さへぎ)” の例文
さくらうらを、ぱつとらして、薄明うすあかるくかゝるか、とおもへば、さつすみのやうにくもつて、つきおもてさへぎるやいなや、むら/\とみだれてはしる……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かたはらなるバルザツク忽ちその語をさへぎつて云ひけるは、「君の我等に伍せんとするこそ烏滸をこがましけれ。我等は近代文芸の将帥しやうすゐなるを」
日は林にさへぎられる様になつた。四人で生前の追想談などして居ると、平七を始め四五人連立つて骨拾ひに来た。其中に骨が上つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あやまるなんて」と三千代は声をふるはしながらさへぎつた。「わたくし源因もと左様さうなつたのに、貴方あなたあやまらしちやまないぢやありませんか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちには色々の事にさへぎられて何日となく中絶してゐた英語の獨修を續ける事や、最も好きな歴史を繰返して讀む事や、色々あつたが
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何といふ不思議であらう! その人影は、明るい月夜のなかで、目をさへぎるものもない野原のなかで、忽然と形が見えなくなつた。
今しも三人の若者が眼をいからし、こぶしを固めて、いきほひまうに打つてかゝらうとして居るのを、傍の老人がしきりにこれをさへぎつて居るところであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
貴婦人は差し向けたる手をしかと据ゑて、目をぬぐふ間もせはしく、なほ心を留めて望みけるに、枝葉えだはさへぎりてとかくに思ふままならず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されど我胸にはたとひいかなる境に遊びても、あだなる美観に心をば動さじの誓ありて、つねに我を襲ふ外物をさへぎり留めたりき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いづれの家にても雪は家よりもたかきゆゑ、春をむかふる時にいたればこゝろよく日光ひのひかりを引んために、あかしをとる処のまどさへぎる雪を他処へ取除とりのくるなり。
其壁そのかべして、桑樹くはのき老木らうぼくしげり、かべまがつたかどには幾百年いくひやくねんつか、うつとして日影ひかげさへぎつて樫樹かしのき盤居わだかまつてます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「まあ、あんた……そないに一々やつて下さんすな……これ……。」と老母はそれと見て取つて仰山ぎやうさんさへぎつても駄目だつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
いつも両側のよごれた瓦屋根かはらやね四方あたり眺望てうばうさへぎられた地面の低い場末ばすゑ横町よこちやうから、いま突然とつぜん、橋の上に出て見た四月の隅田川すみだがは
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
れが月光げつくわうさへぎつてもみ木陰こかげいちじるしくつて、うごかすたびに一せいにがさがさとりながらなみごとうごいて彼等かれら風姿ふうしへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あの頃のことをこの上もう云はないで下さい。」と私はさへぎつた。眼からはひそかな涙がはら/\とこぼれた。彼の言葉は私には苦痛であつた。
お杉はあわてて清吉をさへぎりましたが、自分の身にふりかゝる恐ろしい疑ひに壓倒されて、ろくに口もきけない樣子です。
「本当によして頂戴」常子はそれを見て鶴子の手をさへぎつた。「女中におまかせなさいよ。みんな手がすいてるぢやないの」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
老女は手もて之ぞさへぎり「なんの先生、貴郎あなたに奥さんのお出来なさる迄は婦人会の方で及ばずながら御世話しようツて、皆さんの御気込おきごですから——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「それは分つてゐます。」と、武井がさへぎつた。「長明の思想は佛教の輪𢌞説りんねせつの影響を受けた厭世思想だと思ひます。 ...
