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道芝
「どれ。」といひて立つたる折、のしのしと
道芝を踏む音して、つづれをまとうたる
老夫の、顔の色いと赤きが
縁近う
入り来つ。
おつぎは
後へ
退去つた。おつぎは
殆んど
無意識に
土手を
南へ
走つた。
處々誰かゞ
道芝の
葉を
縛り
合せて
置いたので、おつぎは
幾度かそれへ
爪先を
引つ
掛けて
蹶いた。
氷の如く澄める月影に、
道芝の露つらしと拂ひながら、ゆりかけし
丈なる髮、優に波打たせながら、畫にある如き乙女の
歩姿は、
葛飾の
眞間の
手古奈が昔
偲ばれて、斯くもあるべしや。