天然てんねん)” の例文
あれより外に自慢するものは何もない。所が其富士山は天然てんねん自然しぜんむかしからあつたものなんだから仕方がない。我々われ/\こしらへたものぢやない
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それからおしてもここはかなりの高地にちがいないが、この山そのものがあたかも天然てんねんの一城廓じょうかくをなして、どこかに人工のあとがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げいも又みるたれり。寺岡平右ヱ門になりしは客舎かくしやにきたる篦頭かみゆひなり、これも常にかはりて関三十郎に似て音声おんせいもまた天然てんねんと関三の如し。
すなわち土俵を作り、それを標準とするが、この土俵なるものは天然てんねんに定まれる一定不易ふえきけんでなく、人為的に仮りに定めたるに過ぎぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたくしいそいでいわからりてそこへってると、あんたがわず巌山いわやまそこに八じょうじきほどの洞窟どうくつ天然てんねん自然しぜん出来できり、そして其所そこには御神体ごしんたいをはじめ
天然てんねん細工さいく流々りゅうりゅう、まことに巧妙こうみょうというべきではないか。こうなると他家結婚ができ、したがって強力な種子が生じ、子孫繁殖しそんはんしょくには最も有利である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
まるで天然てんねんの万里の長城のようなヒマラヤ山脈を越え、チベットやネパールやブータンの国々の間をぬい
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゑりもとばかり白粉おしろいえなくゆる天然てんねん色白いろじろをこれみよがしにのあたりまでむねくつろげて、烟草たばこすぱ/\長烟管ながぎせる立膝たてひざ無作法ぶさはうさもとがめるひいのなきこそよけれ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
温泉いでゆまちの、谿流けいりうについてさかのぼると、双六谷すごろくだにふのがある——其処そこ一坐いちざ大盤石だいばんじやく天然てんねん双六すごろくられたのがるとふが、事実じじつか、といたのであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
以前いぜんのやうに天然てんねん肥料ひれうることがいまでは出來できなくなつてしまつた。何處どこはやしでも落葉おちばくことや青草あをぐさることがみなぜに餘裕よゆうのあるものゝしてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人類じんるいまへべましたとほり、なが年月としつきいしをもつて器物きぶつつくつて、金屬きんぞく使用しようすることをらなかつたのでありますが、そのあひだおのづと天然てんねんいしあひだ混入こんにゆうしたり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かくのごときは人工の美にして天然てんねんの美にあらず、谷深き山路に春を訪ね花を探りて歩く時流れをへだつるかすみおくに思いも寄らず啼き出でたる藪鶯の声の風雅ふうがなるにかずと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
天然てんねん設計せっけいによる平衡へいこうみだす前には、よほどよく考えてかからないと危険きけんなものである。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
が、世間の思っているように岩山ばかりだったわけではない。実は椰子やしそびえたり、極楽鳥ごくらくちょうさえずったりする、美しい天然てんねん楽土らくどだった。こういう楽土にせいけた鬼は勿論平和を愛していた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地球面の人類、その数億のみならず、山海さんかい天然てんねん境界きょうかいへだてられて、各処かくしょに群を成し各処に相分あいわかるるは止むを得ずといえども、各処におのおの衣食の富源ふげんあれば、これによりて生活をぐべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伊太利亜イタリアに固有の紅色あり。これ旅行者の一度ひとたびその国土に入るや天然てんねんと芸術との別なく漫然として然も明瞭に認むる所なり。一国の風土は天然と人為とを包合ほうごうして必ずここに固有の色を作らしむ。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それがふるくから火事かじかれたり、をのられたりして、天然てんねんにあつたそれ樹木じゆもく大抵たいていえてなくなつてしまひ、つひに今日こんにちるような茫々ぼう/\として、はてしもないような草原くさはらになつたのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
