ぬす)” の例文
旧字:
勿論学んでつくしたりとは言はず。かつ又先生に学ぶ所はまだ沢山たくさんあるやうなれば、何ごとも僕にぬすめるだけは盗み置かん心がまへなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「さあおあがりなさい。これは天国の天ぷらというもんですぜ。最上等さいじょうとうのところです」といながらぬすんで来たかくパンを出しました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なぜなら、近所の男の子たちにリスをぬすまれないように、うちの子どもたちが戸にじょうをかけておいたのを、ちゃんと知っていたからです。
だから、その仕返しに洞白の仮面めんぬすいちへたたき出してやったまでのこと、今さら、主家の仇呼ばわりは片腹痛いというものだ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまえは、どこから、このまちへなどやってきたのだ。このごろはまちにろくなことがない。火事かじがあったり、方々ほうぼうでものをぬすまれたりする。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どんな場合でもぬすぐひはうまいものであるが、とりわけ学者が気むつかしい顔をしてゐる隣りのへやでする盗み食はまた格別のものである。
先方むこうの知らぬを幸いに地底を深く螺旋形らせんけいに掘り、大富金山に属すべきものを我らが方へ横取りするは、天意にそむいたいわばぬすみ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
をどつてうたうてかつしたのど其處そこうりつくつてあるのをればひそかうり西瓜すゐくわぬすんで路傍みちばたくさなかつたかはてゝくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところがそのみやこに、四、五人でくみをなした盗賊とうぞくがいまして、甚兵衛の人形の評判ひょうばんをきき、それをぬすみ取ろうとはかりました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
翌日よくじつ新聞しんぶんには、やみなか摸摸すり何人なんにんとやらんで、何々なに/\しなぬすまれたとのことをげて、さかん会社くわいしや不行届ふゆきとどき攻撃こうげきしたのがあつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
自分のたくわえの中から、お産の金を出すと云う事は、隆吉に顔むけならない気持ちで、自分の自転車はぬすまれた事にすればよいと思っていたのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ヘルンが学校に行ってる間、夫人はひまぬすんで熱心に読書をし、手のおよぶ限り、日本の古い伝説や怪談の本をあさりよんだ。
あなたのぬすみ見た横顔は、苦悩くのう疲労ひろうのあとが、ありありとしていて、いかにもみにくく、ぼくは眼をふさぎたい想いでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わしあまどくさにかほげられないでつとぬすむやうにしてると、婦人をんな何事なにごとべつけてはらぬ様子やうすそのまゝあといてやうとするとき
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そいつは、まっ黒なきれを、頭からかぶって、手もそのきれに包んで、巻き物の箱を、ぬすみ去ろうとしたのです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はこまを握る合間あいま合間に顔をあげて、星尾助教授の手の内を後からみたり、川丘みどりの真白な襟足えりあしのあたりをぬすして万更まんざらでない気持になっていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これで弟子でしたちに自慢じまんができるて。きさまたちが馬鹿ばかづらさげて、むらなかをあるいているあいだに、わしはもううしをいっぴきぬすんだ、といって。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
地方自治ちほうじちぜにわたしたら、それこそ彼等かれらみなぬすんでしまいましょう。』と、ブロンジンのドクトルはわらす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「もしぬすまなかったのなら、なぜくのだ?」と生徒監はいった。「わたしは何もおまえぬすんだとはいやしない。ただ間違まちがってしたろうと想像そうぞうするまでだ。 ...
