かぶ)” の例文
このように、一かぶ上に雄花ゆうか雌花しかとを持っている植物を、植物学上では一家花かか植物と呼んでいる。すなわち雌雄同株しゆうどうしゅ植物である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
恐ろしい半之丞の明察、——平次はおかぶを奪はれて暫らく默つてしまひました。が、やがて、心を落着けると、平次の日頃の叡智えいちよみがへります。
かれまた野茨のいばらかぶうつつて、其處そこしげつた茅萱ちがやいてほのほが一でうはしらてると、喜悦よろこび驚愕おどろきとの錯雜さくざつしたこゑはなつて痛快つうくわいさけびながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「なんにもかぶ家督かとくがあるじゃなし、なんでわたくしどものような貧乏人のところへ婿や養子に来る者があるもんですか」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とんとね、……せんぶりという、あっしのおかぶをとったような、なんとも言えねえ苦い面をしましてね、こりゃア、千太さん、たいそう精が出るの。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
でね、すこつたかぶをみんな其方そのはうまはことにしたもんだから、いまぢや本當ほんたうに一もんなし同然どうぜん仕儀しぎでゐるんですよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お松 (お吉に)およしおよし、あの人のおかぶなんだ。何をいったって徒労むださ。やけくそな女なんだからねえ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
林を拓いて出来た新開地だけに、いずれも古くて三十年二十年前かぶを分けてもらった新家の部落で、粕谷中でも一番新しく、且人家がことまばらな方面である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その頃彼は「信友会しんゆうかい」かなんかの組合に属しているとかのことであったが、あんまりしっかりした男でなく、いわば「でも社会主義者」のかぶに属していた。
家の横手よこてをお宮の方へ登って行く、上阪という細逕ほそみちがあって、それを隔てたすぐ西隣の田のへりに、この記念すべき植物が、毎年三、四かぶ自生していたのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
またぜいたくがしたくなり、千きんゆめみてかぶなどへすようになると、さすがに自分じぶんちからばかりをしんじられず、ひたすらかみさまをたよろうとするようになりました。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
黄色っぽい灰色はいいろの四角は、去年の夏みのったカラス麦の畑で、いまはかぶがのこっているのです。
きさきやお子さまたちは、それをごらんになると、すぐに泣き泣きそのあとを追いしたって、ささの切りかぶにお足を傷つけて血だらけにおなりになっても、いたさをわすれて
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
すたかぶの買占めで失敗しくじってから、家のばたばたになった本家の後始末に気骨を折っている父親が、このごろは皆なの思うほど気楽でもないことは、こっちへも解って来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いまほこらぬまむかつてくさいこつた背後うしろに、なぞへに道芝みちしば小高こだかつたちひさなもりまへにある。鳥居とりゐ一基いつきそばおほき棕櫚しゆろが、五かぶまで、一れつならんで、蓬々おどろ/\としたかたちる。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
姉さんかぶの富江が煙ったいのか、クララはおさえるような手つきをして
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
また、飛び飛びのかぶ、測量のテント、道端の虎杖いたどり、そうして樺太蕗。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
B、Cが丘の中程の木の切りかぶに並んで腰をかけて、編物をして居る。
旅人 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つくしければすなはち加賀屋の暖簾のれんもらひ同所へ材木店ざいもくみせを出せしが漸次しだい繁昌はんじやうして此春より將軍家桶御用をけごようかぶゆづられ猶々なほ/\さか消光くらしけるも必竟ひつきやう長兵衞ちやうべゑ心懸こゝろがけよき故なりかくて白子屋しやう三郎は長兵衞方へあつれい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「又おかぶを始めやがったな。ヨイショ、これでいいか」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木のかぶが歩いているような。それとも石のきれか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
くちよければ仕入しいれあたらしく新田につた苗字めうじそのまゝ暖簾のれんにそめて帳場格子ちやうばがうしにやにさがるあるじの運平うんぺい不惑ふわくといふ四十男しじふをとこあかがほにしてほねたくましきは薄醤油うすじやうゆきすかれひそだちてのせちがらさなめこゝろみぬわたりの旦那だんなかぶとはおぼえざりけり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宿根草しゅっこんそうで、これを人家の庭にえてもく育ち、毎年花が咲いてかわいらしい。葉は一かぶから二、三枚ほどでて毛がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
