)” の例文
唐縮緬とうちりめんの袖には咲き乱れた春の花車が染め出されている。嬢やはと聞くと、さっきから昼寝と答えたきり、元の無言に帰る。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また或る人たちが下司な河岸かし遊びをしたり、或る人が蒲団ぶとんの上で新聞小説を書いて得意になって相方あいかたの女に読んで聞かせたり
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
見ると二十五、六歳の遊び人ていの男が、刑吏に引きすえられ、イ……と数を読む青竹の下に、ビシビシなぐりつけられている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐるりと三人、がなえに夫人を巻いた、金の目と、銀の目と、紅糸べにいとの目の六つを、あしき星のごとくキラキラといさごの上に輝かしたが
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
砂糖屋を出てから、いわゆる「主義者」の間を一、二ヶ所居候いそうろうして歩いた揚句あげく、とうとうまたの大叔父の家へ転がり込んだ。
「うむ、一しよにしてくろ」とおつたはやはらかにいつた。勘次かんじふたつを等半とうはんぜてそれからまたおほきな南瓜たうなすつばかり土間どまならべた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ、拵えたものを出して置いただけのものであったが、師匠は呼び出しが来たので、当日は袴羽織で(師匠の家の紋はがしわであった)
それから、籐椅子とういすに尻を据えて、勝手な気焔きえんをあげていると、奥さんがゆびで挨拶に出て来られたのには、少からず恐縮した。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしが妻籠つまごの青山さんのお宅へ一晩泊めていただいた時に、同じ定紋じょうもんから昔がわかりましたよ。えゝ、まるびきと、木瓜もっこうとでさ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一度で得た記憶を二返目へんめ打壊ぶちこわすのは惜しい、たび目にぬぐい去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八五郎は遊んで居る片手を働かせて、内懷から腹掛の丼から、犢鼻褌ふんどしつまで搜つて居ります。女巾着切と思込んだのです。
そして、いつかけものが、はこまえにすわって仕事しごとをしていたことをおもすと、ぞっとがよだったのでした。
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
口惜くやしくってたまらないからおあさの足へかじり付きますと、ポーンとられたから仰向あおむけ顛倒ひっくりかえると、頬片ほっぺたを二つちました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その品々を煮汁とともにお米へ混ぜてまた味加減をして煮ますがおひつへ移す時別に湯煮たの細かく切ったのをバラバラと振りかけます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
(ああ、ああ、弟のやつは、なんて大ばかなんだ。あれじゃ、一生いっしょうかかったって、ものになりゃしない。たましい百までっていうからなあ。)
私は、それをひいう、い? と数えあげたり、ひよつとして栄螺の呟きでも聞えないかしら? と耳を傾けたりした。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その高い窓へ、地上に積んだ石炭をはこびこむらしいかごが、適当の間隔を保ってイ……相当の数、ブラブラれながら動いてゆく。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
月めの終わりに、悟浄はもはやあきらめて、暇乞いとまごいに師のもとへ行った。するとそのとき、珍しくも女偊氏は縷々るるとして悟浄に教えを垂れた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはその頃へんある寺に残っていた墓碣ぼけつの中で、寺が引払いにならないうちに、是非とも撮影して置きたいと思っていたものがあったためで。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
秋待顏あきまちがほの萩の上葉うはばにいこひもやらず、けさのあはれのあさがほにふたゝびたびをうちてた飛び去りて宇宙ちうに舞ふ。
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
須走の村の片端に、くぬぎか何かの大木が路をおおうていて、その高いこずえまたに、サンショウクイが巣を掛けていた。
すると妙な口つきをしてくちびるを動かしていましたが、急に両手を開いて指を折ってと読んでとう、十一と飛ばし、顔をあげてまじめに
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして麻糸あさいとかれるにつれて、糸巻いとまきはくるくるとほぐれて、もう部屋へやの中にはたったまわり、になっただけしか、いとのこっていませんでした。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そらイ……ぐるりとまわって……あんよを上げて……」と小さい子供たちにいつも熱心に稽古していた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ぶんいはく、『かず』と、いはく、『つのものみなしもでて、くらゐかみくははるは、なんぞや』と。
オリオンという、はじめてその名をしったぼしを見あげると、みよこのかおが、ぽうーっと、うかんできた。五百光年こうねん、アテネ・ローマの古都こと——。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
