外套ぐわいたう)” の例文
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
颶風はやてぎる警告けいこくのために、一人いちにんけまはつた警官けいくわんも、外套ぐわいたうなしにほねまでぐしよれにとほつて——夜警やけい小屋こやで、あまりのこと
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は馬車の内で着て居る洋服の外套ぐわいたうを脱いで、それで腰から下を温めて見たり、復た筒袖つゝそでに手を通して肩の方を包んで見たりした。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつそ、正月を、こゝで暮して行きませんか? お金が足りなかつたら、私の外套ぐわいたうを置いてもいゝし、この時計を置いてもいゝわ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
勿論、ドクトル・フアウストを尋ねる時には、赤い外套ぐわいたうを着た立派な騎士に化ける位な先生の事だから、こんな芸当なぞは、何でもない。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋を出て行かうとする私へ、背後うしろから兄は、故意わざと乱暴に外套ぐわいたうをかけてくれた。センチメンタルな愛情の表現を恥ぢると云ふ風に……。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
道子みちこ一晩ひとばんかせげば最低さいていせん五六百円ぴやくゑんになる身体からだ墓石ぼせき代金だいきんくらいさらおどろくところではない。ふゆ外套ぐわいたうふよりもわけはないはなしだとおもつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
黒猫はさう言つたかと思ふと、すぐどこへか行つて、長い外套ぐわいたうと、長靴ながぐつと、三味線さみせん竿さをの短かいのとをもつて来ました。
幸坊の猫と鶏 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そのほか痩てまゆも深く刻み陰気な顔を外套ぐわいたうのえりに埋てゐる人さつぱり何でもないといふやうにもうねむりはじめた商人風の人など三四人りました。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
すこぎ、ミハイル、アウエリヤヌヰチはかへらんとて立上たちあがり、玄關げんくわん毛皮けがは外套ぐわいたう引掛ひつかけながら溜息ためいきしてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あつい毛の襟巻えりまきをまき、足には足袋を二つ重ねてその上に毛布と外套ぐわいたうをかけて、お父さんお母さんの背なかにしつかり負はれてゐるのですが、それほどにしても
(新字旧仮名) / 土田耕平(著)
外套ぐわいたう日蔭町物ひかげちやうもの茶羅紗ちやらしやかへしたやうな、おもいボテ/\したのを着て、現金げんきんでなくちやかんよとなどゝ絶叫ぜつけうするさまは、得易えやすからざる奇観きくわんであつたらうとおもはれる
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
若者は外套ぐわいたうをひろげて風を防いだ。小さいウメ子はポスターと一しよに、それに包まれた。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「へえ」勘次かんじきふひざなほした。おもて戸口とぐちへひよつこりあらはれた巡査じゆんさの、外套ぐわいたう頭巾づきんふかかぶつてかほ勘次かんじにはたゞおそろしくえた。さうしてこゑとげふくんでひゞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
東海道のぼり滊車ぎしや、正に大磯駅を発せんとする刹那せつな、プラットホームににはかに足音いそがはしく、駅長自ら戦々兢々せん/\きよう/\として、一等室の扉をひらけば、厚き外套ぐわいたうに身を固めたる一個の老紳士
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
和作は風邪かぜをひきやすくなつてゐる身体に夜気を感じて、外套ぐわいたうえりを立てた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
銀之助は外套ぐわいたうも脱がないで両臂りやうひぢを食卓に突いたまゝとぢて居る。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
して一旦脱ぎてた外套ぐわいたうを、もう一度身につけた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
外套ぐわいたうえりあごうづ
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
風をおそれて外套ぐわいたう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ドカリ——洗面所せんめんじよかたなる、どあつた、茶色ちやいろかほが、ひよいと立留たちどまつてぐいと見込みこむと、ちや外套ぐわいたうう、かたはすつたとおもふと
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丑松は二十四年目の天長節を飯山の学校で祝ふといふ為に、柳行李やなぎがうりの中から羽織袴を出して着て、去年の外套ぐわいたうに今年もまた身を包んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
宗助そうすけ外套ぐわいたうがずに、うへからこゞんで、すう/\いふ御米およね寐息ねいきをしばらくいてゐた。御米およね容易よういめさうにもえなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
帽子ばかり上等なるものは、帽子を除き去る工夫くふうをするより、上着もズボンも外套ぐわいたうも、上等ならしむる工夫くふうをせねばならぬ。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
車窓へ乗り出して見てゐると、外套ぐわいたうを着込んだ背中が、もう、さかりの女を過ぎた感じのみすぼらしさに見えた。煙草も買つてくれたやうだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
丁度ちやうど其日そのひ夕方ゆうがた、ドクトル、ハヾトフはれい毛皮けがは外套ぐわいたうに、ふか長靴ながぐつ昨日きのふ何事なにごとかつたやうなかほで、アンドレイ、エヒミチを其宿そのやど訪問たづねた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