此塲このば光景くわうけいのあまりに天然てんねん奇體きたいなので、わたくし暫時しばし此處こゝ人間にんげんきやうか、それとも、世界せかいぐわいある塲所ばしよではあるまいかとうたがつたほどで、さらこゝろ落付おちつけてると、すべての構造こうざうまつた小造船所せうざうせんじよのやうで
「ヤ、相手が珍報社の丸井隠居ぢや、これこそ天然てんねん滑稽こつけいぢや」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かけあげなと言れてハイと答へなし勝手口かつてぐちより立出るは娘なる年齡としのころまだ十七か十八こうまつの常磐のいろふかき緑の髮は油氣あぶらけも拔れどぬけ天然てんねん美貌びばうは彌生の花にも増り又中秋なかあき新月にひづきにもおとらぬ程なる一個の佳人かじん身にはたへなる針目衣はりめぎぬ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
先年凡僧ぼんそうこゝに住職し此石を見ておそ出奔しゆつほんせしによく他国たこくにありて病死せしとぞ。おもふに此淵にれいありて天然てんねんしめすなるべし。
それは天然てんねん白砂はくさをばなにかでほどよくかためたとったような、心地ここちで、足触あしざわりのさともうしたら比類たぐいがありませぬ。
この一時にかんがみても男子は女子を保護するの義務が天然てんねんに備わっていると思われる。ゆえに男一匹に欠くべからざる要素は女性に対して保護者となるにある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いやしくも未来みらい有無うむ賭博かけものにするのである。相撲取草すまうとりぐさくびぴきなぞでは神聖しんせいそこなふことおびたゞしい。けば山奥やまおく天然てんねん双六盤すごろくばんがある。仙境せんきやうきよくかこまう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此處こヽ一つに美人びじん價値ねうちさだまるといふ天然てんねん衣襟えもんつき、襦袢じゆばんえりむらさきなるとき顏色いろことさらしろくみえ、わざ質素じみなるくろちりめんに赤糸あかいとのこぼれうめなどひん一層いつそう二層にそうもよし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こんな罪のない、つ美点に満ちた植物は、他の何物にも比することのできない天然てんねんたまものである。実にこれは人生の至宝しほうであると言っても、けっして溢言いつげんではないのであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
まもなくけわしいのぼりにかかって、ややしばらくいくと、一の洞門どうもんがあった。つづいて二の洞門をくぐると天然てんねん洞窟どうくつにすばらしい巨材きょざいをしくみ、綺羅きらをつくした山大名やまだいみょう殿堂でんどうがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
Cocked hat と云うのであろう。銀のふちのある帽子ぼうしをかぶり、刺繍ぬいとりのある胴衣チョッキを着、膝ぎりしかないズボンをはいている。おまけに肩へ垂れているのは天然てんねん自然の髪の毛ではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このゆえ天然てんねんにあれ、人事にあれ、衆俗しゅうぞく辟易へきえきして近づきがたしとなすところにおいて、芸術家は無数の琳琅りんろうを見、無上むじょう宝璐ほうろを知る。俗にこれをなづけて美化びかと云う。その実は美化でも何でもない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
げいも又みるたれり。寺岡平右ヱ門になりしは客舎かくしやにきたる篦頭かみゆひなり、これも常にかはりて関三十郎に似て音声おんせいもまた天然てんねんと関三の如し。
四邊あたりぐらす花園はなぞのあきかんむしのいろ/\、天然てんねん籠中ろうちうおさめてつきこゝろきゝたし、さてもみのむしちゝはとへば、月毎つきごとの十二そなゆる茶湯ちやとうぬしそれはゝおなじく佛檀ぶつだんうへにとかや
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先年凡僧ぼんそうこゝに住職し此石を見ておそ出奔しゆつほんせしによく他国たこくにありて病死せしとぞ。おもふに此淵にれいありて天然てんねんしめすなるべし。
としはゞ二十六、おくざきはなこづゑにしぼむころなれど、扮裝おつくりのよきと天然てんねんうつくしきと二つあはせて五つほどはわかられぬるとくせう、お子樣こさまなきゆゑ髮結かみゆひとめひしが、あらばいさゝか沈着おちつくべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山々の雪は里地さとちよりもきゆる㕝おそけれども、春陽しゆんやう天然てんねんにつれて雪解ゆきげに水まして川々に水難すゐなんうれひある事年々なり。
山々の雪は里地さとちよりもきゆる㕝おそけれども、春陽しゆんやう天然てんねんにつれて雪解ゆきげに水まして川々に水難すゐなんうれひある事年々なり。