化粧けはつてはゐないが、さらでだに七難隠す色白に、長い睫毛まつげと格好のよい鼻、よく整つた顔容かほだてで、二十二といふ齢よりは、が目にも二つかつは若い。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この辺にこんな上品な美しい女性ひとが住んでいたら、いままでにその評判を聞かないわけはないから、これはおそらく都の人がやまもうでをしたついでに
かさがさねの早業はやわざに、わたくしいたくち容易よういふさがりませんでしたが、ようやちつけて四辺あたり景色けしき見𢌞みまわしたときに、わたくしたびおどろかされてしまいました。
今度の戦争が始ってみやがれ。ボリ放題にボッてやるから。ギャバジンのぞろいぐらいじゃア、めったなことで米の一升も売ってやらねえから覚えてやがれ。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その指をかぞへるに「一イ二ウ三イ」とやらず「に」とゆくのも、へんに可笑しかつた。
初代桂春団治研究 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
娘御をここへ呼び出して、わたくしとがなえであらためて御相談いたしましょう。お蝶どのをすぐこれへ
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三人はどもえのようになって、ちょっとは離れられない組合せになっているのがおかしゅうございます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、月ほどして戎橋筋を浮かぬ顔して歩いていると、思いがけず友子に出会った。あんたを探していたのだと、友子は顔を見るなりもう涙を流していた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
真鍮のだいの燭台を組、ちういつ組、銅の燭台を組、大大だいだいのおらんだの皿をさん枚、錦手にしきでの皿を三十枚、ぎやまんの皿を百人前、青磁せいじの茶碗を百人前、煙草盆を十個とを
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここを通る電車は東京駅—間を往復している。竜泉寺町の次は終点の三の輪で、てまえは千束町である。停留場のすぐわきに線路をまたいで東西に通りがある。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
つてふささがつた被布ひふるおめかけさまに相違さうゐい、うしてあのかほ仕事しごとやがとほせるものかと此樣こんことつてた、れは其樣そんこといとおもふから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おどろきと喜悦よろこび、つぎにこわい表情が文次の顔にどもえを巻いた。手早く金を袂へ返して、何思ったか走り出そうとしたが、よっぽどあわを食っていたものと見える。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
のろふのぢゃ? せいてんこのつが相合あひあうて出來できをば、つい無分別むふんべつてうでな? 馬鹿ばかな、馬鹿ばかな! 姿すがたを、こひを、分別ふんべつはづかしむる振舞ふるまひといふものぢゃ。
気保養きほようと称して、このめぐりの女気おんなけのない、るす番のじいやばかりの、この別荘へやって来て、有朋がこんな風にいくもいくも、声さえ立てずに暮らすことは
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
団十郎のふんした高時の頭は円く、薄玉子色の衣裳いしょうには、黒と白とのうろこの模様が、熨斗目のしめのように附いていました。立派な御殿のひさししとみを下した前に坐っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
C氏がこの譬喩でもつてA氏をも含めての南露人の法螺ほら吹きの一面を笑ひ飛ばしたことを卒然として悟つたが、さりとてあの令嬢の一件をまんざらA氏の千つ——否
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私達はあの山を越えて、青山の練兵場から、またのトンネルという溝川の方まで泳ぎに行った。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
この笠松はその昔「あし」ととなえた蘆荻ろてきの三角洲で、氾濫する大洪水のたびごとにひたった。この狐狸こり巣窟そうくつあばいて初めてひらいたのがの漂流民だと伝えている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
大きな星一ツに小さいのがツきらきらとして、周囲まわりには何か黒いものが矗々すっくと立っている。これは即ち山査子さんざしの灌木。俺は灌木の中に居るのだ。さてこそ置去り……
奴里能美ぬりのみは、口子くちこが申しあげたとおりのとおりの虫を、前もって皇后に献上けんじょうしておきました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
食堂ではとまり客の英国人の大家族と、馬に乗つて来たらしい山高帽やまだかばうかぶつた四人の仏蘭西フランス婦人と僕等との組が食事をした。飲んだ葡萄酒は千八百八十幾年かの物であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その年の秋、穀物がとにかくみのり、新らしい畑がふえ、小屋がつになつたとき、みんなはあまりうれしくて大人までがはね歩きました。ところが、土の堅く凍つた朝でした。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
い、う、い、お、つ、う、ななあ、こことを、十一、十二……十三……
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
南は標高二八四一米のレンゲ岳(また)に始まり、うねうねと屈曲していはするものの、大体において真北を指し、野口五郎のぐちごろう烏帽子えぼし蓮華れんげはりじい鹿島槍かしまやり五龍ごりゅう唐松からまつ等を経て北
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)