をど)” の例文
そこで今此黒塀の内へ這入らうと、はつきり思つたときには、物を盗まうといふ意志も、一しよに意識の閾の上にをどり出たのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その時彼は満足を感じた、をどり上りたい程の満足をその短い瞬間に於て思ふ存分に感じた。而して始めて外界に対して耳が開けた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
宇佐川鐵馬は小さい身體ををどらせると、苦もなく生垣を越えて、四角な顏をみにくく歪めたまま、逃げ腰乍ら一刀の鯉口こひぐちを切ります。
『や、や、あのはたは、あのふねは。』とばかり、焦眉せうびきふわすれてをどつ、わたくしいそそのほうまなこてんぜんとしたが、ときすでおそかつた。
今しも丁度裸に成つてをどり込んだお園の兄が、その向うの深みのところに浮いてゐる——衣の裾もまくれ、白い両足もあらはに
花束 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
手桶てをけつめたいみづさらした蕎麥そば杉箸すぎはしのやうにふといのに、黄蜀葵ねり特色とくしよくこはさとなめらかさとでわんからをどさうるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼寺かのてら此邸このてい、皆それ等古人の目に触れ、前の橋、うしろみちすべそれ等偉人の足跡をしるして居るのだと思へば予の胸はおのづからをどる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一寸も動かず。驚き周章あわてゝ押破らむとする和尚の背後よりをどりかゝり、左の肩より大袈裟がけに切りなぐり、板の間に引き倒ふして止刺刀とゞめを刺す。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
我胸はをどれり。こは驚のためのみにはあらず、はづかしめのためなりき。我はをぢがもろ人の前に我を辱めたりとおもひき。
自動車はゆつくり花壇の周囲まはりに輪をかいて、それから速度を早めて、をどるやうに中庭を走つて出て、街道に続く道の、菩提樹の並木の間に這入つて行く。
薔薇 (新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
すると、その女は大聲でわめくと共に身ををどらしたのです。そして次の瞬間鋪石の上に打碎かれて倒れてゐました。
別してあきれたるはあるじの妻なり。彼はおぞましからず胸のをどるを覚えぬ。同じ思は二人がおもてにもあらはるるを見るべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(臺所の被れ障子を蹴放して、助八は擂粉木すりこぎを持ちてをどり出づ。つゞいて助十は出刃庖丁でばぼうちやうを持ちて出づ。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
西の雲間に、河岸並かしなみに、きんの入日がぱつとして、群集ぐんじゆうへに、淡紅うすあかの光の波のてりかへし。今シァアトレエの廣場ひろばには、人の出さかり、馬車がをどれば電車が滑る。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
御殿場のここの駅路うまやぢ、一夜寝て午夜ごやふけぬれば、まだ深き戸外とのもの闇に、早や目ざめ猟犬かりいぬが群、きほひ起き鎖曳きわき、をどり立ち啼き立ちくに、朝猟の公達か、あな
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
激しい水瀬みづせの石の間を乗つて行つた時は私達の身体からだをどつて、船はくつがへるかと思ふほどの騒ぎをした。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見るより忽ち出で來りて浦嶋太郎の腰を掛けた岩があれで向ふのが猿が踊ををどツた古跡だなどゝ茶かした云立いひたてに一人前五厘と掴み込む田舍の道者魂消たまげた顏にて財布を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ふすま障子しやうじ縱横じうわう入亂いりみだれ、雜式家具ざふしきかぐ狼藉らうぜきとして、化性けしやうごとく、ふるふたびにをどる、たれない、二階家にかいやを、せままちの、正面しやうめんじつて、塀越へいごしのよその立樹たちきひさし
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
他の二つの場合(前にべたるものをす)も今おもひ出だし候てだに心をどりせらるゝ一種の光明、慰藉ゐしやに候へども、先日御話いたしし実験は、最も神秘的にしてまた最も明瞭に
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
夜の驚波に投ずる燈火あかり、腰蓑を濡した鵜師の休みなき動作、敏捷すばしこく潜つては浮く水鳥の影、或は水上に胸を浮べるもの、その高く銜へた嘴には魚がをどり、或は舟に上つて濡羽を震ふもの
三次の鵜飼 (新字旧仮名) / 中村憲吉(著)
湖水のみどりなるを見るより、四一うつつなき心にびて遊びなんとて、そこに衣をてて、身ををどらして深きに四二飛び入りつも、彼此をちこちおよぎめぐるに、わかきより水にれたるにもあらぬが
今飲んだ水から急に元気を得た二疋の犬は、主人達よりも一足さきに庭のなかへをどり込んだ。松の樹の根元の濃い樹かげをえらんだ二疋の犬どもは、わがもの顔に土の上へ長々と身を横へた。
大いなる傘に受くれば一しきりをどれる雨も快きかな
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
河の怒りを鎮めむものと巨大なをばをどらせて
岸破がばをどりぬ。そはなれが呻吟うめきの聲か接吻くちづけか。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
