たましひ)” の例文
同時に長吉ちやうきち芝居道しばゐだう這入はいらうといふ希望のぞみもまたわるいとは思はれない。一寸いつすんの虫にも五分ごぶたましひで、人にはそれ/″\の気質きしつがある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでは魔物まもの不承知ふしようちぢや。前方さきちつとも無理むりはねえ、るもらぬもの……出来でき不出来ふでき最初せえしよから、お前様めえさまたましひにあるでねえか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前にも言へりし如く我が彼女を愛するは其骨にあらず、其皮にあらず、其たましひにてあれば、我は其魂をこの囚牢のうちに得なむとおもふのみ。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いまこそ彼女かのぢよは、をつとれい純潔じゆんけつ子供こどもまへに、たとへ一時いつときでもそのたましひけがしたくゐあかしのために、ぬことが出來できるやうにさへおもつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ベンヺ おゝ、ロミオ/\、マーキューシオーはおにゃったぞよ! あの勇敢ゆうかんたましひ氣短きみじか此世このよいとうて、くもうへのぼってしまうた。
代助は脊中せなかからみづかぶつた様にふるへた。社会から逐ひはなたるべき二人ふたりたましひは、たゞ二人ふたりむかひ合つて、たがひを穴のく程眺めてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「その代り、ひよつとしてお前が後になるやうだつたら、俺は死んでも……たましひはおまへの陰身かげみを離れないから、必ず心変こころがはりを……す、するなよ、お静」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かの小さな緑玉エメロウドの古色は私がそれらの強烈な色彩の歓楽に疲れたとき、やるせないたましひの余韻を時としてしんみりと指の間から通はすだけの事である。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何處の誰れ樣ぞ斯くは優しの御言葉と伏拜む手先ものに觸れて、たましひ我れにかへれば苦熱その身に燃ゆるが如かりし
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ものたましひがあるとの想像さうざうむかしからあるので、だい山岳さんがく河海かかいより、せうは一ぽんくさ、一はなにもみなたましひありと想像さう/″\した。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
其頃そのころ歐羅巴エウロツパしよ新聞しんぶんふでそろへて、弦月丸げんげつまる遭難さうなん詳報しやうほうし、かの臆病をくびやうなる船長等せんちやうら振舞ふるまひをばいた攻撃こうげきするとともに『日本人につぽんじんたましひ。』なんかと標題みだしいて
たましひとばし更にいきたる心地もなくたがひかほを見合せ思ひ/\に神佛しんぶついの溜息ためいきつくばかりなり風は益々つよく船を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前に危く叫ばうとした私も、今は全くたましひを消して、唯茫然と口を開きながら、この恐ろしい光景を見守るより外はございませんでした。しかし親の良秀は——
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この心地は、かの我を忘れて、たましひ無何有むかうの境に逍遙さまよふといふ心地ではない。謂はゞ、東雲の光が骨の中まで沁み込んで、身も心も水の如く透き徹る樣な心地だ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
新築しんちくいへんで、屋敷やしきのわるいたましひしづをんなが、きつけたたまを、いまらしてゐることよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
硫黄ゆわうの色の薔薇ばらの花、煩惱の地獄ともいふべき硫黄ゆわうの色の薔薇ばらの花、たましひとなり焔となり、おまへが上に舞つてゐるその薪に火をおつけ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かしらかみあらば一三〇ふとるべきばかりにすざましく一三一きもたましひそらにかへるここちして、ふるふ振ふ、一三二頭陀嚢づだぶくろより清き紙取りでて、筆も一三三しどろに書きつけてさし出すを
たましひの拔けたやうに、呆然ばうぜんとしてゐる貫兵衞をうながし、か弱い乍ら、一番氣のたしかなおつたを手傳はせて、卯八一人の大働きで、水船から引上げた人間は五人、船頭の三吉と、野幇間のだいこ巴屋ともゑや七平は
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもつみくなしたまへ、この癩病らいびやうものを。」あゝさむしい、あゝ、こはい。だけに、生来しやうらいしろいろのこつてゐる。けものこはがつてちかづかず、わがたましひげたがつてゐる。
私のたましひは、どんなにおどろいたことか! 頭はかき亂れ、心は反抗に燃え立ち、しかも、どんなに、五里霧中な、心の鬪ひが、戰ひつゞけられたことか! ひつきりなしに起る内心の疑ひに對して
保雄はいて仕舞はうと言つた事もあつたが、美奈子は良人をつとと自分との若い血汐もたましひも元気も皆これこもつてあると思つて、如何に二人が貧苦に痩せ衰へても、又如何に二人が襤褸ぼろげて生活くらしても
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ルウヴルの中にはひりてたましひもいたきばかりに去りあへぬかも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
