そと)” の例文
かねると、生徒せいとらは、さきあらそって廊下ろうかからそとへとかけしました。そのとき、りょう一は、先生せんせい教員室きょういんしつへいかれるあとったのです。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
かうしてはやしなか空氣くうきは、つねはやしそとくらべて、晝間ちゆうかんすゞしく、夜間やかんあたゝかで、したがつてひるよるとで氣温きおんきゆうかはることをやはらげます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
元気げんきこえをのこして、ていきました。おじいさんとおばあさんは、もんそとって、いつまでも、いつまでも見送みおくっていました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼は遂にやむをえず、かたまりのそとへ出て、後ろの方に立って人の事で心配しているうちに、博奕ばくちはずんずん進行しておしまいになる。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
よく見るとそとの山桜の花が映つてそれが光つてゐたのであつた。つまり春の朝の山桜の花の心が薄月の感じで表現されてゐるわけだ。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
さて取り捨つべきところもなければ、屋敷のそとに穴を掘りてこれをめ、蛇塚を作る。その蛇はあじか何荷なんがともなくありたりといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たまたまそとより基督信徒のきたるあれば我らは旧友に会せしがごとく、敵地にありて味方に会せしがごとく、うち悦びてこれを迎えたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ただただわが維新の大改革なるものは内外の刺衝一時に抱合し、そと圧し、内迫り、ついに一種の壮観奇状を呈したるものなることを。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それから又、ものごと(自分自身をも含めて)の内側に直接はひつて行くことが出來ず、先づそとから、それに對して位置測定を試みる。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
古ぼけた葭戸よしどを立てた縁側のそとには小庭こにわがあるのやらないのやら分らぬほどなやみの中に軒の風鈴ふうりんさびしく鳴り虫がしずかに鳴いている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その言語道断の不品行やふしだらにしても、その原因は彼自身の裡にはなく、どこか彼のそと、まあ空中にでもあると言うわけなのだね。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たゞ其原因結果の発展が余りに人意のそとに出て居て、其ため一人ひとりの若い男が無限の苦悩に沈んで居る事実を貴様が知りましたなら
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ねやこゑもなく、すゞしいばかりぱち/\させて、かねきこえぬのを、いたづらゆびる、寂々しん/\とした板戸いたどそとに、ばさりと物音ものおと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
間もなく裏木戸が開いて、チヨロチヨロ出たのは、一と廻り小さい人影、そとに待つて居る影にピタリと寄り添つたと思ふと、不意に——
そとには風が悲しい声を立ててゐた。非業な死を遂げたものの魂が、帰つてゆくところを失つて訴へてゐるやうに栄蔵には思はれた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そとは金を施したれば、みる目眩暈くるめくばかりなれども、内はみな鉛にて、その重きに比ぶればフェデリーゴの着せしは藁なり 六四—六六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あやぶむ木工助を、眼のそとに、かれは持ちまえの幻覚に熱していた。大きな耳たぶが、血ぶくろみたいに、赤くなるときがそれである。
みゝかたむけると、何處いづくともなく鼕々とう/\なみおときこゆるのは、この削壁かべそとは、怒濤どとう逆卷さかま荒海あらうみで、此處こゝたしか海底かいてい數十すうじふしやくそこであらう。
さいはひ御米およね産氣さんけづいたのは、宗助そうすけそとようのない夜中よなかだつたので、そばにゐて世話せわ出來できるとてんからればはなは都合つがふかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
のんきなやつで、チョビ安、手に一本の小さな焼け棒ッくいをひろって、包囲する伊賀勢の剣輪をもぐってかこみのそとへ走りぬけた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
身繕みづくろいしてやゝしばし寝床ねどこ突立つったって居ると、忍び込んだと思った人の容子ようすは無くて、戸のそとにサラ/\サラ/\忍びやかな音がする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、その中でも目についたのは、欄干らんかんそとの見物の間に、芸者らしい女がまじっている。色の蒼白い、目のうるんだ、どこか妙な憂鬱な、——
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さら博物館はくぶつかんではそとより見物人けんぶつにん學者達がくしやたち研究けんきゆうさせるばかりでなく、博物館はくぶつかんにゐるひと自身じしんがその陳列品ちんれつひん利用りようして研究けんきゆうかさ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その後、俺はそとの人に「夜、蒲団があまり重くて寝苦しい時には、この重さが一体何んの重さであるか位は考えてみないわけでもない。」
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
