“優(やさ)” の例文
風(かぜ)は冷(つめた)く爽(さわやか)に、町一面(まちいちめん)に吹(ふ)きしいた眞蒼(まつさを)な銀杏(いてふ)の葉(は)が、そよ/\と葉(は)のへりを優(やさ)しくそよがせつゝ、芬(ぷん)と、樹(き)の秋(あき)の薫(かをり)を立(た)てる。……
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
女子の特質とも言うべき柔和な穏やかな何処(どこ)までも優(やさ)しいところを梅子嬢(さん)は十二分に有(もっ)ておられる。これには貴所(あなた)も御同感と信ずる。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
例の優(やさ)しい表情を眼に浮(うか)べて、わたしにこうささやいたのだ、——「今夜八時に、うちへいらっしゃいね、よくって、きっとよ……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ちょっと皮肉(ひにく)なところがありますが、優(やさ)しい微笑(びしょう)をたたえた皮肉で、世の中の不正や醜(みにく)さに、それとなく鋭(するど)い鋒先(ほこさき)を向けています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
「いかゞです? お身体(からだ)の工合は! あなたのやうに優(やさ)しく弱々しい生れ付きの方は、仲々シヤツクリ一つでも油断なりません。」
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
「は」と身近く寄り添ったのは、公卿侍の青地清左衛門であって、二十八、九歳の優(やさ)男であった。「何ご用にてござりまするか?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえ、あの子はいい子ですよ。りこうで、物がわかって、それで優(やさ)しいのだから、あの子はわたしたちのために働(はたら)いてくれますよ」
彼は元来がぶっきらぼうの男だけれども、胸の奥には人一倍優(やさ)しい感情をもっていた。そうして何か事があると急に熱する癖があった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
エミー・イィシュトンは聽いてゐなかつたのか、それともこの言葉に耳を傾けなかつたのか、優(やさ)しいあどけない口調で口を挾んだ。
雪白の髮、しつかりとした優(やさ)しい赭顏(あからがほ)、陽氣な哄笑、それに彼の黒衣と鍔廣(つばびろ)の帽子とが、まるで彼を牧師さんのやうに見せたからである。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
けれど、この二人(ふたり)のものをあわれんで、ものを与(あた)えるものもなければ、また優(やさ)しい言葉(ことば)をかけてくれるものもありませんでした。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
園(その)さま我(わ)れに遠慮(ゑんりよ)は入(い)らず、嫌(い)やな時(とき)は嫌(い)やといふがよし、我(わ)れを他人(たにん)の男(をとこ)と思(おも)はず母樣(はヽさま)同(どう)やう甘(あま)へ給(たま)へと優(やさ)しく慰(なぐ)さめて日毎(ひごと)に通(かよ)へば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女(おんな)にもしてみたいほどの色(いろ)の白(しろ)い児(こ)で、優(やさ)しい眉(まゆ)、すこし開(ひら)いた脣(くちびる)、短(みじか)いうぶ毛(げ)のままの髪(かみ)、子供(こども)らしいおでこ——すべて愛(あい)らしかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
圧迫的な印象をやや強烈にまいているのだが、時々、そうした甘い言葉のうちに、おや? とびっくりさせる優(やさ)しさを放射した。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
すると男(おとこ)も至(いた)って志繰(こころ)の確(たし)かな、優(やさ)さしい若者(わかもの)で、他(ほか)の女(おんな)などには目(め)もくれず、堅(かた)い堅(かた)い決心(けっしん)をして居(い)ることがよく判(わか)りました。
怖(こわ)いお役人様のお頭(かしら)であろうと思って来たのに、打って変って優(やさ)しく思いやりがありそうで、そうかと言ってニヤけた御人体(ごにんてい)は少しもなく
生長(ひととなり)優(やさ)しく、常に七都風(みやび)たる事をのみ好みて、八過活(わたらひ)心なかりけり。父是を憂(うれ)ひつつ思ふは、家財(たから)をわかちたりとも即(やが)て九人の物となさん。
