へだ)” の例文
風呂場の隣は廊下をへだてた二疊の部屋で、内儀の妹のお君といふのが、姉が風呂場から出て來るのを、此處で待つて居たことでせう。
看護かんごひとつかれぬ、雪子ゆきこよわりぬ、きのふも植村うゑむらひしとひ、今日けふ植村うゑむらひたりとふ、かはひとへだてゝ姿すがたるばかり
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
入口のふすまをあけてえんへ出ると、欄干らんかんが四角に曲って、方角から云えば海の見ゆべきはずの所に、中庭をへだてて、表二階の一間ひとまがある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえ、ちちは、たがいにおもっても、いく千マイルとなくへだたっていました。そして、まだ、なんのりくらしいものもにはいりません。
お父さんの見た人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
婦人ふじん驚駭きやうがいけださつするにあまりある。たくへだてて差向さしむかひにでもことか、椅子いすならべて、かたはせてるのであるから、股栗不能聲こりつしてこゑするあたはず
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あはひへだてゝ、一の火輪ひのわかの點のまはりをめぐり、その早きこと、いと速に世界を卷く運行にさへまさると思はるゝ程なりき 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かれ自分じぶんが一しよときたがひへだてが有相ありさうて、自分じぶんはなれるとにはかむつまじさう笑語さゝやくものゝやうかれひさしいまえからおもつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
へだて聞えよがしに詢言つぶやきければ半四郎は聞つけて大いに立腹りつぷくの體にてもてなししづかにしろとは不屆千萬某がぜににて某酒を呑にいらざる口を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なにうまはゐなかつたか? あそこは一たいうまなぞには、はひれないところでございます。なにしろうまかよみちとは、やぶひとへだたつてりますから。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし何分にも厳重に閉じられた建物の外から観察するのであるから、靴をへだててかゆい足を掻くような焦燥を感じずにはいられなかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
米友は、お絹とお松とがいる次の部屋へ陣取り、お絹お松の部屋と中庭をへだてたところがすなわち駒井能登守の部屋であります。
日頃は名もなきともがらといわれていたのが、血を以てする奉公の一日には、ろくへだてにも官位の高さにも劣らぬことを無言で示した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長万部おしゃまんべ近くなると、湾をへだてゝ白銅色の雲の様なものをむら/\と立てゝ居る山がある。有珠山うずさんです、と同室の紳士は教えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そばまどをあけて上氣じやうきしたかほひやしながらくらいそとをてゐると、一けんばかりの路次ろじへだててすぐとなりうちおなじ二かいまどから
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
成経 重盛しげもり懇願こんがんしたからです。しかし結果は残酷ざんこくないたずらと同じになりました。ちょうど中をへだてた一つのおりに親子のけものをつなぐように。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
というと戸締りは厳重にしてあり、近いといっても門から家までは余程へだって居りますが、雪の粛然しんとしているから、はるかに聞える女の声。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、手紙てがみ後生大事ごしやうだいじしまつておくところからると、其後そのごなにかの事情じゞやうで、たがひへだたつてはゐても、こゝろいまへだてぬなかだとふことはあきらかである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私は地獄めぐりを済ませると、夕暮ゆうぐれ間近の景色を観賞するため、ここから十数町をへだつるゴルフ・リンクスへ出かけた。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
斯く入り口又はまどへだてて品物のりをせしは同類どうるいの間ならざるがゆえならん。コロボックル同志どうしならばしたしく相對してことべんぜしなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
声は吹雪にへだてられて聞えないので、重太郎の小さい姿は十けんばかりの先に見えつ隠れつしながらも、お葉は容易に追い止めることができなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いえ、それ以上に、そんな耳障みゝざはりなことを云ふことで、私共お互ひの本當の幸福にとつて最もためになる二人の間のへだてといふものを保つのです。
あいへだての襖が一斉に、どちらからともなく蹴開けひらかれて、敷居越しに白刃しらはが入り乱れ、遂には二つの大広間をブッ通した大殺陣が展開されて行った。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「散って!」とホーキン氏が叫んだので密集していた部下の者は二間のへだてを置きながら左右へ翼のように拡がった。
いかにたずねてもたずねても、竜神りゅうじん生活せいかつなにやらうすまくへだてたようで、シックリとはちない個所ところがございます。
自分じぶん少年せうねんとは四五十けんへだたつてたが自分じぶんは一けんして志村しむらであることをつた。かれは一しんになつてるので自分じぶんちかづいたのにもつかぬらしかつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
