ひき)” の例文
ここで按摩が殺す気だろう。構うもんか、勝手にしろ、似たものをひきつけて、とそう覚悟して按摩さん、背中へつかまってもらったんだ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さかなの食べたがる物ですよ、それを針の先へつけて、水の中へ入れて置くと、さかなが来て食ひつく、食ひつくところひきあげるの。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
それにひきかえてこういう貧しい裏町に昔ながらの貧しい渡世とせいをしている年寄を見ると同情と悲哀とに加えてまた尊敬の念を禁じ得ない。
さも満足そうな顔をしていたにひきかえ、不思議なことに、謎を解いた明智の方が、何ともいえぬ、困惑の色を浮かべているのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おこよ源三郎をひきさらって遠く逃げられました故、深見新左衞門はなさけなくも売卜者の為に殺されてお屋敷は改易かいえきでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見物かたがた飲食に出掛ける人ひきも切らずと来た。ところが、ダヴッドの妻、怪しかる飲んだくれでしばしばなぐってもあらたまる気遣いなし。
浅黄絖あさぎぬめひきかえしに折びろうどの帯をしめ、薄色の絹足袋きぬたびをはいた年増としま姿は、又なくえんに美しかった。藤十郎は、昔から、お梶を知っている。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
白髪しろが頭にふちの垂れた黒い帽をて紅い毛糸のぶくぶくした襯衣しやつに汚れた青黒い天鵞絨ビロウド洋袴パンタロン穿き、大きな木靴をひきずつて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
たちなんかとはなしてゐると三人の位置いちひき玉にかんがへられたり、三つならんだちや碗の姿すがたおも白いおし玉の恰好かつこうに見※たりする。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
衆徒は驚いて、こは何事と増賀をひき退さがらせようとしたが、増賀は声をはげしくして、僧正の御車の前駈さきがけ、我をさしおいて誰が勤むべき、と怒鳴った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
師弟の情誼じょうぎのうるわしさは、あるおり、夏子に恥をかかせまいとして、歌子は小紋ちりめんの三枚重ねのひきときを、表だけではあったが与えもした。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「そりやさうと、さけどうしたえ」小柄こがらぢいさんはひよつと自在鍵じざいかぎまゝ土瓶どびんもとへひきつけて、そこてゝた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たとえんであろうと、ひきずってもれてかねばならぬという、つよ意地いじ手伝てつだって、荒々あらあらしくかたをかけた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今はこれまでと覚悟した天魔太郎、野州の熊五郎のはいっている独房のカギをあけて、嵐の中へひきだすと、早くもとびつく二人三人の組子を投げとばし
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
温泉は雲仙の白濁色にひきかえて、無色透明、浴場も清潔なのでり心地がよい。ここには四十余の旅館があり別府浜脇のごとく木賃制度が行われておる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
さて昨日きのふ雪吹倒ふゞきたふれならん(里言にいふ所)とて皆あつまりて雪をほり死骸しがいを見るに夫婦ふうふひきあひて死居しゝゐたり。
左りに云ぬけんと爲る共二十日のあさ其方が衣類のすそ血汐ちしほひき其上おのれが紙入藤八よりの手紙が入てありしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
早くも馳けつけた青年団の連中が、その車の下から、一人の男をひきずり出しているところであった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ところがブッおれたと見ると直ぐに、兄イれん舷側ふなばたひきずり出して頭から潮水しおみずのホースを引っかけて、尻ペタを大きなスコップでバチンバチンとブン殴るんだから
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旅廻りは言ふまでもない事、の市村座興行も余り気乗がしない、座方ざかたの都合でたつて顔を出さなければならない場合でも、端役はやくの外は決してひきうけようとは言はない。
額に水平にピストルの筒を当ててひきがねを引けばよかったものを、奇を好んで、てっぺんから垂直に打ちこんだため、弾丸たまは脳の中へはいって、笑いの中枢をおかしただけで
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
同役の一人はその人俵をずるずると引摺ひきずって水際みずぎわの方へ往った。そこにはたくさんのたきぎを下敷にした上に二三十の人俵が積んであった。老人の人俵もその上にひきあげられた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
下界の人は山頂も均しく長閑のどかならんと思うなるべし、の三保の松原に羽衣はごろもを落して飛行ひぎょうの術を失いし天人てんにんは、空行くかりを見て天上をうらやみしにひきかえ、我に飛行の術あらば
生命いのち一つを繋ぎ兼ねるものがごろごろ幾何いくらあるか知れない、悪いことをした罰では決してない、天災というものは、例えば貴下のような正直ものでも用捨なくひきさらうのだから
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それにひきかえ父というのは、何か思い入ると大きい黒い瞳がじっと凝って来て、間違ったことは許さぬという代りに相手をかばえばどこまでも庇い切る一徹さを備えた人でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
