さそ)” の例文
たとへば鳩の、願ひにさそはれ、そのつよき翼をたかめ、おのがこゝろに身を負はせてそらをわたり、たのしき巣にむかふが如く 八二—八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
素破すわとおどろき柴山と立ち上がろうとしましたが、意外にも大学生は、なごやかな表情で、上原にドライブをしないかとさそっています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
矢張やは歴史れきし名高なだか御方おかただけのことがある。』わたくしこころなかひとりそう感心かんしんしながら、さそわるるままに岩屋いわや奥深おくふかすすりました。
然しわたくしの眺めて娯しむ此邊の風景は、特に推賞して人をさそつて見に行くべき種類のものではない。謂はゆる名所の風景ではない。
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「八、こいつは厄介なことになったらしいよ。お前じゃ少し心細い。湯島の吉をさそって、仕事の途中で呑み歩くような心掛けじゃ」
自分じぶん蒲團ふとんそばまでさそされたやうに、雨戸あまど閾際しきゐぎはまで與吉よきちいてはたふしてたり、くすぐつてたりしてさわがした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そうですか」帆村も泪をさそわれそうになった。「じゃ貴方も深山理学士は大丈夫といいながら、一面では大いに疑っていたんですネ」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
る前に一寸ちよつとさそつて呉れ。君に話す事がある」と云ふ。みゝうしろ洋筆軸ペンじくはさんでゐる。何となく得意である。三四郎は承知した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ああ、われら悪魔をさそうて、絶えず善に赴かしめんとするものは、そもそもまた汝らが DS か。あるいは DS 以上の霊か
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とうさんが石垣いしがきそばとほたびに、蛇苺へびいちご左樣さうつてはとうさんをさそひました。蛇苺はびいちごどくだとひます。それをとうさんもいてつてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼の家から西へ四里、府中町ふちゅうまちへ買った地所と家作の登記とうきに往った帰途、同伴の石山氏が彼をさそうて調布町のもと耶蘇教信者の家に寄った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きみ智慧ちえで、この野原のはらまで、あのうさぎをさそしてくれたら、ぼくのできることなら、どんなおれいでもするよ。まあここへりてきたまえ。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
矢野はふたりをさそうて自分の室にもどった。元来こういうことをやるは矢野のがらでないのだ。矢野にしては今夜はよほど調子はずれである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、さそはれたかれも、ぐら/\と地震なゐふるはかなかに、一所いつしよんでるもののやうなおもひがして、をかしいばかり不安ふあんでならぬ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我命拾ひしもまたこの湖の中なり。さればいかでとおもふおん身に、真心まごころ打明けてきこえむもここにてこそと思へば、かくはさそひまつりぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
して日頃より文傳へする冷泉が、ともすれば瀧口殿を惡しざまに言ひなせしは、我をさそはん腹黒き人の計略たくみならんも知れず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そして読めば読むほど、底の知れない苦悩と、限りなく清澄せいちょうな心境とに、同時にさそいこまれて行くような気がするのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しやくにさわるけれど、だれ仲間なかまさそつてやらう。仲間なかまぶなららくなもんだ、なに饒舌しやべつてるうちにはくだらうし。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
月見つきみにといってあなたをさそして、こんな山奥やまおくれてたのは、今年ことしはあなたがもう七十になって、いつ島流しまながしにされるかからないので
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
其日そのひはそれでわかれ、其後そのごたがひさそつてつり出掛でかけたが、ボズさんのうちは一しかないふる茅屋わらや其處そこひとりでわびしげにんでたのである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
くるに従って冷えまさる夜気が、自ら嚔をさそったのであるということは、余情の範囲として贅言ぜいげんを要せぬであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
さそひしか共少し外に用事も有し故三五郎ばかり先へつかはし置たり然れば是得難えがた時節じせつなりと云ふに三人の者是を聞て大によろこび何卒よき手段しゆだんを以て三五郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜着よぎえりよごれていた。旅のゆるやかな悲哀ひあいがスウイトな涙をさそった。かれはいつかかすかにいびきをたてていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
休日毎きうじつごとさそひに幻花子げんくわしつてられず。今日けふ望生ぼうせい翌日あす活子くわつしあるひは三にんそろつてうちに、土偶どぐうあしる。小土器せうどきる。大分だいぶ景氣けいきいてた。
そんでいつでもみたいに主人さそて阪神電車で帰りましたのんですが、その時主人が、「お前今日えらいそわそわしてるなあ、何ぞうれしい事でもあったのんか」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある日、昔の遊び友達に会い、さそわれると、もともと好きな道だったから、久しぶりにぐたぐたに酔うた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さきのほど人なきを見てむすめごをさそひいだししに、おん身のかへり給ひしこゑにおそれわれはにげさりしが、むすめごがかゝるわざはひありしときゝてつら/\思ふに
「いや、関係があると云う訳でも無いらしいが……。」と、市郎は冬子をみかえって、「にかく親父がさらわれた日に、お杉ばばあさそわれて山へ行ったことは真実ほんとうさ。 ...
