よく)” の例文
みちみち孔子と昨夜の老人とをならべて考えてみた。孔子の明察があの老人におとる訳はない。孔子のよくがあの老人よりも多い訳はない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
二号にがう活字くわつじ広告くわうこく披露ひろうさるゝほかなんよくもなき気楽きらくまい、あツたら老先おひさきなが青年せいねん男女なんによ堕落だらくせしむる事はつゆおもはずして筆費ふでづひ紙費かみづひ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
言うだけの事はないよ、——まるッきり、お前さんがよくばかりでだましたのでみた処で……こっちは芸妓げいしゃだ。罪もむくいもあるものか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
健三はただ金銭上のよくを満たそうとして、その慾に伴なわない程度の幼稚な頭脳を精一杯に働らかせている老人をむしろ憐れに思った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おさよといえども何もよくにからんで鞍替くらがえをしたわけではないが、老いの身のまず考えるのは自分ら母娘ふたりの行く末のことだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は「御馳走様ごちそうさま」と云って戸外へ出て、明るいうちにとよくばって、また、その辺をぐるぐると歩いてみた。宇野浩二うのこうじさんの家の前へ出る。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
此の説き樣は、只あたり前の看板のみにて、今日の用に益なく、怠惰たいだに落ち易し。早速さつそく手を下すには、よくを離るゝ處第一なり。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
イヨー、中々よく抜目ぬけめはないな。貴様にやつたつてやくにはたたないが、どうも仕方がない、誕生日のお祝ひにやるとしやうよ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
吾亮は太いさびのある声で叫ぶように言った。併しよくの深い人間にとって、新しい慾気を満たすためには、古い約束など全然問題ではないのだ。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
源氏は身にしむように思って、朝露と同じように短い命を持つ人間が、この世に何のよくを持って祈祷きとうなどをするのだろうと聞いているうちに
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
別に悪いことをしたおぼえはありません。君も知っているとおり、昔からわしは曲ったことは大嫌いだ。……しかし、ちょっとよくは出した。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よくにつりこまれて、草芝くさしばの上へあらたまり、おとといの真夜中まよなか呂宋兵衛るそんべえ手策てだてをつくして従僧じゅうそうふたりをあやめ、ひとりの主僧しゅそうをいけどってきて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いゝあんばいにからだいてました、うなるとよくが出てまたあがつてつゝみはす背負せお道中差だうちゆうざしをさしてげ出しました。
淫慾いんよく財慾ざいよくよくはいづれも身をほろぼすの香餌うまきゑさ也。至善よき人は路に千金をいへ美人びじんたいすれどもこゝろみだりうごかざるは、とゞまることをりてさだまる事あるゆゑ也。
ある所にちよつと、よくばりなおねこさんがありました。ある朝、新聞を見ますと、写真屋さんの広告が出てゐました。
泣いてゐるお猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
此蠻勇このばんゆうちから、それがつもつもつてると、運動うんどうためとか、好奇かうきよくとか、そればかりで承知しやうち出來できなくなつて、はじめて研究けんきうといふことおもきをおくやうになり
呑気ではあるが、そう腹の黒い人達ではなかったと見えて、よくにからんだようなことは何一つ云いませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
己はつまり影と相撲を取っていたので、己のよくという慾は何の味をも知らずに夢のうち草臥くたびれてしまったのだ。
無学であった工人たちは、さいわいにも意識のよくに煩わされることなく、自然の働きを素直に受けた。無心の美が偉大であるのは自然の自由に活きるからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
よくを出さないで、天から下さるものだけを頂いて、それで満足してゐる。木や小鳥やの光をたのしんで……。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
この「かるみ」は、断じて軽薄と違うのである。よくと命を捨てなければ、この心境はわからない。くるしく努力して汗を出し切った後に来る一陣のその風だ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
れば惡は惡にほろぶる事誠に是非もなき次第しだいなりまた主人あるじ五兵衞は其人を知らずたゞ己のよくほしいまゝになせしゆゑ遂には家の滅亡めつばうを招くといふこれまた淺猿あさましき事にこそ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
よくふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、その川岸を通りますと、ピカピカした金らんの上下かみしもの立派なさむらいに会いました。
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
輕薄でうそつきで、男のくせにお洒落しやれで、圖々しくてよくが深くて、——う聽かされると取柄はありません。
たゞ口腹こうふくよくたすといふのみで、甚麼物どんなものも皆同じ様にんでぐつとくだすに過ぎなかつた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
