがまたいけなかった。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「ええ、よけいもありませんがまあ日本語と英語と独乙ドイツ語のなら大抵たいていありますね。伊太利イタリーのは新らしいんですがまだ来ないんです。」
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わらちひさなきまつたたばが一大抵たいていせんづゝであつた。の一わらなはにすれば二房半位ばうはんぐらゐで、草鞋わらぢにすれば五そく仕上しあがるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「うまく行きました。だが、葬式の四時から今まで、人に怪しまれぬ様に、グルグル走り廻っているのは、大抵たいていじゃありませんぜ」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十一文づゝ二年半餘はんあまりもとゞこふらば大抵たいてい三十文ばかりの引負ひきおひとなるべし。閏月しゆんげつすなはちこの三十文の引負ひきおひを一月にまとめてはらふことゝるべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
私が号外売りを追駈おいかけて行って買ったのは、暑い夏の頃で、ヂリヂリ照りつける陽で道の砂が足裏(私達小児こどもはみな大抵たいてい跣足はだしで過した)
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
もっとのぼりは大抵たいていどのくらいと、そりゃかねて聞いてはいるんですが、日一杯だのもうじきだの、そんなにたやすかれる処とは思わない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火口かこういけ休息きゆうそく状態じようたいにあるときは、大抵たいてい濁水だくすいたゝへてゐるが、これが硫黄いおうふくむために乳白色にゆうはくしよくともなれば、熱湯ねつとうとなることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
大抵たいていはその顔を知っているものの、ことをあらだてるとかえって店の人気がなくなる。そこでおかみさんの癇癪かんしゃくが小僧の頭に破裂する。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
なにかねがあるばかりぢやない。ひとつは子供こどもおほいからさ。子供こどもさへあれば、大抵たいてい貧乏びんばふうちでも陽氣やうきになるものだ」と御米およねさとした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三、四カ月ここで働いていると、大抵たいていの学生はいつの間にか真空にれて、10-6ミリの真空が普通になってくるのであった。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
はなさないでもおまへ大抵たいていつてるだらうけれどいま傘屋かさや奉公ほうこうするまへ矢張やつぱりれは角兵衞かくべゑ獅子しゝかぶつてあるいたのだからとうちしをれて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大抵たいていな人は財布さいふの底をはたいて、それを爺さんの手にのせてりました。私の乳母ばあや巾着きんちゃくにあるだけのお金をみんな遣ってしまいました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
『さてこのねずみなにはなしてやらうかしら?大抵たいていみんへんことばかりだが、かくはなしてもかまはないだらう』とあいちやんがおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
身を断念あきらめてはあきらめざりしを口惜くちおしとはわるれど、笑い顔してあきらめる者世にあるまじく、大抵たいていは奥歯みしめて思い切る事ぞかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それによく似た五十雀ごじゅうから山雀やまがら小雀こがら、いずれも雀の字をガラとんでいるのは、クラと原一つであると見て大抵たいてい誤りはあるまい。
飛び上がる方ももちろんかないませんでしたが、飛び下りる方になると、大抵たいていの者は足をくじいたりこしの骨を折ったりして、逃げ戻りました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それからもう一つは、瓦斯屋ガスや電気屋、これが勘定を晦日みそかに取りに来ないで月央つきなかの妙な時に取りに来るばかりかまず大抵たいてい剰銭つりせんを持っていない。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ちよい/\人殺しがあるが、檢屍けんしに立會つて見ると、それが大抵たいてい十二支のうちの一つを、身體の何處かにつて居るんだ」
「僕も一生懸命、やっているんですよ、おばさん。この前の演習のときと違って、しっかりした大人は大抵たいてい出征しゅっせいしているんで手が足りないの」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大抵たいていの宿は閉まってて、停車場のトレーガーに聞いて見たが、泊ろうと思っていたワルトハウスに行くことが出来なかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
しかし先ず大抵たいていの絵は少し永く見ていると直にそれほどの魅力はなくなる、そして往々一種の堪え難い浮薄な厭味が鼻につく場合も少なくない。
夫婦はそこから一段高い次の部屋に寝ていたが、お島は大きくなってからは大抵たいてい勝手に近い六畳の納戸なんどねかされていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たまには局部的きょくぶてき風位かぜくらいおこせても、おおきな自然現象しぜんげんしょう大抵たいていみな竜神りゅうじんさんの受持うけもちにかかり、とても天狗てんぐにはその真似まねができないともうすことでございます。
もとより今日のごとき国交際こくこうさい関係かんけいあるに非ざれば、大抵たいていのことは出先でさきの公使に一任し、本国政府においてはただ報告ほうこくを聞くにとどまりたるそのおもむき
