しず)” の例文
ロボはそののどに食いついたなり、身をしずめ、うんとふんばると、牝牛めうしは、角を地についてまっさかさまに大きくとんぼ返りにたおれる。
これをおきになった、おうさまは、ふかうれいにしずまれました。いつしかかがりえて、管弦かんげんんでしまったのでございます。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しんり、しずみ、星斗と相語り、地形と相抱擁あいほうようしてむところを知らず。一杯をつくして日天子にってんしを迎え、二杯をふくんで月天子げってんしを顧みる。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おおかた上のプールでは、水泳選手の河童かっぱ連が、水沫みずしぶきをたてて、浮いたりしずんだり、ウォタアポロの、球をうばいあっているのでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
こまったことに、お日さまがしずんでからは、モルテンとダンフィンがねむくなってきて、いまにも地上に落ちそうになるのでした。
葬式そうしきの日には、アルレッキーノは舞台に出なくてもいいことになりました。この男は悲しみに打ちしずんだ男やもめなんですから。
また他の時はすこしつかれを帯びたようにしずんで、不透明ふとうめいで、その皮膚ひふの底の方にはなんだか菫色すみれいろのようなものが漂っているように見えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
第二に、この泥岩は、粘土ねんど火山灰かざんばいとまじったもので、しかもその大部分だいぶぶんしずかな水の中でしずんだものなことは明らかでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これはたたかいにやぶれて、海のそこにしずんだ人びとが、残念ざんねんのあまり、そういうかにに、生まれかわってきたのだろうと、人びとはいいました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そうしていて、なん容赦ようしゃもなく、このあわれな少女むすめを、砂漠さばく真中まんなかれてって、かなしみとなげきのそこしずめてしまいました。
彼はまた不安な表情をして考えにしずんだ。彼は今までに一度も埃及に足を踏入ふみいれたこともなく、埃及人と交際をもったこともなかったのである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
はらりとしずんだきぬの音で、はや入口へちゃんと両手を。肩がしなやかに袂のさきれつつたたみに敷いたのは、ふじふさ丈長たけなが末濃すえごなびいたよそおいである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声をのんでひッそりとしずまりかえったじょうの内外は、無人むじんのごとくどよみをしずめて、いきづまるような空気をつくっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それじゃ基督ハリストスでもれいきましょう、基督ハリストスいたり、微笑びしょうしたり、かなしんだり、おこったり、うれいしずんだりして、現実げんじつたいして反応はんのうしていたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
遠い野原がの前にひらけ、この間ジナイーダに出会った時のことが思い出されて、わたしは物思いにしずみ始めた。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
山上憶良のやまいしずめる時の歌一首で、巻五の、沈痾自哀文と思子等歌は、天平五年六月の作であるから、此短歌一首もその時作ったものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その事がやはりこの尊者に聞えてあるいは思いにしずんで何か質問の端緒いとぐちを捜して居るのではないかと思ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……やれ、かなしや! こりゃつめたいわ、しずんで、節々ふし/\固硬しゃちこばって、こりゃこのくちびるからいきはなれてから最早もうひさしい。
たちまちブクブクと水底みずそこしずんでしまいました。しばらくぎてからそのこと発見はっけんされて村中むらじゅう大騒おおさわぎとなりました。
臨終の席につらなった縁者の人々は、見るに見兼みかねて力一杯に押えようとするけれど、なかなか手にえなかった。そして鐘のしずむと共に病人の脈も絶えた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
私は春琴女の墓前にひざまずいてうやうやしく礼をした後検校の墓石に手をかけてその石の頭を愛撫あいぶしながら夕日が大市街のかなたにしずんでしまうまで丘の上に低徊ていかいしていた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、熱いので、くじらが目をさまして、いきなり海へしずんでしまったのです。それで、たくさん人が死にました。その中にシンドバッドさんもいたのです。
女が鉄瓶を小さい方の五徳ごとくへ移せば男は酒を燗徳利に移す、女が鉄瓶のふたを取る、ぐいと雲竜をしずませる
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
磯吉が失明して除隊になったと早苗から聞かされたとき、早苗といっしょに声をあげて泣いた先生であったが、あのときの悲しみは今も心の底にしずもっている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
やっとおもいきってげますと、こんどはあたまにかぶったはちがじゃまになって、しずんでもしずんでもがりました。するとそこへふねをこいで一人ひとり船頭せんどうつけて
