見詰みつ)” の例文
そうでなければ何を書いているだろう?……まだ後れて来るかも知れないとBは食物も咽喉のどに通らないで、戸口の方を見詰みつめていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
三日目の日盛ひざかりに、彼は書斎のなかから、ぎら/\するそらいろ見詰みつめて、うへからおろほのほいきいだ時に、非常に恐ろしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一つの文字を長く見詰みつめている中に、いつしかその文字が解体して、意味の無い一つ一つの線の交錯こうさくとしか見えなくなって来る。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
りよ小女こをんなんで、汲立くみたてみづはちれていとめいじた。みづた。そうはそれをつて、むねさゝげて、ぢつとりよ見詰みつめた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「そうです、あれは此処ここでは一番大切なのです。まあしばらくじっと見詰みつめてごらんなさい。どうです、形のいいことは一等いっとうでしょう。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ただこう書いたよ、援軍えんぐんきたらず零敗れいはいすと」人々はおどろいて阪井の顔を見詰みつめた、阪井の口元に冷ややかな苦笑が浮かんだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし、暫く見詰みつめているとほかの砂と入り交って分らなくなりそうになったのでいそいでまた取り上げた。眼が些っと痛かった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
「あの人は、遠くから私を見詰みつめて、泣きさうにするだけで、金次のやうに手紙をくれたり、暗がりで袖を引いたりしません」
わたくし默然もくねんとして、なほ其處そこ見詰みつめてると、暫時しばらくしてその不思議ふしぎなる岩陰いわかげから、昨日きのふ一昨日おとゝひいた、てつひゞきおこつてた。
夜を一つの大きな眼とすれば、これはその見詰みつめるひとみである。気を取り紛らす燦々さんさんたる星がなければ、永くはその凝澄こりすました注視に堪えないだろう。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
丁度活動写真を見詰みつめる子供のように、自分は休みなく変って行く時勢の絵巻物をば眼のいたくなるまで見詰めていたい。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも菊之丞きくのじょうの冷たいむくろを安置あんちした八じょうには、妻女さいじょのおむらさえれないおせんがただ一人ひとりくびれたまま、黙然もくねんひざうえ見詰みつめていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ときよりもはやくぢり/\とつてくのを、なやして、見詰みつめるばかりで、かきものどころ沙汰さたではなかつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、その体から立ちのぼる芳香ほうこうは、自らきおこした風に乗って、いよいよひろまり、一層多くの人びとが立ちどまって、不思議そうに紳士を見詰みつめはじめた。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
遠慮えんりょなく、乗せてもらうと、目貫めぬきの通りにドライブしながら、ぼくの胸にさした日の丸のバッジを見詰みつ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まつたくわきらないやうなはち動作どうさへん嚴肅げんしゆくにさへえた。そして、またたきもせずに見詰みつめてゐるうちに、をつとはその一しんさになに嫉妬しつとたやうなものをかんじた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼女こそ、やったのではあるまいかと、その顔を見詰みつめた。睫毛まつげの美しいミチ子の大きな両眼に、透明な液体がスウと浮んで来た。ふるえた声でミチ子が言った。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御用ごようでございますか。』と、こつないてひざまづいた。但馬守たじまのかみはヂッとこつなかほ見詰みつめてゐたが
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
省三は婢がぜんをさげて往く時に新らしくしてくれた茶をすすっていたが、彼の耳にはもうその音は聞えなかった。彼は十年前の自己おのれの暗い影を耐えられない自責の思いで見詰みつめていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あッと言う間に、すらり抜いた刀を、ブランと片手にぶらげて、喬之助は、あらぬ方を見詰みつめて立っている。その眼にはまとまりがなく、着物の前が割れて、だらしなく下着したぎが見えているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その主人は石鹸を売るということをせずにジーッと私の顔を見詰みつめて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
提灯の光の届く範囲かぎりの、茫と明るい輪の中へ、しきりに降り込む粉雪が、縞を作って乱れるのを、鋭いその眼で見詰みつめてはいるが、それは観察しているのではなく、無心に眺めているのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日陰町ひかげちょうのせまい古着屋町を眺めながら、ある家の山のように真黒な、急な勾配こうばいをもった大屋根が、いつも其処そこへ来ると威圧するように目にくるのをけられないように、まじまじ見詰みつめながら通った。
彼女は子供をたたいてじっとわたしを見詰みつめている。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