九時に、ルピック夫人が寝ておいでというと、にんじんは、自分から進んで、そとをひとまわりして来る。それで、ひと晩中ばんじゅう、安心である。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ドアに飛びついて、死物狂ひになつて錠前ぢやうまへを搖すぶつた。そとの廊下に跫音あしおとが駈けて來て、鍵がはづされて、ベシーとアボットが這入つて來た
手傳てつだひなどするにぞ夫婦は大によろこ餠類もちるゐは毎日々々賣切うりきれて歸れば今はみせにて賣より寶澤がそとにてあきなふ方が多き程になり夫婦は宜者よきもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「僕、君に少しお話したいことがあるんだが、そとで待ってますから、御用が済んだら、一寸その辺までつき合ってくれませんか」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たゞ何事なにごとはづかしうのみありけるに、しもあさ水仙すいせんつくばな格子門かうしもんそとよりさしきしものありけり、れの仕業しわざるよしけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またそつとてゝとき頸筋くびすぢかみをこそつぱい一攫ひとつかみにされるやうにかんじた。おつぎはそと壁際かべぎは草刈籠くさかりかご脊負せおつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
若者等は刀をぬい追蒐おっかける、手塚は一生懸命に逃げたけれども逃切れずに、寒い時だが日比谷そとの濠の中へ飛込んでようやく助かった事もある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夕方ゆうがたには多勢おおぜいのちいさな子供こどもこえにまじってれい光子みつこさんの甲高かんだかこえいえそとひびいたが、袖子そでこはそれをながらいていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うしてあいちやんは自問自答じもんじたふつゞけてましたが、しばらくしてそとはうなにこゑがするのをきつけ、はなしめてみゝそばだてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
真相は彼らのそとにある。如何いかにして此の事件が起り、如何にして彼らの知らない結末に終ったか? たった二人だけがそれを語る資格がある。
シューラはシャツ一まいで立ったまま、おいおいいていた。と、ドアのそと騒々そうぞうしい人声ひとごえや、にぎやかなさけごえなどが聞えた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
その内男も着物を着替えたが、部屋よりそとへは出ないで、ひるになるまで長椅子ながいすの上に寝転んで、折々微笑ほほえんだ。その間々あいだあいだにはうとうとしていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
陽気がよくなつて以来主人夫婦がよくそとへ出掛けて飯を食ふので、下宿人ばかりが女中のマリイの給仕で食卓に就くのは何だか淋しい気がする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
母が一寸ちよつとそとへ出た隙を見て、伯母は私の部屋へ這入つて參りました。私は下を向いたきり一言も口が利けませんでした。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
と云うので、二日流連いつゞけをさせてゆっくり遊興をさせ、充分金を遣わせて御用聞と話合いの上で、ズッと出る処を大門そと
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
實在する他者そのものは決してわがうちに入り來らず、しかもわれに屬するものが同時にわれのそとにあるものを代表する處に認識は成立つのである。
時と永遠 (旧字旧仮名) / 波多野精一(著)
さうして其そとは、広い家の外廓になつて居て、大炊殿おほいどのもあれば、火焼ひたき屋なども、下人の住ひに近い処に立つてゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そのために、町のそとへは、どんどんうちがたちつまりました。こうして町が大きくなるにつれて、方々からいろいろの人がどっさりりこんで来ます。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そとは面白いが、勘ちゃんが厭だ。と云って、内でお祖母ばあさんとにらめッこも詰らない。そこで、お隣のおみっちゃんにお向うのおよっちゃんを呼んで来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこで出る所を知らないで困つている時に、鼠が來て言いますには、「うちはほらほら、そとはすぶすぶ」と言いました。
そとは明るくなつて夜は明けて來たけれど、雨は夜の明けたに何の關係も無い如く降り續いて居る。夜を降り通した雨は、又晝を降通すべき氣勢である。
水害雑録 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこで少女をとめにふさはしい髮飾かみかざりや衣裳いしようをさせましたが、大事だいじですから、いへおくにかこつてそとへはすこしもさずに、いよ/\こゝろれてやしなひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
こんにちの世界はこの両者相俟あいまって始めて円満なるを得るものであるが、そとに対して常にわれわれの眼を喜ばせるものは、男々おおしき男性的道徳である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし、諭吉ゆきちは、これまでとはちがって、福沢家ふくざわけのあととりとなったのですから、はんのゆるしがなければ、中津なかつから一そとへでることができません。
そと百番のうたひに見えし松山かゞみといふも此地也。そのうたひにある鏡が池の古跡こせきもこゝにあり、今は池にもあらぬやうにうづもれたれど、そのあととてのこれり。
『えゝ。』と、まちわらひながらこたえたが、彼女かれ自分じぶん昔淋むかしさびしい少女時代せうぢよじだいのことははなさなかつた。そしてがついたやうに、またまどそとをのぞいた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)