極端な人厭ひとぎらいの彼が、盛り場を歩き廻ることを好んだというのは、はなはだ奇妙だけれど、彼は多くの夜、河一つへだてた浅草公園に足を向けたものである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
綺麗な主婦はすこしのへだても置かずに道度の相手になった。柔かな婦人の言葉は若い男の耳に心好い響を伝えた。
黄金の枕 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喜太郎は、益々ますます勢を得ながらそれでも飛び込んで行くほどの勇気もないと見えて、間をへだてながら、叫んでいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
百歩をへだてて柳葉りゅうようを射るに百発百中するという達人だそうである。紀昌は遥々はるばる飛衛をたずねてその門に入った。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
不思議なのは、それが昨夜ゆうべ私が立っていたところと、ものの半町はんちょうへだっていない所なので、これを見た時には、私は実に一種物凄いかんじもよおしたのであった。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
雲山煙水うんざんえんすいあいへだつれども一片の至情ここに相許せば、わかれることはなんでもない、私を思うなら、しずかにしずかに私をこの地から去らしめてくれたまえ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それが、あんな、海から三十里もある山脈をへだてた野原などに生えるのは、おかしいとみんなうのです。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
讀者どくしやもし世界地圖せかいちずひらかれたなら、アフリカの西沿岸にしえんがんおほきなくぼみが、大西洋たいせいようへだてた對岸たいがんみなみアメリカ
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
一日あるひ左門同じ里の何某なにがしもととぶらひて、いにしへ今の物がたりして興ある時に、かべへだてて人の痛楚くるしむ声いともあはれに聞えければ、あるじに尋ぬるに、あるじ答ふ。
昔はハンプデン、クロンウエル相率いて、チャールス王の圧制を逃れ、米国にはしらんとし、既に船に乗じてテームス河に在り。事にへだてられてその志を達せず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
幼時の思い出にはさすがにちがたいものがあり、ことに二人とももう八十に近い高齢こうれいなので、遠くへだたったらいつまた会えるかわからないという懸念けねんもあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
国内諸方関険相へだち、交通の便否もとより今日と日を同じくして語るべからず、したがって天下の人心はおのおのその地方に固着し、国内いまだ統一するに至らず
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
五万の群集は熱狂ねっきょう的な声援せいえんを送ったが、時すでおそく、一艇身半をへだてて伊太利は決勝線にんだ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あの千古人跡の到らないところ、もし夕雲のへだてさへ無くば、定めし最早もう皚々がい/\とした白雪が夕日を帯びて、天地の壮観は心を驚かすばかりであらうと想像せられる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ここの町よりただ荒川一条ひとすじへだてたる鉢形村といえるは、むかしの鉢形の城のありたるところにて、城は天正てんしょうの頃、北条氏政ほうじょううじまさの弟安房守あわのかみ氏邦の守りたるところなれば
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其間そのうちに、『お穴樣あなさま』を探檢たんけんする必用ひつようかんじて、東面とうめん參詣者さんけいしやまへから横穴よこあななかり、調査てうさをはつてそとると、鐵條網てつでうもうへだてられた參詣人さんけいにんなかから。
互いに暗涙あんるいむせびけるに、さはなくて彼女は妾らの室をへだつる、二間けんばかりの室に移されしなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さすがにおぬいさんは少し顔を赤らめたが、少しも隠しへだてなく、渡瀬を信頼しきっているように
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
自分は、水をへだてて斜に向き合って芝生に踞む。手を延ばすなら、藤さんの膝にかろうじて届くのである。水は薄黒く濁っていれど、藤さんのかざたもとの色を宿している。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
朝飯を済ますと同時に、挨拶もそこそこに寮を出て、伝二郎は田圃をへだてたほど近い長屋に、寮の所有者河内屋の隠居を叩き起した。思ったより話がはかどらなかった。
学校は村の中程にあって、藁葺の屋根をもった平家ひらやだった。教室の一方、腰高障子こしだかしょうじをあけると二、三枚の畑をへだてて市場の人だかりや、驢馬ろばや、牛や、豚などが見えた。
けれども翻って利害の関係よりいえば、日本が一番その大なるものである。即ち距離からいえば、他のいずれもはなはだ遠いのに反して、日本は一衣帯水いちいたいすいへだつる隣国である。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
肉用鶏ですとモット低くして一尺から二尺の間に致します。止まり木の上へ二尺ばかりへだてて屋根を作りますから屋根の高さも止まり木の高さに順じなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かくのごときは人工の美にして天然てんねんの美にあらず、谷深き山路に春を訪ね花を探りて歩く時流れをへだつるかすみおくに思いも寄らず啼き出でたる藪鶯の声の風雅ふうがなるにかずと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)