かま)” の例文
広々ひろ/″\したかまへの外には大きな庭石にはいし据並すゑならべた植木屋うゑきやもあれば、いかにも田舎ゐなからしい茅葺かやぶき人家じんかのまばらに立ちつゞいてゐるところもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
白刃しらはげ、素槍すやりかまへてくのである。こんなのは、やがて大叱おほしかられにしかられて、たばにしてお取上とりあげにつたが……うであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とにかく僕ひとりが犠牲ぎせいになれば、何もかもそれで片づくんだ。そう思うと、女の問題だろうと何だろうとかまわんという気もするね。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
も見ずして逃去にげさりけり役人は外の者にかまひなくつひに多兵衞願山の兩人を捕押とりおさへ高手小手にいましめつゝ夫より家内をあらためて町内へあづけ兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
家のかまえから見て、これはどうしても富豪の別荘であるが、人違いでないとすれば、何のために貧乏学生のじぶんを呼び入れたのであろう。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それからは、ハムーチャのうわさがぱっと四方しほうに広がりました。ハムーチャの行く先々で、もうその地方の人々が待ちかまえていました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「しかし、そりやさうとして、なんとかくじがあたらないものかな? 今の僕達ぼくたちには何等なんとうだつてかまはないんだ。ねえ、さうだらう?」
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『エヘン!』と一つ咳拂せきばらひして、ねずみ尊大そんだいかまへて、『諸君しよくんよろしいか?もつと乾燥無味かんさうむみなものはこれです、まァだまつてたまへ、諸君しよくん! ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
よるのこたァ、こっちがてるうちだから、なにをしてもかまわねえが、お天道様てんとうさまが、あがったら、そのにおいだけにめてもらいてえッてよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一つの美味あれば、一家擧げて共にし、衣服をつくるにも、必ず善きものは年長者にゆづり、自分勝手じぶんがつてかまへず、互に誠を盡すべし。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
私が当惑とうわくしきっているのにはおかまいなしに、白木はボーイにいいつけ、持って来させた銀の盆の上の酒壜さけびんを眺め、にたにたと笑いながら
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何でもかまはない、平次が話し度いことがある、とか何とか、宜い加減のことを言つて連れて來るが宜い。どうしても來なきや、十手に物を
「だがね、きみ僕達ぼくたち仲間なかまをおよめにくれっていさえしなけりゃ、まあきみかおつきくらいどんなだって、こっちはかまわないよ。」
かまあねえでけ、うなつてあつちへつてからにしろ」勘次かんじ性急せいきふきびしくおつぎをめた。おつぎは仕方しかたなくくのもかまはずにたがやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もとへもどして、みじかにかまえなおした神保大吉じんぼうだいきちは、咲耶子さくやこが右へよれば右へ、左へよれば左へ、ジワジワとおしていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとこ乞食こじきは、りっぱなかまえをしたうちまえへきますと、まって、かんがみました。それから、おそるおそるもんなかはいってゆきました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かまうもんか、入ろう、入ろう。ここは天子さんのとこでそんな警部けいぶや何かのとこじゃないんだい。ずうっとおくへ行こうよ。」
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『何ア莫迦だつて? 家のごとかまねえで、毎日飲んでつて許りゐたら、高田の家ア奈何どうなるだべサ。そして万一捕縛おせえられでもしたら……』
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
明くる日、男は、「私共は二食で、朝飯あさめしを十時にやります。あなた方はおかまいなく」と何方どちが主やら客やらからぬ事を云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大方どうせこんな下らない事を教えているんだから、生徒なんかに分っても分らなくてもかまわないという気だったのだろう。
このわたくしが、ひとりでそんな大役を仰せつかつたんでございますから、なんと申しますか、もう、自分のことなどかまつてはをられません。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その間、衣類のことなんかにはかまっていられないだろう。そう考えて私は、せっせと洗濯せんたくをしたり、縫い直しものをしたりして、時を待った。
そのうちにとうさんは出掛でかけてきました。『大丈夫だいぢやうぶ榎木えのきはもうあかくなつてる。』と安心あんしんして、ゆつくりかまへて出掛でかけてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
アノわつし大福餅だいふくもち今坂いまさかのやうなものをべて見たいのです。金「餅気もちツけのものを沢山たんとくつちやア悪くはありませぬか。源「いえ悪くつてもかまひませぬ。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの連中はいずれ私を殺すだろうと思っていますが、そんなことはかまいません。わたしはこの通りの年寄りですから、どのみちやがて死ぬからだです。
