かく)” の例文
旧字:
ことわるのもめんどうとおもって、ににぎっていた財布さいふを、きゅうにむしろのしたかくして、をつぶってねむったふりをしていたのであります。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
茫然ぼんやりしてると、木精こだまさらふぜ、昼間ひるまだつて用捨ようしやはねえよ。)とあざけるがごとてたが、やがいはかげはいつてたかところくさかくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくすにゃあたらないから、有様ありようにいってな、こと次第しだいったら、堺屋さかいやは、このままおまえにはあわせずに、かえってもらうことにする」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
諦念! 何たる悲しいかくだ! しかも、それのみが今の僕に残されている唯一の隠れ家だとは!——君のおびただしい気苦労のただ中へ
歌っている声や、話をする声は誰にも聞えますが、肝心かんじんの姿はかくみのという、姿を隠すものを着ていますので、誰にも見えないのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
えんを上って行く後から、いて行ったのは娘の民弥で、二人家の内へかくれた時、老桜の陰からスルスルと忍び出た一人の人物があった。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可哀かわいそうな子家鴨こあひるがどれだけびっくりしたか! かれはねしたあたまかくそうとしたとき、一ぴきおおきな、おそろしいいぬがすぐそばとおりました。
背の高い雑草にはおおかくされていましたが、のセントーが物語ったような地形ではあり、又そぎ取ったような断崖だんがいもありました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
家の男女の一年間のかくしごとを、随分と露骨にいってしまうのだが、それを黙って囲炉裏いろりばたで首を垂れていているのだそうである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひめは天皇がわざわざそんなになすって、かくれ隠れてまでおたずねくだすったもったいなさを、一生おわすれ申すことができませんでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうだ、たとい、軍人さんでなくって、普通にお怪我けがをなさった方にしても、こんなに不自然な、かくされかたをされる筈はない。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
わしはきょうまでかくしていたことを話してしまおう。わしはひとりでこの重荷おもにを心に負うているのにもはやえきれなくなった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そう言えば、さっきから向うの方に霧のために見えたりかくれたりしている赤茶けたものは、そのサナトリウムの建物らしかった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
人は皆かくれてエデンのこのみくらって、人前では是を語ることさえはずる。私の様に斯うして之を筆にして憚らぬのは余程力むから出来るのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そち先刻さっき良人おっとあとについてって、むかしながらの夫婦生活ふうふせいかつでもいとなみたいようにおもったであろうが……イヤかくしても駄目だめじゃ
東風君と寒月君はヴァイオリンのかくについてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかもそういった呂祐吉の顔は、いかにも思いがけぬ事を問われたらしく、どうも物を包みかくしているものとは見えなかった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
袖子そでこものわずに寝苦ねぐるしがっていた。そこへとうさんが心配しんぱいしてのぞきにたびに、しまいにはおはつほうでもかくしきれなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よくとおる、しかし意地の悪くない高笑いに追われながら、一目散いちもくさんに自分の部屋へんで、ベッドにころがり込むと、両手で顔をかくした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかしもしこの人がおのれの弱点を制せんとする意志に基づいて、これをかくしあるいは包むとすれば、さほどにとがむべきことではないと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お六は、急ぎ反対側のすみかくれソッと覗いていると、鏡丹波を先頭に、多くの門弟が廊下を来て、部屋のまえに立ちどまった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御禁制の布令ふれが出ても出ても、岡場所にかく売女ばいたは減らないし、富興行はひそかに流行はやるし、万年青おもと狂いはふえるし、強請ゆすり詐欺かたりは横行するし
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太史たいし(史官)の奏上そうじょうによると、昨夜は北斗ほくと七星が光りをかくしたということである。それは何のしょうであろう。師にその禍いをはらう術があるか」
「わしをどつかへかくまつて呉れ。」と、村長が小声で言つた。「今ここで補祭と顔を合はせちやあ、ちと具合が悪いから。」
黒ガモは、野ガモたちのいちばんいいかくれがをとってしまうので、ふだんは大きらいでしたが、その黒ガモたちにさえも知らせてやりました。
盗賊とうぞくどもがなくなった時、押入おしいれの中にかくれていたさるは、ようようでてきて、甚兵衛のしばられてるなわいてやりました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一体男といふものは、方々で色々とかくぐひをする癖に、女房かないや子供にだけはそんな真似はさせまいとしてゐる。これが男のたつた一つの道徳なのだ。
