とま)” の例文
『それからのちは』と帽子屋ばうしやかなしげな調子てうしで、『わたしふことをかなくなつてしまつて!まァ、何時いつでも六のところにとまつてゐる』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ベルトがなくては、低温研究所の機能がとまってしまう。小樽札幌とあらゆる手を廻して品物を手に入れようとしたが、駄目である。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
きん黝朱うるみの羽根の色をしたとびの子が、ちょうどこのむかいのかど棒杭ぼうぐいとまっていたのをた七、八年前のことをおもい出したのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
省三は気がくと手でほおや首筋にとまったを叩いた。そして、思いだしてなまりのようになった頭をほぐそうとしたがほぐれなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女子 (窓口に来り、空を指し)今、音楽堂の丸家根の上にじっととまって下を見下ている、あの雲の形がそのように見えるじゃないか。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なほさら五月蠅うるさいとはしくくるまのおとのかどとまるをなによりもにして、それおいできくがいなや、勝手かつてもとのはうき手拭てぬぐひをかぶらせぬ。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たゞ、三角測量臺かくそくりやうだい見通みとほしにさはためはらはれた空隙すきがそれをみちびいた。東隣ひがしどなり主人しゆじん屋根やねの一かくにどさりととまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うす暗ひランプの光…………彼女のすゝり泣く声………………何と云ふ薄命あはれな女であるかとわれをもはず溜息ためいきをついた、やがて汽車はとまつた
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
喜「しかしあの時はくおとまり下すった、そのお蔭には此の通り文治殿にも表向きで、お目に懸れるような仕合せになりました」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして毎日出掛けて行かうとしては、毎日思ひとまつて居る。いかに私が今こゝで挫折したくないからと言つて、それを話すといふは容易でない。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
打つにも、とまるところで止っているからよろしいので、過ぎたるは及ばざるが如し、というのは、お前様の智慧のことです
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、彼方へ行きかけた鬼は、また此方へうかうかとやって来て、ぐ、その頭の見えている者の間近に来てとまった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この三時間というものは羊歯しだのうえのイナゴのうごきも聞こえないのである。鳩はみんなそのとまのうえで眠っている——何の羽ばたきもない。
「君達も今は劇は芸術だからつて、高くとまつてゐるが、芝居に足をむだ抑々そも/\は、まさか芸術家になつてみたいと思つた訳でも無かつたらう。」
晩方になりて時刻もきたるに吉兵衛焦躁いらって八方を駈廻かけめぐり探索すれば同業のかたとまり居し若き男と共に立去りしよし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪人を探す為に善人を迄も疑い、見ぬ振をしてぬす、聞かぬ様をして偸みきく、人を見れば盗坊どろぼうと思えちょうおそろしき誡めを職業の虎の巻とし果は疑うにとまらで
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あとは器械に自然にきこまれて息の根もとまれば、屍体も箱詰めになって、ビールと一緒に積み出される——
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわおもなびく中を、船はただ動くともなく、白帆をのせた海が近づき、やがて横ざまにかろくまた渚にとまった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうち、こちらの汽車はしだいにとまりかけて、一つ大きくゆれてまったくとまってしまいました。と同時どうじに、むこうの汽車もとまりました。あぶないところでした。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どうやら震えも少しとまって立つことが出来たから、荷物を二つに分けてそこへ半分残して半分だけ背負ってどうにか羊の所まで行きたいと思って出掛けました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すると、やが慄然ぞっとしてねむたいやうな氣持きもち血管中けっくわんぢゅう行渡ゆきわたり、脈搏みゃくはくいつものやうではなうて、まったみ、きてをるとはおもはれぬほど呼吸こきふとまり、體温ぬくみする。
しかして何んとその針は十貫目をしてピタリととまったのだ、私はこれはあまりだと思って、二、三度強く足踏みをして見たが、何の反応もなかった、とうとう
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
はて、何処へ行ったかと見廻すと、犬はの柳屋の前にとまって、お葉から何か食物くいものを貰っているらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これも明暗の斑点はんてんの中に、とまをあちこち伝わっては、時々さも不思議そうに籠の下の男を眺めている。男はその度にほほみながら、葉巻を口へ運ぶ事もある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この頃は全然すつかりフロックがとまつた? ははははは、それはお目出度めでたいやうな御愁傷のやうな妙な次第だね。然し、フロックが止つたのはあきらかに一段の進境を示すものだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さう云ひながら、ハンド・バッグへ入れかけて、ふと、それを思ひとまる。それから、ボロボロのスリッパ、安全剃刀の刃、煙草の銀紙等を、ひとつひとつ、つまみ上げ