ひれふり尾ふりをどるらむ
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
いまもなほむねにぞをど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
つゞいて飛込とびこまんとする獅子しゝ目掛めがけて、わたくし一發いつぱつドガン、水兵すいへい手鎗てやり突飛つきとばす、日出雄少年ひでをせうねん素早すばやをどらして、入口いりくちとびらをピシヤン。
病人はそれを聞くと病気も忘れて床の上でをどり上つた。果てはそのすさんだ気分が家中に伝はつて、互に睨み合ふやうな一日が過ごされたりした。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
それでも猶旦やつぱりだまされぬときちひさなあなから熱湯ねつたうをぽつちりとしりそゝげばたこかならあわてゝ漁師れふしまへをどす。あつい一てきによつて容易よういたこだまされるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
早速さつそくたちばう君に五文銭一枚を与へねば成らなかつた。ゴンドラは軽くをどる様に水を切つて小さな運河へはひつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さしも願はぬ一事いちじのみは玉を転ずらんやうに何等のさはりも無く捗取はかどりて、彼がむなしく貫一の便たよりを望みし一日にも似ず、三月三日はたちまかしらの上にをどきたれるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かく思ひつゞくる程に、我心は怏々あう/\として樂まずなりぬ。忽ち鈴つけたる帽を被れる戲奴おどけやつこ、道化役者、魔法つかひなどに打扮いでたちたる男あまた我めぐりをどり狂へり。
盡し歸りがけに幸堂かうだう氏にまた止められ泥の如くなりて家に戻り明日あすは朝の五時に總勢こゝに會合すれば其の用意せよと云ふだけが確にて夢は早くも名所繪圖のうちをどり入ぬ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
をとこひざとりついて美女びぢよいてふるはすやうで、きしてさへからだがわなゝく、にくをどる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
堀は訴状を披見ひけんした。胸ををどらせながら最初から読んで行くと、はたしてきのふ跡部あとべに聞いた、あの事である。陰謀いんぼう首領しゆりやう、その与党よたうなどの事は、前に聞いた所と格別の相違は無い。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わがもとめはむなしからず、予はわが深き至情の宮居にわが神いましぬと感じて幾たびか其の光明に心をどりけむ。吾が見たる神は、最早きの因襲的偶像、又は抽象的理想にはあらざりし也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
をどりぞ過ぐれ、湯は釜に飛沫しぶきくわつくわとたぎりたる
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
されどむしろ求めてむち打たれ、その刺戟にをどる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
中空なかぞらの山けたたましをどり過ぐる火輪くわりんの響。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
最早もはやうたがこと出來できぬ、海蛇丸かいだまるいま立浪たつなみをどつて海水かいすいあさき、この海上かいじやう弦月丸げんげつまる一撃いちげきもと撃沈げきちんせんと企圖くわだてゝるのだ。
寢苦ねぐるしおもひのいきつぎに朝戸あさどると、あのとほれまはつたトタンいた屋根板やねいたも、大地だいちに、ひしとなつてへたばつて、魍魎まうりやうをどらした、ブリキくわん瀬戸せとのかけらもかげらした。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手に一條の杖を持ちたるが、これをおきなが前によこたへ、翁にをどり超えよと促すにぞありける。
隣に養へる薔薇ばらはげしくんじて、と座にる風の、この読尽よみつくされし長きふみの上に落つると見れば、紙は冉々せんせんと舞延びて貫一の身をめぐり、なほをどらんとするを、彼はしづかに敷据ゑて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたしは新しい喜悦に胸ををどらせながら
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しな二人ふたり子供こどもおもつてこゝろをどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
温柔をんにうの氣、水の如く中天ちゆうてんに流れをどつて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しゆの色の駅逓えきてい馬車ぐるまをどりゆく。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
洪水おほみづの如くをどらせ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ねつのある身體からだはもんどりをつて、もとのまゝ寢床ねどこうへにドツとをどるのがくうなげうつやうで、心着こゝろづくと地震ぢしんかとおもつたが、つめたあせたきのやうにながれて、やがてまくらについて綿わたのやうになつてわれかへつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)