ぬま)” の例文
村の人たちは、その銅像を見あげては、ぬまのほとりで、薬草やくそうをさがしていたヘンデル先生のことを、しみじみ、思い出すのでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ぬまは、其時分そのじぶんからうごす……呼吸いき全躰ぜんたいかよふたら、真中まんなかから、むつくときて、どつと洪水こうずゐりはせぬかとおも物凄ものすごさぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕べをつげるかねが、まだ鳴っています。おやおや、それは、鐘ではありません。ぬまの中で、大きなカエルが鳴いているのでした。
ぼくたちが、みずうみぬまのこおりついている土地へやってきたのは、うんがわるいんだ。これじゃ、どこからでもキツネがやってくる。
青森県の十三潟じゅうさんがたのような、広いあさいぬまのほとりに住む村々では、細い一種のあしを苅ってきて、葉をむしりててそれで屋根を葺いている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あすこの野中に大きなぬまがございます。その沼の中に住んでおります神が、まことに乱暴らんぼうなやつで、みんなこまっております」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その日私たちは完全かんぜんなくるみのも二つ見附みつけたのです。火山礫の層の上には前の水増みずましの時の水が、ぬまのようになって処々たまっていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女の子はもうこのさきげて行くことができなくなって、ぬまのふちにっている大きなかしの木の上にのぼりました。すると山姥やまうばっついて
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よるそらふかぬまなかをのぞくように青黒あおぐろえました。そのうちに、だんだんほしひかりがたくさんになってえてきました。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
在所の年寄仲間は、御坊さんのうら竹林たけばやしなかにあるぬまぬし、なんでもむかし願泉寺の開基が真言のちからふうじて置かれたと云ふ大蛇だいじやたヽらねば善いが。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
終夜しうやあめ湿うるほひし為め、水中をあゆむもべつに意となさず、二十七名の一隊粛々しゆく/\としてぬまわたり、蕭疎しようそたる藺草いくさの間をぎ、悠々いう/\たる鳧鴨ふわうの群をおどろかす
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
さながら白鳥が、ぬまの草むらから飛び立ったように、その面影もまた、それを取巻いているさまざまなみにくい物陰から、離れ去ったもののようだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
其の娘を奥様の積りでじゃぬまの信行寺へ葬むるというのは訳が分らず、奥様と云えばお蘭さんに違いないと、わたしは取って帰して定蓮寺へ来て見ると
連日れんじつの雪や雨にさながらぬまになった悪路に足駄あしだを踏み込み/\、彼等夫妻はなまりの様に重い心で次郎さんの家に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのとちゅう、とあるぬまのほとりをとおりかかりますと、沼のなかでたくさんのカエルがガアガアないていました。
鴫立しぎたつや、ぬまによせくる小波の、……いい名ですな。では、そろそろやっつけましょう。ええと、小波さん……」
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ながらくひでりつゞいたので、ぬまみづれさうになつてきました。雜魚ざこどもは心配しんぱいしてやま神樣かみさまに、あめのふるまでの斷食だんじきをちかつて、熱心ねつしんいのりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
西にしそらはいま、みどろなぬまのやうに、まつゆふやけにたゞれてゐた。K夫人ふじんつて西窓にしまどのカーテンをいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
とおかあさんは道のわきに行って、草むらと草むらとの間のぬまの中へ身をせて心の底からいのりました。
地球ちきゆうからえる火星くわせいくろいところは、だからうみといふよりもぬまか ちいさなぬまあつまったのか、かわだ。)
そうしてふと目をつぶると、頭の中がしいんとして、いつも同じように、自分がいままで遊んでいた、村のはずれにある、あの大きなぬまが目の前にかんできました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ある時信康は物詣ものもうでに往った帰りに、城下のはずれを通った。ちょうど春の初めで、水のぬるみめたころである。とある広いぬまのはるか向うに、さぎが一羽おりていた。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
青々あを/\しげつたまつやもみなどの常緑樹じようりよくじゆあひだにそまつた紅葉もみぢは、いろ配合はいごうで、紅色こうしよくがきはだつて、てりはえ、また、みづうみぬま溪流けいりゆうまへにしても、やはりいちだんと、うつくしくえます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
川岸から南のほうのぬまにいたるあいだの細道に、防壁をきずいて、ここにドノバンらの鉄砲の名手を伏兵ふくへいさせ、悪漢どもがこの方面からくるのを、ふせごうと思ったからである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「まだまだ、今朝けさからなンだけど、たった四匹よウ。めめず屋の小父おじさんの話ではねえ、ここは昔ぬまだったンだからたくさんめめずが居るって云うンだけど、なかなか居ないわア」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
