あね)” の例文
あたりまえならばあね王位おういをつぐのが順序じゅんじょでありますから、まち人民じんみんは、なんといって、反対はんたいすまいものでもなかったのであります。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かっぱとかっぱが顱合はちあわせをしたから、若い女は、うすよごれたがあねさんかぶり、茶摘、桑摘む絵の風情の、手拭の口にえみをこぼして
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たすきをかけてあねさまかぶりをして朝の火鉢の灰をふるっていた小間使いのおきみは、父親のことを言われたので少しあかくなっていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夕餉ゆうげどきに帰りをわすれてあそんでいるおとうとを、父や母がおこらぬうちにとハラハラしてさがすあねのような愛が、彼女の眼にこもっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娑婆しやば界の苦労は御降りの今日けふも、遠慮なく私を悩ますのである。昔或御降りの座敷に、あねや姉の友達と、羽根をついて遊んだ事がある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
◎お乙女あねさんはお仁王と綽名あだなされた丈け中々元気で、らいが鳴る時などは向鉢巻をして大鼓を叩いてワイ/\と騒ぐ様な人でした。
「お正月は御年始廻おねんしまわりや何かで家の人がいそがしいもんだから。」と女房は襟にかけた手拭をあねさまかぶりにして兼太郎の夜具を上げ
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さあ、おりるんですよ」青年は男の子の手をひきあねたがいにえりやかたをなおしてやってだんだんこうの出口の方へ歩き出しました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
八穂 (朗詠する)おあねえさま……いかなる恋に傷ついて……うち棄てられた岸のほとりで、あなたはおてになりましたか……
喪服 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おもつたる大形おほがた裕衣ゆかたひつかけおび黒繻子くろじゆすなにやらのまがひものひらぐけがところえてはずとれしこのあたりのあねさまふうなり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かえで ああ、これ、一旦こうと言い出したら、あくまでも言い募るがあねさまの気質、逆ろうては悪い。いさかいはもう止してくだされ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ンガオド何歳ナンボだバ。ワイのナ今歳コドシ二十六だネ。なにわらふんダバ。ンガ阿母オガあねダテ二十歳ハダヂしたヲドゴたけアせ。だけアそれほどチガはねエネ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
手拭をあねさんかぶりにして、粉物を入れたを小脇にし、若い女の人は甲斐甲斐かいがいしく外へ出て、外から戸を締めようとしました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お駒さん、しっかりするんだ。あれは、お前のあねさんのおさいだよ、玉屋小三郎たまやこさぶろうかかえ、一時は全盛をうたわれた玉紫花魁たまむらさきおいらんだ。怖がることはない」
道子はすがれるあねたもとを引き動かしつつ「あたしうれしいわ、姉さまはもうこれからいつまでも此家うちにいるのね。お道具もすっかり来てよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ある段か、これはあねさんが、かかさんの形見だと云って、大事にしていた櫛。それに庄七さんに頼まれた衣服きものと云い、どうしたことだろう」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小母おばさんお待ちなすって下さい、あねさまが人さまの妾にはならないと云うのも御尤ごもっともな次第、と云って貴方あんたに返す金はありやせんから、何卒どうぞわし
わたしはかの女の父親と、あにさんやあねさんたちをとりわけかの女を幸福にしてやりたいと思った。リーズはマチアとちがってそれをよろこんでいた。
こんな所でも人間にう。じんじん端折ばしょりの頬冠ほおかむりや、赤い腰巻こしまきあねさんや、時には人間より顔の長い馬にまで逢う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あねさん、そっちの帯を出して。そいから、すまねえが、雲母橋きららばしへ走って、安にすぐ来るようにいって来てくんねえ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手拭てぬぐいをあねさんかぶりに、久留米がすりの着物のすそから赤いゆもじの端を垂らしている若いお主婦さんや、齢頃の娘たちは、笑いをおさえるのが苦しくて
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
竹村たけむらにはおもひがけないことであつたが、しかし彼女かのぢよあねとかあにとかいふ近親きんしんひとがあるなら、そのたれかゞかれたづねてくるのに不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
トラは自分より学問もあり、稼ぎもしている年かさのまま娘には何かにつけて遠慮し、よその人に向ってたけをさんと呼び、うちではあねちゃんと呼んだ。
だるまや百貨店 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おふきはまた、今の本陣の「あねさま」(おまん)のいないところで、半蔵のそばへ来て歯のかけた声で言った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぬぐひ私し弟十兵衞事は三州藤川在岩井村の百姓にて豫々かね/″\正直者しやうぢきものに候へ共不事の物いり打續き年貢の未進みしん多分たぶんに出來上納方に差支さしつかへ如何とも詮術せんすべなき儘文と申あね娘を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
所が榎本えのもとが今度糺問所きゅうもんじょの手にかかって居て、そのせつ、榎本の阿母おっかさんもあねさんもお内儀かみさんも静岡に居るが、一向釜次郎かまじろうの処から便りがないのでおおいに案じて居ると