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
でも、おまへさまは、尊いおん神に仕へてゐる人だ。おれのからだにさはつてはならない。そこに居るんだ。ぢつとそこに蹈みとまつて居るものだ。——あゝおれは死んでゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
人通ひとどほりとつては一人もない此方こなたの岸をば、意外にも突然とつぜん二台の人力車が天神橋てんじんばしはうからけて来て、二人の休んでゐる寺の門前もんぜんとまつた。大方おほかた墓参はかまゐりに来たのであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
又も飛付とびつく女の一ねんとまらぬ遣らじとあらそひける中茶屋の撞乎どつかり踏拔ふみぬきのゝしり合ていどみける此物おと本坊ほんばうへ聞えしにや何事ならんとあさ看經かんきん僧侶達そうりよたち下男諸共十六七人手に/\ぼう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まじないにて蛇を殺し、木にとまれる鳥を落しなどするを佐々木君はよく見せてもらいたり。昨年の旧暦正月十五日に、この老女の語りしには、昔あるところに貧しき百姓あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だから日本人が来て居たからといって何も珍しい事はない、是非ぜひ此処ここまれ。いよ/\とまると決すれば、その上はどんな仕事でもようと思えば面白い愉快な仕事は沢山たくさんある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よし産婆さんばこと間違まちがひがあつて、はら發育はついく今迄いままでのうちに何處どこかでとまつてゐたにしたところで、それがすぐされない以上いじやう母體ぼたい今日こんにちまで平氣へいきこたへるわけがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……が、その歌声は、私たちの部屋の窓が投げかけている淡い灯影のはるか手前の位置で、ぷつんと糸を断つようにとまった。そのまま、その夜は二度と聞くことができなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
母上の病気全くえければ、を見たき心の矢竹やたけにはやり来て、今は思ひとまるべくもあらねば、吾れにもあらず、き程の口実を設けて帰京のむねを告げ、且つせふも思ふ仔細しさいあれば
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
一同いちどう無事ぶじか。』とさけんだのは、なつかしや、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさこゑ同時どうじに、いま一人ひとり乘組のりくんでつた馴染なじみかほ水兵すいへいが、機敏きびん碇綱いかりづなげると、それがうま鐵檻車てつおりくるま一端いつたんとまつたので
だが又セエヌ河へ出て見ると、一週間まへから洪水おほみづ通船つうせんとまつた騒ぎであるにかゝはらず、水にひたつた繋船河岸かし其処彼処そこかしこで黒い山高帽のむれが朝早くから長い竿を取つて釣をして居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「五圓札一枚はあきらめてもいゝけれど、此の部屋で金がなくなつたとあつては、安心して醉月にとまつてゐる事は出來ない。場合によつてはおもて沙汰にしても調べて見なくてはならん。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
秋田の町では岩七厘いわしちりんが目にとまるが、これも町の産物ではなく北秋田郡阿仁あにの村で出来る。樺細工かばざいくも町で見かけるがこれは角館が本場である。紫根染しこんぞめはあるが、これは花輪はなわから来たのであろう。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
朝、眠不足ねむりふそくな眼の所為せいか、部屋の壁に血のような赤い蝶がとまっていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
嬢さま、何がおとまました? 何ぞお買ひなすつて。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「兎に角、辞表丈けは思いとまり給え」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とまり木をシカと掴んで鳴く小鳥
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
とまりても見よ、世のなか
あはれ今 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
枯枝にからすとまりけり秋の暮
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
片足かたあし煙突えんとつうへしました、『どんなことがあつてもうこれがとまりだらう、これでうなるのかしら?』とつぶやきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
うして人々ひと/″\刻々こく/\運命うんめいせまられてくおしな病體びやうたい壓迫あつぱくした。おしな發作ほつさんだときかすかな呼吸こきふとまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「私は持病が起るとこれを飲むと骨節の痛むのがとまる。これは病院にいる人がくれた毒薬じゃ。これを飲めば一思ひとおもいに楽になるからそうなさい。」
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
教授某氏は、物心のつく時分から、一度けてみたくて仕方がなかつたが、その都度信心深い阿母おつかさんに止められて残り惜しさうに思ひとまつてゐた。
丁度ちょうど地球の引力と月の引力とが同じ強さのところであって、もしそこでまごまごしていたり、エンジンがとまったりすると、そこから先、月の方へゆくこともできず
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
バサリと血のなかにおちたのは、どうから下、上半身じょうはんしんは枝をつかんだまま、虚空こくうにみにくくとまっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)