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「この兄の神のようなうそつきは、このたけの葉がしおれるようにしおれてしまえ。この塩がひるようにひからびてしまえ。そして、この石がしずむように沈みたおれてしまえ」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
与平はさからう水をしわけるようにして、左右に大きくからだをゆすぶりながら、水ぎわに歩いて来た。棚引いていた茜色の光りはしずみ、与平の顔がただ、黒いけもののように見える。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして、これまでの激しい調子とはうって代わった、しずんだ調子で言葉をつづけた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
日本郵船のある水夫は、コロムボで気が変になり、春画しゅんがなど水夫部屋にかざっておがんだりして居たが、到頭印度洋の波を分けて水底深くしずんで了うた、と其船の人が余に語り聞かせた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
水を張った大桶おおおけの底へ小石をしずめておいて、幼い小初にくわえ出さしたり、自分の背に小初を負うたまま隅田川の水の深瀬ふかせに沈み、そこで小初を放して独りで浮き上らせたり、とにかく
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それらの人達ひとたち目間苦めまくるしくつたりたりしてゐたが、ダンスひとがぎつちり鮨詰すしつめになつてゐた。音楽おんがくにつれて、いたりしずんだりする男女だんじよかおが、私達わたしたちにもえるのであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
せかせかしていた心がややしずまって来た。彼はコップをおいて椅子いすもたれた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
野だは大嫌だいきらいだ。こんなやつ沢庵石たくあんいしをつけて海の底へしずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しぜん人も馬も重苦しい気持にしずんでしまいそうだったが、しかしふととおが過ぎ去ったあとのようなむなしいあわただしさにせき立てられるのは、こんな日は競走レースれて大穴が出るからだろうか。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その顔は、金色こんじきもやのなかにしずんでゆく夕日ゆうひの残りのひかりに照らされていた。クリストフの言葉はのどもとにつかえた。ゴットフリートは目をなかばとじ、口を少しあけて、ぼんやり微笑ほほえんでいた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
駅夫えきふ呼声よびごへなんとなくしずんできこえた、もー八時近くである
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
二 ボートはしずみぬ 千尋ちひろ海原うなばら
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
日が西にしずめばすなわち花は西にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「おひめさまは、昨夜さくやうみなかしずんでしまわれたのだもの。いくらさがしたってつかるはずがない。」と、人々ひとびとおもっていました。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
燃え叫ぶ六疋は、もだえながら空をしずみ、しまいの一疋は泣いて随い、それでも雁の正しい列は、けっしてみだれはいたしません。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あらしがおこって、船がしずみそうになると、その船の前をおよぎながら、それはそれはきれいな声で、海の底がどんなに美しいかをうたいました。
わたしはひさしのついた帽子をいで、しばらくその場で迷っていたが、やがて重い物思いにしずみながら、そこをはなれた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
お日さまはしずみましたが、カラスたちはまだあかるいうちに、ヒースのえている、あの大きな荒れ地につきました。
平家へいけもん運命うんめいも、いよいよきわまり、安徳天皇あんとくてんのうをいただいた二位尼にいのあま水底すいていふかくしずむだんになると、いままで水をうつたようにしんとしていた広間ひろまには
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
古代の人のような帽子ぼうし——というよりはかんむりぎ、天神様てんじんさまのような服を着換えさせる間にも、いかにも不機嫌ふきげんのように、真面目まじめではあるが、いさみの無い、しずんだ
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、かれももう思慮かんがえることの無益むえきなのをさとり、すっかり失望しつぼうと、恐怖きょうふとのふちしずんでしまったのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いちど深くしずんでから、ボカッと、あわだった水面にきあがってきたのを見ると、わか武士ぶし生首なまくびだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
るところお年齢としはやっと二十四五、小柄こがら細面ほそおもての、たいそううつくしい御縹緻ごきりょうでございますが、どちらかといえばすこしずんだほうで、きりりとやや気味ぎみ眼元めもとには
するとふねはみごとに大穴おおあながあいて、たくさんのへいせたまま、ぶくぶくとうみの中にしずんでしまいました。てきはあわててうみの中でしどろもどろにみだれてさわぎはじめました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)