萬一それが紛失ふんしつすれば、秤座役人のかぶを召上げになつた上、この守隨彦太郎腹でも切らなければなるまい。——が、それは大丈夫だ。三重の締りを
それはられてぐつしやりとしめつていね土手どてしばうへぱいされてあつたからである。いねはぼつ/\とむらがつて野茨のばらかぶのぞいてこと/″\ひろげられてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
田や畑の其処そこ此処ここけ残りの黒い木のかぶが立って居るのを見ると、ひらけ行く北海道にまだ死に切れぬアイヌの悲哀かなしみが身にしみる様だ。下富良野しもふらので青い十勝岳とかちだけを仰ぐ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今日きょうかいのご隠居いんきょが、取引所とりひきじょで、しろおとこがみんなのなかじって見物けんぶつしていたといわれました。それで、昼過ひるすぎからのかぶがたいへんにがって、大騒おおさわぎだったそうですよ。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「うん、まあ、わるくつても仕方しかたがない。気に入つたうちへ這入らうと思へば、かぶでもるより外に仕様がなからう。此頃東京に出来る立派なうちはみんな株屋がこしらへるんだつて云ふぢやないか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
去年きよねんくれのやつがぼんしてるぢやないか。だらしなくみたがつてばかりるからだ。」「は、今度こんど今度こんどは……」「おかぶつてら。——くれにはきつれなよ。」——そのくせ
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かぶ風見かざみがくるくるまはる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
以て拙僧よろしく御取持せん思しめしもあらばうけたまはらんと説法口せつぱふぐちべんに任せて思ふ樣にたばかりければ四人の者共は先頃さきごろよりの寺の動靜やうす如何樣かく有んと思へど誰もたくはへは無れど永代えいだいの家のかぶと無理にも金子調達てうだつ仕つらんそれには御實情じつじやうの處もうかゞひたしといふに心得たりと常樂院はおくおもぶき此由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
葉は分裂ぶんれつしており、かぶから花茎かけいが立ち十数センチメートルの高さで花をけている。花は点頭てんとうして横向きになっており、日光が当たるとく開く。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「宜からう。十手捕繩なんか、いさぎよく返上して、後家附の番太のかぶでも搜すが宜い。決して留めはしないが——な八」
「なに、かぶでもったになりゃ、なんでもないことだ。らない景色けしきただけでもそんにはならない。それに、今年ことし旅行りょこうもしなかったのだから……。」と、地主じぬしおもいました。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
れでどのくれええるものだとおもつたら一ツかぶで一しようぐれえづゝもおこせるよ」亭主ていしゆがいへば
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
熟々つくづくと見て居ると、くれない歓楽かんらくの世にひとり聖者せいじゃさびしげな白い紫雲英が、彼所かしこに一本、此処ここに一かぶ、眼に立って見える。主人はやおら立って、野に置くべきを我庭にうつさんと白きを掘る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
門を這入ると、此間このあひだの萩が、人のたけより高くしげつて、かぶに黒い影が出来てゐる。此黒いかげが地のうへつて、奥の方へ行くと、見えなくなる。葉と葉のかさなるうらのぼつてる様にもおもわれる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「君の吹くぜもおかぶだ。実際ださ、実際僕の見た話だ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私のをつと玄策げんさくに取り入り、娘のお直をだまして養子に入り、夫玄策の死んだ後は、この朝井家のかぶから家から、へつゝひの下の灰までも自分のものにした上、三年經たないうちに
旅人たびびとは、みちのかたわらにあった、かぶうえこしをおろしてやすみました。そのとき、ちょうどまちほうから、むらほうへゆく乗合自動車のりあいじどうしゃが、しろいほこりをあげてまえとおったのです。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「吹くぜ、おかぶだ!」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっと、もっとかぶおおきくなって、みんな、かがや黄金色こがねいろはなをつけたら、どんなにみごとなことであろうとおもうと、おのずから、そのさま空想くうそうして、うっとりとせずにはいられませんでした。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
喜三郎の智惠のたくましさに、平次は少しおかぶを取られた樣子です。
きれいながさは、えだや、うばいのためにかぶなどにあたって、やぶれました。むらむすめたちは、はじめてたいへんなことをしてしまったとおどろいて、みみとおむすめのところへきて、あやまりました。
日がさとちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでもそのおとこたものは、みんなかぶそんをしたというはなしじゃ。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)