かまへんわい、放うりこんだら着物がよごれて、母ちゃんが洗濯に困るだけや。困るもんかと、豹一の脇の下をかゝえたまゝ池の水へどぶんと浸けた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
また二人ふたり内祝言ないしうげんはチッバルトどのゝ大厄日だいやくじつ非業ひごふ最期さいごもととなって新婿にいむこどのには當市たうしかまひのうへとなり、ヂュリエットどのゝ悲歎ひたんたね
ちょっと考えて見るとほとんど動物のようです。心の中に思って居る事は喰う事と寝る事だけであって着物はどんな汚ない物を着て居ってもかまわない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼らは鳥御前の近づくを見て、手をひろげて押し戻すようなる手つきをなし制止したれども、それにもかまわず行きたるに女は男の胸にすがるようにしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山間さんかん湖水こすいのようにった、気高けだかひめのおかおにも、さすがにこのとき情思こころうごきがうす紅葉もみじとなってりました。わたくしかまわずいつづけました。——
牧之ぼくしおもへらく、鎮守府将軍ちんじゆふしやうぐん平の惟茂これもち四代の后胤かういん奥山おくやま太郎の孫じやうの鬼九郎資国すけくに嫡男ちやくなん城の太郎資長すけながの代まで越後高田のほとり鳥坂とりさか山に城をかまへ一国にふるひしが
それからまた調子附てふしづいて、雪中せつちう雨中うちうかましにつて、三十五ねんの十二ぐわつ三十にち棹尾たうび成功せいかうとしては望蜀生ぼうしよくせいが、第貳圖だいにづロのごと口唇具こうしんぐした。朱塗しゆぬりである。
それでもおまへさぶからうではないかかぜくといけないとければ、いてもいやね、かまはずにいておれとしたいてるに、おまへうかおしか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
で、こくめいな長官藤原維幾は、玄明がわたくしした官物を弁償せしめんが為に、度〻の移牒いてふを送つたが、斯様かういふ男だから、横道わうだうかまへ込んで出頭などはしない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あるいは何々しゃくにして市内市外に許多あまた高甍こうぼう宏閣こうかくかまえている人よりも以上の租税そぜいを払っている例すらある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
無台の合戦は未だしきりに続けられてゐたが、自分は玄坊にかまつてゐる方が見物に認められるので——自分は虚偽と羨望とを感じながら、深切に玄坊をだました。
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
兄きは叩き放し村方おかまいの御仕置おしおきでえすけんど、叩きは二百が三百だろうと兄きも覚悟しております。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
四邊あたり部室へやでは甲乙たれかれかたこゑかまびすしく、廊下ろうかはしひと足音あしおともたゞならずはやい、濱島はまじまむかしから沈着ちんちやくひとで、何事なにごとにも平然へいぜんかまへてるからそれとはわからぬが
池田屋にお嬢さんさえ居なかったら、己はもっと悪い事をして、追い出されてもかまわないのだが、………
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてその花形かけい花色かしょく雌雄蕊しゆうずいの機能は種子を作る花のかまえであり、花の天から受け得た役目である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ところで、この司馬の屋敷は、門をはいると道が二つにわかれて、一方は板敷の大道場を中心にしたひとかまえ、ここに、お蓮様丹波の一党が巣を喰っているのです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清潔好きれいずきのお客のなかには気を悪くする向きもあつたが、近頃はうした事か、そんな物も余りかまはなくなつたばかしか、友達の顔を見ると、よくこんな事をいふ。
部屋は大きなまどと、高い天井てんじょうがあって、りっぱなかまえであった。判事はんじは高い台の上にこしをかけていた。その前のすぐ下には、ほかの三人の裁判官さいばんかんがこしをかけていた。
うるさいね、シューラ、今お前なんかにかまってるひまはないんだよ。ママはいそがしいんですから。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
世間ていなどちつともかまはなくなつて、つづれをぶら下げた着物でも平気で外へ出る。そしてむやみに笑ふやうになつた。多病でよく寝込むが、それを見舞ふとあはあは笑ふ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
名は雇人なれども客分にあつかはれ、手代となり、顧問となりて、あるじの重宝大方ならざれば、四年よとせひさしきにわたれども主は彼をいだすことを喜ばず、彼もまた家をかまふる必要無ければ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されどその句を見るにいたずらに多きをむさぼる者の如く平凡陳腐の句も剽窃ひょうせつの句もかまはずやたらに排列はいれつせられたるはやや厭はしく感じ申候。また一題百句など数多あまた寄せらるる人も有之候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
結局かれは香具師やしのなかまからかまわれて、どこの小屋へも出ることが出来なくなった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茅葺かやぶき屋根の一軒ちではあるが、つくりはすべて百姓家のかまえで、広い入り口、六畳と八畳と続いたへやの前に小さな庭があるばかりで、細君のだらしのない姿も、子供の泣き顔も
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
けだし氏輝は女は遠ざけたが、「若衆春留するかまはぬかのえさる」小姓を愛し通したのだ。