女兒(むすめ)が優(やさ)しき介抱に心(こゝろ)緩(ゆる)みし武左衞門枕(まくら)に着(つき)てすや/\と眠りし容子にお光は長息(といき)夜具打掛て密(そつ)と退(のき)側(かたへ)に在し硯箱を出して墨を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わっしも一時は赫(かっ)として、見つけ次第にと恨んでいたが、そう優(やさ)しくいう者を、なぶり殺しにするようなことはしますめえ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細(ほ)っそりとした優(やさ)おもてに、縁無しの眼鏡がよくうつり、美学の先生といっても、これ以上、美学の先生らしいのはちょっとあるまいと思った。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
余(よ)の一家(か)は悉(こと/″\)く涙含(なみだぐ)んだ。此(この)優(やさ)しい少女(せうぢよ)。境遇(きやうぐう)が變(かは)つて居(ゐ)たのと、天候(てんかう)が曇(くも)り勝(がち)なのとで、一層(そう)我々(われ/\)は人(ひと)の心(こゝろ)の優(やさ)しさが感(かん)じられたのであらう。
「百萬兩の嫁に望まれただけあつて、良い娘でしたよ。お品(ひん)がよくて、優(やさ)しさうで、あつしなら、百萬兩とあの娘と、何方(どつち)を取ると言はれたら」
いや、最初に彼と一しょに井(い)の頭(かしら)公園へ出かけた三重子もまだどこかもの優(やさ)しい寂しさを帯びていたものである。……
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年(とし)の頃(ころ)廿六七、眉(まゆ)の麗(うる)はしい口元(くちもと)の優(やさ)しい丁度(ちやうど)天女(てんによ)の樣(やう)な美人(びじん)、私(わたくし)は一目(ひとめ)見(み)て、此(この)夫人(ふじん)は其(その)容姿(すがた)の如(ごと)く、心(こゝろ)も美(うる)はしく、世(よ)にも高貴(けだか)き婦人(ふじん)と思(おも)つた。
九郎右衛門が怒は発するや否や忽(たちま)ち解けて、宇平のこの詞(ことば)を聞いている間に、いつもの優(やさ)しいおじさんになっていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
氷峰の方をじろりと見て優(やさ)しく微笑したが、直ぐ下を向いて顏を赤くしてゐるのは、醉ひも出たので、必ずしも、恥かしみばかりではなかつたらしい。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そういう間にも、その男は金縁(きんぶち)の眼鏡の奥から、おせいの様子をちらりちらりと探るように見た。優(やさ)しいかと思うときゅうに怖くなるような眼だった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
汽動車は氣味のわるい響きを立てつゝ、早稻(わせ)はもう黄ばんでゐる田圃(たんぼ)の中を、十丁程と思はるゝ彼方(かなた)に長く横(よこた)はつた優(やさ)し氣(げ)な山の姿に並行して走つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
タツ! タツ! タツ! あゝあの音(おと)を形容(けいよう)するのはむづかしい、何(なん)といふ文字(もんじ)の貧(まづ)しい事(こと)であらう、あれあんなに優(やさ)しい微妙(びめう)な音(おと)をたてゝゐるのに……。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
『そんな譯(わけ)ぢやなくッてよ』と優(やさ)しくも愛(あい)ちやんが辯疏(いひわけ)しました。『眞箇(ほんと)に腹立(はらだち)ッぽいのね、もう怒(おこ)つてゝ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
わ、わたくしは、子供の時分、御奉公に参りましてから、上のお嬢さんには、いつも優(やさ)しくして頂きました。
胸の底に潜(ひそ)んだ漠然(ばくぜん)たる苦痛を、誰(たれ)と限らず優(やさ)しい声で答へてくれる美しい女に訴(うつた)へて見たくてならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
矢張平素は上﨟にふさわしい優(やさ)しい心根を持っていたように見えて、此の方が真相に近いのであろうが、たゞ妙覚尼は直接此の夫人を知っていた訳ではないから
加野の母親へ、優(やさ)しいくやみの手紙でも出したかつたが、ゆき子は、それもものうくてやめてしまつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