楢夫を堅く抱いて雪に埋まってゐたのです。まばゆい青ぞらに村の人たちの顔や赤い毛布や黒の外套ぐわいたうがくっきりと浮んで一郎を見下してゐるのでした。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
兄はかう云つて、私の体に喰つついて来たが、ふと、私の外套ぐわいたうの前をキチンと合せてくれたり、一つもかかつてゐないボタンを、丹念にめてくれたりした。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
それから、すつかり外套ぐわいたうを着こみ、帽子を目深にかぶり、孔雀の羽を帽子の前の方にさしました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
壕水ほりみづつる星影寒くして、松のこずゑに風音すごく、夜も早や十時になんなんたり、立番の巡査さへ今は欠伸あくびながらに、炉を股にして身を縮むる鍛冶橋畔かぢけうはんの暗路を、外套ぐわいたうスツポリと頭からかむりて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ばれた坂上さかがみは、こゑくと、外套ぐわいたうえりから悚然ぞつとした。……たれ可厭いやな、何時いつおぼえのある可忌いまはしい調子てうしふのではない。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたくし外套ぐわいたうのポケットへぢつと兩手りやうてをつつこんだまま、そこにはひつてゐる夕刊ゆふかんしてようと元氣げんきさへおこらなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お婿さんは早や子供の名前を聞いて知つて居て、片手に外套ぐわいたうを持ち、片手に子供の手を引きながら門の内へ入つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、つぶやくやうに云つて、外套ぐわいたうの内ポケットから、まるめたやうな札束を出して、そのまゝゆき子の膝へ置いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套ぐわいたうえりてゝ泥濘ぬかつてゐるみちを、横町よこちやう路次ろじて、町人ちやうにんいへ書付かきつけつてかねりにつたのであるが
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
豆はみな厚い茶色の外套ぐわいたうを着て、百列にも二百列にもなって、サッサッと歩いてゐる兵隊のやうです。
十月の末 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おれだつて、小六ころくないとすれば、いまのうちおもつて外套ぐわいたうつくだけ勇氣ゆうきがあるんだけれども
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
るにはるがあづけてある。いきほへいわかたねばらない。くれから人質ひとじちはひつてゐる外套ぐわいたう羽織はおりすくひだすのに、もなく八九枚はつくまい討取うちとられた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
聞いて見ると、蓮太郎は一歩ひとあし先へ帰ると言つて外套ぐわいたうを着て出て行く、弁護士は残つて後仕末をて居たとやら。傷といふは石か何かで烈しく撃たれたもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それから二十年ばかりたつたのち、彼は雪国ゆきぐにの汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。窓の外が暗くなるのにつれ、めつたくつ外套ぐわいたうの匀ひが急に身にしみる時分だつた。
鬼ごつこ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぢいさんはぼろぼろの外套ぐわいたうそでをはらつて、大きな黄いろな手をだしました。恭一もしかたなく手を出しました。ぢいさんが「やつ、」とつてその手をつかみました。
月夜のでんしんばしら (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
菊屋きくやいて、一室ひとまとほされると、まだすわりもしないさき外套ぐわいたうぎながら、案内あんない女中ぢよちう註文ちうもんしたのは、をとこが、素人了簡しろうとれうけん囘生劑きつけであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恭一はびつくりしてまた顔をあげてみますと、列のよこをせいの低い顔の黄いろなぢいさんがまるでぼろぼろのねずみいろの外套ぐわいたうを着て、でんしんばしらの列を見まはしながら
月夜のでんしんばしら (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
どうも日本人の貧弱な顔ぢや毛皮の外套ぐわいたうの襟へおとがひうづめても埋めえはしないやうな気がする。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『今考へても、彼の外套ぐわいたうで身体を包んで、隠れて行くやうな有様が、目に見えるやうです。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのはものぐるはしいまで、あはたゞしく外套ぐわいたういだ。トタンに、衣絵きぬゑさんのしろ幻影げんえいつゝむでかくさうとしたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「わたし困ってしまふわ、おっかさんに貰った新しい外套ぐわいたうが見えないんですもの。」
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
此處こゝ整然きちんとしてこしけて、外套ぐわいたうそであはせて、ひと下腹したつぱら落着おちついたが、だらしもなくつゞけざまにかへつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君、君う見渡すといふと外套二枚ぐらゐのお方もずゐぶんあるやうだが外套二枚ぢやだめだねえ、君は三枚だからいいね、けれども、君、君、君のその外套ぐわいたうは全体それは毛ぢやないよ。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
喜多きた一人ひとり俯向うつむいて、改良謙信袋かいりやうけんしんぶくろ膝栗毛ひざくりげを、しまものの胡坐あぐらけた。スチユムのうへ眞南風まみなみで、車内しやないあついほどなれば、外套ぐわいたういだとるべし。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)