我々われわれ地方ちほう不作ふさくなのはピンぬまなどをからしてしまったからだ、非常ひじょう乱暴らんぼうをしたものだとか、などとって、ほとんひとにはくちかせぬ、そうしてその相間あいまには高笑たかわらいと、仰山ぎょうさん身振みぶり
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
北側はぬまと云う池つづきで、池のまわりは三抱えもあろうと云うくすのきばかりだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぬまには、ぬなは、ひつじ草、たぬき藻、杉藻など、一面にえて、うつかり蓴菜の中へ漕ぎ入るとあとへも先へもうごかなくなる。そんな時は手を延ばして蓴菜のつるぐつて進んで行く。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
マーキュ へん「くろねずみ」とりゃ夜警吏よまはり定文句きまりもんくぢゃが、もしも足下きみが「黒馬くろうま」なら、「ぬま」からではなく、はて、恐惶おほそれながら、足下きみくびッたけはまってゐるこひ淵樣ふちさまから引上ひきあげてもやらうに。
あのヴィタリス親方のあとからとぼとぼくっついて、ぬまのような道や、横なぐりの雨や、こげつくような太陽の中を歩き回るのと、この美しい小舟こぶねの旅と比べては、なんというそういであろう。
しろよどんだぬまにはなにもゐはしないではないか。
濁りて光る山椒魚さんしようをぬま調しらべとろむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぬましわむ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
丁度ちやうどわたしみぎはに、朽木くちきのやうにつて、ぬましづんで、裂目さけめ燕子花かきつばたかげし、やぶれたそこ中空なかぞらくも往來ゆききする小舟こぶねかたちえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは、この時分からも、もっともっとむかし新羅しらぎの国の阿具沼あぐぬまというぬまのほとりで、ある日一人の女が昼寝ひるねをしておりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
このどろのところを、魔法使いは、どろぬまと言っていました。そのむこうに、ふしぎな森があって、そのまんなかに、魔法使いの家があるのです。
そして、夏になると、ぬまやこんもりとした森の中に、牝牛をつれていきました。だから、この牝牛は子どもたちのことは、なんでも知っていました。
僕、もうあなたのためなら、眼鏡めがねをみんなられて、うでをみんなひっぱなされて、それからぬまそこへたたきまれたって、あなたをうらみはしませんよ
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうちとうとう大きなぬまのふちに出ました。やがて山姥やまうばたにそこからはいがって、またっかけてました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おじいさん、どこへゆけば、わたしたちは幸福こうふくらされるというのですか。このいけへおちつくまで、わたしたちはどんなに方々ほうぼうぬまや、かた探索たんさくしたかしれません。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
きずは薩州やしき口入くちいれで近衛家の御殿医ごてんゐが来てつた。在所の者は朗然和上の災難を小気味こきみよい事に言つて、奥方の難産と併せてぬまぬしや先住やの祟りだと噂した。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ぬまてしまはないうちにあめはふりましたが、そのあめのふらないうちに雜魚ざこはみんな餓死がししました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
私の家は代々備前びぜん上道じやうたう浮田うきた村の里正を勤めてゐた。浮田村は古くぬま村と云つた所で、宇喜多直家うきたなほいへ城址じやうしがある。其城壕しろぼりのまだ残つてゐる土地に、津下氏は住んでゐた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三二 千晩せんばだけは山中にぬまあり。この谷は物すごくなまぐさのするところにて、この山に入り帰りたる者はまことにすくなし。昔何の隼人はやとという猟師あり。その子孫今もあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
水鳥がむれておよいでいる時も、あめんぼが勢いよく走っている時もありました。しかし清造には、このぬまのあたりが、一番しずかでだれにもいじめられずに遊んでいられる場所だったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
みな盜人ぬすびとのやうな奴等計やつらばかりだとか、乘馬じようばけば一にちに百ヴエルスタもばせて、其上そのうへ愉快ゆくわいかんじられるとか、我々われ/\地方ちはう不作ふさくなのはピンぬまなどをからしてしまつたからだ、非常ひじやう亂暴らんばうをしたものだとか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
くされゆくぬまの水すがごとくに。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぬまは光の消えにけり
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
天守てんしゆしたへもあなとほつて、おしろ抜道ぬけみちぢや不思議ふしぎぬまでの、……わし祖父殿おんぢいどん手細工てざいくふねで、殿様とのさまめかけいたとつけ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その踊りは、人里はなれたぬまの上にただようきりからおそわってきたのではないかと思われます。そこには、この世のものではないふしぎな力が宿やどっています。