柱時鐘はしらどけい見詰みつむれば、はりのコムパス、搾木しめぎ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ときどき営庭えいてい反射はんしゃする銃剣じうけん見詰みつめながら
さうして御米およねかすり羽織はおり受取うけとつて、袖口そでくちほころびつくろつてゐるあひだ小六ころくなんにもせずに其所そこすわつて、御米およね手先てさき見詰みつめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
頬は削り落したようにやつれて、青晒あおざめて、眼ばかり、怪しく、狂わしく、気味悪く、じっと坐ってランプの火影を見詰みつめていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
翌朝、蒲団ふとんの上に坐って薄暗い壁を見詰みつめていた吉は、昨夜夢の中で逃げようとして藻掻もがいたときの汗を、まだかいていた。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
駸々しんしんと水泳場も住居をも追い流す都会文化の猛威もういを、一面灰色の焔の屋根瓦に感じて、小初は心のずいにまでおびえを持ったが、しかししばらく見詰みつめていると
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かがみのおもてにうつしたおのが姿すがた見詰みつめたまま、松江しょうこう隣座敷となりざしきにいるはずの、女房にょうぼうんでた。が、いずこへったのやら、ぐに返事へんじかれなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あしすそへ、素直まつすぐそろへたつきり兩手りやうてわきしたけたつきり、でじつとして、たゞ見舞みまひえます、ひらきくのを、便たよりにして、入口いりくちはうばかり見詰みつめてました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
じっと見詰みつめていると、急になんだか、しゃべりたくなるからね。そのときはべらべら喋ればいいんだよ
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくし如何いかにもして、かのあやしふね正體しやうたい見屆みとゞけんものをと、ひるがへして左舷船首さげんせんしゆはしり、まなこさらのやうにしてそのふねかた見詰みつめたが、月無つきなく、星影ほしかげまれなるうみおもて
見送りの人達のかげも波止場もかすみ、港も燈台もへだたって、歓送船も帰ったあと、花束や、テエプの散らかった甲板かんぱんにひとり、島と、かもめと、波のうねりを、見詰みつめていると
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そのそらあかるみをうつみづや、處處ところどころ雜木林ざふきばやしかげ蒼黒あをぐろよるやみなかあがつてした。わたしはそれをぢつと見詰みつめてゐるうちに、なんとなく感傷的かんしやうてき氣分きぶんちてた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
夢かうつつか、おどろき見れば、わが身は裂けて、血は流れるじゃ。燃えるようなる、二つのが光ってわれを見詰みつむるじゃ。どうじゃ、声さえとうにも、咽喉のどくるうて音が出ぬじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しばら見詰みつめてゐるうちに、りよおぼえず精神せいしんそうさゝげてゐるみづ集注しふちゆうした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
とすれすれに機躡まねきが忙しく上下往来するのをじっと瞬かずに見詰みつめていようという工夫くふうである。理由を知らない妻は大いにおどろいた。第一、みょうな姿勢を妙な角度から良人おっとのぞかれては困るという。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
船頭せんどう憎々にく/\しさうに、武士ぶし後姿うしろすがた見詰みつめながら、ふねした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
平次は此驚く可き奉公人を默つて見詰みつめる外はありませんでした。
デコボコ頭の、チンチクリンの老人をじっ見詰みつめた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
柱時鐘はしらどけい見詰みつむれば、はりのコムパス、搾木しめぎ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
てられたどろはれた伝単でんたん見詰みつ
じょちゅうは不思議そうに省三の顔を見詰みつめた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何故なぜでせう」とかへした。其時そのとき御米およね易者えきしや返事へんじをするまへに、またかんがへるだらうとおもつた。ところかれはまともに御米およねあひだ見詰みつめたまゝ、すぐ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そういって水戸記者は、静かにドレゴの面を見詰みつめた。ドレゴはくすりと笑って、顔を右へ振った。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
桂木は投落なげおとされて横になつたが、死をきわめて起返おきかえるより先に、これを見たか婦人の念力、そでおり目の正しきまで、下着は起きて、何となく、我を見詰みつむる風情ふぜいである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うでをこまねいて、あごをいた春信はるのぶは、しばおのひざうえ見詰みつめていたが、やがておもむろくびった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かうつづけて、高岡軍曹たかをかぐんそうはやがてことば途切とぎつたが、それでもまだりなかつたのか、モシヤモシヤの髭面ひげづらをいきませて、かんあまつたやうに中根なかね等卒とうそつかほ見詰みつめた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)