)” の例文
旧字:
母親のおとよ長吉ちやうきち初袷はつあはせ薄着うすぎをしたまゝ、千束町せんぞくまち近辺きんぺん出水でみづの混雑を見にと夕方ゆふがたから夜おそくまで、泥水どろみづの中を歩き𢌞まはつために
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かたがたわたくしとしてはわざとさしひかえてかげから見守みまもってだけにとどめました。結局けっきょくそうしたほうがあなたのめになったのです……。
莫迦ばかなことを云っちゃ嫌だわ。そんな事誰がするもんですか。妾には何のめか分らないけれど、あんた今夜は嘘をついてるわね。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わずかな原因ですぐ陥った一つの小さな虚偽のめに、二つ三つ四つ五つと虚偽を重ねて行かねばならぬ、その苦痛をも知っている。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
夫に死なれために、険しいさびしい性格になつて常に家庭の悲劇を起した母も死んだ。むづかしい母親の犠牲になつた兄も死んだ。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その帆前船にのって太平海を渡るのであるから、それは/\毎日の暴風で、艀船はしけぶね四艘しそうあったが激浪げきろうめに二艘取られて仕舞しまうた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すなわちかく解釈するとめにその歌が初めて生きて来て、その歌句がよく実況と合致し何等その間に疑いを挟む余地はないこととなる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
子供が軽快に遊戯するめの服装で無く、母親が子供を自分の玩具おもちやにしたり他人に見せ附けたりする為にこてこてと着飾らせるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「夜深うしてまさに独りしたり、めにかちりとこを払はん」「形つかれて朝餐てうさんの減ずるを覚ゆ、睡り少うしてひとへに夜漏やろうの長きを知る」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
怜悧れいりに見えても未惚女おぼこの事なら、ありともけらとも糞中ふんちゅううじとも云いようのない人非人、利のめにならば人糞をさえめかねぬ廉耻れんち知らず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
肩に背負つた風呂敷包には、二宮金次郎の道徳のやうな、格安で、加之おまけに「おめのいい」石鹸しやぼん白粉おしろいがごたごたくるまれてゐた。
嵯峨の怪猫伝かいびょうでんの講談をはじめて読んだのは十ぐらいの時であった。父が厳格で頑固のめに、講談小説の類を読む事を絶対禁止されていた。
怪談 (新字新仮名) / 平山蘆江(著)
何とかいう様な所謂いわゆる口惜くやしみの念ではなく、ただ私に娘がその死を知らしたいがめだったろうと、附加つけくわえていたのであった。
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
かの女は咄嗟とっさの間に、おならの嫌疑けんぎを甲野氏にかけてしまった。そしてそのめに突き上げて来た笑いが、甲野氏への法外ほうがい愛嬌あいきょうになった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
若し水面より、低いとすると、満潮のめ、海水が侵入すれば、外の海面と平均するまでは、ドシドシ水嵩みずかさが増すに相違ない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
念のめ、行人をとらえてその使つかいすべき家がそれであることを確めると、彼は勇敢にも、その式幕を潜って表玄関に達した。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
そして可笑をかしい事には、をりをりは何のめにかうしてしやがんでゐるかといふことを、丸で忘れてしまつてゐるのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「昨日は一刻のひまをぬすみ、東風子にトチメンボーの御馳走ごちそうを致さんと存じ候処そろところ生憎あいにく材料払底のめ其意を果さず、遺憾いかん千万に存候ぞんじそろ。……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此度このたび 英照皇太后陛下えいせうくわうたいごうへいか御大喪ごたいさうきましては、日本国中にほんこくぢう人民じんみん何社なにしやでも、総代そうだいとして一めいづゝ御拝観ごはいかんめに京都きやうとへ出す事に相成あひなりました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
この大学生は東京とうきょうに在学中、その郷里の家が破産をして、そのめ学資の仕送りも出来ないようなわけになって、大変困る貧窮ひんきゅうなことになった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
由来国軍は外敵に対して我が国土を防衛する任務を課せられて、国軍あるがめに国民は自ら武器を捨て、安んじて国土の防衛をたくしたのである。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
年季職人ねんきしよくにんたいを組みて喧鬨けうがうめに蟻集ぎしうするに過ぎずとか申せば、多分たぶんかくごと壮快さうくわいなる滑稽こつけいまたと見るあたはざるべしと小生せうせい存候ぞんじそろ(一七日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
けれどもそれからは皆尾がなくなりましたので、悪魔の姿は大変人間にまぎらはしくなり、そのめ愚な人間は悪魔と友達になつて堕落しました。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
前の日まで中気で寝ていた源さんは、その日無理をして仕事に出ため工場であやまって右腕に肉離れをしてしまったのです。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
え、証人が倉「はい有ります、御存ごぞんじの通り一昨夜はいつもより蒸暑くてそれにリセリウがい所天おっとに分れうちまで徒歩あるいて帰りましため大層のどが乾きまして、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