身にはやまいあり、胸にはうれいあり、悪因縁あくいんねんえども去らず、未来に楽しき到着点とうちゃくてんの認めらるるなく、目前に痛き刺激物しげきぶつあり、よくあれども銭なく、望みあれどもえん遠し
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それだから幾度いくど幾度いくどかんがへてはれはもう一生いつしやうれにもこと出來できないくらゐならいまのうちんで仕舞しまつたはう氣樂きらくだとかんがへるがね、それでもよくがあるから可笑をかしい
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それから、——どうです、よくふものは、おそろしいではありませんか? それから半時はんときもたたないうちに、あの夫婦ふうふはわたしと一しよに、山路やまぢうまけてゐたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人間の慾に際限なしれば私は自分の既往を顧みれば遺憾なきのみか愉快な事ばかりであるが、さて人間のよくには際限のないもので、不平をわすればマダ/\幾らもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旅の前には様々の計画もたてるが、いざ大和やまとへ行って古仏に接すると、美術の対象としてつまびらかに観察しようというよくなど消えてしまって、ただ黙ってその前に礼拝してしまう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
父といふ人は、強慾がうよくで、そして我執がしふの念の強い、飽迄あくまでも物質よくさかんな人物であツたらしい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しか他人たにんいたむ一にち其處そこ自己じこのためには何等なんら損失そんしつもなくて十ぶん口腹こうふくよく滿足まんぞくせしめることが出來できる。他人たにん悲哀ひあいはどれほど痛切つうせつでもそれは自己じこ當面たうめん問題もんだいではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
よくいちという盲人めくらだそうだ。此奴に引っ張られて行くから、詰まりは泥沼へ落ちるって」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私の方はそんなよくはないので、分離した結晶の方は snow crystal、牡丹雪のように沢山の結晶の集った雪片は snow flake ということにして置いた。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
えず其邊そのへん航路かうろ徘徊はいくわいし、ときにはとほ大西洋たいせいやう沿岸えんがんまでもふね乘出のりだして、非常ひじやう貴重きちやう貨物くわぶつ搭載とうさいしたふねると、たちまこれ撃沈げきちんして、にくよくたくましうしてるとのはなし
よくにはここ両三年の努力で、日本をして、この運動のトップを切らせたいものである。
どんなに今日の講演をお待ちしましたか、そして、その思いがやっとかなってみると、人間のよくと云うものはどこまで深いものでございましょう、遠くからお話を伺ったばかしでは
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、それもこれもつまりは勝負事しようぶごとちたいといふよくと、ほこりと、あるひ見得みえとからくるのかとおもふと、人間にんげんいやしさあさましさも少々せう/\どんづまりのかんじだが、支那人しなじん麻雀マアジヤンばかりとははず
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
縮毛の大男と、若い水夫とが、野獣のようなうめきを立てて、たちまち、肉弾にくだんあいすさまじい格闘をはじめた。よくの深い水夫たちは、二人の勝敗如何いかにと、血眼ちまなこになってこの格闘を見守っている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
の雑誌も九号くがうまでは続きましたが、依様やはり十号からよくが出て、会員に頒布はんぷするくらゐでは面白おもしろくないから、あたひやすくしてさかん売出うりだして見やうとふので、今度こんどは四六ばい大形おほがたにして、十二ページでしたか
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
恩田ばかりでなく、その父親までも一と晩のうちにとらえようなんて、あんまりよくばってはいないかしら。明智の手腕を信じきっている文代さんではあったが、さすがに案じないではいられなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こうなって来ると、下金屋の方でもよくが出て来ましょう。
よくばれ、気ばれ、白髪染しらがぞめれ、お熊婆くまばば
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
不斷のよくのたえまない人の心を
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
かぎりなき知識のよくに燃ゆる眼を
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
よくにはかぎりなく
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
よくおもひを吹くときは
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夜中に乳のかれるのと、寂しいばかりをよくにして、つめたいとも寒いとも思わないで寝ていたのに、そうだったのか、ねえ、三ちゃん。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしあまり早く行き着いたら、一通り夜店でも素見ひやかして、よくの皮で硬く張った小林の予期を、もう少しらしてやろうとまで思案した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春木少年は、やはり人間らしいよくがあったために、黄金メダルを警察へ引きわたすのは、もうすこし見合わすことにした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)