が、それもこれもじきかれ疲労つからしてしまう。かれはそこでふとおもいた、自分じぶん位置いち安全あんぜんはかるには、女主人おんなあるじ穴蔵あなぐらかくれているのが上策じょうさくと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
嫉妬していた者は何人もあったという佐助が一種奇妙な位置にある「手曳き」であったことは長い間にはかくし切れず門弟中に知れ渡っていたから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はし欄干らんかんのさしてあかからぬ火影ほかげにはちかくの商店しやうてんはたらいてゐるをんなでなければ、真面目まじめ女事務員をんなじむゐんとしかえないくらい、たくみにそのうへかくしてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
からだを急に起すといつしよに、藤岡の眼へ、早くどこかへかくれろといふ合図をして、そのまゝ、玄関へ出て行つた。
髪の毛と花びら (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
竹腰と道家はそこからじぶんかくに帰って、不思議な老人に教えられた時機の来るのを待っていた。二人はその間の生計たつきに野へ出てけものっていた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なるほど、おにどもはって来たえものをこの囲炉裏いろりいて食うのだな。それじゃ一つ、このの上の天井てんじょうかくれて今夜の様子を見てやろう。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その後当分の間、邯鄲の都では、画家は絵筆をかくし、楽人はしつげんを断ち、工匠こうしょう規矩きくを手にするのをじたということである。(昭和十七年十二月)
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「さあ、なければないのが不思議ふしぎなのです。おやおやお日樣ひさまやまがけへかくれた。ではおはやくおしまひになさいまし」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
その進行係は私にお任せ願いますが、あるいは皆さんにかくげいを出していただくようなことがあるかもしれませんから、そのご用意を願っておきます。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
父親が中風で寝付くとき忘れずに、銀行の通帳と実印を蒲団ふとんの下にかくしたので、柳吉も手のつけようがなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
板本はんぽん、「伊隠去者」であるから、「いかくれゆかば」或は「いかくろひなば」と訓んだが、元暦校本・金沢本・神田本等に、「𫢏隠去者」となっているから
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
川はすっかりきりかくれて、やや晴れた方の空に亀山かめやま小倉山おぐらやままつこずえだけが墨絵すみえになってにじみ出ていました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
生活上のある必要から、近い田舎の淋しい処に小さなかくを設けた。大方は休日などの朝出かけて行って、夕方はもう東京の家へ帰って来る事にしてある。
石油ランプ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伽噺とぎばなしかくみのというものがありますが、天井裏の三郎は、云わばその隠れ蓑を着ているも同然なのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
単身たんしんさってその跡をかくすこともあらんには、世間の人も始めてその誠のるところを知りてその清操せいそうふくし、旧政府放解ほうかい始末しまつも真に氏の功名にすると同時に
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やつは食物しょくもつをのみおろすと、消化しょうかするまでは体の中のものが見えるので、しばらくは、どこかにかくれてやすまねばならんのです。ここが、こちらのねらいです。
そして、今まで誰にもいわずにかくしていた不安は、全く馬鹿気たことだったのだと思って可笑おかしかった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と、女の子がいいますと、おじいさんは「よし、よし。」と、ってあるかやの中にかくしてくれました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼女は風呂敷包みを、まるでアンパンか何かのように子供らしく背後にかくして、しぶとく立っていた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
山田やまだすで其作そのさく版行はんかうしたあぢを知つてるが、石橋いしばしわたしとは今度こんど皮切かはきりなので、もつと石橋いしばしは前から団珍まるちんなどに内々ない/\投書とうしよしてたのであつたが、かくして見せなかつた
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お浜は今まで死ぬ気はなかったのです、郁太郎をつれてとにかくこの家を出て、広い世間のどこかにかくを見つけようと、無鉄砲な考えで胸も頭もいっぱいでした。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此時貴族きぞく落人おちうどなどの此秋山にかくれしならんか。里俗りぞくつたへに平氏といへるもよしあるにたり。
へえー芝居しばゐにありさうですな、河竹かはたけしん七さんでも書きさうな狂言きやうげんだ、亀裂ひゞあかぎれかくさうめに亭主ていしゆくま膏薬売かうやくうり、イヤもう何処どこかたにお目にかゝるか知れません。