索引さくいんは五十おんわかちたり、読者どくしゃ便利べんり正式せいしき仮名かなによらず、オとヲ、イとヰ、のるいちかきものにれたり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一月十日 午前運動のめ亀井戸までゆき。やや十二時すぐる頃かえって来ると。妻はあわてて予を迎え。今少し前に巡査がきまして牛舎を見廻みまわりました。
牛舎の日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
例えば他人ひとから預っておいた彫刻品が、気候のめに欠損きずが出来たとかいう様な、人力じんりょくでは、如何どうにも致方しかたの無い事が起るのである、このはなしをすると
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
およそ其半なるをたしかめたり、利根山奥は嶮岨けんそひとの入る能はざりしめ、みだりに其大を想像さう/″\せしも、一行の探検に拠れば存外ぞんぐわいにも其せまきをりたればなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
癸未みづのとひつじ、皇后体不予みやまひしたまふ。すなはち皇后のめに誓願こひねがひて、初めて薬師寺をつ。りて一百の僧をいへでせしめたまふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
去り正しき道に入らしむるのしおりとするめなれば事の虚実はまれかくまれ作者の心を用うる所の深きを知るべし
怪談牡丹灯籠:02 序 (新字新仮名) / 総生寛(著)
しかるに貴様あなたさまとの関係と同じく矢張やはり男の家で結婚を許さない、そのめ男はつひに家出して今は愛宕町あたごちやう何丁目何番地小川方をがはかたに二人して日蔭者ひかげもの生活くらしをして居る。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたしは世の中へ迷惑をかけないで暮して行くと云ふことが世の中のめだと思つて居るよ。自身で食べる物を作つて私は自分やおまへ達の着物を織つて居ます。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
九月十九日 大連だいれんの吉田弧岳、亡妻三周年の忌日も内地に帰れず事変のめ足留めをくひ居れり、亡長男の七周年忌日が丁度子規忌当日なりと申越しければ。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
私がそこへ行くと、「本郷から、大変でしたね……」と、人のいい床屋のお上さんは店からアンペラを持って来て、私のめに寝床をつくってくれたりした。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
熔岩ラバーもって閉じために、ここに秋元湖しゅうげんこ檜原湖と称する、数里にわたる新らしい湖を谿谷けいこくの間に現出した、その一年後のことであるから、吾々の眼にふるるところ
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「壮快々々。一番片岡君のめ祝宴を開いて万歳まんざいを称へやう、」と伊勢武熊は傲然として命令するやうに
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
すると奇妙なことに、その子に肛門がないので、それがめ、生れて三日目の朝、ついに死んでしまった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「ではわたしだちは何のめに此処にいるんでございましょう。わたしにはそれすら分らないんです。」
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「いえナニ、そういう訳じゃないんですが、……いつまた誰がこのお邸に来て、あの人を見つけるかしれませんからねえ。そうなるとあの人のめになりませんよ」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
れば先生のかんがえにては、新聞紙上に掲載を終りたる後、らにみずから筆をとりてその遺漏いろうを補い、又後人の参考のめにとて、幕政の当時親しく見聞したる事実に
「前線は敵のめ占領されました。×中隊ならびに、×中隊は全員が負傷の様子であります……」
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
女鳥めとりの わがおおきみのおろす機。ねろかも——、御存じ及びでおざりましょうのう。昔、こう、機殿のまどからのぞきこうで、問われたお方様がおざりましたっけ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
の武者は悠々ゆうゆうとして西の宮の方へいってしまったが、何がめに深夜こんな形相ぎょうそうをして、往来をするのか人間だろうか妖怪だろうか、思えば思うほど、不審が晴れぬと語りしは
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
元来女の性質は単純シンプルな物事に信じ易いものだから、尚更なおさらこういうことが、いちじるしく現われるかもしれぬ。それがめか、かの市巫いちこといったものは如何いかにも昔から女の方が多いようだ。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
それは冗談じようだんであるけれども、さういふ風に人物なり事件なりが予定とちがつて発展をする場合、ちがつために作品がよくなるか、わるくなるかは一概いちがいに言へないであらうと思ふ。
まくらしたや、寐台ねだいのどこかに、なにかをそッとかくしてく、それはぬすまれるとか、うばわれるとか、気遣きづかいめではなくひとられるのがはずかしいのでそうしてかくしてものがある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たまごとかたに、やなぎごと黒髪くろかみよ、白百合しろゆりごとむねよ、と恍惚くわうこつわれわすれて、偉大ゐだいなるちからは、つくらるべき佳作かさくむがめ、良匠りようしやう精力せいりよくをしてみじか時間じかんつくさしむべく
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その不完全な工事のめに、高い崖の上にかよっている線路がはずれたり、深い谿谷たにの間にかかっている鉄橋が落ちたりして、めに、多くの人々が、不慮ふりょの災難に、非命ひめいの死をげた事が
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
それに肺をわずらっておるということだし、一時は不憫ふびんと思い、杉山の願いもあったから、住まわしてやったが、邸のめに衛生上もよくないから、あの小僧は出て行かせなければならんの
(新字新仮名) / 富田常雄(著)