もつと)” の例文
もつとも信心の衆は、加持祈祷をして貰つたと言つちや金を持つて行く。が、鐵心道人はどうしても受取らねえ。ばちの當つた話で——」
もつとも生物の死滅は個体として、種属として、又全体より見て、如何にしても免れぬことで、生命の飛躍といひ、霊魂の不滅といふも
愛人と厭人 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
成金のお客は勿論、当の薄雲太夫にした所で、そんな事は夢にもないと思つてゐる。もつともさう思つたのも可愛かはいさうだが無理ぢやない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文化賞か何んかで別口の利用法が工夫される位のものだ。もつとも極くれには、棚上げした純小説の作家を取り下して来ることはある。
つまり僕のいふもつともかんじんなことは、何時も出來るだけ隱れて歩かなければならない生きものは、からだを何處に置いたらよいか
末野女 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
もつとも、負けてもじつはおごつていたゞく方がおほかつたがどういふのかこの師弟してい勝負せうふはとかくだれちで、仕舞しまひにはれうとも憂鬱ゆううつになつて
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
もつと衣服きものいでわたるほどの大事おほごとなのではないが、本街道ほんかいだうには難儀なんぎぎて、なか/\うまなどが歩行あるかれるわけのものではないので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつとも銀之助はよんどころない用事が有ると言つて出て行つて、日暮になつても未だ帰つて来なかつたので、日誌と鍵とは丑松が預つて置いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もつともさういへばさかりころでもらあつてからは仕事しごと上手じやうずるとしちやみつしらやうだつけが、きぢやねえ鹽梅あんべえだつけのさな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もつとも取返しが附いてもとの身の上になつたからつて、ちつとも好い事はない、もつと不好いけない事もあつた……で、臥反ねがへりを打つて、心の中で
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
じつまをすとわたしうたがつてゐるのです。しかもつとも、わたくし或時あるときなんもののやうなかんじもするですがな。れは時時とき/″\おもことがあるです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
僕ははしなくも篠田さんがかつて『労働者中もつとも早く自覚するものは、もつとも世人に軽蔑けいべつされて、尤も生活の悲惨を尽くしてる坑夫であらう』
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
おん身若し我にさきだちて妻を持たば、婚禮の日に三鞭酒シヤンパニエ二瓶を飮ませ給へ。われ。もつとも好し、その酒をば君こそ我に飮ましめ給はめ。
『無い筈はないでせう。もつと此辺このへんでは、戸籍上の名とうちで呼ぶ名と違ふのがありますよ。』と、健はくちを容れた。そして老女としより
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
坂の上にも下にも人の姿すがたは見えないので、幸ひ羞しいおもひもしなくてすんだのである。もつとも見られたとて大して羞しがることでもない。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
もつともと一面いちめん竹藪たけやぶだつたとかで、それをひらとき根丈ねだけかへさずに土堤どてなかうめいたから、存外ぞんぐわいしまつてゐますからねと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いや串談じようだんではなし札幌さつぽろ病院長びようゐんちやうにんじられて都合次第つがふしだい明日あすにも出立しゆつたつせねばならず、もつと突然だしぬけといふではなくうとは大底たいていしれてりしが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もつと道路どうろあるひ堤防ていぼうさがりにつて地割ぢわれをおこすこともあるが、それはたんひらいたまゝであつて、開閉かいへい繰返くりかへすものではない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
以て此段申上奉り候明日は吉日に付御親子しんし對顏たいがんの御規式ぎしきを御取計ひ仕り候もつと重役ぢうやく伊豆守越前役宅まで參られ天一坊樣へ御元服げんぷく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼等の言ひ分は重々もつともであると思ふが、また我輩わがはい善蔵君としても、震災以来のナンについてはやはり遺憾ゐかんに思つてゐるんだ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
少年労働者の中でも彼は頑強で気が荒いので幅をきかせでゐた、それゆゑ他の少年等も彼の云ふことには一々もつともだと云つてそれに味方した。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
たゞのさ/\立廻りあるくばかり也。もつとも悪きことはせず。至つて正直なるよしなり。此処ここにては山女は見ず。又其沙汰さたも無し
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つた聖約翰せいヨハネ荒野あれの蝗虫いなごしよくにされたとか、それなら余程よほどべずばなるまい。もつと約翰様ヨハネさま吾々風情われわれふぜいとは人柄ひとがらちがふ。
字引をり/\やつてみると、手紙もまた造作もなく書けた、もつとも余り名文でもなかつたかも知れぬが、兎に角意味の通じる程には書けた積りだ。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
つたはる攝養法せつやうはふ種々しゆ/″\ありといへども、實驗じつけんれば、もつと簡易かんいにしてもつと巧驗こうけんあるものは冷水浴れいすゐよくにあらざるし。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
もつとも、われとわが身を悪くいふ癖も、名古屋人間の無くて七癖の一つかも知れぬ。筆者は典型的の名古屋人なのである。