なんかと突倒(つきたふ)して、縄(なは)から外へ飛出(とびだ)し巡査(じゆんさ)に摘(つま)み込(こ)まれる位(くらゐ)の事がございますが、西京(さいきやう)は誠に優(やさ)しい
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが、そんな優(やさ)しい母親が、近所の大人たちに言わせると継母(ままはは)なのです。この子どこの子、ソバ屋の継子(ままこ)、上って遊べ、茶碗の欠けで、頭カチンと張ってやろ。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
静かだとはいっても、暮れ切れぬ駒形通り、相当人の往き来があるが、中でも、妙齢(としごろ)の娘たちは、だしぬけに咲き出したような、この優(やさ)すがたを見のがそう筈(はず)がない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
夫婦となれば、その心情は一層不思議で、日頃自分を呵責(さいな)むばかり、優(やさ)しい言葉一つかけてくれぬ自堕落の亭主を、心から愛する世話女房が、あちこちに発見される。
女子(をなご)こそ世に優(やさ)しきものなれ。戀路は六(む)つに變れども、思ひはいづれ一つ魂に映(うつ)る哀れの影とかや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
観化流の剣豪(けんごう)茨右近も、見たところは、神尾喬之助と同じ背恰好(せかっこう)の、ほっそりした優(やさ)おとこである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのほか子供についての話は六つほどあるが、それを描くのにあたたかい優(やさ)しい感情をもって、しかも明るいユーモアを忘れていないところはいかにも童話詩人らしい。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
わしは優(やさ)しいあなたの心を傷(きず)つけたのを悔(く)いる。あなたはどんなにいい友だったろう。わしの寂寞(せきばく)はいつもあなたの平和な、あたたかい友情でなぐさめられているのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのほか子供についての話は六つほどあるが、それを描くのにあたたかい優(やさ)しい感情をもって、しかも明るいユーモアを忘れていないところはいかにも童話詩人らしい。
するとまた、十日くらい経って、さらに優(やさ)しいお見舞いの言葉を書きつらねた手紙が来る。君もこんどは返事を出した。折りかえし、向うから、さらにまた優しいお見舞い。
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕は、病床(びやうしよう)を侍(ぢ)して看護(かんご)して呉(く)れる、優(やさ)しい女性(ぢよせい)の手(て)も知らないで淋(さび)しい臨終(りんじゆう)を遂(と)げるんだ!
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かれは眼の涼しい、口元の引き締った、見るから優(やさ)しげな、しかも凛々(りり)しい美少年であった。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこへ男(おとこ)の子(こ)が帰(かえ)って来(き)て、扉(と)の所(ところ)まで来(く)ると、悪魔(あくま)のついた継母(ままはは)は、わざと優(やさ)しい声(こえ)で
二人(ふたり)は大泣(おほな)きに泣(な)きました。家(いへ)の者(もの)どもゝ、顏(かほ)かたちが美(うつく)しいばかりでなく、上品(じようひん)で心(こゝろ)だての優(やさ)しい姫(ひめ)に、今更(いまさら)、永(なが)のお別(わか)れをするのが悲(かな)しくて、湯水(ゆみづ)も喉(のど)を通(とほ)りませんでした。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
第三に、人生に寂寞(じゃくまく)を感じない。もしも世界中の人間がわれに背(そむ)くとも、あえて悲観するには及ばぬ。わが周囲にある草木(くさき)は永遠の恋人としてわれに優(やさ)しく笑(え)みかけるのであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
さういふ優(やさ)しげなことを耳にきいてゐるので、狐が化(ば)かすと馬糞を御馳走だといつて食べさせたり、こやし溜へお湯だといつて入れるのといふ、汚い方のことなどは笑つてしまつて
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)