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は心のなかで、蝗にこう呼びかけながら、僕は緑色のうらのあるヘルメット帽を裏がえしにして、その緑色の方を示しながらこの小さな大旅行家をさそうて見た。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
病室の淡い薬の香の籠った温気うんきが、壮助の心をはかないもののうちにさそい込んでいった。彼は苦しくなった。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
牛込うしごめちかくに下宿住居げしゆくずまゐする森野敏もりのさとしとよぶ文學書生ぶんがくしよせい、いかなるかぜさそひけん、果放はかなき便たよりに令孃ひめのうはさみヽにして、可笑をかしきやつわらつてきしが、その獨栖ひとりずみ理由わけ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
次第しだいえる三日月みかづきひかりに、あたりはようや朽葉色くちばいろやみさそって、くさむしのみがしげかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その期間のみが恋愛の手ほどきであったかと思えば、それはそれなりで、あわれをさそう夢ともなる。
この塔の主人はブッダ・バッザラ師で同師は門前へ迎えに出られて居った。同師にさそわれて三階に登り四年以前別後の挨拶あいさつ終って例のチベット茶の御馳走になりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
曽つて、彼は鼠取の姿を仮りて、其笛の音にハメリンの町の子等をさそつた。子等は皆ヹエゼルの河中に溺れ死んだとも言ふ。又は、或る山の中腹に封じ籠まれたともいふ。
法王の祈祷 (新字旧仮名) / マルセル・シュウォッブ(著)
半九郎が大声に仲間ちゅうげんを呼んで、雨戸を開けさせたので、そこから庭へおびき出そうとするのだが、右近は、五人に一人、広場へ出ては不利と見て、さそいに乗ろうとはしない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
外ではいよいよあばれ出した。とうとう娘が屏風びょうぶむこうで起きた。そして(酔ったぐれ、大きらいだ。)とどうやらこっちを見ながらわびるようにさそうようになまめかしくつぶやいた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やがて再び帰りきて終日、しろきよくはたらきてくれしかば、その日に植えはてたり。どこの人かは知らぬが、晩にはきて物をいたまえとさそいしが、日暮れてまたそのかげ見えず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すなわち目にくその白い色を看板かんばんにして、昆虫を招いているのである。昆虫はこの白看板しろかんばんさそわれて遠近から花にきたり、花中かちゅうに立っている花軸かじくの花を媒助ばいじょしてくれるのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
このふくれるように盛りあがって満ちてくるしおなやましさ! わしはこの島の春がいちばん苦しい。わしの郷愁きょうしゅうえがたいほどさそうから。とぼしい草木くさきも春のよそおいをしている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「実は、この堀の涙橋に」と、同心は、兵部の人物と、軽いさそいに、つり込まれて
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げんに後日、彼の砲撃にあずかりたるる米国士官の実話じつわに、彼の時は他国の軍艦がかんとするゆえいて同行したるまでにて、あたか銃猟じゅうりょうにてもさそわれたるつもりなりしと語りたることあり。
としみじみと云うその真情まごころさそい込まれて、源三もホロリとはなりながらなお
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本当に深い香りをただよわせる花です。それがはしゃぎきった空気の中を遠くまで流れて行きます。小鳥も人間も、この香りに花の在所へとさそわれるのです。鼻の感覚の鈍くなったお爺さんもです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
復一が引籠り勝ちになると湖畔の娘からはかえってさそい出しが激しくなった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ともかくもなだめすかして新井、葉石に面会せしむるにはかずとて、種々いろいろ言辞ことばを設け、ようよう魔室よりさそい出して腕車くるませ、共に葉石の寓居に向かいしに、途中にて同志の家をたず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
アンドレイ、エヒミチはハヾトフが自分じぶん散歩さんぽさそつて氣晴きばらしせやうとふのか、あるひまた自分じぶん那樣仕事そんなしごとさづけやうとつもりなのかとかんがへて、かくふく着換きかへてともとほりたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ずつと向うの方には朝鮮人も起きて來て外を見て居るやうであつた齋藤氏は朝寢坊をしたと云つて、八時過に食堂へ行くのをさそひに來た。パンと珈琲コオヒイだけの朝飯に一人前に拂ふのが五十錢である。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
わしは夢とまぼろしにさそわれて行く、わが夢、わが欲望のぞみ、デヤドラ!
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
しかし、石窖いしぐらの中では、卑弥呼ひみこは、格子を隔てて、倒れている訶和郎かわろの姿を見詰めていた。数日の間に第一の良人おっとを刺され、第二の良人をたれた彼女の悲しみは、最早もはや彼女の涙をさそわなかった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)