らしめて肉を打ちつつあやまちてたましひをさへ砕きつるかな
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たましひは光うすれて塵と灰「心」をふさぐ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
たし、勇士らの猛きたましひ*冥王に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
かくてあてなるたましひのゆくへやむる
泣けよ恋人 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今こそ自分自身のたましひからもの言はう
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
わがたましひしゆあがめ奉るなり。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
欝陶うつたうしいたましひの旅が始まる……
冬の歌 (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
たましひがふと触れ合った或日あるひです
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
たましひにさながら似たれ。
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
たましひにしもらめ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かへらぬ吾子あこたましひ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
たましひ遠く離れゆく。
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
あゝ、のよろこびのなみだも、よる片敷かたしいておびかぬ留守るすそでかわきもあへず、飛報ひはう鎭守府ちんじゆふ病院びやうゐんより、一家いつけたましひしにた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
マーキューシオーのたましひがつい頭上とうじゃう立迷たちまようて同伴者どうばんじゃもとめてゐる、足下おぬしか、おれか、兩人ふたりながらか、同伴どうばんをせねばならぬぞ。
かの小さな緑玉エメロウドの古色は私がそれらの強烈な色彩の歓楽に疲れたとき、やるせないたましひの余韻を時としてしんみりと指の間から通はすだけの事である。
桐の花とカステラ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
前に危く叫ばうとした私も、今は全くたましひを消して、唯茫然と口を開きながら、この恐ろしい光景を見守るより外はございませんでした。しかし親の良秀は——
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だい四の精靈せいれうは、本體ほんたい自然物しぜんぶつである。この精靈せいれうもつと神聖しんせいなるものは、だい一の神佛しんぶつる。たとへば日本國土にほんこくどたましひ大國魂命おほくにたまのみこととなつてかみになつてゐるごときである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
然しあにの子丈あつて、一図なうちに、何処どこせまらない鷹揚おほような気象がある。誠太郎の相手をしてゐると、向ふのたましひが遠慮なく此方こつちながんでるから愉快である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大路おほぢゆく辻占つぢうらうりのこゑ、汽車のふえの遠くひゞきたるも、なにとはなしにたましひあくがるゝ心地こゝちす。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ほと/\えられぬ臭氣しゆうきも、たましひも、とうくなるほどで、最早もはやこのくさつたさかなとは一刻いつこく同居どうきよがたく、無限むげんうらみんで、少年せうねん二人ふたりで、沙魚ふか死骸しがいをば海底かいていふかほうむつてしまつた。
必要の上から借る者があるで、貸す者がある。なんぼ貸したうても借る者が無けりや、我々の家業は成立ちは為ん。その必要を見込んで仕事を為るがすなはち営業のたましひなんじや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
君達きみたち娯樂ごらくともならばしたまへとうつくしきたましひぐ」といふあなたの歌をS誌上しじやうに見たその時の、なんともいふことの出來ないその心持こゝろもちを、私はまだまざ/\とおぼえてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
これを見る人、いよよ三四六たましひも身に添はぬ思ひして泣き惑ふ。
「え、それにもわけが御座います。去年御新造樣がお亡くなりになる時、大事なものは私のたましひと一緒に佛壇の中に入れてあるから、お孃樣かお坊ちやまは必ず此處で休むやうと仰しやつたので御座います」
額のしたに、眼のなかに、そのたましひを見てあれば
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「ああなつかしや」と心細きわがたましひ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たましひが一つに溶けない悩みです
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
この一夜ひとよたましひをまもるらしい
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)