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
しばらく彼女が眼を上げないのに乗じて、わたしは彼女をつくづく眺め始めたが、それも初めはぬすだったものが、やがてだんだん大胆だいたんになっていった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「金がなければ、ぼくの研究けんきゅうをつづけることはできない。やむをえず、おやじのかねぬすんでしまったんだ……」
「さてはその方、あらかじめ自分でぬすみ、松の根元にかくしいたものにちがいあるまい。不届ふとどきもの!」
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
するとそのへんんでゐた太郎たらうぢやない、次郎じらうといふ子供こどもが、その鸚鵡あうむぬすんでポツケツトへれました。
このうまをうかうか京都きょうとまでってって、もしっているものにでもって、ぬすんでたなぞとうたがわれでもしたら、とんだ迷惑めいわくにあわなければならない。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
とよ長吉ちやうきちが久しい以前からしば/\学校を休むめに自分の認印みとめいんぬすんで届書とゞけしよ偽造ぎざうしてゐた事をば、暗黒な運命の前兆ぜんてうであるごとく、声までひそめて長々しく物語る………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
するとお使いの根臣ねのおみは、乱暴らんぼうにも、その玉かずらを途中で自分がぬすみ取ったうえ、天皇に向かっては
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
えゝ、なにかソノうけたまはりまして驚入おどろきいりましたがね。真「エ、なにおどろいた。甚「なんだか貴方あなたはソノおやしきからもつておいでなすつたてえことで。真「エ。甚「ぬすんでたつてね。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
西の空には遙かに、浅間山が薄い煙を越後の方へなびかせていた。雲雀の雄親は子供へ餌をやる寸暇をぬすんで自慢の美声に陶酔するのであろうか。高い空で快く啼いている。
探巣遅日 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
もっともその拍子にかの女の様子をちらりとぬすしたけれども、かの女はどこの夫人にもあり勝ちな癖だからと、別にこれをこの夫人の特色とも認めることは出来なかった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そんな母親を蝶子はみっともないともあわれとも思った。それで、母親をだまして買食いの金をせしめたり、天婦羅の売上箱から小銭をぬすんだりして来たことが、ちょっと後悔こうかいされた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
忠太郎 一両出したとて怪しむな、俺あぬすじゃねえ、見る通りのヤクザなんだ。汗をかいて稼いだ金じゃなし、多寡が出たとこ勝負、賭博場ばくちばの賽の目次第で転げ込んだ泡沫銭あぶくぜにだ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
弱虫のくせに四つ目垣を乗りこえて、栗をぬすみにくる。ある日の夕方折戸おりどかげかくれて、とうとう勘太郎をつらまえてやった。その時勘太郎はみちを失って、一生懸命いっしょうけんめいに飛びかかってきた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何分激しい業務の余暇よか睡眠すいみん時間をぬすんでは稽古するのであるから次第に寝不足がたまって来て暖い所だとつい居睡いねむりがおそって来るので、秋の末頃から夜な夜なそっと物干台ものほしだいに出て弾いた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その家の品物をぬすみ了ると、一行は舟岡山へ引き取ってそこで品物を各自に分配してくれたが、その男は女に云われた通り、自分は見習いのためについて来たのだから、物はいらないと云って
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
泥棒どろぼうするの罪悪なることは誰でも知っているが、人が見ていないところにものが落ちていると、十に七、八人までは持っていってもよいか知らという気が起きる。ぬすむ気はなくとも欲しい気はある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
漁夫一 (それを見つける)ぬすみやがったな。ふといやつだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ぬすんだなつめ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
作家 それは五円や十円ぬすまれても、暮しに困らない人がある場合、盗んでもいと云ふ論法ですよ。盗まれる方こそつらの皮です。
売文問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「金もねえくせに、賭場のぞきをしやがって、さては、隙があったら、銭をさらって行こうという量見だったにちげえねえ、このぬすめ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはね、ぬすみやわるいことをゆるさないもの、つまり、いままでノロ公と言われていた、この白いはねのわたしがえらばれたんです。」
貴様きさまどもはわるやつだ。甚兵衛じんべえさんの生人形いきにんぎょうぬすんだろう。あれをすぐここにだせ、だせばいのちたすけてやる。ださなければ八裂やつざきにしてしまうぞ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いいえ、ぬすんだり、ひろってきたりしたものではありません。あのおきにきているふねからもらってきたのです。」
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
婦人をんなはよく/\あしらひかねたか、ぬすむやうにわしさつかほあからめて初心しよしんらしい、然様そんたちではあるまいに、はづかしげにひざなる手拭てぬぐひはしくちにあてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
にもかかわらず正九郎しょうくろうはしばしば空気入れの方をぬすみみないではおれなかった。気になってしかたがない。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「へいへい。ありがとうぞんじます。どんなことでもいたします。少しとうもろこしをぬすんでまいりましょうか」
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ばかなやつが、ぼくのかねぬすもうとしたんだ。そいつはぼくがなかまにしようと思ってた男だのに……」
ちょうどそのころ、その国の殿との様のお屋敷やしきにつたわっている家宝かほうの名刀が、だれかのためにぬすまれました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
みんなにまた口汚くちぎたなくいわれる疑懼ぎくと、ひとつは日頃ひごろ嘲弄ちょうろうされる復讐ふくしゅうの気持もあって、実に男らしくないことですが、手近にあった東海さんの上着からバッジをぬす
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
台所だいどころ戸棚とだなものぬすすどころか、戸障子としょうじをかじったり、たんすにあなをあけて、着物きものをかみさいたり、よるひる天井てんじょううらやお座敷ざしきすみをかけずりまわったりして
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よくおきなさい、わたしはまだなんにもぬすんだこともなし、貴方あなたなにいたしたことはいのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)