名古屋スケッチ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
もつとも、いにしへ和名わめい漢字かんじ充當じうたうしたのが、漢音かんおんかた變化へんくわともなうて、和名わめい改變かいへんせられたれいは、古代こだいから澤山たくさんある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
彼は今日、ママ欝なのだ。卓子テーブルに肘を突いたまゝ、ゆつくり煙を揚げてゐる。もつとも喫つてゐるものだけはうまさうだが。
夭折した富永太郎 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「はゝゝゝは。間違ひでもあつちやならないとふのかね。もつともだよ。この道ばかりはまつたく油断がならないからな。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「それはあるかも知れないわ。」おつゆには夫の平生のもつともらしい言ひ草はたわいないことのやうに思ひ出された。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
もつとも春作は安価の為め失敗せしもので、main crop は一昨日より出荷を始め候へばこれにて何とか当分の遣繰やりくり付く事と存ぜられ候。(後略)
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
もつとも手洗所の設備が次第に普及してくやうだから衛生的に新しい習慣が生じつつあることは十分に想像せられる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
透谷庵主、透谷橋外の市寓にみて、近頃高輪たかなわの閑地に新庵を結べり。樹かすかに水清く、もつとも浄念を養ふに便あり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
余は一週日の猶予を請ひて、とやかうと思ひ煩ふうち、我生涯にてもつとも悲痛を覚えさせたる二通の書状に接しぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もつとも、わたしちゝはじちひさな士族しぞくとして、家屋かをくと、宅地たくちと、周圍しうゐすこしのやまと、金祿公債證書きんろくこうさいしようしよなんゑんかを所有しよいうしてゐたが、わたし家督かとく相續さうぞくしたころには
何の機会きつかけからか、話は、信仰問題に落ちた。もつとも二人共に基督教キリストけうへ籍を置くゆゑ、自然そこへ行つたのだらう。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
今人こんじんは今人のみ、古人ののりに従ふを要せずと。もつともの事なり。後人こうじんまたく言はんか、それも尤もの事なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「ウヽ、芳賀はが君の今日こんにちあることを、わしはつとに知つとつた。芳賀君はもつとも頭脳もひいでてをつたが、彼は山陽の言うた、才子で無うて真に刻苦する人ぢやつた」
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
諸君の不満はもつともだ。この会社の処置を不当として、われわれは受諾できないことを、経営者側に僕は責任を
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
さて展覽會てんらんくわい當日たうじつおそらく全校ぜんかう數百すうひやく生徒中せいとちゆうもつとむねとゞろかして、展覽室てんらんしつつたもの自分じぶんであらう。※畫室づぐわしつすで生徒せいとおよ生徒せいと父兄姉妹ふけいしまい充滿いつぱいになつてる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もつともこれには主義のある事で、自分が出入ではいりするのには是非開けなければならぬが、それを閉めて置かなければならぬ何等の理由も発見出来ないからださうだ。
瓦廻かはらまわしをる、鞦韆飛ぶらんことびる、石ぶつけでも、相撲すまふでも撃剣げきけん真似まねでも、悪作劇わるいたずらなんでもすきでした、(もつと唯今たゞいまでもあまきらひのはうではない)しかるに山田やまだごく温厚おんこう
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もつとも俺は此のうち寄生蟲きせいちうだからな。」と自分をけなしつけても見て、「此の家から謂つたら、俺は確に謀叛人むほんにんだが、俺から謂つたら、此の家の空氣は俺に適しない、 ...
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そのやうやす書物しよもつむかつても意味いみ容易よういとれない、もつと直譯ちよくやくしてときはどうかわかつてるらしいが、あと如何どん意味いみかとたゞしてるとほとんわかつてないやうである。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
型を押したやうな父の週末の帰宅は、蘆屋で病院を経営するかたはら、大阪の大学病院へも出て忙しいためだとの母親の言葉は、もつともらしかつたが、修一はだまされなかつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
おい、くまども。きさまらのしたことはもつともだ。けれどもなおれたちだつて仕方ない。生きてゐるにはきものも着なけあいけないんだ。おまへたちが魚をとるやうなもんだぜ。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
もつともまだ「綜合文化」というような怪物をかかげて「今の科學者は物質萬能で人生を解しない」などという批難をする者がある。併しながら科學は本來物的現象の學問である。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
もつとも外へ出ますと夜鷹蕎麦よたかそばでもなんでもありますから貴所方あなたがたのおあし御勝手ごかつて召上めしあがりまして。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
南信濃、殊に私の住んでゐる諏訪地方などには、この詞がもつともよく当てまるのである。
諏訪湖畔冬の生活 (新字旧仮名) / 島木赤彦(著)
同時に世間に利益を与へる事をもつもつとも近代的な、また最も賢明なる事業と考へて居る。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)