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
品物しなものばかりならてたつてなんやくつか?』と海龜うみがめさへぎつて、『いくつても説明せつめいしないから。こんなに錯雜紛糾ごたくさしたことをいたことがない!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さうして胚種はいしゆの通りすがりに、おまへは之を髮に受けとめる、おまへは風と花とをさへぎらうとして張りつめたあみだ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それで内部ないぶいろのあるえきふくんで、そのつよひかりさへぎるわけで、つまり若葉わかば自分自身じぶんじしん保護ほごをするのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
『だから土屋君は困るよ。』と丑松は対手あひての言葉をさへぎつた。『何時いつでも君は早呑込だ。自分で斯うだと決めて了ふと、もう他の事は耳に入らないんだから。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むかひ側がすぐき附けのカフエエに成つて居る。これが為に幾台かの自動車が少時しばらく交通をさへぎられる騒ぎであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
請ふ我等に告げよ、汝未だ死のあみの中に入らざるごとく、身を壁として日をさへぎるはいかにぞや。 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
『たゞ無用むようなる吾等われらが、いたづらに貴下等きからわずらはすのをうれふるのみです。』とかたると、大佐たいさいそそのげんさへぎ
以て久八助命じよめい仰せ付られ下し置れ候樣ひとへに願ひ上奉つり候と頻りに繰返し/\願ひ立ける程に有合一同の者共昨日迄何とも言ざりし吉兵衞がにはかにさへぎつて助命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
村ざかひに鹿のねてゐたといふのも森林が筑波山に續いてゐた事實じじつを語るものである。私達の七つ八つの頃は立ち覆ふ大木にさへぎられて小貝川の堤が見えなかつた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
一同みんなは驚いて箸を止めたが、それは竹丸が一番先きに食事を濟まして、母の眼界からのがれ去らうとする時、自分の身體で母の眼と一同の食膳との間をさへぎつたのであつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ロミオ あの石垣いしがきは、こひかるつばさえた。如何いか鐵壁てっぺきこひさへぎることは出來できぬ。こひほっすれば如何樣どのやうことをもあへてするもの。そもじうち人達ひとたちとてもわしとゞむるちからたぬ。
海と市街まちとの間に屏風のやうな山がぬつと衝立つゝたつてゐるので、凉しい海の風はそれにさへぎられて吹いて来ず、夏になると、市街まちの人はフライ鍋でりつけられる肉のやうに
(譯者云。カインは亞當アダムが第一の子にして、弟を殺して神に供へき。)この間幾時をか經たる、知らず。わが足をとゞめしは、黄なるテヱエルの流の前をさへぎるを見し時なりき。
精霊の思想は以て幽霊の新題目を文学に加ふるところありしと雖、一方に於ては輪転あり、無常あり、寂滅あり、以て人間の思慕を截断せつだんし、幽奥なる観念をさへぎるに足りしなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
沼猶えず、又次の高山にのぼなほえず、くしてつゐ最高さいこうの山にのぼる、欝樹猶眼界をさへぎる、衆大にくるし魑魅りみまどはす所となりしかを疑ふ、喜作ただちに高樹のいただきのぼり驚て曰く
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
叩きつける雨の勢ひは、さへぎるものにあたつてはじきかへされ、白い霧になつてゐる。
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「もう沢山だ。」私は幾らか本気で、かうさへぎらざるを得なかつた。が、内心では彼等にかう揶揄からかはれる事につて、私も一人前の遊蕩児になつたやうな気がして、少しは得意にもなつてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「私は貴方にお詫びします。私は生意氣でした。金策の宛もないのに、無暗に意張つて、貴方の折角の決心をさへぎつた。もう貴方の自由に任せませう。どうならうとも私は異議がありません。」
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
伊留満喜三郎 (菊枝をさへぎり)見やれ、こりや神罰ぢや。南蛮寺の罰ぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
厚い黒雲が空を蔽うて日光をさへぎつた。太陽コンパスはもう役に立たない。頼るのはたゞ地磁気のコンパスだけである。夕方になると、頭上には密雲が厚く重なり、足下には濃霧が渦巻いてゐる。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
猶之が為に殺さると、の宗教の名を以て、世に行はるゝ虚礼、空文はいづくんぞ基督教の獅身虫にあらざらんや、それ藩籬は以て侵叛を防げども之が為に其室内の玲瓏れいろうさへぎるべし、世の所謂神学なるもの
と、院長ゐんちやう突然だしぬけにミハイル、アウエリヤヌヰチのことばさへぎつてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
コノ時暴風進路ヲさへぎリテ船危ク、すなはチかつど岬ニ還リテソノ付近ノぷろゐんすたんニ難ヲ避ケヌ——今ヤ殖民地ノ位置ヲ選択スルコト何ヨリモ急ニ、探険隊ノ相分レテソノ捜索ニ従事スルコト五週間
と、直人は、静かにさへぎつて、ごくりと唾をのみ込んだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
さへぎりそれでは御存ごぞんじのきならん父御てゝごさまとあにとのなかにおはな成立なりたつておまへさまさへ御承知ごしようちならば明日あすにも眞實しんじつ姉樣あねさまいやか/\おいやならばおいやでよしと薄氣味うすきみわろきやさしげのこゑうそまことあまりといへばあまりのこと
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、かへるがそれをさへぎつて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
空わたる日をさへぎりぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぱうくさばかりで、さへぎるものはないから、自動車じどうしやなみてゝすなしり、小砂利こじやりおもてすさまじさで、帽子ぼうしなどはかぶつてられぬ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いづれの家にても雪は家よりもたかきゆゑ、春をむかふる時にいたればこゝろよく日光ひのひかりを引んために、あかしをとる処のまどさへぎる雪を他処へ取除とりのくるなり。
北は京橋通の河岸かしで、書院の庭から見れば、対岸天満組の人家が一目に見える。たゞ庭の外囲ぐわいゐに梅の立木たちきがあつて、少し展望をさへぎるだけである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かくて彼が世界の大帝王に希求する所は、たゞ其暖かき日光をさへぎるなからむ事のみなりき。彼は運命を戦へり、戦つてしかして運命を超越せり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)