新橋しんばし)” の例文
以前いぜんなにかにわたしが、「田舍ゐなかから、はじめて新橋しんばしいた椋鳥むくどり一羽いちは。」とかいたのを、紅葉先生こうえふせんせいわらひなすつたことがある。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちまち向うに見える雷門の新橋しんばしと書いた大提灯おおぢょうちんの下から、大勢の人がわいわいいって駈出かけだして来るのみか女の泣声までを聞付けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夜汽車よぎしや新橋しんばしいたときは、ひさりに叔父をぢ夫婦ふうふかほたが、夫婦ふうふとも所爲せゐれやかないろには宗助そうすけうつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
木挽町汐留こびきちょうしおどめ(いまの新橋しんばしのふきん)にある奥平おくだいらやしきにいきますと、鉄砲洲てっぽうず築地つきじ)にあるなかやしきの長屋ながやをかしてくれるということでした。
「煙突に生えた足」にも劣らぬ奇怪事が、殆ど時を同じうして、やはり銀座通りの、新橋しんばしに近いとある横町に起っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは私があの新橋しんばし停車場でわざわざ迎えに出た彼と久闊きゅうかつの手を握り合った時、すでに私には気がついていた事でした。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新橋しんばしを渡る時、発車を知らせる二番目のベルが、霧とまではいえない九月の朝の、けむった空気に包まれて聞こえて来た。葉子ようこは平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうして居られる閣下が、別の場所、例えば新橋しんばし何々家で盃を嘗め乍ら芸者と歓を共にして居るもう一人の自分が居るなどと想像する事は、余り気味の好い話では有りますまい。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
桂月様は弟御おとうとご様おありなさらぬかも存ぜず候へど、弟御様はなくとも、新橋しんばし渋谷などの汽車の出で候ところに、軍隊の立ち候日、一時間お立ちなされ候はば、見送の親兄弟や友達親類が
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ず一番先に四谷よツや金物商かなものやへ参りましたが一年程居りまして駈出かけだしました、それから新橋しんばし鍜冶屋かじやへ参り、三つき程過ぎて駈出し、又仲通なかどおりの絵草紙屋えぞうしやへ参りましたが、十で駈出しました
新橋しんばし駅(今の汐留しおどめ)へ迎いに行ったら、汽車からおりた先生がお嬢さんのあごに手をやって仰向かせて、じっと見つめていたが、やがて手をはなして不思議な微笑をされたことを思い出す。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かねて父の往診用の人力車はあったのですが、兄の帰朝のためにとまた一台新調して、出入の車夫には新しい法被はっぴを作って与えました。帰朝の日には新橋しんばしまで迎いに出すという心組こころぐみでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
高僧頭巾こそづきん肩掛かたかけひきまとひ、良人つまきみもろとも川崎かはさき大師だいし參詣さんけいみちすがら停車塲ていしやば群集くんじゆに、あれは新橋しんばしか、何處どこのでらうとさゝやかれて、奧樣おくさまともはれぬるながられをあさからずうれしうて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
木挽町こびきちょう五丁目辺の或る待合まちあいへ、二三年以前新橋しんばし芸妓げいぎ某が、本町ほんちょう辺の客をくわえ込んで、泊った事が有った、何でも明方だそうだが、客が眼を覚して枕をもたげると、坐敷のすみに何か居るようだ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
思ひまるべくもあらずとて、人々のいさむるを聞かず、叔母と乳母とに小児を托して引かるゝ後髪うしろがみ切払きりはらひ、書生と下女とに送られて新橋しんばしに至り、発車を待つ間にも如何いかになし居るやらんと
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
新橋しんばし金春こんぱる屋敷に住んだ屋根ふきで、屋根屋三右衛門が通称である。もとしばの料理店鈴木すずきせがれ定次郎さだじろうで、屋根屋へは養子に来た。わかい時狂歌を作って網破損針金あみのはそんはりがねといっていたのが、後博渉はくしょうを以て聞えた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新橋しんばしの手前までやってください。」
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正面まともなる新橋しんばし天鵝絨びろうどそらの深みに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其中そのうちやうや神戸かうべゆき新橋しんばしからた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
隨分ずゐぶん故郷こきようそらなつかしくなつたこと度々たび/\あつた——むかし友人ともだちことや——品川灣しながはわん朝景色あさげしきや——上野淺草うへのあさくさへん繁華にぎやかまちことや——新橋しんばし停車塲ステーシヨンことや——回向院ゑこうゐん相撲すまふことや——神樂坂かぐらざか縁日えんにちことや——よろづ朝報てうほう佛蘭西フランス小説せうせつことや——錦輝舘きんきくわん政談せいだん演説えんぜつことや——芝居しばゐこと浪花節なにはぶしこと
余所よその見る目もいと殊勝しゅしょう立働たちはたらきてゐたりしが、ゆえあつて再び身を新橋しんばし教坊きょうぼうに置き藤間某ふじまなにがしと名乗りて児女じじょ歌舞かぶおしゆ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御米およね善良ぜんりやうをつと調戯からかつたのを、多少たせうまないやうかんじた。宗助そうすけその翌日あくるひすぐもらつていた紹介状せうかいじやうふところにして、新橋しんばしから汽車きしやつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
汽車きしや新橋しんばし昨夜さくや九時半くじはんつて、今夕こんせき敦賀つるがはいらうといふ、名古屋なごやでは正午ひるだつたから、めし一折ひとをりすしかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きょうも、井上君のおとうさんにつれられて、いっしょに映画を見せてもらった帰りに、銀座でお茶をのんで、新橋しんばし駅のほうへ歩いていたのでした。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
父「上野うへの新橋しんばしとのあひださへ鉄道馬車があつただけなんだから。——鉄道馬車と云ふ度に思ひ出すのは……」
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