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二葉亭は手拭てぬぐいあねさんかぶりにしてほうきかかえ、俯向うつむき加減に白い眼をきつつ、「ところ、青山百人町の、鈴木主水もんどというおさむらいさんは……」と瞽女ごぜぼうの身振りをして
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
よごれの無い印半纏しるしばんてんに、藤色の伊達巻だてまきをきちんと締め、手拭いをあねさん被りにして、こん手甲てっこうに紺の脚絆きゃはん、真新しい草鞋わらじ刺子さしこの肌着、どうにも、余りに完璧かんぺきであった。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
「おひいさまがいちばんのあねさまでいらっしゃいますか、どれ/\、わたくしにっこなさりませ」
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これと今日流行のあねさまごととはどういう関係にあるか。とにかく子どもを理解するために、またわが身の昔を省みるために、も少し互いに他所よそのものを比べ合う必要があるかと思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
口三味線くちさみせん浄瑠璃じやうるりには飛石とびいしづたひにちかづいてくるのを、すぐわたしどもはきヽつけました。五十三つぎ絵双六ゑすごろくをなげだして、障子しやうじ細目ほそめにあけたあねたもとのしたからそつと外面とのもをみました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
いちばんのあねさんの魚は、たいへん活溌で、ことにダンスがそれは上手でした。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
昨夜来たばかりの彼女は珍らしく今朝から老母に代つて早起して甲斐々々かひ/″\しくかすり鯉口こひぐちの上つ張りを着て、心持寝乱れの赤い手柄の丸髷にあねさんかぶりをして、引窓の下の薄明るいへつつひの前に
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
五百は轎を出る女を見て驚いた。身のたけきわめて小さく、色は黒く鼻は低い。その上口がとがって歯が出ている。五百は貞固を顧みた。貞固は苦笑にがわらをして、「おあねえさん、あれが花よめですぜ」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
岩村いわむらさんのお話しの『学士会院ラシステキューの鐘』と好一対こういっついとも云うべきで、少しゆえあって明白地あからさまに名前を挙げるのははばかりあるけれど、私のく懇意な人のそのまたあねさんのそのまた婿さんの実話である。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
與吉よきちつちだらけのみぢかぼうきしつちたゝいてる。さうして時々とき/″\あといてはあね姿すがた安心あんしんしてぼうでぴた/\とたゝいてる。ぼうさきみづつので與吉よきちよろこんだ。それも少時しばしあひだいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ははあねが、東京とうきょうへいきたいといいますが、いってもよいでしょうか。」
この婦人会は大阪市の有力な夫人が集まつて、あねさんごつこのやうな事をして遊ぶ為にこしらへてあるのだが、広岡のお婆さんが、何ぞといふと我鳴り立てるので、近頃出席者がぽつぽつ減り出した。
かれは、みづかまもることにおごそかなもとめの孤壘こるゐあねたいするおとうとのやうなしたしさをみせてちかづいてつた。かれ彼女かのぢよよりも二つばかり年下とししたなのであつた。いつのにかぱつと二人ふたり關係くわんけいうはさにのぼつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
二人のあねは色白くして玉をならべたる美人びじん也、菓子をくひながらかほ見あはして打ゑみたるおもざし、愛形あいきやうはこぼるゝやう也。かゝる一双いつさうの玉を秋山の田夫でんぶつまにせんは可憐あはれむべしことたきゞとしてすつほんるがごとし。
といって、まずあねのむすめをよび出しました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あねさん、姉さん、奉公しょう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この頃 あねさま
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
いましも、ふとあねが、この不思議ふしぎたかとういただきまりますと、おもいなしか、そのとう手招てまねぎするようながしたのであります。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お才さんだって、年じゃあるが、まだどうして、あねえで通る、……婆さんという見当では無い。みんな、それに、それだと顔は知っている。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾来じらい大豆右衛門、色を天下にぎよすと雖も、迷宮めいきゆうに似たる人生は容易に幸福を与ふるものにあらず。たとへば巻一の「あねの異見耳痛樫木枕みみいたいかたぎまくら
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
龍馬が常に云つていました、おれは若い時親に死別れてからはお乙女とめあねさんの世話になつて成長ふとつたので親の恩より姉さんの恩がふといつてね。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
「そうよ、あたしアラビアンナイトで見たわ」あねほそぎんいろの指輪ゆびわをいじりながらおもしろそうにはなししていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山「それは妙だ、私も敵討をしたいと思ってねえ、私はあねさんの敵だが、それじゃアお前の敵は越中高岡の坊さんかえ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なみだをかくして見出みいだせば此子このこ、おゝたともはれぬ仕義しぎなんとせん、あねさま這入はいつてもかられはしませぬか、約束やくそくものもらつてかれますか
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)