棺はおけを用いず、大抵たいてい箱形はこがたなり。さて棺のまわりに糠粃ぬかを盛りたる俵六つ或は八つをたて立掛たてかけ、火を焚付たきつく。俵の数はしかばねの大小によりことなるなり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その清姫ならば、どんな他国者でも大抵たいていは知っている、それはずっと昔のこと。その帯がどうしたとか、こうしたとか、それがわからないことです。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
安さんは大抵たいてい甲州街道南裏の稲荷いなりの宮に住んで居たそうだ。埋葬は高井戸でしたと云うが、如何どん臨終りんじゅうであったやら。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かくわが朝鮮事件に関せし有志者は、出獄後郷里の有志者より数年すねんの辛苦を徳とせられ、大抵たいてい代議士に撰抜せられて、一時に得意の世となりたるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それからまた魔女まじょるのは、大抵たいてい日中ひるまだから、二人ふたりはいつも、れてから、うことに約束やくそくめました。
家では口数もあまりきかず、大抵たいてい、何か考えこんで物思いにふけっているが、一体何をそんなに考えているのか、そいつは神様にだって分ることじゃない。
この六部ろくぶはもとはりっぱなおさむらいで、わけがあって六部ろくぶ姿すがたえて諸国しょこくをめぐりあるいているのでしたから、それこそ大抵たいていのことにはおどろかないつよい人でした。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
なほ、珈琲こーひー椰子やし護謨樹ごむじゆ船材せんざいにする麻栗等ちーくなど非常ひじよう有用ゆうよう大抵たいていこのたい栽培さいばいすることが出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
泥棒どろぼう監獄かんごくをやぶつてげました。つきひかりをたよりにして、やまやま山奥やまおくの、やつとふか谿間たにまにかくれました。普通なみ大抵たいてい骨折ほねをりではありませんでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
さあ、私は、大抵たいていこのあたりの海の上は、一通りくまなくけて見たのですが、海豹の子供を見ませんでした。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつもりの玄竹げんちくると、但馬守たじまのかみ大抵たいていむかひではなしをして障子しやうじには、おほきな、『××の金槌かなづち』と下世話げせわ惡評あくひやうされる武士髷ぶしまげと、かたあたまとがうつるだけで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
浜町はまちょう。そりゃァこのあめに、大抵たいていじゃあるまい。おまえさんがわざわざかないでも、ちょいと一こといてれば、いつでもうちの小僧こぞういにやってあげたものを」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
併し、鈴木三枝子は大抵たいていの日を六時か六時半まで社に残るのだった。別に仕事はしなくてもタイム・レコードで居残り割増金をくれることになっているからだった。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
つえを突いて、ヨボヨボ歩いている可哀そうな姿を見ると、大抵たいていいえでは買ってやるようでありました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いや、その行者はそんなのではない。大抵たいていの気ちがひでも一度御祈祷をして貰へば癒るさうだ。」
それは何をうたっているのやら、わけのわからないような歌で、おしまいに「や、お芽出めでとう」といって謡いおさめた。すると大抵たいていの家では一銭銅貨をさし出してくれた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
妙なもので、犬の方でも可愛がってれる人は分ると見えて、時にはわんわん吠えて逃げて行くのもあるけれども、大抵たいていの犬は尻尾しっぽを振りながら森君のそばに寄って来る。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
始末は大抵たいてい極つてゐるさ。此間こなひだお前の親爺おやぢに會つた時にもあの家の内幕を一寸微見ほのめかしてゐたよ。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
大抵たいていのひとが出て来ないほど、船が、すさまじくロオリングするなか、ぼくはさかんに、牛飲馬食、二番のとらさんや、水泳のやすさんなんかと一緒いっしょに、殆ど、最後まで残って
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
『百ねんてさうもかんでせうが、二十ねん其邊そこらびますよ。』ハヾトフはなぐさがほ。『なんんでもりませんさ、なあ同僚どうれう悲觀ひくわんももう大抵たいていになさるがいですぞ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
門弟は大抵たいていさむらいの子弟で、私のような町人は山本富太郎という私と同名の男と二人だけだった。
これ大抵たいていわかるにはわかつたが、さらにセンチユリー・ヂクシヨナリーをいてると、うある。
腹のなか如何いかなる事を考えていても、逢えば、誰にも、愛想がよく、人をそらさず、ずいぶん如在じょさいのない人である、それで、大抵たいていの人は、茂吉を、「木訥ぼくとつ」ない人である
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
私たちの家族は大抵たいてい三人で、まい晩、井田邸の風呂に入れてもらうことになっていたので、お前のお母さんのお腹が少しずつふくれてくるのが父である私にはよくわかった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)