列車が新橋しんばしに着くと葉子はしとやかに車を出たが、ちょうどそこに、唐桟とうざん角帯かくおびを締めた、箱丁はこやとでもいえばいえそうな、気のきいた若い者が電報を片手に持って、目ざとく葉子に近づいた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どうしたつてえぢやアえか、昨日きのふ年始𢌞ねんしまはりだ、あさうちを出て霊南坂れいなんざかあがつて、麻布あざぶへ出たんだ、麻布あざぶから高輪たかなわへ出て、それからしばかへつてて、新橋しんばしを渡り、煉瓦通れんがどほりを𢌞まはつて神田かんだへ出て
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
百貨店の前身は勧工場かんこうばである。新橋しんばし上野うえのしばの勧工場より以前にはたつくちの勧工場というのがあって一度ぐらい両親につれられて行ったようなぼうとした記憶があるが、夢であったかもしれない。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから銀座ぎんざ通りを京橋きょうばしから新橋しんばしまで、三度ほど、行ったり来たりした。そこを通っている人たちも、まるで言葉の通じない異国人のように見えた。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大きな行李こうり新橋しんばしまで預けてあるから心配はない。三四郎はてごろなズックのかばんかさだけ持って改札場を出た。頭には高等学校の夏帽をかぶっている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしこういうごうつくばりの男の事故ことゆえ、芸者が好きだといっても、当時新橋しんばし第一流の名花と世に持囃もてはやされる名古屋種なごやだねの美人なぞに目をくれるのではない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
滝田くん最後さいごったのは今年の初夏しょか丁度ちょうどドラマ・リイグの見物日けんぶつび新橋しんばし演舞場えんぶじょうへ行った時である。小康しょうこうた滝田くんは三人のおじょうさんたちと見物けんぶつに来ていた。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女房かみさん料簡れうけんぢやあ、廓外そとて——それこそ新橋しんばしなぞは、近來きんらい吉原よしはらおの大勢おほぜいつてるから——彼處等あすこらつて待合まちあひでもすれば、一番いちばん間違まちがひいとおもつたのだが、此議これまたそのむすめ大反對だいはんたい
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
えゝはじたくを出まして、それから霊南坂れいなんざかあがつて麻布あざぶへ出ました、麻布あざぶから高輪たかなわへ出まして、それからしばかへつてて、新橋しんばしを渡り、煉瓦通れんがどほりを𢌞まはりまして、京橋きやうばしから日本橋にほんばしから神田かんだへ出ましてな
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして二人ふたりは楽しげに下宿から新橋しんばし駅に車を走らした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
新橋しんばし詰めの勧工場がそのころもあったらしい。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
封筒の消し印は新橋しんばしになっているが、そんなものはあてにならない。つまり、どっかへ、とじこめられているんだね。
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われこの草のことをば八重より聞きて始めて知りしなり。八重その頃(明治四十三、四年)新橋しんばし旗亭花月きていかげつの裏手に巴家ともえやといふ看板かかげて左褄ひだりづまとりてゐたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三浦は贅沢ぜいたくな暮しをしているといっても、同年輩の青年のように、新橋しんばしとか柳橋やなぎばしとか云う遊里に足を踏み入れる気色けしきもなく、ただ、毎日この新築の書斎に閉じこもって
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御米およねふものか、新橋しんばしいたとき老人らうじん夫婦ふうふ紹介せうかいされたぎり、つて叔父をぢうち敷居しきゐまたいだことがない。むかふからえれば叔父をぢさん叔母をばさんと丁寧ていねい接待せつたいするが、かへりがけに
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
洋行やうかうがへりの新橋しんばしのちやき/\も、おなじく糸崎いとざきらなかつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
吾々は今日の新橋しんばしに「ほり小万こまん」や「柳橋やなぎばし小悦こえつ」のやうな姿を見る事が出来ないとすれば、其れと同じやうに、二代目の左団次さだんじと六代目の菊五郎きくごらうに向つて
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして夜は、新橋しんばしあたりのバーのスタンドに、三人が肩をならべて、洋酒に酔うこともあった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一游亭いちいうていと鎌倉より帰る。久米くめ田中たなかすが成瀬なるせ武川むかはなど停車場へ見送りにきたる。一時ごろ新橋しんばし着。直ちに一游亭とタクシイをり、聖路加せいろか病院に入院中の遠藤古原草ゑんどうこげんさうを見舞ふ。
私はそのうち先生の留守に行って、奥さんと二人差向さしむかいで話をする機会に出合った。先生はその日横浜よこはま出帆しゅっぱんする汽船に乗って外国へ行くべき友人を新橋しんばしへ送りに行って留守であった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はその翌日の朝新橋しんばしに着き人力車じんりきしゃで市ヶ谷監獄署の裏手なる父の邸宅へ送り込まれました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すこし散歩しようというので、ふたりは銀座通りに出て新橋しんばし駅のほうへ歩いていきました。
宇宙怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人にれられて彼を新橋しんばしに迎えたこの娘は、久しぶりに父の顔を見て、もっと御父おとうさまかと思ったとはたのものに語った如く、彼女自身の容貌もしばらく見ないうちに悪い方に変化していた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて旧臘きゅうろう以来種々御意匠をわずらはし候赤坂豊狐祠畔あかさかほうこしはんの草庵やつと壁の上塗うわぬりも乾き昨日小半こはん新橋しんばし
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新橋しんばしの大通りにある、玉宝堂ぎょくほうどうという宝石店にふしぎな事件がおこりました。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)