己が娘に己が貰った婿ながら、気が合わぬとなれば仇敵より憎く、老夫婦としよりふうふは家財道具万端好いものはみなひきたくる様にして持って出た。よく実る柿の木まで掘って持って往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たとひある一二のいへ潰倒くわいたうしても、ひきつゞいて火災くわさいこしても、それはほとん問題もんだいでない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
先生のみか世人よのひとおどろかすもやすかるべしと、門外もんぐわい躊躇ちうちよしてつひにらず、みちひきかへて百花園くわゑんへとおもむきぬ、しん梅屋敷うめやしき花園くわゑんは梅のさかりなり、御大祭日ごたいさいびなれば群集ぐんしふ其筈そのはずことながら
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
おまけにリノへ着いたら、明日は午前中と午後と二回、工学部の河川や積雪水量関係の人たちにクラス講義をして、ひきつづいて夜は公開講演という手順になっていると申し渡された。
ネバダ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
文吾は良子の肩をやさしくひきよせながら、鹿島社長の方へ振りかえって云った。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はとっさに身替みがわりになるような心持でひきとって答えて、つかつか往来に出た。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ヅーフ部屋と云う字引のある部屋に、五人も十人もぐんをなして無言で字引をひきつゝ勉強して居る。夫れから翌朝よくあさの会読になる。会読をするにもくじもっ此処ここから此処までは誰とめてする。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「船が、おそろしい潮流に乗ったのです。魔海の底にひきずられて往きます」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
教の人における、一日もなかるべからず。飽食・暖衣・逸居いっきょして教なきは、禽獣に近し。教の政における、そのいつなり。われきく、文明の国たる、王家大礼あれば必ず教師をひきてこれをつかさどらしむ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
彼等は、大いそぎで、この火事を森の中の動物に知らせに行くには誰が一番いいだろうかと、相談しました。その結果、ついにこの間の競走で勝った亀が、その役目をひきうけることになったのです。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
百果報もゝがほうのあんで、みすゞりのあもの、心ある者や、御主おしゆ加那志がなし御為おだめ御万人おまんちよために、いのちうしやげらば、おややだによ、ひきはらうぢまでもおのそだてめしやいる、おほ事拝ごとをがで、高札たかふだしるち、道側みちばたに立てゝ
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
そこからどんな論理や哲学をひきずり出そうというのだ
こうして主人が帰ったからは、お前は手をおひき
さるひきの猿と世をる秋の月 蕉
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そういってひきとらした。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
朱鷺色ときいろ扱帶しごきふので、くだん黒髯くろひげおほきなひざに、かよわく、なよ/\とひきつけられて、しろはな蔓草つるくさのやうにるのをた。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
深山木幸吉のいやなくせの思わせぶりに、いい気になってひきずられている様子を見て、きっとじれったく思っていらっしゃることでしょう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひき越して五六日間は板を買つて来て棚を彼処此処あちらこちらに附けるのも面白いし、妻が瓦斯ぐわす煮沸にたきをするのを子供等と一緒に成つて珍らしさうに眺めたり
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
くろおほかみ最惜いとをしげもなくひきつめて、銀杏返いてうがへしのこはれたるやうに折返をりかへ折返をりかへ髷形まげなりたゝみこみたるが、大方おほかたよこりて狼藉らうぜき姿すがたなれども
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老夫らうふむしろはしに坐し酒をゑみをふくみつゞけて三ばいきつ舌鼓したうちして大によろこび、さらば話説はなし申さん、我廿歳はたちのとし二月のはじめたきゞをとらんとて雪車そりひきて山に入りしに
彼等かれら途次みちみちさわぐことをめないで到頭たうとう村落むら念佛寮ねんぶつれうひきとつた。其處そこにはこれ褞袍どてらはおつた彼等かれら伴侶なかま圍爐裏ゐろり麁朶そだべてあたゝまりながらつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
せぬ故に果してばけかはあらはしいま捕押とりおさへたるはよき氣味なりと咄すを聞て家内の者共然樣さやうの御連にてありしか何にしても不屆なやつひきずり出してたゝきのめせと立騷たちさわぐを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はばかりながら、いったんおひきもうしやした正直しょうじききち、お約束やくそくたがえるようなこたァいたしやせん」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここにいう青年南郷綾麿なんごうあやまろは、百観音の中のたった一体、幕末の頃江戸伝馬町四丁目に住んでいたという、名仏師天狗長兵衛てんぐちょうべえの彫った観音様にひきずられて、雨の日も風の日も